【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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前回触れていたニノに会うために必要な準備の話
一応調べてから書いていますが、法律には詳しくないので間違っていたらすみません


第91話 準備

 その日も15年の嘘の番宣に繋がる仕事を取るための接待でしこたま酒を飲んだ後、腹に酒以外のものを入れようと行きつけのバー、さみだれに着いて早々、突然アクアから店の外に出るように連絡が入った。

 この間みたいに店に入ってくればいいものを。と思いつつ、マスターに一声掛けてから外に出ると、店が入っている雑居ビルの傍らでアクアは周りから身を隠すように俺を待っていた。

 

「おう」

「ああ……なんか疲れてる?」

 

 俺の顔を見て早々、眉を顰めてアクアが言う。

 

「ま、俺も歳だからな。連日接待ばっかじゃ体もたねーよ」

 

 やれやれと首を回して疲れを訴える俺に、アクアは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

「そんな若作りしているから、相手に大丈夫だと思われて昔と同じように飲まされるんじゃねーの?」

「分かってるよ。だからそのうちイメチェンするつもりだけど、今はまだ無理だろ」

 

 ミヤコからも、いい加減歳相応の格好をしろと言われている。

 苺プロに戻った後のことを考えると目立つ格好をし続けてアイツらに迷惑を掛ける訳にも行かないので異論はないが、少なくともドラマが放送するまでは炎上し続けなくてはならないので、この格好のまま生活する必要がある。

 

「だったらせめてそれ以外の食事はちゃんとしたもの食えよ。体壊したら元も子もないんだから」

 

「だから。今食うところだったんだよ! それなのにお前が呼び出すから。こんな近くまで来たんだったら店に入ってくれば良いだろうが」

 

 折角の食事をお預けされた怒りもあって、感情のまま言い放つが、アクアは気にした様子もなく、周囲に目を配らせ、周りに誰もいないことを確認した。

 

「それは悪かったな。けど、人前では話しづらいことなんだ。またマスターに外に出てもらうのも悪いし」

「……なんだよ?」

 

 真剣な話らしいと、こちらも頭を切り替えて聞く姿勢を取ると、アクアは更に声を顰める。

 

「出来るだけ早く、裁判が始まる前にニノに会いたい」

 

「ニノに? つってもアイツは誰とも会えねぇんだろ?」

 

 事件から既に一年以上経ち、世間では忘れ去られつつあるが、それでも俺が炎上する度に連鎖的にアイのことや、ニノの事件も掘り起こされるため、最低限の情報は更新されている。

 もっともニノの方は未だ黙秘を続けている上、接見禁止も解けていないため、直ぐに話題も消えてしまうのだが。

 

「それについては調べてある。接見禁止になっても弁護士なら会うことはできる。そして、裁判所に接見禁止の解除を求める準抗告って奴もできるらしい」

 

 つまり弁護士から手を回して接見禁止を解かせて会いに行くということか。

 

「そんな簡単に出来るのか?」

 

「そもそも黙秘しているとはいえ、事件自体は本人がやったことを認めてて、共犯もいない今回みたいなケースで接見禁止がこんなに長くなる方が珍しい。つまり解除されて無いのは、まだ何か調べることがあるか、あるいは──」

 

「あるいは?」

 

 勿体つけるな。と食い気味に聞くとアクアは肩を竦めた。

 

「弁護士にやる気がないか。おそらくこっちが本命だと思う」

 

「あー、国選弁護人だからか?」

 

 ニノが完全黙秘で裁判まで行くつもりなら、わざわざ金の掛かる私選弁護人ではなく、国が決める国選弁護人が付いている可能性が高い。

 そして国選の場合は当たり外れも多く、その場合は面倒ごと、今回で言うとアクアの言っていた謁見禁止の解除などの手続きを取らないことも考えられる。

 

「国選だから全員やる気ないなんてことはないと思うが、今回の場合はそうとしか考えられない」

 

「つまり、その弁護士を説得するってことか? でも、アイツに付いてる弁護士なんてどうやって調べるんだよ」

 

「流石に身内なら知ってるはずだ」

 

「身内──ああ、なるほど」

 

 ようやくアクアが俺に頼みたいことが何か分かった。

 

「ニノの親の連絡先は知ってるよな?」

 

「もちろん。当時のアイツはまだ中学生だったからな。保護者の同意を得るために何度も会っているし、連絡先も自宅も知ってる。おそらく変わってないはずだ」

 

