【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~ 作:日ノ川
前話から少し時間が飛んで撮影終了直後の話です
幕間は全部で四、五話くらいになる予定ですが、全て纏めて一つの話になる感じです
第79話 夏休み・道中
「いやー。撮影も無事終了したし、これで心おきなく遊べるねー」
「せやなー。でもフリルちゃんも来られてよかったわぁ。前に無理して時間作ったゆうとったから、てっきり仕事かと」
最後列に座っていたルビーが浮かれた声と共に車内を見回す。その手には事務所から持ち出した小型カメラが握られていた。
マイブームでも来ているのか、最近のルビーは撮影に凝っていて、何かと記録を残そうとしているのだ。
ここにいるのは皆タレントということもあってか、そんなルビーの様子を気にする者は居らず、前の席に座っていた寿も平然としたまま同意して、隣に座る不知火を見た。
「私だけのけ者にされたくないからね。まー今回も無理したから、夏休みもずれ込んで秋休みになっちゃうかも」
「どんだけ休みたいのよ。まあ気持ちは分かるけど」
不知火の言葉に反応したのはルビーと共に最後列に座っていた有馬だ。
かつて超売れっ子子役として分刻みのスケジュールで行動していたという彼女だからこそ、休養の大切さを理解できるのだろう。
「先輩は子役時代は大忙しだったもんね」
「子役時代を強調してんじゃないわよ!」
ルビーに悪気はなさそうだが、だからと言って納得できるはずもなく、当然のように有馬が噛みつく。
「……お前ら、海着く前からハシャぎすぎだ」
これ以上この話題を続けるのはまずいと助手席から後ろを振り返って女性陣に注意するが、こちらの意図を理解せずルビーは不満そうに唇を尖らせた。
「えー。だって今年は仕事ばっかで全然夏らしいこと出来てないんだもん。ちょっとくらい羽目外しても良いじゃん!」
「ハシャぐなって言ってるわけじゃなくて、着いてからにしろって言ってんだよ。事故ったらどうする」
「あ」
全員の視線が、運転席に座っているMEMに注がれる。
本来はカントクの運転で行く予定だったのだが、参加する人数が増えてしまったことで、一台では乗り切らず、メンバーの中で唯一免許を持っているMEMが事務所の車を使って運転することになった。
しかし、以前姫川に語ったように、プライベートならともかく、タレントを乗せて仕事の打ち上げに行くのに運転手が慣れていないのは問題がある。
皆もそのことに思い至ったからこそ黙り込んでしまったわけだが、俺としては静かにさせるために脅しで言っただけで、実際はあまり心配していない。
「余計気になるから、急に静まり返らないでくれる!? 大丈夫だよぉ、私これでもゴールドだから」
そう。MEMは自分の車こそ持っていないが、免許を取ってからずいぶん時間が経っており、事務所のスタッフの手が放せない時は代わりに運転することもある。
俺もそれを知っていたからこそ、MEMが運転手を勤めることに同意したのだ。
「えっと。確か、ゴールドって免許取ってから最短で……」
思わずといった風に呟く寿に、MEMの肩がビクリと震える。
「みなみ、武士の情けだよ」
「あ。そやった。……なんかすみません」
「マジトーンで謝んないでぇ!」
MEMの悲痛な叫びに合わせるように、有馬がやれやれと首を振った。
「アンタもいい加減年齢詐称問題どうするか考えときなさいよ。ほとんど公然の秘密とはいえ売れてきてから発覚したら面倒よ」
「うぐぅ!」
「まぁ私はMEMちょが三十路すぎてても推す自身があるから大丈夫だよ」
「そ、そないに!?」
「行ってない! そこまで行ってないから! もぉ! その辺はちゃんと考えてるから。というか折角の海なのに到着前から暗くなるようなこと言わないでよぉ」
なにやらコントじみたやりとりが続いているが、流石に会話したまま運転させ続けるわけにはいかない。と俺は再び話を打ち切ることにした。
「自分がゴールドとか言うからだろ。ほら運転に集中しろ。ナビは俺がしてやるから」
そう言った途端、後ろの座席からルビーが不満げな声を上げた。
「えー。お兄ちゃんも話そうよー」
