もっと欲しい……欲しい……
赤き雷を迸らせ疾走し、降りかかる砲弾かと錯覚する程の威力の矢を切り伏せながら進軍する。
「アーーチャーーー!!」
"赤"のセイバー──モードレッドは市庁舎、ケイローンの狙撃ポイントと思わしき地点へと走る。
矢が来る方向は変わっていない。サーヴァントの身だと狙撃ポイントを変えるのは容易であり、変えないということは己を舐めているのか、それとも余程の自信があるのか。少しムカつくが幸いだ。
(このまま突っ走って斬る!)
そう決めたモードレッドは魔力をジェットのように噴出し、赤雷を伴いながら直角軌道でケイローンへと切迫していく。
先程とは比べものにならない速さに思わずケイローンは目を見張る。
(流石は音に聞こえし円卓の騎士。凪斗殿に見せてもらったユーウェイン卿の戦闘記録、彼と同等ということがよく理解できます)
「しかし、
敵の軌道を予測。
少し間を置き、予測軌道上に先程よりも魔力を込めた矢を速射する。
その数百数本。機関銃かと思うほどの速射をこなしたケイローンであったが、モードレッドは彼の予想を上回った。
「赤雷よ!」
百数本の矢。
その全てが放出された赤雷に遮られ、黒焦げにされた。
落ち、魔力へと散っていく矢を横目に、モードレッドは先程の赤雷をブースターのように扱いケイローンの位置より更に上へと行く。
塔の外壁を滑り落ち、その勢いのままクラレントをケイローンに向かい振るい──火花が散り、金属と金属がぶつかり合う音が響いた。
「な、に──!?」
モードレッドは驚愕のあまり声が出る。
ケイローンはいまだ弓を手放していない。では、今己の渾身の一振りを受け止めたのは誰か。それは──
『──』
下半身が蜘蛛、上半身が人間のような姿をした約二メートルの大きさの異形の怪物──土蜘蛛が具足を装着した使い魔──蜘蛛丸。
蜘蛛丸は上半身、本来腕があった箇所の代わりに存在する蟷螂のような鎌でモードレッドの剣を、サーヴァントですらない身で受け止めていた。
ギャリギャリと耳障りな音が夜の静寂に響き渡る。
「テメェ……ナニモンだ?」
モードレッドの問い。
短く簡潔なその問いに蜘蛛丸はニィと笑みを浮かべ、口から吐き出した痰で返答した。
「うぉっ!? きったね!?」
かろうじて避けたモードレッドは吐き出された痰に不快感で顔を歪め、咄嗟に蜘蛛丸から離れる。その表情は先ほどの不快感から一転、怒りに染まっている。
「よくもオレに痰なんて吐きやがったな! このクソ蜘蛛がァ!!」
怒りのまま赤雷を纏った剣を蜘蛛丸に打ち込もうとするも、その動きは鎧の合間を縫って刺さった短剣により阻止された。
(アサシン!?)
身体に走った鋭い痛みで冷静さを取り戻し、一切気配を、直感でさえも感じ取れなかったことから相手をアサシンと仮定するが見つからない。
一瞬止まった動きを見逃すほど、蜘蛛丸は弱くはない。
『◾️◾️◾️!!』
「ッ!? しまっ──」
距離を詰め、両腕の鎌を思いっきり振り上げ、モードレッドに渾身の一撃を叩き込む。
不意をつけたことから多少のダメージは与えられたが、蜘蛛丸の狙いはそこではない。
モードレッドはその衝撃によって市庁舎から吹っ飛ばされて落ちたのだ。これで再びケイローンは狙撃に集中できる。
続いて降りようとする蜘蛛丸に、ケイローンが声をかける。
「決して深追いはなさらず、堅実を心掛けて下さい。貴方であっても少しの隙を見せれば大きな痛手を負います」
『◾️◾️◾️』
「よろしい。では、私も援護しますのでどうかお気をつけて」
ケイローンの忠告に蜘蛛丸は片腕ならぬ片鎌を上げることで応え、今度こそモードレッドの元に向かうと、その顔は先程の顔が比にならないほどの形相であった。
「一度ならず二度までもオレをコケにしやがって、覚悟は出来てんだろうなぁ……?」
「ブチ殺す!!」
魔力放出によるブースト。
激情と共に振るわれた剣は蜘蛛丸に寸前で防がれたが蜘蛛丸を数メートルは押し込み、具足を纏った鎌は少しばかり凹み、先程のにやついた顔は一変し焦りが浮かんでいる。
「どうしたどうしたァ!? さっきみたいなニヤケ面はもうしねぇのか!?蜘蛛野郎!?」
魔力放出をフル活用した騎士らしくはない、騎士道や儀礼などの型に嵌らない戦い方。
そのようなアクロバティックな戦い方に蜘蛛丸は下手に攻撃しようとせずカウンターに徹する。
動きを制限しようと粘着性の糸や腐食性の痰、麻痺毒を持つ吐息をばら撒くなどをしたが、モードレッドにとってはチャチなもの。
ケイローンや呪腕のハサンの援護もあってか、蜘蛛丸は防戦一方であった。
そう、サーヴァントではない身にも関わらず、防戦一方であっても戦いが成立していたのだ。
この戦況、モードレッドは蜘蛛丸を無視し、ケイローンを再び狙えばいい。再び邪魔は入るだろうが、その都度吹き飛ばせばいい話。ただの使い魔とサーヴァント。どちらを狙えばいいのかは明白だ。
何故そうはせず、蜘蛛丸を執拗に狙っているのかは、無論剣を受け止められ、痰を吐きかけられたということに怒りが湧いたこともある。しかし、それ以上に
(こいつは、何かヤバい──!!)