 事件発覚当初、何かのニュースでニノの実家にマスコミが押し掛けているところを見たが、昔挨拶に行った時と同じ家だったのを記憶している。

 

「なら頼む。弁護士の方は説得するっていうより刑事事件に強い私選弁護士に変えたほうがいいと思う。もう俺の方で探してあるから、ニノの親に許可を貰ってくれ。弁護士の依頼金をこっちが持つと言えば応じてくれるはずだ」

 

 相変わらず抜け目ないというか、ガキらしくない頭の回りようだが、本人はともかく親からすれば、娘が黙秘を続けている状況にはやきもきしているだろうし、弁護士を変えて面会出来るようになったり、罪が軽くなるのなら喜んで協力してくれるだろうから異論はない。

 とはいえ、後半に関しては頷けない。

 

「……分かった。ただ、その弁護士の費用は俺に持たせろよ?」

 

「壱護さん。でもアンタこれから──」

「分かってる。もちろんカミキの遺族やら会社から訴えられた時の慰謝料も俺が払う。それが、アイに対して何もできなかった俺に出来る唯一の贖罪だ」

 

 アクアの言葉を遮るように手を伸ばす。

 こいつからすれば自ら責任を負うつもりだったことを俺に任せてしまったのだから、それ以外のことは自分が。と考えての費用負担なのだろうが、そもそもとして元祖B小町のいざこざは元を辿れば全て俺の判断ミスに行き着く。

 

「ニノに対しても同じ気持ちだ。元祖B小町に関しては、俺が責任を取らねぇとな」

 

 そうだ。

 アイツがアイに抱いている感情にもっと早く気づけていたら。

 それが無理だったとしてもせめてニノと菅野良介の関係に気づいた時点で釘を刺していたら。

 そうしたら、あんな事件は起こらず、ニノとアイの関係だってもっとマシなものになっていたかもしれない。

 

 アイドルとしてのアイの才能と輝きに目が眩み、自分の夢を叶えることしか考えてこなかった俺の責任だ。

 金だけでその償いが出来るとは思っていないが、他に方法がないのも事実だ。

 

「……分かった。壱護さんに任せる。ただ、会いに行ってニノを説得する役は俺に任せてくれ」

 

「考えがあんだな?」

 

「ああ。多分これは、俺にしかできない」

 

 当時、俺とミヤコの息子と嘯いて楽屋に出入りしていたとはいえ、ニノとアクアはろくに話したこともないはず。

 いったいどうやって説得する気なのかは知らないが、少なくともニノをあそこまで追い込んじまった元凶の一人である俺の出る幕では無いだろう。

 

「分かった。取りあえずニノの親に会って話してくる」

 

「ああ。頼んだ」

 

 互いに頷きあったところで、俺は急に腹の空き具合い思い出し、アクアの肩に手を回した。

 

「よし。じゃあ、戻って飯にしよう。お前もつき合えよ」

 

「飯ならあかねの家で食ってきた」

 

「んだよ。もう家族に紹介されてんのか?」

 

「いや。今日は誰もいないっつーから」

 

「……お前、これ以上ミヤコに負担かけるようなことすんなよ?」

 

「アンタにだけは言われたくはないが……」

 

「うるせーな。俺だって分かってるよ! だけどアイの時はストレスで俺の胃がやばかったから気をつけろって話だ」

 

「はいはい。その辺はちゃんと考えてるよ」

 

「だったら良いが。ミヤコもお前が一向に彼女紹介してこないってブツクサ言ってたぞ」

 

「ああ。その件でも話あるんだが──」

「だったらやっぱりバーに寄ってけ。もう腹が減ってしょーがねぇ」

 

 それだけ言うともう話は聞かないと、背を向けて店へと戻る。

 着いてこなかったらどうしようかと思ったが、アクアはこれ見よがしなため息を吐いてからノロノロと歩き出した。

 

 

   ☆

 

 

 最近、息子(アクア)の様子がおかしい。

 何か隠し事をしている。いや、隠し事をすること自体はいつものことだが、輪をかけておかしい。

 

 撮影が終わり、皆で海に遊びに行ってから連日のように出かけているのはてっきり五反田監督のところでドラマの編集でもやっているのかと思っていた(というか本人がそう言っていた)のだが、監督に進捗状況を確認したところ、まだ編集には取りかかっていないことが判明した。

