【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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第9話 焼肉屋

 いつの間にか日が落ち、これ以上繁華街周辺に居るのはまずいと、離れることにした俺たちは、そのまま個室がある焼肉屋に移動して作戦会議を開いた。

 別に肉が食いたかったわけではないが、静かな店の場合、個室であっても会話が外に漏れるリスクがある。

 その点焼き肉屋なら、肉を焼く音が防音効果を発揮して、内緒話がしやすいと考えたのだ。

 

「それで。これからどうしようか」

 

 注文した肉が届いて焼き始めてから、相変わらずトングを離さないあかねが話を切り出した。

 

「まずは、俺たちを売れっ子にする必要がある」

 

「俺たちって、私とアクアくん?」

 

「あかねはもう売れてるだろ。俺とルビーだ」

 

「私だってまだまだだけど。ルビーちゃんも?」

 

「というかルビーがメインだな。俺たちの出生について公表するとこから計画が始まる。その時までに売れてないと目立たないし、単なる売名行為だと思われるのがオチだ」

 

 話しながら、一つ伝え損ねていたことを思い出して箸を置き、あかねを正面から見据える。

 これから俺の共犯者として一緒に復讐を手伝って貰う以上、できるだけ秘密は無しにしたい。

 

「あかね。お前に話さないといけないことがある。俺たちの──」

 

 母親についてと続けるより早く、あかねは小さく首を横に振った。

 

「知ってる。アイさんでしょ」

 

「……それも考察の成果か?」

 

 気づかれているとは思っていなかったのだが、あかねが知っていることはすんなり受け入れてしまう。

 公開されている情報だけでアイに隠し子がいることを見抜いたあかねの洞察力なら、今回の事件が起こった直後に俺が復讐を再開させた件と併せて、親子関係に気づいても不思議はない。

 いや、あるいはもっと前から。

 

「うんまあ、そんなところ。でも、世間に公表しちゃって良いの? ルビーちゃんには相談した?」

 

「まだ。アイの名誉に関わることだから、簡単に納得はしてくれないだろうけど、説得する。第一あの人がどこまで知ってるか分からない。裁判の時に話されたら同じことだ」

 

「そっか。それが動機の可能性もあるんだ。それなら確かに」

 

「ミヤコさん──事務所の社長も知っている前提で準備を始めている。まぁこっちから公表するんじゃなくて、相手から暴露された時どう対応するかに苦心してるみたいだ。俺たちに好奇の目がいかないようにってな」

 

「アクアくんとルビーちゃんのこと、本当に大切にしてるんだね」

 

「ああ。いつも面倒かけてばっかりだ。だからこそ、ちゃんとケジメを付けないとな」

 

「ケジメ?」

 

「いや、こっちのこと。それが上手くいったらの話になるんだけど、あかねに力を貸して貰うことになる。良いか?」

 

「もちろん! いくらでも頼ってよ。あ、このお肉そろそろ良い感じだよ。食べて食べて」

 

 にこにこと嬉しそうに笑いながら、網上の肉を俺の皿に置いていく。

 

「つーか、あかねこそちゃんと食べてるのか? さっきから焼いてばっかりじゃねーか。目上の人が居る場ならともかく、二人の時くらい気使うなよ」

 

 出会った当初、今ガチのメンバーと共に食べに行った焼き肉の席で、精進中なので。と言ってトングを離さず、肉を焼き続けていたことを思い出す。

 その後、東京ブレイドの公演中、連日飲みに行った席でも店探しや予約を率先して行っていたので、単純に人の世話を焼くのが好きなのかもしれない。

 とはいえ、二人で食事をしている中、世話を焼かれ続けるのは正直気まずい。

 そうした思いから出た言葉だったが、あかねはさりげなくトングを自分の手元に引き寄せると首を横に振った。

 

「大丈夫。私こういうの好きだから」

 

「いや、でも」

 

「良いから」

 

