【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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撮影二日目スタート
本当は昨日投稿する予定でしたが、直前で内容の矛盾を見つけて書き直していたら遅くなりました


第71話 少女の夢

 二日目の撮影が始まる前、衣装とメイクを済ませた私たちに、お兄ちゃんが招集をかけた。

 

「先ずは急なコンテ変更で迷惑をかけたことを謝っておく」

 

 私たち七人を前にして切り出したお兄ちゃんは、口では謝ると言っているがイスに座ったままで、太々しくも見える態度だ。

 

「ちょっと、アンタそれ謝ってる態度じゃなくない?」

「まぁまぁ」

 

 当然のように突っ込むかな先輩と、それを抑えるMEMちょを余所に私はちらりとお兄ちゃんの後ろに目を向ける。

 壁際に並んでいるのは、昨日は居なかった四人の見学者。

 五反田監督と鏑木P、壱護さんに加えて、おかーさんも私たちを送った流れで一緒に見学している。

 私が見ていることに気づいたおかーさんは、ニッコリと嬉しそうに笑い掛けてくる。

 私も応えようとしたが、ふと周りを見るとみんなが注目していることに気付いて恥ずかしくなる。

 これじゃあまるで……

 

「授業参観みたいだね」

 

 隣から聞こえる忍び笑いにからかわれたと唇を尖らせると、あかねちゃんは私ではなく、お兄ちゃんを見ていた。

 笑われたお兄ちゃんもまた口元をへの字に曲げて、分かりやすく拗ねた態度を見せた。

 

「あー。アクたんが妙に気張ってるのそれが理由かぁ。可愛いねぇ」

「……そうだな。MEMはどっちかっていうと参観する側だからこの気持ちは分かんないだろうな」

「ちょっ!」

「え? MEMちょそのレベルでサバ読んでたの? 敬語とか使った方良い?」

「やめて! というかアクたん。劣勢になったらそのネタ擦ればいいと思ってない?」

「……そんなことねぇよ?」

「絶対ある感じじゃん!」

 

 しらっとした顔で否定したお兄ちゃんにMEMちょが強めのツッコミを入れたところで、わざとらしく咳払いをして場を修め、まじめな顔つきになって説明を再開した。

 

「ま。冗談はさておき、基本的にやってもらうことは昨日とそう変わりはない。ダンス自体は同じだし、カメラの位置とそれぞれの立ち位置が多少変わるだけだ」

 

 昨日まではアイをメインに据えていたので、立ち位置も突出したメインを他の六人が後ろで支える形になっていたが、今回のMVは一致団結がコンセプトなので、全員横並びからスタートする。

 だからといって、ダンスまで平等な訳じゃなく、センターが一人に、残りが三人ずつ纏まって、合計三グループで動く所は変わっていない。

 

 ただ、ダンスが同じでもカメラワークが大きく変わり、センターだけ映すのではなく、移動しながらそれぞれのメンバーにも焦点が当てられることで平等に出番が確保されてる感じだ。

 お兄ちゃんの言う通りダンス自体は変わらないので、みんながある程度余裕を持っていられるのは、それも大きい。

 

「ただ。一つだけ全員に心掛けて欲しいことがある」

 

 ここからが本番。と言うように声が鋭くなり、私は考えるのを止めて姿勢を正す。

 他のみんなも大なり小なり似た感じだ。

 ピリリとした緊迫感が周囲に満ちる中、当の本人が表情を崩し、ふっと優しく微笑んだ。

 その笑顔が昔のお兄ちゃん……いや、もっと昔、前世でのせんせと重なって見えて、つい心臓が一つ高鳴ってしまう。

 

「今まではパフォーマンス以外の部分でもアイを目立たせるよう、なるべく抑え目の演技をしてもらっていたけど、今日はそれを気にする必要はない。むしろ自分が一番目立ってやるくらいの気持ちで演じてくれ」

 

「え? それいいの? だって他のメンバーって基本アイのバック……。あ、ごめんなさい」

 

 ゆきちゃんが一番最初に反応し、途中失言したとばかりに頭を下げて、ちらりとおかーさんを窺った。

 

「いいのよ。あの頃は事務所としてもそういう売り出し方してたのは事実だから。それに……そう指示してたのも私じゃないし」

 

 おかーさんはジロリと横を睨むが当の壱護さんは素知らぬ振りで顔を逸らした。

 そんな中。お兄ちゃんは慌てるでもなく話を続ける。

 

「今回のカット、どういう状況か覚えてるよな?」

「えっと。確か、アイの夢の中、だよね?」

 