「そうだよ、アークア。折角男一人だけのハーレム状態なんだから堪能しなきゃ損だよ」
丁度真後ろに座っていた不知火の細い指先が、俺の首筋を擽るように伸びてくる。
「カノジョ持ちにコナ掛けてんじゃないわよ。後、アンタも鼻の下伸ばすな! あかねに言いつけるわよ」
止めろ。と言う前に刺すような視線と共にドスの利いた声に背後から襲われ、俺は思わず息を吐いた。
「伸ばしてねーよ。もう良いから海に着くまで大人しくしてろ。そもそも俺はお前たちと違ってまだ仕事終わってねーんだから体力温存させてくれ」
未だワキワキと動いている不知火の指を追い払うように手を振って、そのまま背もたれに体を預ける。
「あー、編集も手伝ってるんだっけ? そう言えばおかーさんも忙しくて来られないって言ってたけど何してるんだろ」
「番宣用の仕事取ってくるって話じゃなかった? 私たちもそっちに出ることになるから遊べるのは本当に今だけよ?」
「げー」
「仕事があるのはええことやん。まぁうちの事務所も根回し営業掛けるゆうとったけど。これで全然目立てんかったら絶対マネさんにブツクサ言われるわぁ」
「大丈夫。みなみのダンスはちゃんと目立ってたから。あれはもう視覚の暴力だよ。ね? 先輩」
「何で私に振るのよ。喧嘩売ってんの? アンタだって誇れるほどのサイズじゃないでしょ」
「えー。フリルちゃんは先輩よりは大きいでしょ。それに背も高いからモデル体型って奴だよ。みなみちゃんのダンスがやばかったのも事実だけど!」
「そこ擦るの止めてやぁ」
ぐったりと項垂れながら言う寿だが、興奮したルビーは止まらない。
「だってあの衣装って、あんま揺れないように設計されてるんだよ? それであれだけ動くのはまさしく規格外でしょ!」
「確かに。パイセンはともかくルビーもMEMちょも結構あるのに揺れてなかった気がする」
「その呼び方止めろって言ってんでしょ!」
(コイツら俺の言うこと一切聞いてねーな)
声量をまるで落とすことなくハイテンションで続く会話に、もう何度目になるか数えるのも面倒なため息を落とすと、それを横目で確認したMEMが恐る恐る切り出してくる。
「あー、アクたん寝てて良いよぉ? カーナビもあるし、カントクさんの車目立つから後ろ着いていけば道に迷うことはないと思うから」
「……それは心配だから止めとく」
「信用がない!?」
「だってほら」
カントクが飛ばしているのか、それともMEMが安全運転し過ぎているのかは不明だが、前を走っていたカントクのバンとの間に、車線変更してきた車が入ろうとしているのが見て取れた。
「え? あ、わわ。横入りしてきた。こういう時どうすればいいんだっけ? 追い抜かすのはダメだよね?」
「ダメに決まってんだろ。もうカントクの車は見なくて良い。俺が指示出すからそれに従え」
一応音声案内も着いているが、この車内では聞き取りづらいだろうし、あの手の音声は時々よく分からない指示を出したりするのであまり信用できない。
「お願いしますぅ」
MEMもそれを理解しているからかあっさり前言を撤回する。悲鳴にも似た情けない声が車内に響き渡った。
やはり休息などしている余裕は色んな意味で無さそうだ。
☆
「おっせーぞ早熟。もう準備できちまった」
いつの間にか後ろから消えていたメムちゃんが運転していた車が到着したのは、こちらの車から荷物を下ろし、パラソル等の準備がすべて終わってからだった。
「どっちかっていうとアンタが早いんだよ。無駄に飛ばしたんじゃねーだろうな?」
悪態を吐いたカントクを睨みつけるアクアくんの冷たい声に、肩を竦ませながら目を逸らす。
「ん、んなことねーよ。ヨソのタレント乗せて、そんなマネするかよ」
返答に焦りが含まれていることを感じ取ったらしいアクアくんの眉が持ち上がる。
「別に嘘は言ってねーよ。多少浮かれちゃいたが安全運転だったぜ」
カントクを庇う声の主は、既に水着姿になっている姫川さんだった。
カントク以外の男性陣はビーチで荷物番をしていたはずだが、忘れ物でもしたのか、それともアクアくんたちがやってきたのを見て迎えに来たのか。単独ではなく後ろにケンゴくんもいる辺り、前者だろう。
とはいえ。
「未だ免許取れてないアンタが言ってもなぁ」
