【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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最終章の本題スタート
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第94話 助言

 15年の嘘の撮影予備日も終了し、あかねも含めて関係者全員が次の仕事に取り掛かるようになった頃、俺とカントクは本格的にドラマの編集作業に取り掛かっていた。

 

 朝からカントクの家に通い、そのまま殆ど一日中編集作業を行って、時にはカントクのお母さんから夕食をご馳走になってから夜に自宅へ戻る。

 

 それから眠気が限界に近づくまで、これまで集めていた情報と、あかねの父親が纏めたノートを使ってニノがなぜカミキを殺したのかについて考えを纏める。

 ニノに俺たちの素性を黙っていてもらうにはその動機を知り、彼女の気持ちを理解した上で説得する必要があると考えたからだ。

 

 この若い体のおかげで多少無理をしても翌日に影響は出ていないが、それでも精神的な疲れも含め、徐々に疲れが溜まり始めていた。

 そんなある日。

 

「おう、早熟」

 

 俺が編集した映像をチェックしていたカントクが不意に口を開いた。

 

「ん?」

「こないだ黒川のこと、社長さんに紹介したんだって?」

 

 動かしていた手が止まる。

 

「……誰から聞いたんだよ」

「そりゃお前、下にいた人だよ」

 

 あの日、自宅の掃除を手伝って貰った後、事務所に待機させていた壱護さんのことだろう。

 事務所に残っているように誘導したのは俺だし、ルビーも気を利かせて事務所の扉を開いたままにして会話を聞かせていた。

 その後は母さんが用意した食事まで持っていってやったというのに恩を仇で返された気分だ。

 

「単なる食事会だよ」

「つってもお前よー」

 

 まだまだからかってやる。

 そんな意志を感じた俺はカントクを睨みつけ、先手を取ってはき捨てる。

 

「カントクもさっさと恋人作って母親に紹介してやったらどうだ?」

 

「ぬぐっ。お前、それ言うなよ!?」

 

「フン。くだらない話をしてる暇があったら集中しろよ」

 

「それはお前の方じゃないのか?」

 

「どういう意味だよ?」

 

「これもそうだけど、最近のお前、気合い入ってねぇぞ。てっきり恋人にカマケて仕事やる気失せたのかと思ったんだが?」

 

「そんなことねぇよ」

 

 そうは言うが正直痛いところを突かれた気分だ。

 別に気合いが入っていない訳ではないが、動機考察に時間を割いていることもあり、百パーセント集中は出来ていないのも事実だった。

 

 だからと言って考察を中断するわけにはいかない。なにしろ、いつニノとの面会が出来るようになっても不思議は無い状況なのだから。

 あかねを自宅に招待したあの日、壱護さんが俺に会いに来たのはニノの家族と連絡がついて弁護士変更を承認したことを報告するためでもあった。

 

 それから早速俺が探していた刑事事件に強い弁護士に連絡を取り、ニノの親と契約を結んでもらった。

 直後から行動を開始し、今は接見禁止を解除すべく裁判所に申し出を行っている状況だ。

 裁判所の許可が降りれば弁護士でなくとも面会を申し込むことが出来るようになる。

 しかも弁護士の話だと、もういつ裁判が始まってもおかしく無い状況らしい。

 

 その前に動機の考察を終わらせてから面会に行きたいが、ドラマの編集も手は抜けない。

 どちらも全力を出しているつもりだが、やはり無理が出て来ているのかも知れない。

 

「鏑木が言ってた監督の話も保留にしてるって言うじゃねーか」

 

 それも事実。

 カントクから話は聞いていたとはいえ、本当にオファーが来るのか半信半疑ではあったが、先日鏑木Pから直接連絡が入った。

 上演館数はさほど見込まれていない規模の小さな作品で制約も多いが、そうした作品でも内容によっては、きちんとした評価を受けるのは、以前あかねが主演した映画で証明されている。

 

 本気でやるつもりなら、以前海でカントクが言っていたように、編集作業と平行してでもオファーを受けるべきなのは分かっているのだが……

 

