【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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前回の続き
あかねの精神性や性格について触れていますが、あくまで個人的な見解です


第98話 留置所への道のり・後編

 予想通りの返答に、小さく息を吐く。

 黒川さんの調査書では、犯人であるニノよりもカミキの方が詳細に調べられていた。

 

 恐らく黒川さんも調べているうちに気づいたのだろう。

 カミキが狂わせたのは、菅野だけでなく、ニノもそうなのだと。

 

 これに関しては元々、ツクヨミと答え合わせをしていたから驚きはない。

 だが、あかねが周りの影響を受けるというのは少し驚いた。

 俺なんかよりよっぽど自分をしっかり持っているタイプだと思っていたが……

 

(いや、でもそういえば)

 

 思い出されるのは、今ガチでアイの真似をした後のこと。

 当初はあくまでカメラが回っている間だけだったが、番組終了と共にビジネスカップルとして付き合うようになり、アリバイづくりのためにデートしていた時のあかねは普段よりグイグイ前に出る強気な態度で、俺のことも呼び捨てにしていた。

 

 東ブレの舞台で会った時には君付けに戻っていたから特に気にしていなかったが、今になって思い返すと、その舞台で鞘姫を演じた時もそうだった。

 発作で俺が倒れた時の妙に献身的な態度も含め、それこそ鞘姫のように母性というか包容力が強かった気がする。

 

 それを自らの意思でやっているのでは無く、演じたキャラの個性が無自覚に本人の性格へ影響を与えていると言うのなら、カミキの影響を受けたニノに直接会わせたくないのも理解できる。

 

 カミキは親からの愛情不足と姫川愛梨からの性被害によって壊れてしまい、アイとの別れを切っ掛けに、上原清十郎を焚き付けて姫川愛梨を、その後は菅野良介を焚き付けて雨宮吾郎とアイまでも死に至らしめたイかれた教唆犯だ。

 悪影響どころの話ではない。

 

 親としては何としても止めたいだろう。

 同時に意外なほど頑固な一面もあるあかねが言葉で止まるわけがないのも父親として理解しているからこそ、俺から止めるように頼んできたのだ。

 あかねの性質を聞いた今、黒川さんの懸念はもっともであるし、自分の進退に関わりかねないことをしてまで(あかねの為だったとしても)手伝ってくれている彼に報いたいとも思う。

 ただ。

 

「お気持ちは分かりますが、俺はあかねさんと約束しています。何かあった時は隠し事はせず、お互い協力し合うって。そして俺はニノの説得には彼女の力が必要だと思っている」

 

「結果、あかねに精神的な負担を強いてもかい?」

 

 スッと目が細くなる。

 今までの穏和な紳士や警察官としてではなく、親として俺を値踏みしているかのように。

 だからこそ、視線を逸らすことなく、まっすぐ黒川さんを見て告げる。

 

「お言葉ですが、今のあかねさんはそんなに弱い子だとは思えません」

 

「ほう?」

 

「今ガチの時は大衆の意見を無理にでも取り入れようとしたことで、限界を迎えてしまったのは確かです」

 

 あかねの観察眼や相手の情報から性格を見抜くプロファイリングの才能は、当時から完成していたのは間違いない。

 だがその頃のあかねはそちらの才能と異なり精神的にはまだまだ世間知らずの少女で完成していなかったからこそ、限界を見極められなかったのではないか。

 

「今は違うと言うんだね?」

 

 問いかけと言うよりは、確認に近い言いように、俺は力強く頷く。

 

「そう思います。今の彼女は周りから影響を受けるだけじゃなく、自分にとって必要なものを選んで受け入れる器がある」

 

 今のあかねは昔のようにただ才能に振り回されているのではなく、それを使いこなしてキチンと受け止められる。

 そう確信している。

 

「なるほど。星野くんは、あかねのことをよく分かってくれているんだね」

 

 僅かに皮肉めいた台詞に、しまった。と口を閉じる。

 黒川さんからすれば、ずっと育てて来た愛娘のことを、出会って一年と少し程度でしかない俺に分かった風に言われたら良い気はしないだろう。

 

「あ、いえ」

 

 慌てて訂正しようとする俺を手を振って止める。

 

「気にしなくて良いよ。親だからって娘のことを全て知っているなんて言うつもりはない。私は役者のことも芸能界のこともよく分からないから、女優黒川あかねのことは君の方がよく知っているだろう。だが犯罪者のことに関しては、君より私の方が詳しい。只でさえ社会のルールから逸脱した者たちは周囲に与える影響力が大きいんだ」

 

「それは、なんとなく分かります。だから、もしニノやカミキから妙な影響を受けてしまったとしたら……」

 

「したら?」

 

「その時は俺があかねを守ります」

 

 ここは曖昧にしてはいけないところだ。ときっぱり言い切る。

 

「子供の君が? とは言わないよ。実際君には一度あかねの命を救われているからね」

 

