Mr.聖杯戦争in外典   作:英鈍

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狩る者か狩られる者か

 

 夥しい数の矢が放たれる。

 その数は十数などではなく二十三十四十と怒濤の如く。

 そしてその威力もまた矢とは思えない。

 普通の矢であれば木の幹に当たっても刺さるだけ。しかし、放たれた矢は頑丈な樹皮を容易く貫通し、その後も暫くはその勢いを保っている。

 正に人間離れした業と言える。

 

 だが、射ち手の名を知れば全ての辻褄が合う。

 

 射手の名は神代の女狩人アタランテ。

 深く濃い神秘を纏った魔獣が当たり前のように生息し、死が今よりも遥かに身近であったギリシャの森を住処とした狩人。名だたる英雄達が名を連ねるアルゴノーツの一人にしてカリュドーンの猪討伐の立役者という紛れもない英雄の一角。

 

 彼女の手にかかれば大半の戦士は彼女に気付くこともなく、射たれたことさえも察することが出来ぬまま死に至るだろう。

 

 

 彼女の敵がその()()()()()()()者の場合であったのならば、だが。

 

 

「ウゥアァァァァァァァァ!!」

 

 フランケンシュタインの怪物。

 原初の人間、その花嫁を模して作られた人造生命体は、唸りを上げてその手に持つ戦鎚を振るい、唸りをあげて雷を放つ。

 

 正に鎧袖一触。

 

 先日のモードレッドvsケイローンの時のように岩すら貫く矢群全てが雷の前に灰と化し、魔力へと散る。

 

 射った矢全てが無力化されたアタランテは、フランケンシュタインが振るう戦鎚を躱しながら舌打ちを一つ。

 やはり数ではサーヴァント相手には効かないと判断し、『天穹の弓(タウロポロス)』の効果を発揮すべく、弓を極限まで引き絞ろうとしたところで──フランケンシュタインの暴力的なものとは違う、風を切る鋭い音が聞こえた。

 

「ッ!」

「──」

 

 回避。

 アタランテが飛び退いた場所へと斬撃が走り、大木が両断され崩れ落ちる。

 

 アタランテは襲撃者──テセウスに対して渾身とまではいかなくとも引き絞った結果、Bランク程度の威力を持った矢を振り向きざまに放つ。

 矢は一本のみであるが、先ほどの矢群とは比にもならない威力・速度。

 

 しかし、テセウスは空中にあっても身を捻り大剣を振るって迎撃し、矢を弾いた。

 

「サーヴァント、いや、それ以下の身であるとしても、汝の力は変わらずだな……!」

 

 思わず称賛の言葉が口から漏れる。

 

 生前のテセウスを知るアタランテは、生前より弱体化するサーヴァントであっても流石に()()と感じており、その予想は見事に当たっていた。

 

 今の彼は霊基鏡ヴァルクルムに記録された彼の霊基を基に召喚された鏡典英霊。凪斗が長い歳月をかけて召喚術式を構築したことでシャドウ・サーヴァントよりも遥かにサーヴァントに近い存在にはなっているが、その力はサーヴァントであった頃には及ばない。

 

 だからと言って──サーヴァントに届かないという訳ではないということを、彼女は理解した。

 

「──」

 

 セイバー・テセウス。

 アテナイの王アイゲウスの子。生まれついての英雄。

 アイゲウスに息子として認められるために征き、人々を殺して来た山賊や怪物を同じ方法で殺す因果応報の旅の果てに子として、王として認められ、ミノタウロスを退治。

 

 その実力はギリシャ神話の英雄として頂点に君臨するヘラクレスに続く大英雄としてペルセウスやアキレウスと共に頻繁に名を挙げられ、ヘラクレスが下船した後のアルゴノーツのメンバーの中では『一番の英雄』と船長であるイアソンから認められ、アルゴノーツの主力の一人として数えられる程。

 

 テセウスは木々の間をアタランテには劣るもののかなりの速度で駆け抜ける。

 しかし、アタランテは森の中に生きる狩人。

 彼女にとって森とは狩場であり、相手が人であろうと獣であろうと皆等しく獲物。

 

「笑止」

 

 フランケンシュタインの猛攻を避けつつ彼女はテセウスの行動を予測する。

 このような木々の中、己はどう動くのか。テセウスであったらどう動くのか。

 

 予測し終えた彼女はテセウスに対し矢を放つ。その姿はまるで追い込み猟を行う狩人が如し。

 彼女の予測通りに、彼は矢を躱し時に木を盾にしながら駆け回る。

 

