「アンタがアタシのありがたーい武勇伝を聞きに来た野郎か?」
アクリル製の板を一枚挟んだ先に居る囚人がそう吐き捨てる。
「……大丈夫だって。この板ぶち破ってアンタを殺すのにはちょっと時間かかるからなあ。だからそんな怯えた顔しないでくれや、話しずれぇわ」
怯えるに決まっている。
眼前に居る少女は私と同年代、身長なんて私より5㎝も低い。身体的特徴で私に勝る部分はないと言っていいだろう。だが、こいつが手にかけた人数は10を軽く超える。
私だって約二年もの間、このヴァルキューレで何人もの不良と出会った……いわばそこそこのベテランだ。その中には『七囚人』も居たわけだ。そいつらと比べても、こいつは端的に言うと頭がおかしい。
こんな奴に『情状酌量の余地』なんてものあるわけないだろう……
この面会はほぼ茶番だ。
「……では、貴様の武勇伝とやらを聞かせてもらおう」
「アタシが初めて銃を握ったのは……周りの話だと1歳半、記憶ン中だと3歳くらいかな。……ああ、周りの話ってのはアタシがまだ物心ついてなかったときの話だ」
「だから詳しい話ができんのは3歳のころからだな。あの頃初めて引き金引いたんだよ。まだ非力だったから尻もちついてな?殺した親の臓器売った金で買ったリボルバーを、クスリでキマってる奴らの脳天にぶち込んで持ち物漁ってたさ」
「まあ親無しだったから小学校じゃ殴られ蹴られでいじめられてたさ。あの時のアタシは何してもおかしくないってほど不機嫌でよ。アンタも知ってんだろ……?『悲劇の事故!!校舎全焼で数百人が死去!!』って見出しで新聞とかテレビとかで紹介されてた……あの……なんだっけか」
「……『児童大量焼死事件』」
「そうそれだ。アンタよく覚えてたなぁ、あんなちっぽけな事件」
「『ちっぽけな』だと?……あの火事のせいでどれだけの人間が死んだと……!!」
私はとてつもない苛立ちを覚える。
事件で死んだ大勢の児童、その中には私の友達だっていた。焼死体の前で立ち尽くすことしかできず、将来ヴァルキューレに入り人を助けることを心に決めたあの日……
その時と全く同じ気分だ。
目の前に犯人がいるのにもかかわらず、拳を握り締めることしかできない無力感。
「ちと重かったか?優しい警察官にはよ」
「……ああ、おかげでクソほど気分が悪い」
「先輩……あと数分で面会終了です。こいつと長時間顔を合わせるのはあまりにも危険ですので……」
何とか心を落ち着かせようとしていると、後輩がそう告げてくる。
「なんだよ、もう終わりか。んじゃ最後にアタシから一つ質問いいか?」
「……なんだ?」
「アンタは『自分の価値』ってどんなもんだと思う?」
「……私はヴァルキューレの警官だ。上や後輩からの期待や信頼、もらえる評価が私の価値……というものだろう。そういうお前は?」
私は同じ問いを投げかける。
上からの命令は『こいつに減刑するに値する理由があるか調べろ』だ。もしかしたらこの質問で、こいつの心情を理解することができるかもしれん。
「アタシの価値なんてもんは……かってえパン一つ分くらいだろ。腹すいた時はそこら辺の奴らに股開いて、対価にもらった石みてぇなパンを砂まみれの手でかぶり付く……これがアタシの常識だ」
「ビビったか?」と言いながら、目の前の囚人は笑っている。
理解できない。なぜこのような過去を、こんなにも面白そうに語るのだろうか。
冷静に思い返してみると、こいつが語った内容は全て『劣悪な環境』が根本の原因となっている。
食事もまともに取ることもできず、スリやドラッグが横行している場で育ったこいつが凶悪事件を起こすことも、共感はできなくとも一応筋は通っている。
私は面会を終えた後もずっと考えていた。
同情……とでもいうべき感情が喉の奥につっかえているような感覚。
(まあ……面会の内容を見ればあいつの罪は相当軽くなるだろうな)
そんなことを、考えていた
『緊急速報!!ヴァルキューレ警察学校にて収容されていた"炎々羅フクロ"が脱走したようです!!』
これを見るまでは
主人公の名前最後まで出さないのが自分の中で最近の流行り