数台の戦車に数十人のヘルメットをかぶった武装兵士、それらを指揮し、先頭に立つのは七囚人の一人『狐坂ワカモ』だった。仮面のせいで表情を直視することはできないが、その心情は喜びに満ちているだろう。なぜならば彼女は、愛しの先生に会うために来たのだから。恋人に会う前に心を躍らせるなんて年頃の乙女なら当然の事であろう。ただワカモはそんじょそこらの年頃女子とは違う……彼女の背後にある多くの残骸やヘイローの消えた生徒がそれを現しているだろう。
既に多くの勢力が彼女を止めるため戦力を派遣しているが、全て返り討ち。もはや各校の最高戦力を投入するしか無いと言った状態。もしくは先生直々に会いに行くか……それくらいしかこの惨事を止める方法はないだろう。もう既に誰も彼女の前に立ちはだからない、立ちはだかることすら許さない圧倒的な戦力。
だが……
「強いじゃねぇか狐のお嬢さん、一発アタシと踊ろうぜ?」
彼女の進路に立ちはだかるものが一人居た。
ワカモも、ヘルメット団たちも驚いていた。なぜなら目の前の少女は重武装とはいいがたい、ただのリボルバーをワカモの方に向けていたからだ。
銃撃戦が日常のこのキヴォトスで、拳銃を向けられた程度で恐怖するものなどいやしない。もし拳銃を脅しの道具として使うものがいたとしたら、それは馬鹿か、超人(笑)くらいだろう。
「まさかとは思いますが……そんなモノで私を止めようと?」
「いやいや、この銃はアタシのオキニって奴でなぁ。引き金を引くだけで銃弾を弾く人型のバケモンを撃ち殺せる神アイテムだぜ?」
「その戯言が真実かどうか、今ここで試して差し上げましょうか?」
ワカモは……端的に言うならブチギレていた。
『舐め腐ったクソガキが私の恋路を邪魔している』などと考えていたのだろう。つまり、ワカモも相手の事を舐め腐っているわけだ。
思考打ち消す様な轟音と同時にリボルバーから発射された弾は、見事にワカモの足を撃ち抜き、血を流させた。
何が起こったのか分からない、だからこそ出血を止めようとワカモは足を押さえる。後ろのヘルメット団たちは皆『何が起こったのか分からないから近づかない』と言う選択を取った。と言うよりも、足がすくんで動けないと言うべきか。
「キヴォトスに住んでるアタシたちは銃に対する恐怖をしらねぇ。だから舐め腐る、だから油断する、だから……撃たれるとそのギャップでクソ痛ぇ」
ワカモは一心不乱に銃を乱射する。
しかしその弾はかすり傷を与える程度で致命傷には至らない。
それはキヴォトスにおいて常識とも言える日常、何もおかしい事はなかったが……その時のワカモには、それがとてつもない理不尽に感じられた。
「ほら、次は頭だぜ。遺言を残すなら今のうちだ」
「……何故、私を殺す必要が……!」
「アタシが許可したのは遺言で、質疑応答の時間は終わったんだがなぁ?……ケッ、まあ良い答えてやる。アタシの新しい武勇伝を作るのに『七囚人』なんて言う大層な肩書きの奴らは目障りなんだよ。まぁでも喜んだほうがいいぜ?なんてったってお前が最後にぶち殺すやろうだしなぁ」
体に力を入れることすらできない。
このままでは……いや、どう足掻いても確実に死ぬ。
「……遺言を残す時間は……まだ残っていますか?」
「ああ、大歓迎だ」
「シャーレの先生に……『ずっと愛しています』と伝えて下さい……」
その言葉を発した後、ワカモの意識は銃声と同時に消え堕ちた。
どうも皆様。完璧超人次期生徒会長でお馴染みの連邦生徒会防衛室長の不知火カヤです。真昼間から高層ビルの最上階で愚民どもを見下しながらキメ込むブルーマウンテンは最高に美味しいですね。この豆の味を理解できる舌と脳を持つ人間がこの世にどれほどいるか考えた時、私以外の人間が1人も思い浮かばないのが最高ですね。自分の地位を再確認できます。ではそろそろお腹も空いてきた頃ですので、最高級茶葉で淹れた紅茶と共に
優雅な昼食時間としましょうか。本来私の様な上級国民はこの様なガラス張りのビルでは無く、監視の下で安全な生活をすべきですが……このビルは超人である私が権限を最大限行使して創り上げたキヴォトス最高の防衛能力を持つ強靭無敵最強ビルなので大丈夫でしょう。
「防衛室長!!侵入者がすぐそこまできています!!」
……流石に嘘ですよね?こんなフラグ回収だけを考えた様なクソ展開。一度冷静になりましょう。私の覇道がこんな所で終わる訳ありません。なんといっても私の今いる最上階は特に力を入れた最強の防衛施設ですし、返り討ちにしてあげますよ!