「あれか? 主演を選べないのが、気にいらねーのか?」

 

「新人がそんな贅沢言えないことくらい分かってるよ」

 

「だったら」

 

「分かってるって言ってるだろ」

 

 ため息と共に言い切り、話は終わりだというように、パソコンに向かい直そうとするが、やはり集中はできない。

 せめて考察と編集、どちらかでもひと段落付ければ……

 とそこまで考えて、ある閃きが走った。

 

「今日は帰る」

 

「おい、拗ねんなよ」

 

「拗ねてねーよ。ちょっとやることを思いついただけだ」

 

「母ちゃん飯作ってっけど……」

 

「悪いな謝っといてくれ」

 

 それだけ言うと、俺はパソコンを取って立ち上がった。

 

 

   ※

 

 

「……なんというか。恋人の次は、恋人の父親に頼るなんて、恥ずかしくないのかなー」

 

 いつものように展望台にやってきたツクヨミは、いきなり皮肉を口にした。

 

「なんとでも言え、使える物はなんでも使うのが俺の基本スタイルだ」

 

「私も含めてってこと?」

 

「ああ」

 

 軽く頷くと、ツクヨミは相変わらず子供らしくない大人びた微笑みを浮かべてみせる。

 俺がここに来た理由も既にお見通しらしい。

 そう。俺はこいつを利用するためにここに来た。

 ニノと会ってからでなくても動機の答え合わせを行う手段があることを思い出したのだ。

 

「ふーん。じゃあ、聞かせてみてよ。君の推理をさ」

 

「ああ。……菅野良介も新野冬子もただカミキヒカルに唆されたんじゃない。二人は、カミキに操られていた」

 

 あかねのお父さんが用意していた調査報告書の中身を詳しく精査したことで、カミキヒカルに対しては既に結論つけていた。

 カミキは単なる教唆犯ではない、と。

 

「操られていた? マンガやドラマじゃあるまいし、そんなに簡単に人を操って殺人なんかできるものかな?」

「転生だの、人の記憶を読むだのやってる奴に言われてもな」

 

 ちらりと視線を頭上に飛ばす。

 相変わらずツクヨミの上で旋回しているカラスたち。

 こいつらを意のままに操るのも、ある意味では超能力みたいなものだ。

 

「じゃあ彼も私たちと同じく超常的な力を持って生まれた者だってこと?」

 

「さぁな。だが、少なくとも人の行動を操るだけなら別に超能力なんて必要ない」

 

「どうやって?」

 

「マインドコントロールや洗脳の結果、人を殺してしまったなんて現実でも起こりうることだ。本来は高度な人間心理学の知識や、暴力、薬物を使ってやるものだが、条件さえ整えばそれらをすっ飛ばして身一つで人を操ることだってできる」

 

「いつかの君みたいに?」

 

 したり顔のツクヨミに眉を持ち上げる。

 こいつが言っているのは、以前片寄ゆらのスケジュールを変更させるため、鏑木Pを利用した時のことだろう。

 確かに、あの時も俺が鏑木Pがアイに感じていた罪悪感を利用して操ったのだと指摘していた。

 そういう狙いが無かったとは言わないが、あの時鏑木Pを動かしたのは多分、罪悪感だけじゃない。

 

「そうだ。俺やアイツの眼なら、それが出来る」

 

 あかねが言っていた。

 アイやカミキが持っていて、俺やルビーにも受け継がれた不思議な光を持った瞳は、嘘を真実だと信じ込ませる力を持つと。

 

 それは別に超能力の類じゃない。

 恐らく、自己に対する強い自信が生み出す説得力によるものだろう。

 

 自分に自信がある人物の言葉や行動は何となく正解のように感じてしまうものだ。

 その説得力を最も強く感じさせられるのが眼だ。

 強い意志の込められた眼で見つめられながらそれらしいことを言えば、相手に信じ込ませる説得力が生まれる。

 

