【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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色々忙しかったので投稿が遅れました
姫川さんと金田一さんの話
ちなみに金田一さんが上原夫妻とカミキのことをどれくらいどのタイミングで知ったのか原作では細かいところまでは書かれていなかったので基本想像で書いています


第85話 後悔

 舞台稽古が終わった後、俺は帰ろうとする金田一さんを飲みに誘った。

 公演が始まってから、打ち上げという形で飲みに行くことは割とあるが、稽古期間中に飲むことを良しとしていない(翌日に酒が残ったままだと稽古に身が入らないかららしい)こともあり渋っていたが、他の連中は呼ばず二人だけ、そして店ではなく俺の自宅で。と付け加えたことで、内密に話があるのだと理解して了承してくれた。

 

 いつもより気持ち早めで稽古を終わらせた後、俺たちは連れだって自宅に向う。

 

「んじゃ、乾杯」

「おう」

 

 缶ビールではなく、やや強めのウイスキーを出す。

 金田一さんは酒好きだが、そこまで酒に強いわけではないので、ある程度酔わせた方が口が軽くなるだろうと計算したのだが、オッサンはグラスに入った酒を一口舐める程度に飲んだ後、すぐにテーブルに戻してしまった。

 

「あれ? 美味くなかった? 結構高い奴なんだけど」

「……いや、悪くはない。が、俺ももう歳だ。飲み過ぎると不味い」

 

「またまた。こないだもアホほど飲ませたのに次の日ケロッとしてたじゃん」

 

「明日には残らなくても、酔いが回るとまともな受け答えが出来なくなるからな」

 

 そう言ってオッサンはジロリと俺を見る。

 鋭い眼光はこちらの狙いなどお見通しだと言っているかのようだ。

 俺も諦めて、唇を湿らせる程度に酒を飲んでからテーブルに戻すと正面からオッサンを見据えて本題に入る。

 

「昨日、黒川が稽古場に来たんだって?」

 

「おう。お前は買ってこなかった旅行土産を持ってな」

 

 チクリと刺され、鼻を鳴らす。

 旅行とは先日皆で行った、15年の嘘の打ち上げを兼ねて海に出掛けたことだろうが、あれは。

 

「旅行って、そう遠出でも無いし、日帰りだぜ? わざわざ買ってくる方が珍しい」

 

「ああ。だから、買ってきたのは単に稽古場にくるための理由付けだろうな。差し入れを貰ったとあっちゃあ、俺も一言礼を言わんわけにはいかんからな」

「それも聞いたよ。二人でなんか話してたんだって?」

 

 今回の公演には参加しないとはいえ、黒川もララライの一員なのだから稽古場に来るのも金田一さんと話をする機会も作ろうと思えば簡単に作れる。

 ただ、公演が近くなっている今、最短最速で時間をとって貰う手段として、差し入れという形を選んだのだろう。

 そうまでして黒川が話したいこと。

 それはおそらく──

 

「……カミキのことが知りたいとな」

「やっぱりか。で? 何を話したんだ?」

 

「……」

 

 俺の質問に金田一さんはすぐには答えずに、タバコを取り出して目線で吸っても良いかと問うてきた。

 

「換気扇とこで頼む。たまにアクアも来るからな。タバコ臭いと文句言われそうだ」

「フッ。仲良くやってるじゃねぇか」

 

 苦笑しながらその場を離れ、キッチンに向かう背を見送りながら金田一さんを呼んだ理由を思い返す。

 

 例の海に行った際、アクアはずっと様子がおかしかった。

 

 その原因は撮影最終日にアクアが撮ったシーンにあるらしく、俺も含め、他にも気付いている奴らで一丸となりなるべく一人にさせないようにしていたが、BBQが始まってしばらく経つと、いつの間にか姿を消していた。

 

 黒川が見に行ったので他の連中は動かなかったが、良い感じに酒が回っていたこともあったのだろう。

 俺は止めるメルトたちを振り切ってこっそり二人の様子を見に行き、アイツらがまだ何かやる気だと知った。

 

