【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~ 作:日ノ川
「……つまり今のは酔っ払いのたわ言じゃなく本気で信じても大丈夫だと?」
片寄ゆらからの突然の電話が一方的に切れた後、掛けなおす前に待ったが掛かり、説明を聞いた俺が改めて確認するとあかねは自信ありげに頷いた。
「私はそう思う。酔ってたのも多分演技じゃないかな?」
日ごろからミヤコさんやカントク(最近は壱護さんもだが)といった酔っ払い共の面倒を見る機会の多い俺にも本当に酔っていたようにしか聞こえなかったが、そう言われてから思い出してみると後半は結構はきはき話していた気もする。
そもそもそういう日常生活に溶け込む自然な演技は彼女の得意分野だ。
演技だったとしても不思議はないが、果たして言っている内容まで完全に信じていいものか。
(俺の知らない間に、心変わりが起こるような何かがあったのか?)
そんなことを考えていると再び、スマホが音を発する。今度は着信ではなく、ラインのメッセージの起動音だ。
「……ハッ」
起動した先で添付されていた写真を見て、俺は思わず笑ってしまった。
「アクアくん?」
「どうやら信じて良いみたいだ」
驚くあかねにスマホを見せる。
そこに写っていたのはバーらしき暗い店内で並んで酒を飲んでいる男女の姿。
片寄ゆらと、もう一人。
「姫川さん?!」
目を丸くするあかねの横で、俺は小さく息を吐いた。
どうして片寄ゆらと一緒にいるのか、何をしたのかは分からないが、確かなのは、彼女の急な心変わりに姫川の介入が関係しているということ。
加えて、俺と違ってカミキヒカルに対して憎悪を抱いている訳ではない姫川が、片寄を説得した理由は一つしか思いつかない。
「あのお節介」
「……うん」
俺の呟きを聞いて、あかねも姫川が俺のために動いたことを理解したのだろう、良かったね。と言うようにそっと俺の手を握ろうとしたが、その手より先に、俺の方からあかねの手を握り返した。
「え?」
驚くあかねの手を痛みを感じない程度に、けれど逃げられないようにしっかり握りしめながら、俺はスマホを放り投げてあかねに詰め寄った。
「さて」
「な、なに?」
「これでもう、片寄ゆらの方は心配なくなった訳だし、話の続きをしようか?」
「続き? ……あ」
「グレーなやり方って何やる気だ?」
これで完全にニノへ注力できるようになったのだから、何か危ないやり方をしようとしているのなら止めさせるか、最低でも俺も一緒にやると伝えるとあかねは目を泳がせた。
「えーっと、もう遅いし続きは明日ってことで」
これだけ言っても誤魔化そうとするのならやはり、グレーどころではない危険な方法なのだろう。
「ダメだ。俺が言えた義理じゃないが、あかねはあかねで、一人で抱え込もうとする節があるからな」
強い口調で言い切ると、あかねは降参とばかりに小さく肩を竦めた。
「本当に危ないやり方じゃないよ? 最悪何かあったとしても私がお父さんから怒られるだけで済むと思うし」
「お父さん?」
あかねの父親は出張族らしく、普段の会話での登場頻度は母親ほど多くはないがそれでも何の仕事をしているのかくらいは聞いている。
とはいえ最初に聞いたときはかなり驚いた。
あかねの父親は警察官、それもいわゆるキャリア組と呼ばれる警察官僚のかなり上の方にいる人物らしい。
そんな大物の父親がいるのにも関わらず俺が人を殺すために芸能界に入ったと暴露した時、一緒に殺してあげる。と言ったのかと思うと驚いたというか、若干引いたくらいだ。
しかし、あかねは規範意識こそ高いものの、それ以上に大事な基準が自分の中にあり、そのためなら良い意味でも悪い意味でも常識や法律すら無視してでも目的を達成しようとするきらいがある。
そんな彼女だからこそ何をする気か確認したのだが……このやり方は正直予想外だった。
つまりあかねは父親に頼んで、警察の力で調べて貰うつもりなのか。
あかねの父親がそうしたやり方を容認するタイプだとしても、公私混同が激しい気もするが。
いや、怒られるということは──
「まさか、父親のパソコンとかに入ってる捜査資料盗み見するとかそういうことじゃないだろうな?」
いくら家族とは言え、それはグレーどころか完全に犯罪だ。