 思いの他強い拒絶に驚く。

 もしかすると役作りか、あるいはダイエットか何かで節制でもしていたのだろうか。

 だとすると焼き肉を選んだのは失敗だったかもしれない。

 そんな俺の心情を読んだらしく、あかねはハッとしたあと、気まずそうに視線を動かしていたが、無言の圧に観念したように口を開いた。

 

「だってアクアくん。お肉焼くの下手なんだもん!」

 

「は?」

 

 思いもよらなかった言葉に絶句していると、意を決したように話し出す。

 

「焼けてればいいどころか、焦がしても気にせず食べちゃうし、置き方も雑。あれじゃあ折角のお肉が台無しだよ」

 

「……お前、精進の為とか言っといて。単なる焼き肉奉行じゃねーか」

 

「やめて。そういう風に思われるのが嫌だから黙ってたの。それなのにもう! 私はアクアくんにおいしいお肉を食べて欲しいの。だから黙って食べて。自分の分もちゃんと焼くから」

 

 照れ隠しだろう。

 顔を真っ赤にしながら頬を膨らませて怒る様に思わず笑ってしまう。

 

「うぅ」

 

 恥ずかしさから俯くあかねを余所に、俺は使われずに置かれていたもう一つのトングに手を伸ばした。

 

「なら、焼き方を俺に教えてくれよ」

 

「え?」

 

「俺たちは対等なんだろ? だったらあかねにだけ負担を負わせるのは不公平だ」

 

「それは──」

 

 言葉を詰まらせる。

 もう少しだな。

 

「それに。俺だってお前に美味いもの食べて欲しいからな。頼むよ」

「アクアくん。……うん、分かった。私たちは対等だもんね」

 

 ようやくあかねがトングを手放した。

 やはりあかねには対等や頼むといったワードがよく効くようだ。

 ここのところあかねには負けっぱなしだったので、少し胸がすいた気分だ。

 しかし、俺がこの判断を後悔するまでそう時間はかからなかった。

 

「先ず一番気をつけないといけないのは網の状態。網でも真ん中と端っこでは温度が違うでしょう? それに、同じ場所でお肉を焼き続けても温度が下がっちゃう。だから常に網の状態を確認しておくの。もちろん網が汚れてたら交換して、交換後も温まるまではお肉は乗せない。次にお肉の状態だけど、これはそれぞれ特徴があって──」

 

 堰を切ったように語り出す焼き方の蘊蓄と厳しい指導に辟易し、その後の肉はとても味わうどころではなくなってしまったのだから。

 

 

   ☆

 

 

 事務所入り口の鍵が開く音がして、それまで進めていた仕事の手を止めて立ち上がった。

 私の言いつけを破った上、こんな時間に帰ってきた不良息子を出迎えるために。

 

「遅かったわね」

 

 扉を空けた瞬間、アクアは驚いたようにのけ反った。

 私が事務所に残っているのは外に漏れる光で分かっていたから、自宅ではなくこちらから入ってきたはずだが、扉前で待っているとは思っていなかったのだろう。

 同時にアクアの体から立ち上る煙と肉の匂いが届く。

 

「人の言いつけを破って食べてくる焼き肉は美味しかったかしら?」

 

 ずっと待っていたことと、心配していたルビーのことを思っての苛立ちがつい口から出てしまうが、アクアは何故か目を丸くした後、小さく笑った。

 

「今更だけどさ。ミヤコさんとルビーって性格似てるよな」

 

「どこが。私はあの娘ほど脳天気じゃありません。まったく、ルビーにも明日ちゃんと謝りなさいよ。貴方のことずっと待ってたんだから」

 

「分かってるよ」

 

 ぶっきらぼうに言って、気まずそうに顔を逸らす。

 

「それで?」

「ん?」

「結局こんな時間まで、誰と会ってたの?」

 

 誰の部分を強調すると、アクアは気まずそうだった顔をますます歪めた。

 

「黙秘権は」

「認めません」

 

