Mr.聖杯戦争in外典   作:英鈍

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説明

 

 魔術師にとって最も忌むべきことは何か。

 

 そう問われれば十人中十人、百人中百人どころの話はなく、全ての魔術師が『神秘』の公開と答えるだろう。

 『神秘』の秘匿こそ魔術師にとっての第一原則。

 知られることによってその『神秘』は価値を薄れさせていき、大衆ともなれば魔術として使える『神秘』は一部の例外を除き失われる。『人体模造』の概念が分かりやすい例であろう。

 故にこそ魔術師は箔付けや特許などの一部を除き己の研究成果を明かさず、魔術協会は『神秘』の秘匿を最大の目的とし、隠蔽の為ならば情報統制や抹殺などありとあらゆる手段を躊躇なく行う。

 

 ヴラド三世が凪斗に今求めることは魔術師や魔術使いにとって最も忌避し、憤慨する行為。己が秘術、己が最大の仕事道具を曝け出すことなど誰がするものか。

 無論、"黒"のマスター達はそのような定石破りに、そしてそれを阻止しようとしないダーニックに激しく動揺した。

 しかし、凪斗の意図を汲んだフィオレと彼女によって諌められたカウレスはまだしも、セレニケとロシェの意図は違った。

 

 『聖杯の寵愛者(ギャラハッド)』『英霊首領(ワイルドハント)』『神話観測者(ミソロジー・ウォッチャー)』。

 亜種聖杯戦争が蔓延したこの魔術世界において数多の異名を名付けられた魔術使い、明雲凪斗。

 たった二十三の若者だというのに、魔術協会のみならず聖堂教会までもが彼をマークしているという噂があるが、彼の異色の経歴を考えれば当然だろう。

 鉱石科の君主(ロード)、時計塔の発展を大きく進めたかの大天才、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが戦死したことでよりその危険性が知れ渡った亜種聖杯戦争を十二回も生き残り、更にはその半数を優勝しているという魔術師であっても到底考えられない存在など、注目されて当然としか言いようがない。

 魔術協会の観測、調査の下判明した集いし英霊達の真名を知れば尚更だ。

 

 ヴァイキング公国の創始者、徒歩王ロロ。

 ヘラクレスの弓の後継者、ピロクテテス。 

 騎士道の終焉者、エドワード黒太子。

 狂気の果てに嵐の王(ワイルドハント)と化した玉座なき王、ヘルラ。

 円卓の騎士第二席、白光の騎士パーシヴァル。

 神の鞭と恐れられし西世界の大王、アッティラ。

 イングランド護国卿、オリバー・クロムウェル。

 己をヘラクレスと僭称せし皇帝、コンモドゥス。

 ケルト最大の勇士、クランの猛犬クー・フーリン。

 ブィリーナ最大の英雄、イリヤー・ムーロメツ。

 アルカディアの悪狼王、リュカオン。

 ギリシャ三大英雄の一角、ペルセウス。

 

 これぞ一騎当千、万夫不当の英雄達。

 正に神話の戦いの再演。

 このような英霊達による戦いなど、現代の人間が想像できるような領域にはいないだろう。

 

 それに加えてマスターでさえも異常な程に質が高い。

 ギガースの末裔であるパレネ家の最高傑作、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われるアグリュト・パレネ・ギオスセファルを筆頭に、典位(プライド)の魔術師や三大貴族の分家の筋、ノウブルカラーの魔眼保持者に数多の代行者を退けた悪名高き死徒。

 

 そのような戦いをおよそ五歳の頃より参加し、生存し、時には優勝した。

 

 確かに頼もしい。これ以上はない、至上と言っても全く過言ではない助っ人だ。

 ダーニックがあそこまで歓喜する程の成果を必ず挙げることだろう。魔術協会選りすぐりの"赤"のマスター達に劣ることも決してないだろう。何せ彼自身も一流、己達よりも戦闘に特化している魔術使いなのだから。

 

 だが、フィオレを除いたユグドミレニアの面々は凪斗はサーヴァントに対抗できる手札はないと考えていた。いや、そのようなことを考えることすらなかった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 それこそが聖杯戦争における大前提。如何様にもできない鉄則。

 圧倒的な差がサーヴァント(彼ら彼女ら)との間にあり、その戦闘に直接介入することなど自殺行為に等しい。凪斗が幾度も優勝できたのは召喚したサーヴァントが強かったことに彼の手腕や積み重ねてきた知識に魔術、そして運命力によるものだとユグドミレニアは考えていた。

