ヴラド三世の写真撮影会を始めてから数時間が経った。
ヴラド三世の意外……そう言われれば意外ではない拘りや呪腕のハサンが凪斗も一緒に撮ってはどうかと勧めたことで凪斗の予想よりも時間がかかったが、三者何の苦にもならない楽しい時間であった。
そして撮影が終わった今は呪腕のハサンが用意した紅茶やお茶菓子を嗜みながら──
「ジャジャーーン! という訳で、サーヴァントと一緒に撮ってきた写真を集めたアルバムです!」
──凪斗の人生の結晶とも言える物の一つである『アルバム』の鑑賞を始めようとしていた。
凪斗の人生の半分は亜種聖杯戦争と言っても過言ではない。
一人の英霊の生き様が一人の人間の価値観や生き方を変えるように、幾多の英霊との出会いの果てに、今の凪斗の人格が出来上がっている。
鮮烈な生き様を彼に魅せてきた英霊達とはどのような姿なのか、そしてどのような交流を育んできたのか。
それらの全てが詰まっているとも言えるアルバム。
心が踊り唾を飲み込むが、流石のヴラド三世も無遠慮に見るのは躊躇う。
「本当に良いのか?」
「別に大丈夫ですよ? まぁ少し恥ずかしいのもありますけど、自分のサーヴァント達はカッコいいんだ! って自慢したい気持ちもありますし」
「貴様がそこまで言うとは……良き英雄達だったのだな。羨ましい限りだ」
「えぇ! それはもうみんな凄い英雄で、でもやっぱりどこか人間臭い──」
「ランサー殿。マスターのかつてのサーヴァント語りは数時間にも及ぶのでそこらで……」
「呪腕さん!?」
「うむ、そのようだな。では失礼して……」
ヴラド三世は恐る恐るページを開き、貼ってある写真達を眺める。
浴衣を着た幼少期の凪斗が、同じような服装の銀髪の少女やサングラスをかけた金髪の偉丈夫、額に十文字の傷がある坊主頭の男と共に花火を見ている写真。
眼鏡をつけた男性と紫水晶のような瞳が特徴的な儚げな女性が穏やかに微笑んでいる写真の横に、少年期の凪斗が照れ臭そうな笑顔でその二人の間に挟まれるものも貼られている。
戦闘記録で見たダレイオス三世の
どこかの遺跡だろうか、それを背に凪斗と、カメラ慣れしてないのか少し不器用にはにかむ褐色肌の青年が並んでいる写真。
サングラスをかけた軽薄な格好ではありながらも、堅実真面目な雰囲気を隠しきれない青年が多種多様な料理に舌鼓を打つものに、青年と同じサングラスを付けた獅子の上で凪斗が気持ち良さそうに寝ているという微笑ましい写真。
更に少しページを飛ばすと、満面の笑みの凪斗と平安貴族のような装束を身につけた女性に撫でられ、『祝!生誕!』と書かれたカードを提げた今より少し小さい蜘蛛丸がどこか嬉しそうにしている写真も見つかった。
「ほぉ……亜種聖杯戦争。随分と楽しんだようではないか」
「ハハハ! そりゃあまぁサーヴァントとは一期一会!楽しまなきゃ損ってモンですよ! ……その倍くらいは死ぬ思いしましたけどね……ハハ、ハハハ……あくろおうこわい……まさかどこうこわい……いやだ、たすけてごーるでん、しぐるど、だれいおす、みんな……」
「マスターーー!?!? お気を確かに! マスターは今も生きてるでございましょう!? 確かに悪路王殿や将門公の目は私でも死ぬのかと錯覚しましたが!?」
凪斗の自虐と思い起こすトラウマによる幼児退行に苦笑いを浮かべながらも、見るのを続けていると、気になった写真が見つかった。
しかし、そのあまりの異質さに汗が出る。何故彼のような英雄が、いやしかし伝説を見ると納得できる。だが問わずにはいられない。
「凪斗よ、これはどのような状況で撮られたものなのだ……!?」
「……あぁ……それ、ですか」
ヴラド三世は切羽詰まった表情と声色で問い、凪斗はその答えに口を濁す。
何を隠そう、その写真こそは──
「ローランが夜の街を全裸で走り回った後に警察の方々に逮捕された写真、ですねぇ……」
「……全裸で? 失恋した時の、あの?」
「はい。何でも全裸になる時の解放感が癖になったとか何とか……」
「……すぐに助けなかったのか?」
「普段迷惑をかけられてるローランのマスターが鬱憤晴らしでそのまま放置して、ダレイオス三世も
(普段どれくらいの頻度で脱いでいたのでしょうか……?)
