Mr.聖杯戦争in外典   作:英鈍

29 / 36
竜血継承

 

「ぐっ……この……!」

 

 己を押さえ込むジークフリート(セイバー)の拘束を破るべく、力を入れるアストルフォ(ライダー)

 唯の可憐で可愛らしい少女にしか見えない彼であっても歴としたサーヴァント。その力は人間の頭部を熟れた果物の如く容易に握り潰せるが、スキルである怪力を発動しても尚ジークフリートは全く動かない。

 

 アストルフォの能力が宝具に依存しているタイプであるために素のステータスが低いこともあるが、単純にジークフリートが大英雄の肩書きに相応しい高水準のステータスを持つためだ。

 

 アストルフォではジークフリートの拘束を破ることはできない。

 そのようなことは彼本人が最も理解している。

 

 だが、それでも尚彼は足掻く。

 

 

 危機に瀕した目の前の命を助けるために。

 

 

 アヴィケブロン(キャスター)の宝具の炉心に使えるとその身柄を狙われ、アストルフォの手を借りミレニア城塞から脱出しようとしたホムンクルス──『彼』。

 捕縛に来たゴルド・ムジーク・ユグドミレニアに『彼』がした抵抗が、ゴルドの逆鱗に触れてしまった。

 捕縛の命令を忘れ、錬金術で文字通り鉄となったその拳で『彼』を殴り続ける。

 

(あのままじゃ……!)

 

 『彼』は戦闘用ホムンクルスではない、ただの魔力供給用のホムンクルスが自我を持っただけのモノでありその身体は極めて脆弱。

 ただの置物である筈の存在が動くこと、ましてや殴られることを想定して設計されている訳がなく、ミレニア城塞から脱出する際もアストルフォの手を借りてやっとだったのだ。

 

 そんな『彼』が成人男性の腕程の質量を持った金属の腕で殴られ続けるとどのような結末を辿るのか。想像には難くない。

 

 『彼が』嬲られる光景を見せ続けられるアストルフォは奥歯を噛み砕かんとばかりに歯を食いしばると同時に、怒りを込めて叫ぶ。

 

「キミの馬鹿マスターを早く止めろセイバー! あのままじゃ『彼』は本当に死んでしまうぞ!」

「…………」

「ボク達は確かにサーヴァント、マスターの命令に従うのは何ら不思議じゃないさ! だけどそれ以前にボク達は英雄だ! 英雄が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

「………」

「ボクはそんなことは絶対にしないぞ! 必ず──」

 

 続く筈の言葉が止まる。

 アストルフォは目を見開き、ジークフリートの無表情に変化が訪れる。

 

 彼らの目線の先にあったのは──

 

 

 ◾️◾️◾️

 

 

 

 ゴルドに殴られ続ける『彼』。

 

 『彼』は魔力供給用のホムンクルスの中でもより優れ、一流を遥かに凌駕する魔術回路を持つ彼だが、肉体の性能では人間の子供にすら劣る。

 

 重くて硬い物質で殴るとはシンプルではあるものの極めて強力だ。

 肉体性能が極めて低い彼が未だ生きているのは奇跡としか言いようがない。

 

 痛みが全身に走る。

 骨が粉々に砕かれる。

 目が潰れる。

 鼻がへし折られる。

 臓器が破裂する。

 

 全てが死に至る一撃は残酷なことに『彼』を即死へと誘わず、痛みを与え続ける。

 死に瀕し、『彼』の短い生の記憶が蘇った。

 

 

 培養槽から脱出し、這いずっていたところを助けてくれたアストルフォ。

 ケイローンのこれからの人生をどう生きるのかを考えさせてくれた助言。

 

 そして──凪斗が作り、呪腕のハサンが食べさせてくれた重湯。

 

 今でも容易に思い出せる。

 

 

 あの重湯は──彼らには申し訳ないがおいしくなかった

 

 

 ホムンクルスである『彼』は味覚が薄い。

 『急に味の濃いものを食べさせたら駄目なのでは?』という凪斗の心遣いが裏目に出てしまい、もとより味が薄い重湯が更に薄くされたことで『彼』は重湯の味を全く感じることができなかった。

 

 だけど、嬉しかったのだ。

 

 凪斗の重湯を作ってくれて、更にこちらを慮った味付けをしてくれた心遣いが。

 呪腕のハサンの重湯を食べさせてくれた際の気遣いが。

 

 涙が出そうな程に彼らの優しさが身に沁みた。

 それこそ、重湯の味がないことなど苦にもならない程に。

 

 そして、『彼』は凪斗のある言葉を思い出す。

 

『何、御守りみたいなモンだよ。どんな時でも肌身離さず持ってな。きっと、お前を守ってくれるよ』

 