 実際に彼のサーヴァントの多くは強力であり高潔。裏切りなど余程のことがなければ考えないであろう強者達であり、シグルドやアーラシュ、アシュヴァッターマンなど大英雄が数多くいる。

 その想定は事実であった。

 

 だが、その上で、前提は無に帰した。

 

 かの大英雄カルナを相手に長時間の足止め。

 それ即ち、()()()()()()()()()()()()手段が明雲凪斗個人に、人間にあるということ。それも、サーヴァントの中でもトップクラスの者を相手に可能性がある程の。

 引き込んだ存在がよりにもよってサーヴァントを倒せる程の力を持っている程の規格外──例外の存在であった。

 

 ならばその手札を、魔術における大原則を破ってでも"黒"のマスター達は知らなくてはならない。

 何れ、争うことになるのだから。もしその手札に関する一切の情報が、例外足り得るタネが明かされていなかったら、"赤"の陣営を潰した後、あっという間に自分達は敗北してしまう。

 故にこそ知らなければならない。

 少しでも、勝機を掴み取るためには。己の願いを叶えるためには。

 

 

 ──とは言っても、その手札の真相は彼らの予想を遥かに上回るのだったが。

 

 

 ◾️◾️◾️

 

 

 ミレニア城塞広間。

 ホムンクルス達は部屋から退出させられ、残ったのはゴルドと脱落したジークフリートを除く"黒"のマスターとそのサーヴァント達。

 その目線は広間の中央にいる一人の人間に向けられている。

 

 アサシン・ハサン・サッバーハと彼の息子(使い魔)である蜘蛛丸を両脇に侍らせる、赤い外套を纏う人間──この中で唯一の東洋人、明雲凪斗へと。

 

 好奇や恐怖など様々な感情が込められている目線を向けられる中でも、彼はそのようなものは些事だと言わんばかりにいつもと変わらない、自然体で口を開く。

 

「えぇまぁ、アレに関しての説明はしますよ? ですが、詳しく事細かに説明するなんてことは流石にしませんよ、というか何されようがしません。あくまで最低限の説明、そこら辺は流石に譲れません」

 

 凪斗の要求は当然のことだ。

 己が魔術の解体を自ら行う魔術師魔術使いなどこの世に存在しないだろう。

 彼以外の者からしてみればアレ──英霊の頂点の一つと言っても過言ではない大英雄を長時間足止めしたモノの詳細を隅々まで知りたいものたが、そうはいかないのが魔術のルール。

 そのような各々を代表するように、ヴラド三世が言葉を紡ぐ。

 

「当然よ。そこらの領分は弁えておる。余を誰と心得ている?」

「あのメフメト二世すらも退けた王ですけど?」

 

 即答。

 一秒の間もなく返ってきた賞賛に、そしてその言葉に媚がなく本心であることに対しヴラド三世はくつくつと笑った。

 

「世辞ではなく、心の底から斯様な言葉が出るのが貴様の美点よな」

「やだなぁ、そんなに褒めても蜘蛛丸の糸しか出ませんよ?」

「ッ!?」

 

 唐突に己のことを言及された蜘蛛丸は驚き、己の糸を出す器官と凪斗を八つある目を忙しなく動かして移す。

 使い魔にしては人間味のある行動に周囲の者は目を見開き、凪斗は呆れたような目を向ける。

 

「いや今ここで出せって訳じゃねぇよ……」

「◾️◾️◾️……」

「すまんすまん」

 

 安堵したような声を出す蜘蛛丸の背をポンポンと叩くハサンを横目に、彼は話を続ける。

 

「後言っておきますけど、アレについて他人に話すことはよしてくださいよ? 話したら全力で叩きのめして契約(ギアス)結ぶだけですから。いやまぁ、サーヴァントを殺せる()()なら別に構わないですけど」

「サーヴァントを殺せる()()、か……くくく、貴様の全力を一度はこの目で見てみたいものだな」

「この場で俺を殺しにかかってくれば見れますよ?」

「ほう……」

 

 凪斗の言葉を皮切りに空気が張り詰める。

 

 ヴラド三世の目は据わり、ハサンの気配が希薄になり、凪斗の深い碧の瞳の片割れが紅く染まる。

 蜘蛛丸の上半身の頭部に巻きつけられた()()がはためき、胸部が裂けて悍ましき神秘──土蜘蛛にあるまじき神性を宿す単眼が外の世界を徐々に覗いていく。

 サーヴァント達は各々戦闘態勢を取り、凪斗の手に白を基調とした硬質なアタッシュケースが()()()()出現し、首に提げられたネックレスの宝石が赤く光る。

 彼の背後からは巨大な骨の腕が薄らと現れ、前方には牙に仏教の経文が彫られた巨大な猪と額に捩れた一本角を生やした老練な顔つきの巨大熊が現界した。

 