 その件について確認しようと思っているのだが、アクアなりにいろいろ考えて行動しているのもわかっているため、どこまで踏み込んで聞いていいものか。どちらにしても先ずは話しを聞いてみようと事務所で待っているのだが、一向に帰ってくる気配がない。

 

「遅いわね」

 

 時刻は既に夜十一時過ぎ。

 アクアは条例などを気にしてきっちり守るタイプなので、帰宅時間には気をつけているはずだが、外泊するつもりだろうか。

 

「監督の所じゃないとすると……」

 

 思い当たるのは一つ、いや一人しか居ない。

 アクアの恋人である黒川あかねは現在、仕事がひと段落したことで纏まった休みを取っているとルビーから聞いている。

 

「注意しろって言ったのに」

 

 お互いまだ若い高校生同士の上、仕事も忙しくプライベートでの時間が取れないことを考えると、気持ちは分からないでもない。

 そうでなくてもタレントなんて三年目辺りから油断してやらかすことが増えてくるものだ。

 アクアが役者として正式に芸能活動するようになってからまだ一年半程度だがその前から監督さんの弟子としてあれこれやっていて芸能生活自体は長い。

 

 その上、一場面とはいえ監督としてアイのドラマを撮るという重責から解放された直後であることを鑑みると、羽目を外すのも致し方ない気はするが、今はアクアにとっても黒川さんにとってもタレントとして重要な勝負の時期だ。

 二人の今後を考えるともう一度ちゃんと釘を刺しておくべきか。

 そんなことを考えていると、ようやく事務所の扉が開いた。

 

「ただいま」

 

 入った瞬間、私を見つけたアクアは慌てた風でもなく首を傾げる。

 

「まだ仕事してたんだ」

 

 悪びれた様子もない態度に、苛立ちを覚えながらイスから立ち上がってアクアを出迎えに行く。

 

「お帰り。遅かったわねぇ?」

 

 ワザとらしく遅かったを強調すると、アクアは若干身じろぎつつも、申し訳なさを見せる訳でもなく、むしろ不思議そうに眉を寄せた。

 

「……壱護さんから聞いてない?」

 

「え?」

 

「あのバー、さみだれで飯食ってるっつーから会ってきたんだよ」

 

 淡々と説明しながら、事務所内に入ってきたアクアの体からは、僅かにタバコの臭いがした。

 バーに行っていたのは嘘ではなさそうだ。

 未成年が出入りするのはどうかと思うが、壱護はまだ絶賛炎上中なので、分かりやすい場所で会うわけにいかなかったのだろう。

 

「聞いてないけど。あの酔っぱらいのことだから、忘れて寝てるんじゃないの? というか、そもそも今日一日どこ行ってたのよ。ずっと壱護と一緒だったわけじゃないんでしょ?」

 

「あー、夜までは、あかねと一緒だった」

 

「やっぱり」

「やっぱりって何だよ。別にやましいことはねーよ」

 

「じゃあ何やってたのよ?」

 

「それは……。編集を手伝うことになったから、あかねに相談してただけだよ」

 

 私の言葉に、アクアは視線を逸らしながら答える。

 その態度だけでピンときた。

 

「監督さんじゃなくて、黒川さんとぉ?」

 

「あかねは主演で、脚本の直しの時だって手伝ってくれたんだから、カントクと本格的な話する前に相談くらいしても別におかしくないだろ」

 

「ふぅん?」

 

 それだけじゃないんでしょ? と言外に意味を含ませて笑うと、アクアは嫌そうに顔を歪めてから吐き捨てるように言う。

 

「ハァ……。あかねの休みももうちょっとしかないし、編集始まったら数ヶ月単位で時間取られるから、その前に一緒の時間が欲しかっただけ。これで満足?」

 

「ま、及第点ってところね。でも、黒川さんの事務所での立場も考えてあげなさい。これからって時に何かあったら彼女が責められるんだから」

 

 私のアドバイスに、アクアはようやく顔を上げ、神妙な顔で首肯した。

 

「分かってるよ」

 

 とりあえず釘は刺せた。

 他に話すことはないのかと少し待ってみるが、アクアはそれ以上何も言わず黙り込む。

 

(やっぱり本当のことは言わない。か)

 

 直帰せず壱護と会っていたのは、私には出来ない頼み事でもしてきたのだと予想はつく。

 黒川さんともそう。

 単に恋人としていちゃつきたいだけでなく、また二人で影でこそこそやっているんだろう。

 