 もう失言はしないように気をつけているのか、探り探りゆきちゃんが言う。

 ここに関しては、昨日の撮影前にお兄ちゃんが改めて語っていた。撮影方法やアイの解釈が変わったとしても、内容まで変わることはない。

 

「そう。刺されたアイが今際の際で見た夢。念願だったドーム公演が無事行われていたらってもしもの光景。でも彼女の心残りはただドームでライブをしたかったってだけじゃない」

 

「……なるほど」

 

「え? フリルちゃん、分かったん?」

 

「まあなんとなく。ただ、ここは私よりプロに説明してもらった方が良いかな」

 

 言いながらフリルちゃんが目を向けたのは、かな先輩だった。

 

「人に丸投げしてんじゃないわよ。……ハァ。アクア、私が説明して良い?」

 

 悪態を吐きつつも、お兄ちゃんに許可を取った先輩は、私たちを見回して語り出した。

 

「要するにこれはアイの理想。ドーム公演が叶っただけじゃなく、もしB小町のみんなと仲良くなれて一緒の舞台に上がれていたら。って妄想の産物ってことよ。だからアイ以外が目立っても問題無い」

 

 元祖B小町の仲がギスギスしていたのはよく知っている。

 流石に子供である私たちの前でそんな姿を見せたことはなかったが、人気が一人だけ突出し、他のメンバーはバックダンサー同然に扱われていた現状で、仲良くなれるはずもない……今の私ならその頃のママたちの複雑な気持ちが、ある程度は理解できる。

 さっきおかーさんは自分はあまり関係ないと語っていたが、実際はマネージャーとしてメンバーの宥め役や調整に四苦八苦していたらしく、良く苦労話を聞かされたものだ。

 貴女たちはそうならないで。と言われているようでちょっとプレッシャーも感じるくらいに。

 

 幸いというべきか、私たちは誰かが突出している訳でもなく、三人足並みが揃っているから今は問題ないが、これからはどうなるか分からない。

 仮にそうなっても私は先輩のこともMEMちょのことも恨んだり妬んだりしたくない。

 

 ママの場合は、最後までそれが解決できなかった。

 だからこそお兄ちゃんは、MVのコンセプトとしての一致団結ってだけじゃなく、本当にそれが解決していたら。というもしもの光景を作ろうとしているんだ。

 そのためにはメンバーを演じる私たちの意識から変える必要があるからこそ、撮影前に演技指導をしようというのだろう。

 

「でも、目立てって言われてもなぁ。正直私自分が演じる人の性格とかもよく知らないんだけど」

 

 実際ドラマの中でちゃんとした台詞ややりとりがあるのは初期メンバーだけで、その後追加になった三人に関しては、この最後のシーンでしか出てこない。

 だから昨日の撮影でも私たちがやったような役作りも特に必要なかったが、目立つようにするならキャラ設定は必要と考えたのかも知れない。しかし、そんなゆきちゃんの質問をお兄ちゃんは一笑する。

 

「いや、キャラや性格は考慮する必要はない。あくまで自分のやりやすいようにしてくれ」

 

「え? それって大丈夫なん? だってフィクションやなくて、実在の人物を演じるわけやし」

 

「さっき言ったように、これはあくまでアイが見た夢なんだ。全員が仲良くなった元祖B小町なんて実在しない。だからそうなった時、ライブでどんなパフォーマンスを見せるか、ファンに対してどんな態度で接するかなんて本人にも分からないだろ。だったら下手に演技しない方が自然に撮れる」

 

「まあ、一理あるのかしら。でも実際どうなのMEM。そういうのって炎上したりする?」

 

「うーん。ちょっと怖いかな。前にアクたん自身が言ってたとおりアイドルファンって良くも悪くもそういうところ細かいからさぁ。メンバー構成が実際のドームライブと違うのだってあれこれ言われそうなのに、キャラまで変えたらどうなるか」

 

 このメンバー内に於いて、一番SNSに関する知識が深く、自身も濃い目のアイドルファンだったMEMちょの言葉に全員が心配そうな顔をするが、お兄ちゃんはとくに慌てた様子も見せない。

 昨日はちょっと気負い過ぎというか、神経質な感じがしていたが、今日はとても落ち着いてどっしり構えている。

 

「いや、だからこそ。本来いないはずの初期メンバーを敢えて入れているからこそ、アイが見たかった夢という状況に説得力が出せる」

 

「あ。そっか。それなら、ドラマで入れ替わりがない理由がキャスト節約の為じゃなくて、アイが初期メンと仲良くなりたがってたからこそ。みたいな体で行けるんだ。なら後はインタビューとかで、キャラ変とかもそういうコンセプトだってちゃんと説明しとけば大丈夫かも」