……私の後頭部に何か冷たいものが押し付けられている気がするんですが……?ものすごーく嫌な予感がします。
「これは……後ろを振り返っていいのでしょうか……」
「良いに決まってんだろ。人と話す時はface to faceで話すもんだぜ?」
私はゆっくりと、手を上げながら後ろを向きます。
多分大人しく振り向かないと即撃たれる奴ですよねこれ……私の崇高な頭脳に傷が付くのはとても嫌なので大人しく従う事にしました。
「よぉ防衛室長。昼食時に来ちまって悪りぃな」
私の額に銃口を押し付けている人物は笑い混じりにそう答えます。
金色のポニーテールは火薬の匂いがついており少し燻んだ色をしていて、それとは対照的に目はサファイアの様な艶やかな色をしています。
銃口を突きつけられ、正直内心ガクブルですが、ここで萎縮した様子を見せたら負けでしょうね。腹を括るしか無い様です。
「いえ、問題ありませんよ。何か用があるのでしょう?最高級の紅茶でも飲みながら話しませんか?」
「アタシはアンタみたいな上級国民と違って舌が肥えてねぇから茶葉の違いとか分からねぇんだわ。アタシは別に立ち話でいいぜ?」
「そうですか……なら、私が最高級のレストランに連れて行ってあげましょうか?舌が肥えるまでたくさん食べさせてあげますよ?」
「悪いが急ぎの用なんでな。アンタと飯行ってる暇はねぇ」
少し会話を続けた後、私は先ほど報告して来た部下に合図を送り、このチンピラを撃つように命令を出します。今の命令は待機、私が手を握ったら発砲の合図です。
「そんで用ってのはよ」
……まだ
「アタシはアンタと取引しに来たんだわ」
…まだ
「アンタの権力とか財力を貸して欲しい。アタシから出せる条件は……そうだな」
よし、今です。発ぽ……
「『アンタを連邦生徒会長にする』ってのはどうだ?」
私は反射的に手を握るのを止めてしまいました。それは私にとってあまりにも欲しいモノだったから。連邦生徒会長の席、こんなチンピラが用意できる訳ない事だなんて常識的に考えて分かる事。だけれど逆に、こんな考えが浮かんでくる。こいつは私の背後に立っていました。扉前の部下を倒す事なく音も無く背後に居ました。窓にはヒビすら入っていませんし、通気口から来たとしてもも少しの物音はするはずです。もはや『魔法』と呼ぶしか無い技術、少しだけ、私の心は揺れ動いていました。
「もちろん、口だけじゃ無いってことも証明できるぜ?」
そう言って彼女は私から部下に銃口を向けて発砲、その程度で人が死ぬはずなんて無いのですが……撃たれた部下は頭から大量の血を吹き出して倒れていました。
「今撃った弾は特殊でな?アタシは『神秘貫通弾』って呼んでんだ。文字通り、アタシたちの神秘を無視して攻撃できる代物だ」
キヴォトスにおいて『死』とはあまりにも疎遠です。何故なら銃程度で人は死なないから。シャーレの先生を見て思いましたが、外の世界の人間は銃弾一発が致命的な怪我になります。
だからこそ、そんな銃弾を舐め腐ったキヴォトス人にこの弾は純粋に強い……
それにこいつはただの脳筋不良じゃ無いですね。これなら私の手足に相応しいでしょう。
「で、どうだ。アタシと組む気になったか?」
「ええ……共にこのキヴォトスを支配しようでは無いですか」
ボロ雑巾になるまで使い倒してあげますよ……
「んじゃ交渉成立って事で……『炎々羅フクロ』だ、よろしくな」
「知っているとは思いますが『不知火カヤ』です。せいぜい道半ばで死なないように……ね?」
こうして超人とその手足による、キヴォトス史上最悪の同盟が結ばれたのでした。
カヤ好き