【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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第70話 悪い大人たち・リターンズ

『おーう。メール見たぞー』

 

 カントクの自宅に向かおうとタクシーに乗った直後、当の本人から電話が掛かってきた。

 その声は明らかに酔っぱらっている。

 背後からは小さくBGMの音も漏れ聞こえている辺り、外で飲んでいるらしいが、これは割といつものことだ。

 

 カントクはかなり酒好きだが、同時に酒には弱く、酔っ払いやすい。

 前後不覚になっているカントクを迎えに行った回数はもう覚えていない。

 しかし、こんな状態で俺の話をまともに聞いて貰えるだろうか。

 

「今どこ?」

 

 どちらにせよ居場所を把握しなくては始まらない。

 

『んー。ああ、どこだっけ? ちょっと待ってろ。アレー、俺のケータイはー?』

 

 電話しながらスマホを探しているらしい。頭が正常に働いていない証拠だ。

 これは居場所を確認するのに時間が掛かりそうだと、俺はスマホのマイク部分を手で押さえながら、運転手に声を掛けた。

 

「すいません。行き先変更になりそうなんでちょっと止めて下さい」

 

 了解の返事と共に、タクシーが路肩に駐車した直後。

 

『ちょっと貸して』

 

 カントクとは違う聞き慣れた声が漏れてきた。

 

「鏑木さん?」

『やあ。お疲れさま』

 

「一緒だったんですね」

 

 監督とプロデューサーが揃って飲みに行くのもまた良くある話だ。

 大抵は仕事関係の付き合いや接待が殆どだが、それにしては同伴者の声は聞こえない。

 接待後に二人で飲んでいたという線もあるが……

 

『まぁね。とりあえずカントクはこの調子だから。僕が話を聞くよ』

 

「いえ、二人が一緒ならちょうど良いです。話があるので場所教えて下さい。今からそっちに行きます」

 

『カントクに送ってきたメールは僕も見させて貰った。今から撮影内容の変更。しかも今日撮った分は使わずに一から取り直しだって?』

 

 質問には答えず、こちらは特に酔った様子もなく淡々と語る。

 

「……ええ」

 

 少しミスったかも知れない。

 現場の責任者はあくまでプロデューサーである鏑木さんだ。

 

 本来は鏑木さんの次にカントク、そして壱護さんの順に説得するべきところをあえてカントクを最初にしたのは、カントクは口ではアレコレ言いながらも、実際は作品の出来を最も重視するのを知っているからだ。

 

 だから先にカントクを説得してから、なし崩し的に鏑木さんも説得するつもりだったのだが、一緒にいたことで俺がそういう小細工を使うつもりだったことが露見してしまった。

 

 さて、どう説得するか。と頭を回していると、スマホの向こう側でフッと、小さく鼻を鳴らすような音が聞こえた。

 

『いいよ。君の好きなようにやりなよ。カントクには酔いが醒めてから僕が話しておくから』

 

「……いいんですか?」

 

 三人の中で最も説得が難しいと思っていた鏑木さんから、あっさり了承の返事が来て思わず確認する。

 

『うん。だって、責任取るの僕じゃないし、来るなら話通すところに通してからにしなよ』

(ああ。そういうことか)

 

 本来責任を取るのはプロデューサーの仕事だが、今回のドラマは例外だった。酔いつぶれているカントクとは方向性が違えど頭が回っていなかったのは俺も同じらしい。

 

「先に壱護さんから許可を取れと?」

 

『まあ、そういうこと。第一、MVの版権やらを持ってるのも彼なんだろ? それなら先ずはそっちからでしょ』

 

「分かりました。壱護さんに話してからまた連絡します。……ところで二人は今どこで飲んでるんですか?」

 

 聞きそびれていたことを改めて確認しておく。

 カントクがあの調子だと、どのみちいつものように俺が迎えに行く必要がありそうだからだ。

 

『ん? あー、ちょっと待って』

 

 急に歯切れが悪くなった。馴染みの店ではなく、一見の店にでも入ったのだろうか。

 そんなことを考えている間にも、何かを探すような音が聞こえていたが、直に鏑木さんが戻った。

 

『えーっと。さみだれってバーだね。住所は──』

 