そもそもあかねの父親が官僚だというのなら、ニノの事件捜査そのものに関わっているとは思えない。
「まさか。流石にそんなことはしないよ。っていうか、お父さん基本的に家に仕事持ち込むのを嫌うタイプだから捜査資料とか持ち帰ることもないし」
案の定、あかねはさらりと否定する。
刑事ドラマなどではたまに見るシーンだが、やはり物語と現実は違うらしい。
「じゃあどうする気だ?」
「直接の捜査はしないけど、お父さんはプロファイリング──私のもどきとは違う本物の奴ね。それが得意なんだ」
そう言うあかねの顔はどこか誇らしげだ。
個人的にあかねのプロファイリングはプロ顔負けどころか、それ以上と言っても良いレベルだと思っている。
そんな彼女が得意だというのだから、本職である父親に至っては相当なものなのだろう。
「出世してからは直接現場に足を運ぶことは殆ど無くなっちゃったから、その腕が鈍らないようにする為だと思うけど、今でも難しい事件とか個人的に調べていることが多いんだ。その場合はあくまで個人的な調査だから、自宅に資料を持ち帰っているはず」
「それを盗み見ようって?」
「そう。正式な捜査資料じゃないなら犯罪とは言えないでしょ?」
「つっても、捜査資料を基にした調査なら、似たようなものじゃ──」
未だ追求しようとする俺を黙らせるように、あかねは唇を尖らせて指を伸ばした。
「それを含めてグレーってこと。……とにかく! お父さんは私と同じように、たくさん情報を集めて人物像を構築するやり方を採るから、今回の事件を調べるとしたら、間違いなく被害者であるカミキヒカルとニノの関係も調査してるよ」
言い切られて、少し考える。
俺自身はともかく、あかねに犯罪紛いのことをさせるのは気が引けるが、今から頼むのではなく既に調査が済んでいる情報があるというのなら、正直ありがたい。
所詮一般人でしかない俺が、何年も前の人間関係の調査なんてそれこそ当時の人間から無理やり聞き出しでもしない限りできっこない。
仮にできても、どれだけ時間が掛かるか。
そもそもあかねの休みももう残っておらず、俺だってこれからは編集作業に入るため、調査の時間を捻出するのは難しくなる。
そう考えると、それら全てをショートカット出来る方法があるなら使わない手はない。
「ちなみに調べてるっていうのは、確実なのか?」
事件としては既に犯人が捕まって警察の仕事は終わっている。
詳しい動機を含め全て黙秘しているという問題はあるが、それはどちらかといえば、検察の領分ではないだろうか。
俺の疑問を聞いて、あかねは少し困ったように眉を寄せてから頷いた。
「私が直接聞いたり頼んだ訳じゃないんだけど、ね」
「じゃあどうして?」
家族にしか分からない性格からの推察、ようはあかねによる父親へのプロファイリングの成果ということだろうか。
追求する俺に、あかねは悲しげな伏せ目のまま口を開く。
「ここ一年くらいかな。お父さんもお母さんも私に対して凄く過保護になったんだ」
「一年。……ああ」
正確には一年と少し前。
まだ今ガチの撮影をしていた頃、番組の悪意ある切り抜きと演出によって炎上し、追いつめられたあかねが、自殺未遂をしたあの事件。
警察署にやってきた彼女の母親は自分たちに悩んでいることを相談しなかったこと、何より、それほど追いつめられたあかねの様子に気づけなかったことを随分悔いていた。
それがあって、今度はどんな些細な変化も見逃さないようにした結果、過保護に繋がったとしても不思議はない。
「だから私が、この事件に興味を持って調べようとしているって少し匂わせたらお父さんは絶対先に調べるはず。お父さんたちの優しさを利用しているみたいで、本当に申し訳ないんだけど。でも、何でもするって決めたのは私だから」
炎上の際はそれこそ両親に心配かけたく無いからとギリギリまで我慢していたあかねが、自分から両親の気遣いを利用している。
「……いや、そうさせたのは俺だ」
「アクアくん。私にまた同じこと言わせるつもり?」
顔を上げたあかねの表情が厳しいものに変わる。
流石にこう何度も同じことを言われていたら、何を言いたいのか分かる。
自分一人で抱え込むなということだろう。
「分かっている。だからこれは、二人の責任ってことにしよう。俺も一緒に見させてくれ」