無論、後に助けたが、ローランは一切反省していなかった。流石は
◾️◾️◾️
「しかし、貴様は幼少期から世界中を練り歩いていたのだな。余の時代からは考えられん」
「世界大戦も終わって平和になりましたからねぇ……紛争が続いている地域はまだありますけど」
「嘆かわしいことよ……それが人間の本質の一つとも言えることだが、為政者としては到底認められんな」
「流石公王」
「褒めても何も出んぞ?」
アルバムを一通り鑑賞して一段落し、二人はまったりと茶を楽しみ、その様子を呪腕のハサンは髑髏面で見えず、そもそも顔は削ぎ落としているため表情は伺えないが、その雰囲気から穏やかにしていることは確かだ。
「……こう見ると俺って確かに行ってますね。静岡は親戚のところに泊まりで行ったらその親戚さんが
「つくづくマスターは巻き込まれやすいですな。海外へ出るのは避けるようにするべきでは?」
「確かにそうだよな……」
呪腕のハサンの言葉に返す凪斗であったが、彼の中でそれに対する答えは既に出ていた。
(多分特典による
彼の特典である『聖杯戦争に巻き込まれやすい』。
それにはON/OFFというものが全く存在せず、故に彼はひたすらに亜種聖杯戦争へと巻き込まれる。
しかし巻き込まれるためには亜種聖杯戦争が行われる土地に赴く必要がある。亜種聖杯は大聖杯とは違い、外国の者にまで令呪を分配する力がないためだ。
故に凪斗はその地に
実際、イランなどは後で思い返してみると行くまでの思考が少し可怪しかったのだ。
特に顕著だったのはロシアだ。
ソビエト崩壊から数年というデリケートな時期。裏でも何かきな臭いと噂になり、普段の凪斗ならば寄り付かなかったが、何故か
その結果、ソビエト復権を狙う勢力vsそれを阻止する勢力に巻き込まれるという面倒臭いことに。結末は外部の者である凪斗の優勝であったが。
それにこの聖杯大戦もそう。
ダーニックがサーヴァントの武力で脅してきたが、今考えると本気で逃げに撤せばこちらに構う力は大きくなり、魔術協会の目があるためそんなに派手には動けずこちらを追うのを諦めるだろう。そもそも戦力として用意できる戦闘用ホムンクルスは一蹴できるし、アヴィケブロンのゴーレムも壊すことは難しいが蜘蛛丸やシグルドの短剣などで対処可能だ。
それにもしサーヴァントが追ってきても切り札を使えば問題ない。
だというのにサーヴァントの武力に屈して凪斗は聖杯大戦に参戦した。これも特典に『思考を誘導する力がある』という仮説の信憑性を高くさせる。
だが、凪斗はこれ以上は勘繰らない。
女神由来の特典以外の
そう心の中で再度結論付けた凪斗は席を立つ。もうそろそろ夕食の時間だ。
「撮った写真はカッコよくアルバムに飾らせてもらいますよ」
「そうでないとあそこまで拘った意味がなくなるのでな。丁重に、余の威厳を存分に出すよう、頼んだぞ?」
「ハハハ! マスター、これはかなりプレッシャーがかかりましたな!」
「勘弁してくださいよ……」
「何、ただの冗談よ。半分だけだがな」
「半分本気じゃないですかーーー!?」
「では、ランサー殿。我々はここらで」
「うむ、ではまた明日」
一人になった部屋でヴラド三世は口角を上げ、呟く。
「ふっ、公王か。貴様らは一度たりとも余を
懐から一枚の写真を取り出す。
プリンターで印刷してもらった、撮った写真達の中でも一際お気に入りの一枚だ。
「
「──悪くないものだ」
『(凪斗が思考誘導されて)聖杯戦争(が超高確率で起こる地に赴いて亜種聖杯戦争が起こりその聖杯戦争)に巻き込まれる』だから間違ってないですねHAHAHA!
アルバムは凪斗が召喚してきたサーヴァントに加えて写真に映っている蛍やローラン、描写しませんでしたがピョートル大帝やドゥリーヨダナなども呼べるヤバい触媒となっています。
アルバムが強奪されていた場合?
滝夜叉姫やダレイオス三世、アシュヴァッターマンなどがブチギレて召喚した奴殺しますねぇ……