 謎の鉄片にカバーなどの装飾が付けられた御守りと共に告げられたこの言葉。

 魔術関係の知識がインプットされているジークは理解した。

 

 その御守りが、高度な魔術礼装であることを。

 

 何故彼が自分にそのような物を持たせたのかは分からない。

 彼の優しさか、はたまた単なる気紛れか。

 

 だが一つだけ、凪斗が信頼できる優しい人物であることだけは分かっている。

 何のメリットもないというのに重湯を自分に食べさせ、バレたら懲罰を受けるかもしれないというのに、アヴィケブロンに自分のことを告げなかったのだ。

 

 なら、あの言葉に偽りはない。

 

 震える腕を酷使しポケットの中に手を突っ込む。

 腕を、手を、指を動かす度に激痛が走るが、構わない。

 

(俺は──)

 

 ポケットの中に入っていた御守りを握り締める。

 装飾でカバーされた出っ張りでも出血する程に硬く、強く。

 

(──生きる!!)

 

 そして、御守りに魔力を込めると同時に『彼』は意識を失い──ゴルドの拳が何かにぶつかり弾かれ、尻餅をつく。

 

「……なんだ、それは」

 

 ゴルドは理解ができないとばかりに言葉を溢す。

 

 ジークを守るように覆い、ゴルドの魔力が込められた鉄拳が弾かれた結界に対して。

 

 フィオレに続き、ユグドミレニアのマスターの中でも優秀な魔術師であるゴルドの目にはわかる。

 アレは結界の中でもかなり高度な防御結界。

 唯の魔力供給用ホムンクルスが張れるようなものではない。絶対にあり得ない。

 

 では、誰がそのような結界を張れる魔術礼装を渡した──? と、常時のゴルドなら思うだろう。

 

 しかし、今の彼はそう思わない。

 

「ただの、使い潰されるだけのホムンクルス風情がァァァ!!」

 

 彼の目に見えているのは『ホムンクルス風情が自分の拳を弾くような結界を張った』という事実のみ。

 再びゴルドは怒り狂いただ只管に拳を結界にぶつけ続ける。

 

 しかし結界はゴルドに現実を見せつけるように罅すら入らず、それがより一層ゴルドの怒りを滾らせる。しかし、拳を幾度叩きつけようが結界には通じない。

 

 その様子を見たアストルフォはより強く、ジークフリートに向かって叫ぶ。

 

「ッ、キミは……キミは今の自分に誇れるのか!? 自分が英雄だと、声高らかに叫ぶことができるのか!?」

 

「ボク達の背を見て育った彼に、その背中を見せることはできるのか!?」

 

 アストルフォの言葉。

 それがジークフリートの何かに触れたのか。

 アストルフォの拘束を解き、彼から離れてゴルドへと歩み寄っていく。

 

「あり得ない! あり得ないありえないアリエナイ!」

 

 セイバーの接近に気付かずにゴルドは只管結界を殴り続ける。

 こうしてもどうにかならないことを心のどこかでは理解しているのだろう。だが、彼の膨れ上がったプライドがそれを認めることを拒んでいた。

 

 

 凪斗が『彼』に贈った魔術礼装。

 

 その名を波濤の慟哭(カラド・クリーナ)

 

 かのフェルグス・マック・ロイのカラドボルグの一撃を防いだオハンのカケラを使用した魔術礼装であり、その機能は二つ。

 一つは強力な防御結界を張るもの。

 そしてもう一つは──

 

「ッ!?」

 

 ゴルドの拳がまたも弾かれ、もう一度撃ち込もうとした時、彼の目に突如出現した水が映る。

 水は徐々にその量を増やしていき、徐々に徐々に圧縮。一つの小さな水の玉となる。

 

「ッ、まさか!?」

 

 ゴルドは咄嗟に金属と化した腕で心臓と顔を守る。

 圧縮された水の玉は高圧水流となりゴルドの胸目掛けて向かい奔る。

 

 もう一つの機能。

 それは『オハンが打たれて悲鳴をあげた時、エリンの三大灘が呼応する』という伝承を元とした反撃機能。

 

 高圧水流がゴルドに直撃しようとしたその瞬間、高圧水流はジークフリートに受け止められた。

 

 ジークフリートはこちらを見るゴルドに、簡潔に願いを伝える。

 

「マスター、もうあの少年を嬲るのを、拳を握るのを止めろ」

「……セイバー、貴様は何を言っている。下らない冗談は」

「冗談ではない、理解している筈だ。これ以上は無駄だと。それよりも、願わくば『彼』に治療を施して欲しい。俺であれば結界を破壊でき──」

「黙れェ!!」

 