 鏑木さんが言うところのスター性、カリスマと言い換えても良いが、そうしたものを纏った人間が、悪意を持って人を騙せば、適当な嘘を信じ込ませて、従わせることだって簡単という訳だ。勿論、必要最低限の演技力や相手の心が相当弱っていたり等といったいくつもの条件を上手く踏む必要があるが。

 

「アイツはそうやって意図的に他人の心を操り、弱った者に狂気の炎を灯した。それでいて自分の手は一切汚さない教唆犯であり続けた、下劣で利己的な嘘つき。それがカミキヒカルという男の本質だ」

 

 あかねの父親のノートを見たことで、今まで感じていた引っかかりが全て消えた。

 この結論にも直ぐに辿りつくことが出来たが、言葉にするのは気が引けていた。

 アイが本当に愛したであろう男が、僕とルビーの父親が、そんな人間だと認めるのが怖かったから。

 だが、全ての情報を統合するとそうとしか考えられない。

 

 俺の出した結論に、ツクヨミがどう反応するのか固唾を飲んで見守ると、彼女もまたこちらをじっと見つめ返す。

 少しの間、眉間に皺を寄せて不遜な態度を取っていたが、やがてつまらなそうに唇を尖らせる。

 

「殆どカンニングみたいなことして正解を導き出してもちっとも面白くないね」

 

「言っただろ。使える手段は全部使うのが俺の基本。それを使って導き出したなら、立派に俺の答えだと思うがな」

 

 言い返せないのか、唇だけでなく、頬も膨らませて不満を露わにするが、それも僅かな間だけ。

 やがて自分の中で、折り合いをつけたらしいツクヨミの表情が普段の子供らしからぬ澄ましたものに戻っていく。

 

「とりあえずカミキヒカルに関しては殆ど正解と言っておくよ。殺された時の彼は、かつて存在した気高い魂はアイとの別れを切っ掛けに失われ、それでも残されていたそのカリスマ性を以て自らの思想を周囲に伝播させ、人の命を他人に奪わせることで自らの欲を満たし続ける。そんな人間に成り下がっていた」

 

 滔々と語るツクヨミを黙って見つめ、続きを待つ。

 今はカミキのことより、ニノのことを知りたい。

 そんな俺を嘲笑うようにツクヨミはニッコリと底意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「じゃあ。新野冬子の方は?」

 

「何?」

 

「カミキヒカルだけじゃ片手落ちだろう? 私は二人が何を考えていたか分かったら全てを教えてあげるって言ったんだ。片方だけじゃ、教えてあげられるのはここまでだね」

 

 これで正解にしてニノのことも話してくれることを期待していたがそう上手くはいかないようだ。

 とはいえ、予想していたことではある。

 

「じゃあ、現時点でのニノの推理も聞かせてやるよ。別に回答出来るのは一度限りってことはないんだろ?」

 

「出来るの? 彼女に関しては殆ど情報ないんでしょ? ああ。君のお母さんとバイト君からは話聞けたんだっけ」

 

「俺の家まで覗いてんのかお前は」

 

 嫌そうに顔を歪める俺に、フフンと鼻を鳴らして胸を張る。

 一つ舌を打ち、気を取り直してから、ツクヨミに向かって、現時点で纏め終えた俺の推理を話し出した。

 

 

   ※

 

 

「……」

 

 全てを聞き終えてもツクヨミの表情は変わらず、じっとこちらを見上げたままだ。

 無言の沈黙も、けれど俺は焦れることとなく黙ってツクヨミを観察する。

 

 こいつの言うように、いろんな人たちの尽力によって多数の情報が集まり、殆ど正解の確信が持てていたカミキと異なり、ニノの方は手探りで答えを探している段階だ。

 こいつの反応自体も、立派な判断材料になりうる。

 一挙手一投足を見逃すまいとする俺に対し、ツクヨミは両の手のひらを上に向けたまま上昇させ始めた。

 降参のポーズかと目を見開いた直後、口元に邪悪な笑みが浮かび、ツクヨミはそのまま上に持ち上げていた手を翻し、チロリと舌を出した。

 