 飛来する矢を躱し木々を跳び回るテセウス。

 また次の木へと飛び移ろうとする彼の前を横切るように大木が根元より崩れ落ちる。

 

 大剣を振るい、目の前の大木を切り捨てる。しかし、その先にいたのは──弓を構え矢を番え、限界まで弦を引き絞ったアタランテだった。

 

「終わりだ」

 

 彼女の弓、女神アルテミスより授かった『天穹の弓』の効果は『弦を引き絞れば引き絞る程矢の威力が上昇する』というもの。

 その最大威力は、Aランクを凌駕する。

 

 空気を裂き、破裂したような音と共に矢は放たれた。

 空中で大剣を振り切った体勢のテセウス。彼ならば振れるだろうが、限界まで引き絞った威力の矢を弾き返すことは難しいだろう。

 防御は不可能。フランケンシュタインは間に合わない。

 

 そのまま矢はテセウスの胸へと向かい──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──アタランテの胸を、貫いた。

 

 Aランクを超える威力を持つ矢はアタランテの胸を貫き、後ろの数々の木々を貫きようやく止まる。

 胸からは血が流れ、その翠緑の衣装を赤で染める。

 口からも血が漏れ、乗る木の枝にポツポツと滴る。

 その顔は何が起こったのか分からない、驚愕で染まっていた。

 

「な、に……!?」

 

 口から振り絞った言葉からもその驚きの感情は伝わる程であった。

 

 

「────」

 

 

 いと嶮しき宿命螺旋(ディスコリア・スピラ)

 

 テセウスの第二宝具であり、彼の因果応報の旅が宝具として昇華された宝具。奇しくも同じアルゴノーツの船員であったヘラクレスが持つ宝具『十二の試練(ゴッド・ハンド)』と同じタイプの宝具である。

 その効果はカウンター。相手の攻撃を反射する宝具となっている。

 

 

 しかし、サーヴァントに近い存在であるがサーヴァントではない存在である鏡典英霊が宝具の真名解放を行えるのか?

 

 

 それに対する明雲凪斗の返答がこれである。

 

 

「できなかったけど何とかできるようにした。俺の力だけじゃないけど」

 

 

 霊基鏡ヴァルクルム。戦死者の鏡。

 その作成には亜種聖杯アルゴー号の竜骨明雲家家宝の千年物の鏡、令呪が。

 術式の構築には様々な魔術師達が時計塔に遺した境界記録帯(ゴーストライナー)についての論文や凪斗のサーヴァントについての研究、降霊儀式・英霊召喚についての研究資料、聖杯戦争の仕組みやサーヴァント召喚のシステムについての資料が、ブリュンヒルデより聞いたエインヘリャルのシステムが、約十年もの歳月が。

 シグルド蘆屋道満の助言が、役小角と共に施した改良が。凪斗が日々続ける研鑽が──

 

 

 その果てに明雲凪斗は、通常時を凌ぐ遥かに莫大な魔力・霊基の損傷を代価とし、劣化しながらも鏡典英霊の宝具の真名解放を可能としたのだ。

 

 

 今回の『いと嶮しき宿命螺旋(ディスコリア・スピラ)』。

 反射できる確率は五分五分であったが判定に勝ち、彼女の矢を反射し不意を突くことに成功したのだ。

 

(なんだ!? 何が起きた!? テセウスに傷はなく、私には傷が──)

 

「攻撃の反射か……!?」

 

 『いと嶮しき宿命螺旋(ディスコリア・スピラ)』の効果に素早く気づいたアタランテ。

 その時、地中より潜伏していた複数の魔性が彼女の周囲に跳び出す。

 

 醜悪な外見の魔蟲達。

 

 その外見に彼女は眉を歪めながらも弓を構え矢を番え、放つ──よりも先に魔性達の身体が破裂し、無色透明の何かを撒き散らす。

 

 咄嗟に口を覆い、毒を警戒するが既に遅い。

 

「う゛っぷ……」

 

 吐き気を催す悪臭。

 思わず嘔吐いてしまう程の臭さ。

 

 先程の魔性達の正体は空を覆う魔性達同様、キャスター・滝夜叉姫により召喚された、中国亜種聖杯戦争において調整を重ねた特性の魔性。

 どんな人間でも毒よりも悪臭の方が効くのではと考えた二人は複数の魔性を掛け合わせ、悪臭の霧自体は一瞬で消えるが、悪臭が鼻に残るものを撒き散らす魔性を開発したのだ。

 