 その空気にマスター達は冷や汗が流れ、息を呑んだその時──

 

「冗談はよせ。貴様が今ここで抜ける穴はセイバーの脱落に匹敵、いや凌駕するかもしれぬからな」

 

 ──その空気は一気に弛緩した。

 

 サーヴァント達は戦闘態勢を解き、蜘蛛丸の胸部から現れた単眼は収められる。

 凪斗の瞳は元に戻り、骨の腕も消えていく。

 その空気に猪は困惑し周囲を見渡すと熊にぶたれ、そのまま二匹の現界に困惑の目を向ける凪斗に向かって一礼した熊と共に猪──凪斗により作られた戦闘霊は退去した。

 

「そんなに大きく評価してくださって何よりですよ。まぁ、"赤"の陣営を潰した後に見れるかもしれませんけど」

「では、その時を楽しみにするとしようか」

 

 マスター達は戻った空気にホッと一息をつくが、その安息はほんの僅か。

 

「そんじゃそろそろ、本題に入るとしましょう」

 

 ──そう、本番はここから。

 

 各々は一言一句聞き逃さないように気を引き締める。

 

 一体どのようなモノなのか。

 アレの正体は如何なるモノか。

  

 そして、その存在の正体が明かされる。

 

 

「アレらの名前は鏡典英霊。俺が契約してきたサーヴァントの劣化存在。まぁ文字通り劣化したサーヴァントですね」

 

 

 静寂が広間を支配する。

 その正体は、彼ら彼女らの想像を超えていた。

 

 しばらく保たれた静寂を破ったのは、セレニケの怒声だった。

 

「そんな術式、並の、いや、例え一級品の呪体でも受け入れることができる訳がないでしょう!?」

 

 彼女の言うことは正しい。

 現代の魔術師がサーヴァントを召喚し現界させるということは例え劣化している状態であっても非常に難しい。

 既に神秘の薄くなっている現代で英霊を召喚し現界できているのは、大聖杯という超抜級の代物とその模造品である亜種聖杯があるからだ。

 神秘の薄いこの時代で聖杯無くして英霊を召喚するのは、例え冠位(グランド)の資格を持つ魔術師の英霊であっても困難だろう。

 

 だが──

 

「……いや、ある」

 

 ダーニックが呟く。

 その言葉を聞き逃さず、一同はダーニックへと目を向ける。

 

 そう、あるのだ。

 英霊の劣化存在を召喚するに相応しい呪体を、凪斗は所有している。

 

「──亜種聖杯だな」

 

 凪斗の人生の半分と言っても過言ではない亜種聖杯戦争の戦利品を。

 そのダーニックの答えを、凪斗は首肯する。

 

「えぇ正解ですよ。まぁ他にも色々ありますけど」

 

 そう、亜種聖杯のみならず他の一級品の呪体も使用されている。

 英霊達に許可を取りその霊基を明雲家家宝の鏡に記録した霊基鏡ヴァルクルム。

 英霊達の霊基を安定化させるためにアルゴー号の竜骨と残存令呪が使用され、魔力を亜種聖杯炉と聖杯回路が補い、その召喚術式も凪斗の努力と英霊達が与えた助言が実用できる段階への道を開いた。

 

「縁に恵まれた。この一言に尽きますね。まぁ、良縁ばっかって訳じゃなかったですけど……」

「それが人生というものだろうよ」

「違いないですねぇ」

 

 談笑を繰り広げる凪斗とヴラド三世の傍ら、他のマスター達はその正体に冷や汗を流し、ダーニックはあることを後悔していた。

 

(失策だった……!)

 

 明雲凪斗に()()()()()()()()()()()()を。

 

 明雲凪斗にアサシンを召喚させたのは、何も既に他のマスターがどのクラスを召喚するか決めていたからでは断じてない。"赤"の陣営に確実に勝利するためには最も優秀なマスターに最優たるセイバーなどを召喚させた方がいいだろう。

 だが、ダーニックはアサシンを召喚させた。

 

 

 "赤"の陣営を潰した後、ユグドミレニアではない彼を始末することを容易にするために。

 

 

 セイバーやランサーなどの英霊の多くは忠義者であり、マスターである彼を始末する時は非常に強大な障壁となるだろう。故にこそ正面戦闘が不得手なアサシンを召喚させた。

 それに加えて本人の実力も魔術使いとして非常に高いが、己に及んでいる可能性は低いと考えていた。蜘蛛丸の存在は想定外であったが、ランサーならば問題ないだろうと、そう、高を括っていた。