 その店の名前を聞いた瞬間、俺の脳裏に閃くものがあり、思いついたまま告げる。

 

「今、壱護さんも一緒にいますね?」

『……よく分かったね。何か聞こえた?』

 

 一瞬の空いた間は、おそらく誤魔化すかどうか考えたからだろう。

 しかし、隠しても無駄だと悟ったらしく、苦笑しながらあっさりと認めた。

 

「いいえ。ただ、その店。ミヤコさん──うちの社長の行きつけの店なんですよ」

『あ、そうなの?』

「ええ。夜中でも普通の定食を出してくれる気の利いた店らしいです」

 

 最近は、日曜日にこだわらず、出来るだけ家族一緒に食事を取ろうとルビーが言い出したことで足が遠のいているようだが、もう一つ、別な理由があることも聞いていた。

 

「そこに通っとけば、食事に興味がなくて、料理が出来ない人でも、まともな食事にありつける」

 

 離婚して独り身となった男やもめの中年男にはぴったりだ。

 

『ああ。そういうこと』

 

 鏑木さんも、俺の含ませた意味を理解したらしい。

 そう。

 立ち上げた制作会社の運営や、様々なやり方で自らを炎上させる為のSNSを使った活動、なによりこのドラマを成功させる為に、かつての人脈をフル活用して連日芸能関係者と会合に勤しんでいてはまともな食生活を送れるはずもない。

 そんな壱護さんの為に、ミヤコさんが紹介した店こそが、そのさみだれというバーだったはず。

 

 そして、二人が店の名前を知らないことから、壱護さんが二人を店に連れて行ったと推理したのだ。

 

『いつもながら流石の洞察力だね。斉藤さんをどう説得するのか、横で酒の肴に聞かせて貰おうと思ったのに』

 

「それは残念でしたね」

 

『フッ。で、どうする? 代わるかい?』

 

「いいえ。三人一緒なら尚更良いです。今からそっちに行きます」

 

『今から? でももう十時過ぎだろ?』

 

「そう長くは掛からないと思いますし、なにより。保護者代わりの大人が三人もいるんだから大丈夫ですよ」

 

『二人はともかく、僕を保護者に入れないで欲しいなぁ』

 

 そんなことを言いながらも、鏑木さんの声はどこか嬉しそうに聞こえた。

 とりあえず気づかない振りをしつつ、最後に軽く挨拶してから電話を切ると、運転手に声を掛けた。

 

「お待たせしました。さみだれってバーまでお願いします。住所は──」

 

 

   ★

 

 

「やあ、お疲れさま」

 

 しばらく時間を置いてから、俺たちがいるバーにやってきたアクアに、鏑木Pが気さくに手を挙げて笑い掛ける。

 

「どうも」

 

 小さく頭を下げた後、アクアの視線は誰もいないカウンターに向けられた。

 

「マスターなら大事な話をするって言ったら空けてくれたよ。帰る時に連絡くれれば良いからって。君の言う通り、気の利いた良い店だね」

 

「そうですか。ってこの人は相変わらず」

 

 納得して頷いた後、ぐでぐでに酔っぱらい、カウンターに突っ伏している五反田監督を見て盛大なため息を吐く。

 その声に反応して顔を上げた監督は、ふらふらと体を起こした。

 

「おー、早熟。お疲れさん。ほら、座れ座れ」

 

 へらへら笑いながら手招きされたアクアは、酔っ払いに何を言っても無駄だと大人しくテーブルに着く。

 そうしてから、ようやく俺の方を見た。

 心なしかその視線は冷たかった。

 

「お、おうアクア。久しぶりだな」

 

 思わず声が上擦ってしまう。

 

「久しぶりって。顔合わせの時会っただろ」

 

「いや、そうだけどよ。あん時は話さなかったし」

 

 これは、どちらかと言うと俺の方が避けていたからだ。

 ドラマを制作する際の風評被害や賠償、世間からの炎上などを俺が引き受ける以上、アクアを初めとした役者陣、そしてミヤコとも距離を置く必要があった。

 とはいえ、それも本来はアクアが自分でやるはずだったものを俺、いや俺たちが共謀して奪い取った形だ。

 