俺の提案にあかねは眉間の皺を解いて、小さく微笑んだ。
「ん。分かった。ちょっと待ってて、多分書斎にあると思うから探してくる」
それだけ言って部屋を出ていくあかねの足取りはどことなく嬉しそうだ。
家族内不和を起こしかねないことをさせるのはまだ抵抗があるが、他に方法はない。
いざとなったら俺が両親に直接説明して謝罪しよう。
そんな風に覚悟を決め、大きく息を吐いた。
★
リビングに置かれていたスペアキーを握りしめ、私はお父さんの書斎の前に立った。
鍵を回すと、カチャリと思ったより大きな音が鳴り、少しだけ心臓の鼓動が早くなる。
お父さんの書斎に入るのはずいぶん久しぶりだ。
と言っても、勝手に入るなと言われていたのではなく、思春期に入ったあたりから自然と立ち入らなくなっただけなのだが。
もちろん、一切近づかなかった訳ではなく、本を借りに行ったり、食事の時間になってもリビングに来ないから呼びに行ったりなどした時に、チラリと室内を見ることはあった。
ただ、こうやって許可もなく勝手に入るのは、やはり後ろめたさがある。
心の中でお父さんに謝ってから、もう一度深呼吸をして扉を開き、書斎の中へと足を踏み入れた。
室内は特に変わった様子はなく、何度か扉の外から見た時のまま。
一番最初に目に付くのは、壁全体を埋め尽くすように立て付けられた背の高い本棚。
そこには、様々な種類の本がぎっちりと詰め込まれている。
それとは別にお父さんの趣味であるカメラがズラリと並んだショーケースもある。
中央には来客用のソファとローテーブル。
その奥には重厚なデザインの木製机が鎮座していた。
全体的に綺麗に整頓されているので、探し物をするのは難しくなさそうだ。
そんな風に考えながら奥の机に目をやる。
書き物をする際はおそらくあの机を使うはず。
そうなると、机の引き出し辺りが怪しい。
でも、引き出しに鍵が掛かっていたらどうしよう。
リビングには書斎の鍵しか置いてなかったが、アクアくんの言うようにお父さんのプロファイリングが捜査資料を基にしたものなら、それだけは家族にも見られないように、厳重に管理している可能性はある。
そんな私の心配はしかし、全く無意味なものとなった。
「あ」
机の中央に一冊のノートが置かれていたからだ。
ノートの真ん中に書かれたタイトルと、張り付けられた付箋の文字を見て、私は驚きと共に破顔した。
タイトルは、新野冬子及び神木輝に関する私的調査書。
そして張り付けられた付箋に書かれていたのは、若い二人へ。というエールの言葉。
「やっぱりお父さんには敵わないなぁ」
ずっと昔からそうだった。
私の隠し事をお父さんはいつも簡単に見抜いていた。私のプロファイリングもお父さんの腕前と比べればまだまだ付け焼刃の域だ。
「今日私がアクアくんを呼んだのもお見通しかー」
今日は土曜日。
出張族のお父さんだけど、子供の頃から週末は何が何でも帰宅して家族団らんを過ごそうとしているのに珍しいとは思っていた。
もっとも、昇進した辺りからは仕事も忙しくなったのか、週末でも帰ってこないことも増えたのだが、ここ一年は再び帰ってくるようになった。
それも例の今ガチで炎上した時、ちょうど仕事が多忙で顔を合わすことが出来ず、私の悩みに気づけなかったことを後悔しているからかもしれない。
そんなお父さんが帰ってこないだけでなく、お母さんも自分の所に呼んだ時点で違和感があったが、こういうことだったのか。
私を信じてくれた両親に向かって頭を下げてから、私はノートを手に取り、アクアくんの下へと戻った。
「流石はあかねの父親だな」
私の部屋に戻った後、ノートが置いてあった場所と付箋のことを話すと、アクアくんは苦笑しながら軽口を利いたが、どこか緊張しているみたいだ。
無理もない。
片寄さんの問題が解決したことで、残る問題は新野冬子の説得だけ。
逆に言えば、それさえ解決してしまえば、アクアくんは子供の頃からずっと抱いていた罪悪感から解放されることになる。
そうすればきっと、前に進むことが出来る。
この中に記されている情報次第で、今日がアクアくんのターニングポイントになるかも知れないのだから。
そっと隣に移動する。
一緒にノートを見るためというより緊張しているアクアくんに寄り添うために。