「はっずれー」

「このクソガキ!」

 

 昔やってたクイズ番組の司会者のような勿体ぶった態度に、本気で拳骨をかましたくなるが、ギリギリのところで押さえ込む。

 全く根拠がない感情だけの推理ではあったが、同時にそれなりに自信もあったのだが。

 

(とりあえず可能性が一つ潰れたことを良しとするしか無いか)

 

 怒りを押さえ込むと同時に、これ以上話をしていても時間の無駄だとその場を立ち去ろうと背を向ける。

 

 外れた以上、推理をやり直す必要があるため、時間を無駄にしていられないのもそうだが、下手に長引かせてまた送ってけだの、手を繋げだの言われても面倒だ。

 

 そんな俺の考えを見透かしたかのように、頭上を旋回していたカラスが鳴き声をあげた。

 これも毎度のことなので、無視して突破しようと足を踏み出すが……

 

「うおっ!」

 

 今度は頭上から俺めがけて急降下し、スレスレの位置を掠めるようにして再び空中に戻っていく。

 

「ふふふ」

 

 驚く俺を嘲笑うツクヨミを強く睨みつけるが、彼女は気にした風でもなく、手を持ち上げた。

 その腕に先ほど俺に突撃してきたとおぼしきカラスが止まる。

 

「早とちりするからだよ」

「何の話だ?」

 

 詰め寄る俺を無視して、ツクヨミはカラスを見ながら続けた。

 

「君の推理は外れではあるけど、惜しいところを突いてはいるよ。後は彼女と直接会って話を聞け出せばいい。ただ」

「ただ?」

 

「心を閉ざしている彼女の口を割らせるのは容易なことじゃないだろうね」

 

「だったらどうしろって言うんだ? まさかガラス越しに踊って来いってか?」

 

 日本神話で有名なアマテラスの逸話を比喩して言う。

 

(そう言えば、宮崎であかねが見に行こうと誘ってきたっけ)

 

 結局、雨宮吾郎ゆかりの地を連れ回しただけで、まともな観光をさせてやることは出来なかった。

 そんなことを思い出している俺を前に、ツクヨミはようやくカラスから目を放し、楽しげに笑いだした。

 

「あははは。それも面白いかもね。面会室で急に踊り出したらビックリして話してくれるかもよ?」

 

 それで話してくれれば苦労はない。と舌打ちをして頭上を見る。

 ツクヨミの腕に止まっているカラス以外は大分高いところを飛んでいる。

 一気に突っ切れば襲われる前にここを離れられるだろうか。

 

「また逃げようとしてる。せっかく私がヒントを上げようっていうのにさ」

 

「……対価は?」

 

「そうだなー。今度はお姫様抱っこでもしてもらおうかな。あ、でも彼女に怒られちゃう?」

 

 ニマニマとしたウザったい笑み。

 明らかに本気で言っているようには見えない。

 

「帰る」

 

「やれやれ。冗談が通じないな」

 

「冗談に付き合う気も、その時間も無いだけだ」

 

 それだけ言って背を向けた直後。

 

「君の復讐の第一歩を思い出してごらん」

 

「なに?」

 

 肩越しに振り返りツクヨミを見る。

 

「それが彼女の動機にも繋がっている」

 

 瞬間、腕に止まっているカラスが空に向かって羽ばたいていき、同時に頭上のカラス全てが一斉に喚きだした。

 それに気を取られ、しばらく上を見ていたが、やがて視線を戻すと、すでにそこには誰もいなかった。

 ざっと周囲を見回してみるが、所々に頭上から落ちてきたらしいカラスの羽が散らばっているだけだった。 

 

「何だ。神様らしいことも出来るんだな」

 

 皮肉混じりに呟いてから、改めて元来た道を歩き出す。

 歩きながら、ツクヨミに告げられた助言の意味を考え続けた。




カミキの本質については原作通りなのであっさり正解にたどり着きましたが、ここからニノの考察に入ります
とはいえあんまり長々やる気はないので次かその次くらいで終わらせて直接対決に入ります
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