 もちろん俺たちとしては、どんなに早熟だろうとまだ未成年、つまりは子供であるアクアに責任を取らせて、こいつの未来を台無しにするわけにはいかない。という思いからだったが、十何年も復讐の為だけに生きてきたと言い切るようなアクアにとっては許しがたいことだろう。

 

 俺だって復讐のことだけをずっと考えて生きてきたから、気持ちは分かる。

 そのことを改めてキチンと謝罪すべきか否か考えていると先にアクアが動いた。

 

「時間も無いし、本題に入るぞ。メールで送った通り、アイが推してた方のMVを公開して、撮影もそれをコンテレベルからコピーしたものにしたい。俺はあれを本当はB小町のメンバーと仲良くなりたかったアイの願いだと感じた。だから演技の解釈もそっちに寄せようと思う」

 

 最初に五反田監督に来たメールで内容は確認済みだが、理由までは聞いていなかった。

 動揺しかける自分を律し努めて冷静に頷く。

 

「ああ、聞いてる。あのMVに関しては俺の知り合いの映像Dに頼んで作って貰った奴だ。最初は特典映像としてDVDに入れるつもりだったから、権利とか全部含めて苺プロのものになるようにしてある」

 

「それってアレだろ? あのドーム直前に出した奴」

 

「ええ。アイがやたらと推すもんで最初はそのつもりだったんですけど、結局アイが目立たないならわざわざ入れることないって、色んなところから待ったがかかりましてね。ドームの準備で忙しかったのもあって、別の機会にってなったんですけど──そうか。アイがアレを推してたのはメンバーと仲良くなりたいから、か」

 

 アイの為に復讐を成し遂げたニノといい、案外アイツらは俺の知らないところでは仲良くやっていたのかもしれない。もっともニノに関しては──

 

「……壱護さん?」

 

「ああ、いや。なんでもない。ともかく公開することに関しては問題ねぇ。後は──」

 

「待った。権利やらが大丈夫なのは分かったけど、簡単に公開を決められても困る。もう一つ大きな問題が残っているでしょう?」

 

 鏑木Pの言葉に、俺と五反田監督が首を傾げる中、アクアだけは分かっているとばかりに頷いた。

 

「新野冬子のことですね?」

 

「あ」

 

「そう。まだ裁判前とはいえ、本人は殺人を認めている。そんな人物が出てる動画を公式と関係あるところにそのまま載せる訳にはいかない。カットするとコンテそのものをコピーするってのが出来なくなりますし、まあモザイク入れるのが妥当ですかね」

 

「モザイクねぇ。逆に目立つ気もするしそんなことせんでもとは思うが、今のご時世コンプラがうるせーからな」

 

 最初に監督が渋々ながら納得を示す。

 鏑木Pはそのままアクアにも目を向けた。

 

「……まあ、仕方ないですね」

 

 アクアもしばらく間を空けてから頷く。

 ほかならぬ総監督が納得した以上、アクアの立場で強く出られないのは分かる。

 だが。

 

「いや、ダメだ」

 

 夢にかまけすぎてアイツらの気持ちに全く気づけなかった俺が今更とは思うが、メンバーと仲良くなろうとアイが作ったMVだったというのなら、都合が悪いからと隠すようなことはしたくない。

 

「斉藤さん。気持ちは分かりますが──」

 

「手はあります。つーか、いつも通りでいいじゃないですか」

 

「いつも通り?」

 

「公式とは関係なく、俺個人のSNSに炎上覚悟でアップすりゃーいい。とりあえず世に出しちまえば、永遠に残る。消そうと思ったって消えやしねぇ。ネットってのはそういうもんだろ?」

 

「本気で言ってるんですか? そんなことしたら、今までの比じゃないくらい炎上しますよ。殺人犯に同情して勝手にアップなんて、金儲けや名誉欲どころの騒ぎじゃない。もう二度とこっちの世界には戻れないかもしれない」

 

 脅すような言い方に、俺は鼻を鳴らして酒を煽ると、グラスを乱暴にカウンターに叩きつけながら言い放つ。

 

「そもそも、もう芸能界に未練なんてねぇよ。いや、この仕事が最後の未練だ。それさえ終わったら俺はもうこの世界からすっぱり身を引く」

 