「よし」
そうした私の気持ちが通じたのかどうか、アクアくんは覚悟を決めるように息を吐くと、分厚くなっているノートを捲った。
手に取った時から分かっていたが、これはノートというより、メモを張り付けるための台紙に近い。
私がよくやる手書きでメモを取り、それを次々貼りながら考察するやり方はお父さんから教わったものだが、部屋の壁に貼り付ける代わりにノートに張って整理しているらしい。
そのため、私的調査とは名ばかりで内容はほぼ全て断片的な情報が書かれたメモや写真が貼り付けられているだけで、お父さん個人の見解はほとんどなかった。
それが逆に情報だけ渡すので後は二人で考えるようにと言われているみたいだ。
ただ一つ気がかりなのは、メモの中心にいるのが、犯人である新野冬子ではなく、被害者のはずのカミキヒカルということ。
いったいどういうことなのかと私が考えている間にも、アクアくんは次々ページを捲る。
その表情は先ほどまでと全く別種の緊張感に満ちていた。
それは私も同じ。
「これ。どういうこと?」
「……」
私の呟きに応えることなく、情報を読み込んでいくアクアくんの視線がある一点で制止した。
視線の先にある写真と名前に、私もまた息を呑む。
「この人」
初めて見る。いや、ある意味で姿を見たことはある。
ただしそれは生前の姿ではない。
「ああ。雨宮吾郎だ」
宮崎で私とルビーちゃんが見つけた白骨遺体。
かつてルビーちゃんが初恋相手と認識していたアイの主治医である医師の名前だ。
★
驚くあかねを余所に、俺はノートに張り付けられた写真を見ながら、自然と眼を細めていた。
行方不明だった雨宮吾郎の遺体が見つかった件は、宮崎の地方新聞辺りに載っていた可能性もあるが、直後カミキの事件が起こってトンボ帰りした上、その後も忙しくてそちらの方は調べていなかったので直接顔を見たのはずいぶん久しぶりだ。
「行方不明になった日、菅野良介は病院に来ていた。つまりこの人を殺したのも菅野だってことなのかな?」
菅野が関わっていると知って驚いているあかねを見て、一瞬不思議に思ったが直ぐに気づく。
(そうか。あかねは知らないんだよな)
アイの出産当日、病院に現れた菅野を追いかけている内に、突然後ろから突き飛ばされて崖下に転がり落ちたのが前世の俺の死因。
あかねはいつも俺の思考を先回りしていることが多いので勘違いしていたが、そもそも宮崎に菅野が来ていたことを知っているのは俺だけだ。
とそこまで考えたところで、頭に電流が走ったかのごとく、ある事実に気づいた。
次のページを開くと案の定、そこには以前ツクヨミが言っていたように宮崎の病院にカミキらしい中学生の姿もあったという看護師の発言がメモしてある。
「カミキも宮崎にいた。つまり菅野良介にアイさんの病院を教えたのも彼……え?」
あかねもまた俺と同じ気づきを得たらしくこちらを見る。
「そうだ。菅野良介は宮崎と東京で、二度アイを襲った」
「ちょっと待って。それじゃあどうしてカミキは──」
「アイに忠告しなかったのか」
あかねの言葉を引き継いで言う。
そう。
今まで俺たちが調べていた情報通りなら、カミキは周囲の大人たちに壊された哀れな被害者だったはず。
あの事件もアイの真意を見抜けないまま、彼女に振られたことにショックを受けて、つい菅野の心情を見誤る形で焚き付けてしまったことで起こった、いわば突発的な事故に近いものだと思っていたからこそ、カミキを許すことも視野に入れるつもりだった。
一度だけなら、その可能性もある。
ちょっと怖がらせるつもりでけしかけた菅野が想定を超える形で暴走してアイを殺してしまったことでそれを招いた自分を責めるあまり、本当のことを言えないまま罪の意識を抱いて今まで過ごしてきたのでは無いかと。
だが、宮崎の事件もカミキが教えたのだとすれば、辻褄が合わなくなる。
突発的にやってしまっただけなら、その後アイ本人か、あるいは匿名で事務所にでも一言菅野のことを忠告すればいいのだから。
だがアイからも壱護さんからもそんな話は一度も聞いていない。
つまり──
「カミキヒカルは可哀想な被害者なんかじゃなく、自分の意志でアイを殺すように仕向けた教唆犯。そしてそれは……」
話しながらページをめくる。