 

 あっけらかんとしたMEMちょの言葉に、後ろの方で壱護さんとおかーさんが気まずそうに目配せをしていた。

 実際初期メンバーが辞めたのは卒業ではなくママを虐めたことでクビになったからと聞いているので、また当時のことを思い出したのだろう。

 

 とはいえ、とりあえずみんなお兄ちゃんの説明に納得したらしく、これ以上反対意見は出ず、各々どんな演技をするか語り出した。

 

「じゃあ、私は逆にいつもと違う演技しようかな。高校卒業したら演技にもっと力入れるつもりだったし」

「あ、そうなんだ」

 

 マルチタレントであるフリルちゃんは多種多様な分野に手を伸ばして活躍をしているが、その中で役者方面を伸ばそうとしているのはちょっと意外な気もする。

 

「うん。私の中に流れるコメディエンヌの血を見せつけてやればもっといろんな役が回ってくるかも。あるいはもっと妖艶な感じとか」

 

 そう言ってフリルちゃんは台詞に合わせて、演技を変えてみせる。

 コメディエンヌと言った時は普段以上に明るく楽しげに、妖艶な感じと言った時は、演技もさることながらホンの僅かにシナを作るだけで、こちらがドキリとするほど艶めかしく。

 ただ、あかねちゃんと違って演技の違いで別人に見えるのではなく、どちらでもフリルちゃんらしさと言えばいいのか、芯の部分は変わっていない。

 かな先輩にちょっと似てるかもしれない。

 

 どっちにしても以前本人は役者としての実力は本職に劣るみたいなことを言ってたけど、私にはそうは見えない。

 こういうところは本当に何でもできる一流のマルチタレントって感じ。

 ちょっと感動している私と異なり、お兄ちゃんは少し考えてから軽く答える。

 

「どっちも良いけど、俺としては後者の方が好みかな」

 

「あらアッサリ。でも推しに好みって言われるとちょっとドキッとするよね」

 

 私に同意を求められても返答に困る。

 

「むー。アクアくんの好みより画としてどっちが良いかでしょ!」

「だから、画が好みになりそうだって話だよ」

 

 分かりやすく嫉妬するあかねちゃんとそれを面倒くさそうにいなすお兄ちゃん。

 そんな二人を私たちはなま暖かい眼差しで眺めていたが、その視線を敏感に感じ取ったお兄ちゃんはため息を落として話を戻す。

 

「ったく。何の話だっけ? ああ、そういうわけでとりあえず何回か撮ってみるつもりだから、途中でこういう演技の方が良いって思ったらやって良い。後は俺の方で判断するから。じゃあそろそろ──」

 

 早口で一気に言い切ることで、話を終わらせようとしていると悟り、私は慌てて、はい。と声を出して手を上に伸ばした。

 

「何だよ?」

 

「私たち初期メンバーはどうすればいい?」

 

「まあ、お前たちは今までやってた演技の延長線上で──って、その顔はなんか他にやりたいことあるのか?」

 

「うん。私も普段通りって言うか、一番可愛くなる演技がしたいなーって」

 

 今のフリルちゃんの演技を見て分かった。

 今日まで一生懸命演技に打ち込んできたつもりだけどやっぱり私はまだまだ素人だ。

 これまでの演技では他のみんなから見劣りしてしまう。

 それはイヤだ。

 そんな私の思いにお兄ちゃんはちょっとだけ困った顔をしたが、こういう時、絶対私のお願いを聞いてくれることを知っている。

 

「……まあ、ルビーがそっちのほうがやりやすいって言うなら」

 

「ちょっとー、この監督公私混同激しすぎるんですけどー」

 

「まぁまぁゆきちゃん。アクたんってば、ほら、自他ともに認めるシスコンだから。っていうか! それ言ったら私も素人なんだけど。私はどうしたら良いの?!」

 

「MEMの場合はキャラも近いし、普段通りでも違和感ないでしょ」

 

 MEMちょの叫びも先輩にあっさり流され、場の空気が柔らかくなり良い雰囲気が満ちたところでお兄ちゃんが手を叩いた。

 

「よし。じゃあそろそろステージに移動して準備してくれ。カメラの位置を調整してMVと同じになるようにするから、後は練習通りに」

「はい!」

 

 全員息を合わせて揃った返事をしてから、私たちは移動を開始した。

 みんなに着いて一緒に歩きながら後ろを振り返ると、お兄ちゃんはおかーさんをはじめ、見学に来ていた他の人たちからなにやら声を掛けられ、それを面倒くさそうにあしらっている。

 