 命令が森の中に響く。

 彼の顔には、目を逸らしていたことが使い魔風情と見下していた存在に直接指摘されたことに対する怒りがありありと浮かんでいた。

 

「ホムンクルス風情が、使い魔風情が、何故私に逆らう!? 貴様らのような存在が私に意見するなどあり得ないのだ! それよりも早く結界を破壊し、あのホムンクルスを捕縛」

 

 それ以上、ゴルドの言葉が紡がれることはなかった。

 

「マスター、すまない。俺は、俺の責任を果たす」

 

 腹へと拳が入れられる。

 サーヴァントの、ましてや大英雄ジークフリートの拳は極限まで手加減しても尚強烈。ゴルドは直様気絶した。

 

 気絶したゴルドを地面に寝かせると、バルムンクを出現させ一閃。

 先ほどまでの堅牢さが嘘のように結界は破られ、反撃の高圧水流も容易く弾かれる。

 

 結界が破られてすぐにアストルフォは『彼』へと駆け寄る。

 

 『彼』の脈は既に弱まっており、出血量からして治癒魔術は間に合わない。

 

「ライダー、すまない。俺は、やるべきことを間違えた」

「その通りだよ……! それに、何でボクに謝るんだ! キミが謝るべきなのはこの子だ!」

「……反論の余地もない。俺は『彼』に対して償い切れない、幾ら謝罪の言を述べようが『彼』が俺を許すことは未来永劫ないだろう」

 

「だが──」

 

 突如、異音がアストルフォの耳に入る。

 肉が引き千切れる音が、血が勢いよく流れる音が、骨を砕く音が。

 咄嗟にジークフリートへと目を向ける。

 

「──俺は、それでも『彼』に捧げなければならないのだ」

 

 そこには──鼓動する心臓を手に持つ、英雄の姿があった。

 

 

 ◾️◾️◾️

 

  

 

「──セイバーの消滅及び例のホムンクルスの逃亡幇助。ライダーの処罰は牢への幽閉とする」

 

 ヴラド三世の厳格な声が広間に響く。

 

 原作通り、ジークフリートはジークくんに心臓を与えて消滅したらしい。

 ジーク君は『波濤の慟哭』を使わなかったのかねぇ。それとも忘れていたとか。そしたら悲しい。

 

 ヴラド三世の杭に貫かれているアストルフォに向けられるダーニックやセレニケの目は怒りに染まっている。まぁ妥当。団体戦でまさかの最優オブ最優が内輪揉めで消滅したんだからな。

 

「ライダーを連行し──」

「待て。此処でライダーを連行しては手間がひとつ増える」

「……承知しました」

 

 ダーニックの指示でホムンクルス達がアストルフォを連行しようとしたところにヴラド三世が手で止めると、俺の方へと目を向けた。

 同時に、マスターやサーヴァント達の目線がこちらへと向く。

 

 ……ま、このまま解散って訳にはいかないか。

 

「──さて、では凪斗よ。貴様には果たすべき責任があることを、理解しているな?」

「分かってますよ……アレのことでしょう?」

「その通りだ。突如空を覆い尽くした魔性の群れ。救援に来ていた赤のランサーと交戦していたという四つの人型。このことについて説明しなければ、余が貴様に寄せる信頼は堕ちることだろう。残念なことにな」

 

 それはまぁ、高く買ってくれたもので。

 まぁ当たり前と言えば当たり前だけど。自分で言うのもなんだが俺と俺に付随する戦力って滅茶苦茶優秀だし。

 

 俺は十二回の亜種聖杯戦争で蓄積した聖杯戦争の経験やサーヴァントについての知識。俺自身の戦闘力も高い。ダーニックからもアグリュトを殺したことは高く評価されたし……

 呪腕さんは気配遮断スキルのランクが非常に高く、サーヴァントとの交戦中に闇から襲い掛かる即死の『妄想心音(ザバーニーヤ)』を防ぐことは至難の業だろう。

 蜘蛛丸はサーヴァントに通用する毒(古代日本の土蜘蛛の長由来)と呪い(平将門公由来)と。

 

 ……うん、優秀!

 

「では、説明せよ」

「……今じゃないと駄目ですか?」

「無論」

 

 虚偽も言い流れも許さぬって感じだな。まぁちゃんと話しますけど!? 細工とか全然しませんけど!? 少し疲れをとらせてくれませんかねぇ……インドの時のことを思い出せば全てマシになるけどさぁ。

 

 っと、フィオレとカウレスが動き出そうとしてるな。

 

「……!」

 

 フィオレに目線を送ると無事伝わったのか頷き、カウレスを手で止めさせる。

 いずれ話さなきゃならなかったんだ。それが今になっただけの話だからな。

 

 そして俺は『決戦術式/鏡典現世・七天再臨』の説明を始めたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。