そこにも見知った顔が張り付けられていた。
「ニノも同じだった」
ニノもまた、宮崎に同行していた。
看護師の目撃証言にニノが出てこないのは当時既にB小町として名前が売れ始めていたから、男と一緒にいるところを見られるわけには行かず別行動でもしていたのか、それともリョースケと一緒にいた男子中学生が変装したニノの姿だったのか。
どちらであっても関係ない。
重要なのは、カミキとニノと菅野がアイが殺されるずっと前から知り合いで、なおかつアイに殺意を抱いていたということ。
元々はニノが殺人を犯したのは、さながら信者のようにアイを盲信していた故の敵討ちだと思っていたため、説得方法もそれに合わせたものを考えていた。
つまりドラマでアイの本質を描くのではなく、よりアイドルとして際だたせることで、ニノが望んだ本当の意味での偶像として完成させる。
そうなってから俺たちの存在を公表してしまうとせっかく完璧なアイドルとなったアイを自ら貶めることになってしまうため、信者であるニノは手出しできなくなる。
それが最初の計画だったからこそ、ドラマではあれだけ時間を掛けて完璧なアイドルとしてアイを撮ろうとしたのだが、ニノが本当にアイに殺意を抱いていたのなら、このやり方は効果がないどころか逆効果になりかねない。
他の説得方法を考えるしかないが、あかねの父親のノートにもこれ以上説得材料になるものは無さそうだ。
ならば。
「……後は、ニノに直接ぶつかるしかないか」
「直接って、会えるの?」
ニノは接見禁止となっているが、元々ドラマを使って説得しようと思っていたため、会う方法は考えてあるしその算段も済んでいる。
ただ、何のカードも持たないまま会いに行っても意味がないから動かなかっただけだ。
「ああ。一回で説得できるかは分からないが、どっちにしても本人が今なにを考えているのか分からないことには始まらないからな」
答え合わせをしようにも、まずはニノの情報を集めるのが先決。
最初は宮崎のことを知らない振りをして接触し情報を集める。
それを元に結論を出してからツクヨミに会って答え合わせをして、当時の二人の気持ちを完璧に理解してから改めて説得に入ればいい。
「そっか。じゃあそれ、預けておくね」
俺が持ったままのノートを指さす。
「いいのか?」
父親の私物というのもそうだが、中には捜査情報から得た物も入っているはず。
家族であるあかねでも黒に近いグレーだというのに、それを俺に渡してはあかねはもちろん彼女の父親にも迷惑が掛かるのではないか。
そう思っての問いに、あかねは苦笑する。
「私たちが見ることを前提にしているのなら、本当にマズいのは抜いてあるよ」
「それもそうか。分かった、ありがとう」
「うん」
ノートを受け取ってから、俺はあかねの顔をじっと見つめる。
「……あかね。明日はまだ休みだよな?」
「え? うん。明日で最後だけど」
突然話が変わったことに驚くあかねを余所に俺は自分のスマホを取り出しスケジュールを確認する。
俺のではなく、苺プロ全体のスケジュール。もっと言えばルビーとミヤコさんが明日何をしているかの確認だ。
「よし」
明日はいつも皆で食事する決まりの日曜日なので大丈夫だろうとは思っていたが案の定、二人とも夕方以降の予定は空いていた。
「あかね。今日のお礼って訳じゃないんだが、明日俺の家に招待したいんだけど」
本当は全てが終わってからにするつもりだったが、ここ最近俺があかねと会っていることに気づいているミヤコさんからぶつぶつ言われ続けるのも正直疲れた。
もう調査も必要なく、今後あかねの休みがいつになるかも分からないのだから、良い機会だ。
「え?! え!? そ、それって」
何故か顔を真っ赤にして慌て出す。
この話はまだしていないはずだが、ルビー辺りから聞いているのかもしれない。
それでも告げることに僅かな緊張を感じつつ、俺はあかねをまっすぐ見つめた。
「ああ。ルビーと母さんに、あかねのこと改めて恋人として紹介させて欲しい」
ニノとカミキの調査も二人にやってもらおうかと思いましたが、最終章が思ったより長くなりそうなので飛ばせるところは飛ばすことにしました
どのみちしっかり調べたところでニノの動機以外は原作ですでに判明していることが分かるだけですし……