 そこに来て、金田一さんと接触したとなれば、調べているのはおそらくカミキヒカルに関することだろうと予想は付いていた。

 俺の両親も死亡した今、当時の詳しい事情を知っているのはもう金田一さんくらいしかいないからだ。

 

 問題なのは、アイツらがカミキの何を調べているのか。

 

 最初に見せて貰った脚本では、アイとカミキヒカルの恋愛描写や芸能界の闇に侵され、苦悩する様子、そして俺の両親の葬式で金田一さんと会話するシーンもあったが、最終的な脚本では、それら全てがカットされ、残ったのは俺の母親がカミキを性的虐待していた事実と、それを知ったアイが直談判してカミキを救ったということだけ。

 

 結果カミキはアイに恋愛感情を抱き告白するが、アイドルとして前に進むことを選んだアイに振られ、それを逆恨みして殺害を決意した……

 

(いや待てよ)

 

 果たしてそんなシーンを撮っていただろうか。

 元々俺とアクアは共演シーンも多く、そうでなくても時間があると適当な理由を付けて現場に顔を出していた。

 そのいずれでもそうした場面を撮っていた覚えはなかった。

 

 しかし、本読みの時にはそのシーンもあったのは間違いない。

 もっとも、アクア一人で撮れるシーンなので、俺が知らない間に撮影が済んでいた可能性もあるが……

 そんなことを考えている間にタバコを吸い終わって戻ってきたオッサンが向かい側に腰を下ろした。

 表情はより硬くなり、覚悟を決めたようにも見える。

 

「さて。何から話すべきか。カミキがどういう人間だったか、から聞くか?」

 

 ララライの代表としてあの脚本に同意したのだから当然ではあるが、オッサンは俺がカミキの子供だと言うことも知っている。

 その上で実の父親の思い出話でも聞かせようと言う魂胆かもしれないが、俺は黙って首を横に振った。

 

「俺が知りたいのは、黒川が何を知りたがったのか。そしてアイツらが何をする気なのか、それだけだ」

 

 きっぱりとした拒絶にオッサンは小さく頷いた後、酒に手を伸ばし、一口煽ってから語りだした。

 

「黒川が聞いてきたのは、俺から見たカミキがどんな役者だったかだ」

「役者?」

 

 人柄や人間関係ではなく?

 訝しむ俺に金田一さんは頷く。

 

「ああ。俺はアイツらが何をしようとしているかは分からねぇが、どうも過去のカミキについて詳しく調べようとしているみたいだったな」

 

「……どんな役者だったんだ?」

 

「前にお前と星野に言ったことがあるよな? お前らの演技は、欠けている人間の演技。欠けた人間がそれを埋めようと周りを観察したことで、真に迫った異質な演技を可能にしている」

 

「……カミキもそういう役者だったと?」

 

「ああ。だが、それだけじゃねぇ。他の役者とは眼が違った」

 

「め?」

 

 ああ。と頷いたオッサンは黙ってウイスキーを継ぎ足し始めた。

 さっき自分で言ったことはもう忘れたらしい。

 そのまま酒を煽ると続きを語り出す。

 

「この業界に長くいると偶にああいう眼をして奴が現れる。嘘を真実だと思わせる力を持った、人を騙す眼ってやつだ」

 

「ふぅん? 黒川みたいな?」

 

 印象的な眼と聞いてまず思いつくのが演じている時の黒川だ。

 

「あいつは近いな。ただ黒川の場合は演じる時だけ。ようはその資質も含めて真似ている訳だが、カミキの場合は演じる必要もなく常にその眼を持っていた」

 

「常に、となるとアクアの方がそれっぽいか」

 

 黒川と異なり、演じている時でなくてもアクアの眼は人を引きつける。

 加えて俺と同じく欠けた人間特有の異質な演技も加わると(欠けたものが埋まったアクアが今もあの演技が出来るかは不明だが)かなり近くなるのではないだろうか。

 そんな俺の感想を、しかしオッサンは首を横に振って否定した。

 

「あいつはまだまだ青い。どっちかっていうとお前と黒川の良いとこ取りってところだな。お前と黒川が天才なら、あいつはそれをも通り越した鬼才ってやつだ」

「なるほど。そりゃ役者としては無敵だな」

 