モードレッドの直感は正しく働いていたと言えよう。
蜘蛛丸の正体は明雲家が保管している遺物の一つ、玖賀耳之御笠の遺骨とキャスター・滝夜叉姫が召喚した土蜘蛛を元に作られた使い魔。
滝夜叉姫が召喚した神秘を纏った土蜘蛛を遺骨を核とすることで現世へその存在を固定。滝夜叉姫と協力し、様々な改造が施されており、具足もその一つ。
その力は並どころか一流の魔術師が戦闘用に作成した使い魔を越え、サーヴァントであっても戦いが綱渡りで成立する程の力を持っていた。
それに加えてケイローンの指導。
生前数多の大英雄を育て上げた彼の教鞭を蜘蛛丸は
しかし、それだけでモードレッドの直感がそこまでの警報を鳴らすだろうか?
(チィッ! 早くアイツを殺さなきゃ何か不味いってのに、アーチャーとアサシンが面倒臭い!)
モードレッドがケイローンの正確な狙撃、呪腕のハサンの的確な投擲により、蜘蛛丸を仕留められず怒りと焦りを募らせていた時だった。
モードレッドの直感が最大の警報を鳴らした。
「ッ!?」
咄嗟に蜘蛛丸の方を見ると、蜘蛛丸の肉体が変異し、膨張。皮膚が具足と一体化する様を見る。
背筋が凍るような感覚を味わったモードレッドは反射的に高出力の赤雷を纏い、目の前の存在を抹消するべく動くが、教え子を守るためにケイローンが動く。
数十本の矢全てをモードレッドに浴びせ、爆発させる。その衝撃でモードレッドは蜘蛛丸への距離を離されてしまう。
爆風に身を飛ばされながらも上手く着地姿勢をとるモードレッド。彼女の視界は爆風によって起こされた煙で遮られていた。
鬱陶しく思い、手っ取り早く魔力放出で煙を晴らそうとした矢先に──正面から煙を裂きながら
咄嗟に剣で受け止めるも、その選択をモードレッドは後悔する。
「何だ、コレは……!?」
ナニカが身体の中に侵入し、自らの身体を汚染しようとする感覚に思わず膝をつく。魔術、呪術の類であっても、高い対魔力を持つモードレッドがそうなるのは余程のもの。
その正体は、煙が晴れると同時に明かされた。
「ハッ……成程。ソレがテメェの切札か」
二メートルほどあった身長はおよそ五メートルまでに巨大化し、それに比例するかのように鎌はより分厚く、鋭くなっており、サーヴァントであっても傷つけることが出来るだろう。
人の身体は先程の物とは一変、具足が肉体と一体化、硬質化しており、その硬度の高さが見て取れる。
モードレッドの目を引いたのはその鎌──というよりは、その鎌が纏う『呪』。
それの正体は分からずとも、その『呪』はモードレッドが己が膝をついてしまったことに納得してしまう程の力を持っていた。
蜘蛛丸の切り札は二つ。
一つは玖賀耳之御笠の力の解放。
そしてもう一つが、譲渡された滝夜叉姫の霊基の一部から得た平将門公の『呪』。
日本三大怨霊の一つに数えられる不死身の魔人の『呪』。
ソレはほんの一欠片であっても、円卓の騎士を脅かす力であった。
トゥリファスの地で顕現した大土蜘蛛。
己を見下ろすその存在に、モードレッドは『呪』に対抗しながら立ち上がり不敵な笑みを浮かべる。
「いいじゃねぇか! 怪物退治と大将首は騎士の誉れ! この際丁度良い! アーチャーにアサシン、そしてテメェ! 敵将の首二つに化け物の首一つ。戦果としては上々だ!」
『◾️◾️◾️』
「いざ、その首断たせてもらう!!」
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️!!』
キャスター・滝夜叉姫。
凪斗にとって七回目、中国での聖杯戦争にて、当時十七歳の凪斗に召喚されました。
自分の転生を正直に明かしたり、蜘蛛丸の共同製作で中々に良い関係を築きましたが、父である平将門公の力を借り受ける宝具が敵サーヴァントの攻撃で霊核が揺さぶられ暴走。平将門公の分霊が顕現しかける事態となりました。
同盟を組んでいたランサー・哪吒、抑止力にカウンターで召喚されたアーチャー・藤原秀郷の協力で降臨しかけた分霊ごと倒され、最期に謝罪として蜘蛛丸に己の霊基の一部を譲渡し消滅しました。
蜘蛛丸には玖賀耳之御笠の遺骨が使われているため、玖賀耳之御笠の意思が残っていますが、滝夜叉姫の霊基に宿っている平将門公に抑制されています。
玖賀耳之御笠「よっしゃ、乗っ取ったろ」
将門公「うちの娘のお気に入りに何しようとしてんだ?」
玖賀耳之御笠「……ウッス」
将門公「あ、ちゃんと力は貸せよ?」
玖賀耳之御笠「ハイ」