 悪臭の素は消えたが、鼻にはいつまでもあの時の臭い匂いが残る。

 思わず涙が出るが、他のサーヴァントも同様と思った彼女の視界にフランケンシュタインが映る。

 彼女は人造人間。故に苦痛・五感の遮断は自由自在。

 彼女は直前にカウレスを介した念話で嗅覚を遮断するよう指示されたのだ。

 

「アァァァァァァァァアアア!!」

 

 彼女は唸り声を上げてスキル『ガルバニズム』と宝具『乙女の貞節(ブライダル・チェスト)』を併用した擬似的な魔力放出を行い、動きが止まったアタランテへと高速で向かう。

 

「くっ!」

 

 このような状態では流石に戦えない。

 そう判断した彼女が跳び退こうとしたところで──足へと糸が絡みついた。

 

「何っ!?」

「──」

 

 第一宝具かくして紡糸は極点へ誘う(アリアドネ・アポリト・アディス)

 アリアドネの糸が昇華されたこの宝具は真名解放をせずとも、糸として使用可能。

 

 彼が放った糸は的確に彼女の足へと絡みつき、彼女の動きが、止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはずっと影に潜んでいた。

 如何なる時も、己の仲間が一時危機に陥った時も、ずっと。

 影が出ることを許される状況はただ一つ。

 

 

 アタランテ(対象)が隙を晒した時のみ。

 

 

 影は今と判断し、木々の間を特殊な走法で駆け抜ける。

 

 影の外見は白い髑髏、黒い外套。それだけのみ。

 外套より唯一垣間見えるその右腕は人間のものとは思えない程長く、黒い布に包まれていた。

 

 距離は十分。

 対象はこちらの存在に気付いていない。

 

 絶好の機会と判断した影──山の翁、ハサン・サッバーハはその異名であり必殺の業である呪腕を、魔神シャイタンの右腕を解放する。

 

 

 

 

「魂など所詮飴細工よ」

 

 

 

 布が解かれていく。

 

 封印が解かれた赤き異形が姿を現し──

 

 

 

 

「苦悶を溢せ──妄想心音(ザバーニーヤ)」 

 

 

 

 イスラム教における天使の名を冠した暗殺の御業が唱えられた。

 

 

 赤き呪腕、対象の心臓を握り潰す魔神の腕はアタランテへと迫っていく。

 

 

(宝具!)

 

 

 しかし、宝具の真名解放の際には大なり小なり魔力の起こりが発生する。

 

 宝具の発動を察知したアタランテは矢を番えて弦を限界まで引き絞り──魔神の腕が迫る方向とは全く違う、明後日の方向へと矢を放った。

 

 無論、そんな分かりきった隙を山の翁として暗殺教団の頂点に君臨した呪腕のハサンが見逃す訳がなく──その呪腕は、胸へと触れた。

 

 

 何かが胸に触れた感触。

 振り返ると、そこには黒い外套を纏った髑髏面の人影。

 希薄過ぎる気配であり、その黒い外套から伸びる赤い異形の腕と、その手に浮かぶ()()があっても──心臓?

 

 

「ッ!!」

 

 

 警鐘が鳴り響く。

 アタランテの人間としての、狩人としての、英雄としての感覚全てがアレを阻止しなければならないと叫ぶ。

 

 

 

「これにて──」

 

 

 

 しかし──

 

 

 

「終いです」

 

 

 赤き異形の腕が心臓を──魔神の腕により作り出されたアタランテの心臓の鏡面存在を握り潰す。

 

 同時、矢を放つことすらできなく、アタランテの身体は力無く崩れ落ちる。

 

 類感呪術を利用した呪殺。

 サーヴァントの要である霊核と直結する心臓を破壊されたアタランテはじきに消滅することだろう。 

 そのようなことは彼女も分かっている、が。

 

(足掻かせて、もらう!!)

 

 このまま死ぬのは業腹。

 せめて一矢報いると覚悟を決めた彼女は身体に活を入れ、震える腕で矢を番え、弦を引き絞ろうとし──蒼い閃光が見えた刹那、彼女の両手は消失した。

 

 

(──アレ、は)

 

 

 『天穹の弓』と矢が地に落ち、最後に投擲された短刀が首へと命中し、アーチャー・アタランテは消滅。聖杯大戦最初の脱落者となる。

 

 

 彼女の視界に最後に映ったのは、豪弓を構え、全身に白い具足を纏い素顔すらも見えない、月を背にした大男の姿だった。

 

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