「ぬ、ぐぅ」
大げさに胸を抑える振りをしながらたたらを踏む姫川さんを睨めつけつつ、さらに追撃しようとするアクアくんに、今度は別方向から制止が入る。
「まぁまぁ。俺も見てたけど特段危ないマネはしてないって。取りあえず遊ぶ前から堅苦しいのは無しにしよう。な?」
「……まあ、ケンゴが言うなら」
アクアくんより二つ年上で、免許も良識も持っているケンゴくんの言葉は素直に受け取ったらしく、大人しく引き下がる。
私の乗っていた感想としては百パーセントの安全運転とは言い難いが、それでもよくロケ現場に出向く際、時間に追われながら運転するロケ車よりはよっぽどまともな運転だったと思うので余計なことは言わないでおく。
「そうそう。それよりほらほらー。なーんか言うことあるんじゃないのー?」
「ちょ。ゆ、ゆき?」
いつの間にか後ろに移動していたゆきが、私の両肩を掴みながらぐいぐいと前に押し出していく。
突然のことにろくな抵抗も出来ず、私はアクアくんの前に突き出された。
「う、うぅ」
後から来る女性陣の方が多いのだからと、カントクさんたちが荷下ろしをしている間に、私とゆきは先に水着に着替えを済まさせて貰っていた。
別に以前姫川さんに言われたことを真に受けた訳ではないが、ゆきと一緒に選んで購入した水着は、いつもより少しだけ大胆な物だ。
ゆきの動きに呼応して、アクアくんの後ろに回り込んだメムちゃんが押し出した結果、私たちは至近距離で向かい合った。
「ほらほら、アクたん。彼女の水着姿だぞぉ。なんか言うことあるでしょー」
「そうそう。こういうあかねが好きなんやろ〜?」
何故か関西弁を使いつつ、ぐいぐい私とアクアくんをくっつけようとする二人の悪乗りには覚えがあった。
今ガチで私がアイのマネをした際、煽ってきた時と同じ雰囲気だ。
確かあの時アクアくんは、突然のことに顔を真っ赤にして照れてしまい、そのまま逃げるように撮影していた教室を後にしていった。
アイの演技はしていないが、今のアクアくんと私はちゃんと付き合っているんだし、今度はちゃんと私自身を見て照れてくれる、なんてこともあるかも⋯⋯
「まあ、いんじゃね?」
予想に反し、アクアくんは特に反応を示さずに素っ気なく言い放つ。
「なぁに。その適当っぷりはぁ」
「そうだよ。あかねはねー。アクアのためにめっちゃ必死になってて」
「ちょ! ゆき。いい! いいから別に!」
選ぶ際、ゆきから聞き出した最近の男の子にウケる傾向やアクアくんの好みに関する推察などの話を、本人に聞かせるのは恥ずかしすぎる。
とはいえ、この素っ気なさには、流石に私も思うところがある。
今はみんながいるからアレだけど、時間を見つけて二人きりになったらしっかり問いつめてやろう。
そんなことを考えながら唇を尖らせる私の前に、ルビーちゃんの眩しい笑顔が飛び込んできた。
「大丈夫だよ。あかねちゃん! お兄ちゃんのそっけない返事は基本照れ隠しだから。私もおんなじこと言われたし!」
「そうよ。私のアイドル衣装褒める時もそんな感じだったわ。っていうか、アンタも同じようなことしてたでしょ?」
「う!」
言われて直ぐ宮崎のことを思い出し、思わずかなちゃんから顔を逸らす。
「さ、さぁ! ウチらも着替えて泳ごぉ」
「お。いいね、着替え着替え。一緒に着替え」
場に満ちた気まずい空気を吹き飛ばすように、慌てて取り繕う寿さんと、どこまで本気なのか分からない不知火さんの軽口もあって、私たちは取りあえず三々五々。それぞれがやるべきことを再開することになった。
今来たばかりのアクアくんたちは着替えを含めた自分たちの準備を行い、既に着替えも済んでいる私とゆきは姫川さんたちと一緒にビーチに向かうことになったが、私は後ろ髪惹かれる思いでアクアくんに意識を向け続けていた。
それは、私の水着姿に対する感想がうやむやになったことが納得いかない。訳ではなく……
(やっぱり、まだ元気戻ってなさそうだな)
数日前の撮影最終日に見た、痛々しい彼の姿が忘れらないからだった。
登場人物が多いのもあって話は進みませんでしたが、こういう大人数がワチャワチャする日常回は最終章では書けないと思うのであと何話かお付き合いください