 俺は自分の演技に自信を持っているし世間から評価もされている。

 黒川も俺と演じ方は違うが、それでも天才と呼ばれる異質さには関心することが多い。

 その俺たちの良いとこ取りとなれば、当時のカミキの役者としての素質はずば抜けていたと見るべきだろう。

 

「ああ。当時はうちでも屈指の演技派だった」

 

 昔を懐かしむように遠くを見るオッサンに俺は唇を斜めにした。

 

「それに加えて、顔もアクアそっくりだったんなら、母がのめり込んじまう訳だ」

 

 観察眼に裏打ちされた演技力と人を魅了する瞳。そして、ルッキズムの権化とも言える外見。

 一般人もそうだろうが、それ以上に同じ仕事をしている役者だからこそより深く、より強く、愛憎入り交じった感情を抱いてしまうのかもしれない。

 俺の父親の上原清十郎が才気溢れる妻への劣等感から他の女との関係に溺れていったように。

 母親、姫川愛梨が醜い男の欲望に尊厳を踏みにじられた心の傷を癒そうとカミキヒカルとの関係に執着したように。

 そして、俺の母の鬱積の捌け口にされたカミキヒカルが星野アイとの関係に依存したように。

 

「そう、かもしれないな」

 

 オッサンの表情が曇ったのは、俺に対する憐憫によるものか、それとも別の……

 

「ともかく、役者として才能に溢れた奴だったのは分かった。黒川はそれを聞いてなんて?」

 

 余計な思考を振り切って話を戻す。

 

「アイツは特に何も。そうですかってだけだ」

 

「それだけ?」

 

「ああ。だが、そんなことは、わざわざ俺に聞かなくても、劇団の非公開動画を漁って直接見ればわかることだ。それなのにあえて聞いてきたのは、俺の顔を確認するためだろうな」

 

「どういう意味?」

 

「人の本質を知るには伝聞より、相手と直接話すのが一番だ。その相手がもう居ないなら、代わりにそいつと直接話したことのある奴から話を聞く。そうすれば態度や顔色で間接的に相手を知ることができる。情報を集めて足りないところは想像で補って自分の中でキャラを作り上げる訳だ」

 

「黒川らしいやり方だな」

 

「黒川の異質な演技を支える根幹は洞察力だ。そして、より深く情報を得るには最も感情の揺れ幅が大きな者を狙うのが定石。置かれた現状を客観的な視点を持って俯瞰することで自分の中に取り込んで周囲の望む演技を行うお前とは正反対なタイプだな」

 

「カミキがいた頃から在籍してた団員じゃなくオッサンを狙ったのは一番感情が揺さぶれると見抜いたからってこと?」

 

「そうだ。アイツは俺の罪悪感を見抜いている」

 

「罪悪感、ね」

 

 大方、母がカミキに手を出していたことに気づけなかったことに対して、劇団の代表として申し訳なく感じているといったところか。

 そんな俺の心を読んだかのように、金田一さんは首を横に振り、勢いをつけるかのごとく酒を煽り呟いた。

 

「俺はな、本当は気づいてたんだよ。カミキのこと」

 

 

   ★

 

 

「え?」

 

 驚く姫川が何か言う前に続ける。

 

「姫川──いや、お前の母親の方だが。アイツが手を出していたとこまで知っていたわけじゃない。ただ、劇団の中で何かが起こっていて、カミキがその標的になっていたことはうすうす分かっていた」

 

 カミキも入団当初からあの目をしていたわけではない。だが、十歳で入団してから一年も経ち、十一歳に成る頃にはもう暗く沈んだ瞳になっていた。

 

「だったらどうして?」

 

 止めなかったのか。

 そう聞きたいのは当然だ。

 だから俺も用意していた内容を口にする。

 

「星野の時と同じだよ。東京ブレイドの舞台で、最初アイツはつまんねぇ演技をする奴だと思ってた。でも稽古中盤で倒れてから、そして本番でも、舞台を繰り返す度、アイツの演技はどんどん良くなっていった。カミキも同じだった。日増しに演技が良くなっていく。それを見ていたからこそ、俺は何もしなかった」