 アイの為に何も出来なかった俺に、降って湧いたような罪滅ぼしのチャンスだ。逃す訳にはいかない。

 

「……ハァ、それならタイミングだけは考える必要がありますね。斉藤さんが勝手にやったことにしろ、制作として関わっているんだから難癖付けられて、放送中止なんてなったら貴方だけじゃなく苺プロにも迷惑が掛かりますよ?」

 

 諦めたようなため息と共に苺プロの名が出されると同時に、冷水が掛けられたように頭が冷え、ミヤコの顔が思い浮かぶ。

 

「そう、ですね。……なら放送直前か、直後ですかね。タイミングは鏑木さんに任せます」

 

 荒くなっていた口調を戻して言うと、鏑木Pも無言で頷き返す。

 その後、バーの中には気まずい沈黙が流れ出した。

 

 自分の不様な激昂と発言が原因だが、だからこそ俺から口火を切ることも出来ず黙っていると……

 

「アクアー」

 

 酔っぱらい特有の呂律の回っていない声が場の静寂をかき消した。

 

「ん?」

 

(こういう時酔っぱらいは強いな)

 

 そんな風に安堵している俺を余所に、五反田監督が話した内容は思いも寄らないものだった。

 

「一番大事なこと聞きそびれたけどよ。お前、何で急にこんなやり方に変えたんだ?」

 

「それは……」

「いや、五反田監督」

 

 今日の撮影が上手く行かなかったからに決まってるだろ。と慌てて止めに入ろうとする俺を制して、監督は続ける。

 

「どうせ演出辺りからスタント使えば良いとか提案受けたんだろ? アイツらお前のことあんま信用してねーからな。それを蹴ってこっちを選んだのは、そっちの方がいいモンになると思ってのことか? それとも黒川を気遣ってか?」

 

 口調は酔っぱらったままだが、その声には妙な圧迫感があった。

 アクアもそれを感じ取ったらしく、すぐには答えず間を開けたが、やがて覚悟を決めたように頷いてから返答する。

 

「どっちもだよ。いや、それだけじゃないな。ルビーの為でもあるし、アイの為でもある。なにより、俺の為ってのが一番だ。俺がこのやり方であかねたちを撮りたい。それが一番の理由だよ」

 

「……はっ。急にガキらしいワガママ言うようになりやがって」

 

「もちろん、あかねの演技力やこれまで努力し続けてきたダンスレッスンの成果。仲間たちと築いてきた信頼関係。それらを加味すれば間違いなく俺の見たかったアイの姿を再現できるってのが前提だけどな」

 

 俺の見たかったアイの姿。という言葉に、心臓を鷲掴みにされたような痛みを覚えた。

 仲間たちと一致団結してステージを作り上げるアイ。

 それがアクアとルビー、そしてアイ自身の願いだったのなら、俺のプロデュース方針が全く見当違いだったと改めて見せつけられた気がしたからだ。

 

 だけど、俺だって初めからそうしたかったわけじゃない。

 アイをスカウトした直後は、仲良しグループで売っていくつもりだったし、ニノを含めた初期メンバーとも積極的に交流を図らせようとした。

 だが、結局アイがアイドルとして頭角を現し、絶対的なセンターとなった頃にはプライベートでの付き合いもなくなり、アイに対する陰口や虐めに近いことも発生していった。

 

 これではもはや当初予定していたプランでのプロデュースは無理だと考えたからこそ、以降はアイをメインにして、新しく入ってきた後期メンバーも、それを心身ともに支えられる人間で構成する方向に切り替えたのだ。

 

 結局最後までそのプランを変えることはなかったが、アクアの言う通りアイが本当はメンバーと仲良くやっていきたかったのだとすれば……

 

(本当に俺の目は節穴だな)

 

「よーし! んじゃ、それ見届けに行くかな」

 

 落ち込む俺を余所に再度酔っ払いの能天気な声が響き渡る。

 

「明日現場に行くってことかい?」

 

「おう!」

 

「いや、おうじゃなくて。監督は俺だから現場には来ないって言ったのアンタだろ」

 

「だから、見学だって。手出しはしねーよ。どんなアイを撮るのか見ておかねーと残りの撮影に影響すっかもしれねーしな」

 

「それは確かに困るね。じゃあ僕も行こうかな。明日は少し時間あるし」

 