「いえ、さっきも言いましたが、あの時は運が良かっただけです。でも今度は運や偶然じゃなく、俺の意思と力で絶対に守って見せます」

 

 守ることの出来なかったアイの分まで。

 とは口にはせず、心の中でだけ思う。

 少しの間、俺の真意を見抜くようにじっとこちらを見ていたが、直にふっと表情が戻り、黒川さんは微苦笑を浮かべた。

 

「一生、とは言わないのかい?」

 

 厳しさはなくなったが、その分、こちらをからかうようなニュアンスと共に意地悪く言う。

 

「……」

 

 その覚悟は出来ているし、今後のことを考えるとそちらもはっきり断言した方が良いのは分かっているが、一瞬言い淀んでしまう。

 

「それは。然るべき時が来たら、あかねに伝えます」

 

 例え彼女の父親相手だろうと、その言葉を一番最初に伝えるのはあかねにしたい。

 そういう思いから出た誤魔化しを、敏腕プロファイラーが見逃す筈がなかった。

 

「うんうん。なるほどね」

 

 流石親子と言うべきか、ニヤニヤとした笑みは時々あかねが浮かべているものに似ている。

 その笑みを携えたまま、黒川さんは少しの間考えるように視線を上に向けていたが、直に一つ頷いた。

 

「じゃあ、こういうのはどうかな? 私や君からあかねには何も言わない。その上で留置所に着くまでの間にあかねが自分の意志で同行を申し出た場合のみ、許可するって言うのは?」

 

 言われた内容に首を傾げる。

 

「……そもそもあかねは同行するつもりなんですよね?」

 

 だから俺に止めるよう説得して欲しいという話だったはず。

 そんな俺の疑問に黒川さんは、スーパーの方を見ながら言う。

 

「私が言うのもなんだけど、あかねは察しが良い。君と二人で長く話しているというだけで、今私が言った内容を推理してくるかも知れない。そうしたら直談判してくるだろう?」

 

「仮にそういう推理をしても、説得を受け入れたフリをして、受付で自分も面会できるように手を回すかも知れませんけど、その時はどうします?」

 

 その場合、同行を申し出るとは言えなくなるが。と敢えて明るく言うと、黒川さんは肩を竦めて首を横に振った。

 

「いや。今日のあの子なら気づいた段階で言うさ」

「え?」

 

 あまりにもさらりと断言する様に何か根拠があるのかと首を傾げる俺に、黒川さんは楽しげな笑みを浮かべたまま続けた。

 

「恋人にしか見せない顔があるように、親にしか見せない顔もあるってことさ」

 

 車内で見せていた子供っぽいあかねの姿を思い出して苦笑する。

 

「なるほど」

 

「で? 乗るかい?」

 

 楽し気な笑みからして、多分黒川さんにはもう結果が見えているのだろう。

 俺は苦笑してから返事をする。

 

「分かりました」

 

 自信満々に頷く俺に合わせるように、黒川さんも一つ頷き返した。

 

 

   ☆

 

 

 まだ早朝だからなのか、客も疎らな店内。

 ガラス窓越しに、うちの車を窺っていた。

 お父さんから、アクアくんに話があるからと事前に聞いていたので、明らかに一緒に連れていって欲しがっているアクアくんを置いて、一人で買い物に来たのだ。

 

 既に買い物は終わっているが、遠目からだが、まだ二人が話をしているのは見て取れる。

 戻るのはまだ早そうだ。

 

「何話してるんだろう?」

 

 やっぱりこの後のことだろうか。

 

 これから私たちは新野さんと面会するが、一つ問題がある。

 弁護士以外の人との面会は警官が立ち会い内容を記録する決まりだが、それではアクアくんの両親の秘密がバレる可能性があることだ。

 

 アクアくんは何回も面会を重ねて徐々に距離を詰めると言っていたが、ドラマの編集で忙しく、そもそもいつ裁判が始まるかもしれない今、そんな悠長なことは言っていられない。

 そう考えて、先日お父さんが私の部屋にやって来た時、思い切ってどうすれば良いか聞いてみた結果、お父さんが部下の人にお願いして口止めして貰えることになったのだ。

 そのことをアクアくんに伝えているのかも知れない。

 

(でも。だったらなんで私が一緒にいちゃダメなんだろ?)