 

 普通に考えれば、大人として間違っている。

 相手が成人ならまだしも、まだ小学生だったカミキが苦しんでいたのなら、劇団の代表として、何より大人として、話を聞いて対処するべきだった。

 カミキには、星野にとっての黒川のような支えとなってくれる人は居なかったのだから尚のこと。

 

「演出家の性ってやつか」

 

 小さく笑い飛ばしてみせる姫川に、俺は笑いを返すことができなかった。言ってることが何も間違っていないからだ。

 今でこそ実力者揃いの劇団として名を馳せているララライだが、当時は弱小劇団でしかなく所属していた役者も玉石混合。姫川愛梨のように順調に実績を積み重ねて顔と名が売れていく奴らと、上原のように一向に伸びず見向きもされないまま埋もれていく一方の奴らとの間で分断と軋轢が生じてしまっていた。そのまま悪化すれば、やがてララライが空中分解しかねないと危機感を募らせていたからこそ、それ以上大きなトラブルが起きて舞台に影響が出るのは避けたかった。

 俺が大人として当たり前の良心より演出家として、良い舞台を作ることしか考えなかったばかりにカミキの件から目を背けてしまったのだ。

 そして何よりも。

 

「それだけじゃねぇ。アイツが壊れた最後の一押しをしちまったのはきっと俺だ」

「どういうこと?」

 

 疑問を投げかける姫川を前に口籠って俯いてしまう。

 これを言えば姫川は俺を軽蔑するだろう。

 

 なんだかんだ言いながら、両親亡き後面倒を見てきた俺に姫川が感謝していたのは知っている。

 いくら名が知られているとはいえ、全体的に懐事情の厳しい劇団より、テレビや映画の仕事を優先した方が金も名声も入ってくるというのに、姫川はいつもララライの劇を最優先している。

 それも、俺への恩返しのつもりなのかもしれない。

 

 だからこそ、かつての出来事がドラマ化されることになった時から決めていたはすだ。

 コイツの方から話を聞きにくる時が来たら、今度は目を背けずに向き合って全て包み隠さず伝えると。

 改めて覚悟を決めて語り出す。

 

「お前の両親の葬式でカミキに会ってな。上原たちがあんなことになって、その時のあいつの表情を見て初めて俺は、自分が間違っていたことにようやく気づいた。だからつい、慣れねぇことを言っちまった。アイツに、上原たちの分までお前が命を背負っていくんだ、なんてな。そん時の反応で気づいたよ。アイツに手を出していたのがお前の母親で、お前が……」

 

「そっか」

 

 酒を置き、テーブルに手を突いて深く頭を下げる。

 

「すまなかった」

 

 少しの沈黙の後、姫川は鼻を鳴らした。

 

「なんで謝るんだよ。アンタが母を止めてたら俺はここにいないかも知れないんだぜ? まあ、だからと言ってああいう芸能界の闇みたいのを俺は認める気はないから、感謝するとまでは言えないが、オッサンを恨む気持ちは全くないよ」

 

 さらりとした語り口は、嘘や誤魔化しではない。

 だからこそ、辛い。

 姫川の生まれた事情はともかく、まだ取り返しがつくうちに早く俺がカミキに手を差し伸べ、姫川愛梨の暴走も止めて上原との間に立っていたら。

 無理心中なんてことには成らず、コイツにも家族が居たかもしれない。

 

 そのことを理解しつつ、あっさりと流すことが出来る。

 楽しいことにだけ目を向けて、辛い過去は初めからなかったように蓋をして切り離す。

 そういう生き方そのものが、コイツの欠けてしまった部分なのだ。

 つまり、姫川がそうなってしまった原因も元を辿れば俺に行き着くことになる。

 

「一つだけ聞かせてくれ。オッサンが俺の面倒を見て、ララライに入れてくれたのも、罪悪感からなのか?」 

 

 さっきまでの冗談めかしたものとは違う真剣な声に、一瞬言葉に詰まるが、ここまで来たらもう隠し立てする意味がない。

 