 家族だからって全てを話せとは言わない。

 昔みたいに一人で抱え込んでいるよりずっとマシだ。

 

 ただ、少し考えてしまう。

 頼み事も大事な相談もしないなら、家族の役割はなんなのだろう。と。

 そんな疑問を抱きつつも、踏み込むことも出来ず私も黙り込んでいると、アクアは思い出したように顔を上げた。

 

「あ。そうだ」

「ん?」

 

「今日──いや、まだ日跨いでないから明日なんだけど」

 

「明日?」

 

 ちらりと視線を事務所のホワイトボードに向ける。

 自主的に休みを取っているアクアと異なり、B小町の三人はここ最近ずっと仕事が入りっぱなしだ。

 

 これは最近撮影に集中していたことで、他の仕事を入れられなかった分を取り戻す為だが、それも今日まで。

 明日は午前中はレッスンで、午後は休み。とかなり余裕のあるスケジュールを組んである。

 そろそろ休みを取らせないと、逆に効率が悪くなるからだ。

 

 折しも日曜日は家族で食事を取る日と決めていることもあって、三人でゆっくり過ごそうと思っていたのだが、用事でも入ったのか。

 家族の役割について考えていたことも合わせて暗い気持ちが湧き上がる。

 こんな風に小さなことで一喜一憂してしまうのは、私たちが本当の意味で家族になってからまだあまり時間が経ってないからだろうか。

 

「ああ。夜にあかね連れてきて良いかな?」

 

 直後、後ろ向きなことを考えていた私の憂鬱を吹き飛ばす爆弾が投下された。

 

「黒川さん? えっ。それ、もしかして……」

 

 思い出されるのは以前、私がアクアに出した交換条件のこと。

 案の定、アクアは少し照れたように目を泳がせながら小さく頷いた。

 

「あかねのこと、恋人として改めて母さんに紹介したいと思ってさ」

 

 ぽつりぽつり語るアクアの言葉で胸一杯に強い感情が広がる。

 それは約束を守ってくれたことへの感謝や、母と呼んでくれたことへの喜び、家族に対して抱いていたの漠然とした不安の解消……ではなく。

 強い焦りの感情だった。

 

「ちょっと! そういうのはもっと早く言ってよ。あー、もう。急いで美容院の予約と、料理の買い出し……はなんとかなるか。あ、家の掃除! ルビーは明日午前中レッスンで私は送っていくから、アクアやっといてね!?」

 

「い、いや。そこまで気合い入れなくても」

 

「入れるに決まってるでしょ! 黒川さんは何時頃にくるの?」

 

「一応夜の七時くらい? 本当は昼あたりからと思ってたんだけど、アイツもなんか準備あるとかで」

 

「当たり前でしょ。あー、本当に男はこれだから。そういえばアイツも私の実家に挨拶した時かなり適当だったわね。思い出したらムカついてきたわ。アクア! 家戻るわよ」

 

「はいはい」

 

 自分が原因のくせに、やれやれとでも言いたげな態度にイラッとさせられるが、咎める時間も惜しい。

 さっさと自宅へ戻ろうと、やりかけだった仕事を纏め始めたところで、アクアも思い出したように玄関で止まっていた足を進め、事務所の中に入ってきた。

 そのまま私のところまで来ると、黙って広がっていた資料やノートパソコンの片づけを手伝い始める。

 

 昔からアクアはこんな感じだ。

 私が疲れてたり、不機嫌だったりすると、それを察知して進んで手伝いを買って出る。

 昔から子供らしくないというか如才ない。

 こういう性格だからこそ、何でも一人で抱え込んでしまっていたのかと思うと、早熟なのも良いことばかりではない。

 

「あ。そうだ」

「ん?」

 

 片づけの手を止めないまま、アクアが口を開く。

 

「ただいま。……いや、言い忘れてたから」

 

 照れたように頬を掻くアクアの言葉に、私は一瞬驚いてから破顔し、同時に理解した。

 

 そうか。

 何も難しく考えることはなかった。

 いつだって、ただいまと言えて、お帰りと言って上げられる。

 家族の役割なんて、それで十分なのだ。

 

 片づけていた手を止め、私は屈んでいるアクアの髪に手を入れるとそのままワシャワシャとデタラメに動かしながら言ってやった。

 

「お帰りなさい。不良息子」




ミヤコさんと双子は本当の意味で家族になったとはいえ、まだまだ手探りで少しずつ前に進んでいる感じです
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