 ステージに行く前に、じっとその姿を目に焼き付ける。

 これが、いつもの私の演技をさせて欲しいって頼んだ本当の理由。

 

 私のモチベーションはいつだって同じ。

 大好きなせんせーがどこかで私を見ていてくれるかもしれない。

 そんな思いでいつだって全力で頑張ってた。

 

 きっとそんな私が私の中で一番可愛い。そう信じている。

 だから今だけは、おにいちゃんじゃなくせんせがそこに座っていると思うことにする。

 それがきっと(さりな)だけじゃなくて、せんせの夢を叶えることにも繋がると思うから。

 

「ルビーちゃん?」

 

 立ち止まった私を訝しんだあかねちゃんに笑い掛ける。

 

「うん。大丈夫、いこ」

 

 駆け寄ってから、私はそうだ。と前置きをしてあかねちゃんに告げる。

 

「今日の私、多分一番可愛いから。見ててね」

 

 突然の宣言にあかねちゃんは不思議そうに目を瞬かせた。

 (さりな)とアイが一緒のステージに立っている姿を見たいというお兄ちゃん(せんせ)の夢だけでなく、私自身がママと一緒のステージに立ちたいという夢も一緒に叶えられれば。と思って言ってみたけど、やっぱり伝わらなかったか。

 

 まあ、当然といえば当然だ。

 そもそも今回あかねちゃんが演じるのはママとしてのアイじゃなくて、アイドルとして仲間たちと一緒に成長したアイなのだから。

 あかねちゃんは私とママの関係を知っているから、事情を話しても分かってはくれるだろうけど、それで変に調子を崩して演技に影響を出させるわけにはいかない。

 ちょっと残念だけど、私が内心で思っていればそれで十分。と思うことにした。

 

 

   ※

 

 

「よーし。行くぞー」

 

 やる気を漲らせつつ、用意されたステージの中をズンズン突き進む。

 

「ルビー。まだ作業してるんだから、邪魔しちゃダメだよ」

「はーい」

 

 興奮から一人突出していた私の後ろから追いかけてくる声に足が止まった。

 確かに、ステージの上では未だカメラマンの人たちが真剣な顔で話し合っていた。

 これでは邪魔になってしまうと反省して冷静になろうとしたところで、ふと気付く。

 

(あれ。今言ったの誰だろ?)

 

 かな先輩はもっとキツい物言いになる。

 MEMちょは逆にもっと緩い。

 フリルちゃんでも、みなみちゃんでも、ゆきちゃんも違う。

 残っているのはあと一人。

 でも、口調が──

 

 振り返ると、そこには小さく首を傾げて微笑んでいるママの姿。

 違う。

 ママに扮したあかねちゃんの姿だ。

 

 撮影の時、実の娘である私でもドキッとするほど似ていることはあるけど、あかねちゃんは撮影の時とそうでない時で切り替えるタイプで、すぐにいつものあかねちゃんに戻るからあまり気にならなかった。

 でも今はまだ撮影前だというのに、既にアイの演技をしている。

 いや、これはアイドルのアイというよりは……

 

「ほら、ルビー」

 

 呆然とする私に、いつか私にダンスを教えてくれた時のように優しく差し出された手を見つめる。

 

「……ママ」

 

 ポツリと呟いて、その手を恐る恐る掴むと、そのままグイと引っ張られる。

 そうして私とあかねちゃんの距離が縮まった、その瞬間。

 

「大丈夫。私はルビーのこと、ずっと見てるから。貴女の願いも夢も私が叶えてあげる」

 

 ごく自然にそう言ったあかねちゃんの笑顔は、今までの撮影で見てきたアイドルとしてのアイじゃない。

 ううん。

 アイドルとしてだけじゃなく、私生活でのアイとも違う。

 私の知っている、私が見ていた、本物のママと同じ笑顔だった。

 

「何驚いてるの? ファンも仲間も恩人も家族も、全部大切にして、みんなの夢を叶えてこそ、本物のアイドルでしょ?」

 

「ッ! ……うん!」

 

 元気良く返事をした私は、最高の笑顔であかねちゃん(ママ)に笑いかける。

 そうしてから、私たちを映しているカメラ、いやその向こう側に居るお兄ちゃんたちにも同じ笑顔を向ける。

 勝利宣言のような笑顔は、改めて今日の撮影が絶対成功すると確信したからこそ。

 

 だってここには、完璧で究極のアイドルと志を同じにするメンバー、そしてそんな私たちのことを誰より理解してくれている監督がいるんだから。




当然ですがラストのあかねはアイが乗り移ったとかではなく、昨日アクアに言われた演技指導を元にして役作りの精度を高めた結果です
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