「いや。それならララライじゃなくもっと別の仕事を斡旋した。うちに入れたのは、お前に演技の才能があったから、それだけだ。結局のところ俺はあれから何も変わっちゃいねぇ。芝居のことばっかりだ」

 

 再び酒を煽る。

 それなりに値が張るであろうウイスキーだが、味わう余裕もなく、ただ喉を通過していく熱さだけが残った。

 

「だからお前も俺に恩を感じることはねぇぞ」

 

 喉の熱を冷ますように吐き捨てる俺に、姫川は相変わらず澄ました顔のまま肩を竦めた。

 

「いーや。恩は感じるし、報いるさ。確かにオッサンが同情して優しくしてくれていたら、俺の欠けた物は埋まったかもしれない。だけどそれじゃあ俺の才能は消えていた。アンタが俺を見いだしてくれたからこそ、俺は今楽しくやっている」

 

「そうは言うがな」

 

 これも、コイツの欠けてしまった感情故か、ますます罪悪感が強くなる中、姫川は口元を持ち上げて笑った。

 芝居以外では、いつも感情を表に出さないコイツの笑顔を見るのはいつ以来だろうか。

 呆気に取られる俺を無視して姫川は笑顔のまま続けた。

 

「なにより。半分とは言え血の繋がった家族にも会えた。なんならそのうち義理の妹も出来るかも知れねぇ。それも全部、アンタがくれたものだ」

「……バカ野郎が」

 

 やはり俺も、歳を取った。

 溢れる涙を隠すようにグラスを持ち上げ、俺は残っていた酒を一気に飲み干した。

 

 

   ※

 

 

「しかしなんだぁ。もう撮影終わったってのに、今更なんで調べてんだぁ?」

 

 その後。

 カミキの話が済んでからも俺たちは酒を飲み続けていた。

 思い出話や今回の舞台、そして何故か今まではあまり興味を示していなかった、演出側の苦労話なども聞かれたので問われるままに答えていたが、やがて話は途切れ、酔いが回った頭で俺はずっと気になっていたことを聞いた。

 

「それは俺が聞きたい。今更なんでそんなこと調べてんだか」

 

 俺と違って酔いが回った様子もない姫川を不満に思いながら頷く。

 

「なぁ。黒川もお前も。アイツまで次々と──」

「……ちょっと待て」

 

「んー?」

「アイツって誰?」

 

「んあ?」

「黒川と俺と。アイツって?」

 

 妙に真剣な声の意図にも気づかず記憶を辿る。

 黒川の前に、俺にカミキの話を聞きにきた奴のことを。

 

「あれだよ。ほら、あのちょい前まで休養してた──片寄! 片寄ゆら。なんか急に訪ねてきてなぁ。演技の参考にしたいから教えてくれってよ」

 

 姫川愛梨の役をやるとは聞いていたので話をしたが、今になって思うと何故カミキの話を聞きたがったのだろうか。

 

 それに、聞きに来たのはつい先日。

 こいつらが海に行っていた日だ。

 よその撮影のスケジュールまでは詳しく知らないから俺はてっきりまだ撮影が残っていると思っていたが、どうやら黒川が一発オーケーを連続したことで、予定よりずっと早く撮影が終わっていたらしい。

 

「片寄ゆらが?」

 

「ああ。──あれ? あぁ。コレ内緒にしてくれって言われたんだった」

 

 同時に口止めされていたことも思い出したが、まあ仕方ない。

 

「内緒、ね」

 

 難しい顔を続ける姫川に、俺はグラスを押しつけると酒を注いだ。

 

「おら飲め飲め。飲んで忘れろ」

「はいはい。飲みますよ。ったくこのオッサンは本当に」

 

 呆れたような姫川の声は、それでも何となく柔らかく穏やかに聞こえた。

 こんなに楽しい酒は、ずいぶん久しぶりな気がして眠るのが勿体無いくらいだが、心地よさに抗えず、俺の意識は徐々に揺らいでいった。




次はまたアクアとあかねの話に戻る予定
忙しさのピークは超えたので次はもう少し早く投稿できると思います
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