 

 ふと、疑問を覚える。

 そもそもとして、わざわざお父さん本人が私たちを送ってくれると言った時から引っかかってはいた。

 

 お父さんのやろうとしていることは職権乱用に近く、迷惑がかかるのは間違いないが、それでも指示を出すだけなら。と納得した。

 これはアクアくんが前に進むために必要なことなのだから。と自分に言い聞かせて。

 そうした後ろめたさもあって私からお父さんに詳しい話を聞けずにいたが、ただ指示を出すだけならわざわざ同行する必要があるのだろうか。

 普段留置所に行くことなどない立場の警察幹部がいきなり現れたら、それこそ職員から話が伝わり大事になってしまうのではないか。

 それを押してまで本人が行く意味──

 

「あ」

 

 急に閃くものがあった。

 もともと今回の面会、アクアくんは私の同行を望んではいなかった。お父さんも私が事件に深入りし過ぎるのことをよく思っていないのも知っている。

 だとしたら、二人が結託して、私を面会から排除する気かもしれない。

 その可能性に思い至った時にはもう、私は買ったものを掴み、店外に出ていた。

 

 

 

「私も面会するからね」

 

 戻って早々告げた私に、アクアくんとお父さんは顔を見合わせる。

 やっぱり図星だったのかと更に続けようとする私を前に、二人はどうしてか、ニヤリと楽しげに笑った。

 

「星野くんの勝ちだね」

 

「いえ。ここまできっぱり言ってくるとは思ってなかったですよ。そこは黒川さんが当たりましたね」

 

「ま。警視の勘を軽視するなってことさ」

 

 私を置いてきぼりにして会話をする二人に怒りを覚えつつ、カラカラと笑うお父さんを睨みつける。

 

「お父さん。それ、止めてって言ったよね? 第一、もう警視じゃないでしょ?」

 

 私が子供の頃、まだ警視だったお父さんの鉄板ネタだ。

 正直当時から全く面白いと思わなかったが、本人はお気に入りらしく何かにつけて言っていた。

 

 だけど、自分の父親がそんなつまらないギャグを言う人だとアクアくんに知られるのは恥ずかしい。と恐る恐る様子を窺うが、アクアくんは特に気にした様子はなく、むしろどこか嬉しそうに表情を綻ばせた。

 

「警視長は軽視せず重用すべきということですね」

「えー」

 

 お父さんは少し前、警視正から警視長に昇進したばかりで、そのことはアクアくんにも話していたが、まさかアクアくんまでお父さんみたいな笑えないギャグを言うなんて。

 

 冷めた目を向ける私とは対照的に運転席のお父さんは楽しそうに手を叩いた。

 

「あっはっは。いいねそれ。今度使わせてもらって良いかな」

 

「著作権ごと差し上げますよ」

 

「よし。同僚にも教えて上げよう」

 

 朗らかに笑い合う二人を前に、私は悲鳴のような声を上げた。

 

「なんでそんな仲良くなってるのー!?」

 

 

   ★

 

 

「面会だ」

「はい」

 

 鋭い警察官の声に、私は返事をしてゆっくりと立ち上がる。

 大人しく従う私に、警察官が微かに動揺したのが分かった。

 

 無理もない。

 両親が勝手に変えた弁護士の計らいで接見禁止が解かれ、面会が可能となってからしばらく時間が経ったが、これまで私は誰が面会に来ようと会おうとしなかった。

 両親はもちろん、友人や仲の良い親戚、どこから聞きつけたのか、私から話を聞き出そうとやってきたマスコミの記者、後は……

 

(たかみーも来てたっけ)

 

 私のかつての同僚。

 私とアイに渡辺、そして彼女を入れた四人がいわゆるB小町の初期メンバーだ。

 その中でも私はたかみーこと高峯と最も仲が良かった。

 

 何事も即断即決で気が強く、グイグイ引っ張っていくタイプの彼女にとって、私はよほど頼りなく見えたらしく、何かと世話を焼こうとしてきた。

 B小町解散後は数えるほどしか会っていないが、それでも会う度、現役時同様の態度を取ってきていた。

 

 今回もどうせ、誰かから私の接見禁止が解かれたと聞き、一向に何も語ろうとしない私に説教をして、早く何もかも話して罪を償え。とでも言うつもりだったのだろう。

 

 自分ならそれができる。

 いや、自分にしか出来ないなんて考えたのかもしれない。

 そんな彼女が私から面会を断られた時は、どんな顔をしていたのだろう。

 

 悲しんだのか、それともニノの癖に逆らうなんて生意気だと怒りに震えていたのかもしれない。

 どちらにせよ、高峯も含めて裁判の日まで誰とも会うつもりは無かった。

 だが、私は今日こうして彼と会うことを決めた。

 

 部屋を出る直前、その理由である本に目を向ける。

 単色刷りの大きめの冊子、いわゆる台本だ。

 映画やドラマのみならずバラエティーなどでもよく使われていたからある意味で私にとっても馴染み深い。

 

『15年の嘘』

 

 伝説のアイドル・アイの生涯を現在の俳優を使って再現するというコンセプトで撮られたドラマ。

 弁護士経由で送られて来たこの台本を読んで私は星野アクアと会うことを決めた。

 

「私にこんなもの送り付けて。アクアくんは何を言うつもりなのかな」

 

 彼らが子供の頃、社長夫妻の子供として楽屋にやってきた時のことを思い出しながら、私は警察官の後に付いて歩きだした。




ニノがアクアから送られた台本は最終稿で、撮影したドラマの内容がほとんどそのまま載っているものです
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