 ここまで頑なな態度を取るのなら、相手は異性だろう。

 交流関係の狭いアクアなら相手もある程度絞り込める。

 メムさんか有馬さん、あるいは。

 

「あかねだよ」

 

「ああ、黒川さん……。大丈夫だった?」

 

「何が?」

 

「何がって、あの子もルビーと一緒に遺体見つけたでしょう? ルビーのことで手一杯だったし、その後は今回の事件でしょ。ちゃんとフォロー出来なかったから心配してたのよ」

 

 口ではそう言うが、実のところ今の今まで忘れていた。

 ここ最近、私に掛かっている仕事量は自分のキャパシティを遙かに越えているため、そちらにまで手が回らなかったと言うべきだろうか。

 他事務所の、それも未成年を預かった立場としてどうかと思うが、アクアのことだ。

 そのあたりに気づいて、代わりにフォローしてくれたのかと思ったのだが。

 

「ああ。特に確認はしてないけど、そっちは大丈夫じゃないか。気にしている様子はなかったし」

 

「あのねぇ。白骨とはいえ人の遺体を見つけるっていうのは普通にショックなことよ。ルビーだって。……まあ、あの子の場合はアイのこともあるから少し違うかもしれないけど。それにしたって」

 

「分かったよ。これから注意してみておく……」

 

 若干面倒くさそうに話を打ち切ったアクアは、一度言葉を切ってから間を空けた。何か話があるのだろうと私も思考を切り替える。

 

「どうしたの?」

 

「俺は一応苺プロ所属の役者でもあるから、ミヤコさんには話しておく。あかねと正式に付き合うことにした」

 

「……」

 

 一瞬、言葉を失った。

 直後頭に浮かんだのは、二人の人物。

 一人は明らかにアクアに好意を持っていた有馬かな。

 そして、もう一人はルビーだ。

 

 元から距離の近い双子だったが例の事件後、缶詰にしていたホテルへ説明に出向いた時に目撃した膝枕から始まり、それ以降もルビーはアクアにべったりになったままだ。

 先ほどまでアクアをずっと待っていた時もなにやら物騒な文句を並べている様は、兄妹というよりはそれこそ有馬さんのような態度、つまり女として嫉妬しているように見えた。

 そんなルビーの態度を心配していたので、アクアが黒川あかねと正式に付き合うことになったのは喜ばしいことだ。

 それなのに私は一瞬、二人のモチベーションが下がって、仕事に支障をきたさないか心配してしまった。

 

(なにが親代わりだか)

 

 自分に腹が立つ。

 一度目を伏せ、開くと同時に思考を切り替える。

 そうだ。

 昔から大人びて、斜に構えてばかりだったあのアクアが、人を好きになり恋人を作ったのだ。

 普通の親なら、こんな時は喜ぶものだ。

 

「そう。おめでとうアクア」

 

 せめて、精一杯の笑顔で祝福しよう。

 

「ああ」

 

「なら、今日はもう仕事は終わりにして、晩酌にしましょう。貴方も付き合いなさい。いろいろ話聞かせて貰うわよ。あ、もちろん貴方はジュースね」

 

 仕事は溜まっているのだが、今は後回しだ。

 

「その前に。もう一つ、話がある」

 

「何よ改まって」

 

 先ほどよりさらに深刻な声に眉を顰め、自宅に戻りかけた足を止める。

 ひと呼吸おいた後、アクアは一気に言い放った。

 

「苺プロの元社長、斉藤壱護。あの人がいまどこで何をしているのか、教えてくれ」

 

 随分と久しぶりに聞いた夫の名前に、私は先ほどとは違った意味で動きを止めてアクアを見つめた。

 なにかを我慢するように唇を強く結び、訴えかけてくる瞳はかつての。アイを亡くした頃と重なって見えた。




あかねに焼肉奉行なんて設定はなかったと思いますけど、彼女は焼肉に限らず拘りが強い凝り性タイプ。と勝手に思っています
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