「鏑木さんまで」

 

「斉藤さんも大丈夫ですよね?」

 

「俺? 俺は──」

 

 普通に考えれば断るべきだ。

 詳しい事情を知らない撮影スタッフからすれば、俺はアイで金もうけを企み、自分役にイケメン役者を起用させようとするなどして何度も炎上している厄介な男でしかない。

 そんな奴が現場に来ても良い影響が与えられるとは思えない。

 

 お前からも何とか言ってくれ。と視線を送るがアクアは、口元に手を当て、何かを考えるような態度を見せてから、はっと顔を上げ俺をまっすぐに見て言った。

 

「壱護さんも来てくれ」

 

「いや、俺は」

 

「というか雇用主が後ろで睨み聞かせてくれた方が撮影が楽になる。今日の件で少なからず俺に反感覚えているスタッフもいるだろうし」

 

 確かに、一応とはいえ今回のドラマの制作は俺の作った新会社が担っている以上、スタッフにとって俺は直接の雇用主。その俺がアクアを立てれば無視はできない。

 とはいえ、そうした後ろ盾をあっさり使おうとするアクアに若干呆れてしまう。 

 

「利用する気満々かよ」

 

「撮影を成功させる為ならどんな手でも使うって決めたばっかりなんでね。ドラマ成功の為だ。それぐらいしても罰は当たらないだろ?」

 

 そうだけど。と思いながらちらりと鏑木Pに目をやると、困ったような苦笑と共に肩を竦めてみせた。

 彼が集めたメンバーだからこそ、アクアの言ってることが事実だと分かるのだろう。

 総監督とプロデューサーである二人が見学に行くと言い出したのも、同じ理由なのかもしれない。

 

「……分かった。俺も行くよ」

 

 理由が何であれ、俺の存在が役に立つのなら、行かないという選択肢はない。

 それを聞いたアクアは、さも今思い出した。とばかりにニヤリと笑って切り出した。

 

「あ、言い忘れてたけど。明日はミヤコさんも見学に来るって言ってたから」

 

「え?」

 

 思わず頬が引き攣り、言葉を失う。

 

「おお、社長さん。時間あんの?」

 

「今人手不足でマネージャーも兼任してるから。俺とB小町がいる現場なら仕事先みたいなもんだからな」

 

「社長自らとは大変だねぇ。B小町も忙しくなってるんだしそろそろ人入れた方が良いんじゃない?」

 

「俺もそう思ってるんですが、まあ、俺たちというかルビーのマネージャーは慣れた人じゃないと」

 

 フリーズしている俺を無視して会話を続ける三人を前に、ようやく再起動した俺は慌ててアクアに詰め寄った。

 

「おまっ、それ先に言えよ!」

 

「言ったら来ないだろ。言っとくが今更行かないは無しな」

 

 先手を打たれて釘を刺され、苦々しく顔を歪める。

 ミヤコと最後に直接会ったのは、一人で責任を被ろうとしたアクアを騙すため、ここに居る三人の大人たちで立てた計画を話に行った時以来だ。

 

「うわー、マジか。いろんな意味で会いたくねー」

 

「ははは。ここ教えてもらったお礼くらいは言っといた方が良いんじゃないですか?」

 

 さっきアクアと電話していた時に話していた食生活改善云々のことだろう。

 確かにこの店を教えてくれたのはミヤコだが……

 

「いや、まあ。ははは」

 

 アイツがそんな殊勝なことをするか。というか、俺自身にそんな気を使って貰える価値があるとは思えないが、とりあえず笑って誤魔化しておく。

 その後、澄ました顔をしているアクアに向かって悪態を吐く。

 

「クソ。騙しやがって」

 

 そんな俺に対し、アクアはフンと鼻を鳴らして不敵に笑った。

 

「悪い大人どもの真似をしてみただけだよ」

 

 その笑みを見て、今更ながら、これはアクアが自分が取るつもりだった責任を奪った俺に対する意趣返しだと気づいた。

 だとすればもう何も言えない。

 残っていた酒を一気に煽りながら、俺は明日ミヤコとどんな顔で会うべきか思いを巡らせた。




ようやく撮影一日目終了、次回から二日目に入ります
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