 

 しかし、鏡典英霊の存在で全てが破綻した。

 

 劣化と言っているが、かのスーリヤ神の御子カルナを相手に複数で足止めできる程となればかなり元の状態に近いだろう。宝具の真名開放については不明だが、何割かの再現ならばできている可能性が非常に高い。

 そしてサーヴァントを殺せる()()と発言したということは、他にもサーヴァントに対抗できる手段を持っているということ。つまりランサーで殺そうとしても、上手くいかず鏡典英霊を召喚され、逃げられる可能性がある。

 そして起きるのは、劣化している状態ながらも大英雄を数騎相手にしながらもアサシンの暗殺と対魔力Bを容易く貫通する呪毒を警戒しなければならないという不利な戦だ。

 

 

 引き込んだ存在が、よりにもよってサーヴァントを殺せる手段を複数持っていることなど想像できるか!

 

 

 それがダーニックの心境であった。

 

(しかし、まだ策はある)

 

 そう思いながら、ダーニックはフィオレへと一瞬だが目を向けた。

 

 ダーニックがそんなことになっているのも露知らず、ヴラド三世との談笑を終え、広間から退出する凪斗は、寸前で足を止め少しだけ振り返る。

 

「っとそうだ。もう一度言っておきますけど」

 

 瞬間、凪斗の雰囲気が異様なモノへと変わっていく。

 

 

 

「鏡典英霊のことは他言無用」

 

  

 

 人間のものではなく魔性のものへ。

 その瞳は()()に連なる者であることを現す紅へと染まっていくと共に、彼の半身を半透明の、黒雷迸る魔力が覆いカタチを成していく。

 半身に覆う魔力は刃すらもいとも容易く弾く獣皮へと、腕を覆い足に纏う魔力は肉を容易く抉り取る獣の鉤爪へと、そして顔を覆う魔力は鉄するも噛み砕く威容の狼の顎を模していた。

 

 

 

「もし誰かにそのことを話したらどうなるのか」

 

 

 

 獣性魔術。

 獣の狂気へと引き摺り込まれることを代償に人へと獣の力を降ろす魔術。

 だが、感じ取れる力は獣どころか並の幻想種ですら太刀打ちできない、サーヴァントにすら対抗できるのではないかと思わせるような。

 そう、まるで原初の人狼が如き威容。

 

 

 

「さっき話しましたし、賢明な貴方達ならよーくお分かりだと思いますので」

 

 

 

 ケイローンは想起する。

 その黒雷から感じ取れる気配は、彼が教鞭を執ってきたとある生徒から感じた神性によく似ている。

 その生徒の名は、ヘラクレス。

 それ即ち、ギリシャの全能の大神の──

 

 

 

「そこら辺、よろしくお願いしますね?」

 

 

 

 そして凪斗は、金糸で八咫烏の印が刺繍された外套を翻させ、ハサンと蜘蛛丸を従え退出する。

 

 

「……成程、嵐の王(ワイルドハント)、か」

 

 

 静寂に包まれた広間に、ダーニックが溢した言葉が響いた。

 




ちなみに名前があがったサーヴァント達の対戦カード

シグルドvsピロクテテスvsロロ
シグルドvsロロ
ローラン&ダレイオス三世vsエドワード黒太子&ヘルラ
ローランvsエドワード黒太子
ダレイオス三世vsヘルラ
アーラシュvsパーシヴァル
◾️◾️&オリバー・クロムウェルvsアルテラ
テセウスvsトリスタンvsクー・フーリンvsコンモドゥス
テセウスvsコンモドゥス
◾️◾️◾️◾️◾️&ピョートル大帝vsムーロメツ
◾️◾️◾️◾️◾️&ヘクトール&鏡典英霊七騎vsペルセウス
凪斗&蜘蛛丸vsリュカオン
◾️◾️◾️◾️◾️vsリュカオン

え、一つおかしいのがあるって?
気のせいでしょう多分きっとメイビー。

気になったのがあったら感想で教えてくれ!(感想乞食)
作者はテセウスvsコンモドゥスはなんか面白いことになるだろうなと思ってる!
後エドワード黒太子はアーチャーでの現界で『騎士道の終焉者』としての側面が強調されて騎士特攻の宝具を持っていたり、不死隊とワイルドハントの軍勢争いでダレイオスが「あやつに比べれば貴様なんぞそよ風よ」とか言ったりと色々妄想したり……みんなも一緒に幻覚見ようぜ!
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