Mr.聖杯戦争in外典   作:英鈍

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お久しぶり
鏡典開演までのネタバレがあるから読んでない人はそっち先に読んでね


とある夜/朝の誓い

 

 夜のフランスのとあるホテル。

 そのホテルは俗に言う『お高い』『高級』と言えるホテルであり、用意されている部屋は高級感溢れるものだ。

 

 しかしその部屋の中では──信じ難く、その雰囲気に見合わない光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

『ッシャア! 後一枚!』

『UNOって言ってないぞ』

『………あ』

『あーあ。やっちまいましたね』

『……いや、言ってた! 多分言ってた! そうですよねマスター!』

「うんにゃ。言ってなかったぞ」

『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?』

 

 

 

 

 ──そう、古めかしい鎧を纏った人間の全身骨格達が、日本人の子供とUNOをしていたのだ。

 

 UNOの有名なルールである『UNOを言う』。

 そのことを忘れてしまった全身骨格──不死隊(アタナトイ)の一人が天を仰いで嘆きを上げる。全身骨格のため発声はできないのだが、念話による意思疎通は取れており、その嘆きに子供──現在十歳の凪斗は苦笑する。

 

「まぁよくあることだよ。俺も何回かやらかすしな。はいドロー2」

『ドロー4』

『私もドロー4で』

『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?』

 

 今この場でやっているUNOではドローカードの重複はアリらしい。

 見事に回って来たドローラッシュに返す事が出来ず、不死隊はカードを十枚引くことに。

 先程まで上がれる直前だからと調子に乗っていた様子とは一転、UNOを言い忘れたことを皮切りに訪れた不幸に一同は笑いを堪えきれなかった。

 

「ハッハッハッ! 流石に可哀想だな!」

『『草ァ!!』』

「……何で知ってるの?」

『『マスターから教わりました』』

「俺だったかぁ……」

 

 凪斗とその護衛役を任された不死隊達の仲睦まじい交流。

 

「……良き酒だな。味、喉越しは悪くなく、何よりも香りが良い。生前には味わわなかったが、これは悪くない」

「ハッハッハッ! そりゃ良かった! かのダレイオス三世に認められたとなりゃあ、この酒を作った奴も喜ぶだろうよ! 後で伝えておくわ!」

 

 その風景を凪斗の祖父──明雲嵐吾郎(らんごろう)と、凪斗のサーヴァントであるライダー・ダレイオス三世が見守りながら、共に酒を呑んでいた。

 このホテルの天井は高い方であり、バーサーカー時に比べれば些か縮んだ背丈だが、それでも尚彼は三メートル弱、征服王イスカンダルが認める程の偉丈夫。側頭部から生える双角も相まって少し窮屈そうだが、本人の顔色からそのようなことは察せず、生前味わうことがなかった酒を楽しんでいた。

 

「知己か?」

「応よ! どんな時も支え合った(ダチ)だ!」

「そうか。良き友を持ったな」

 

 嵐吾郎は笑いながら酒を飲み、ダレイオス三世は静かに酒を飲む。

 対照的だが、肴に伸びる手の速度は然程変わっていなかった。

 

 時が経ち、凪斗達の遊びがUNOから大富豪へと変わり、肴の数もかなり減ってきた頃、ダレイオス三世がマスターへと声をかける。

 

「マスターよ。そろそろ就眠した方が良いぞ」

「えぇ……セイバーとの決戦もあと三日はあるじゃん。もうちょい良くない?」

「駄目だ」

「その通りだぞ凪斗ぉ! 寝なきゃデッカくなれねぇからな! ま、オレはもうちょい呑むけどな!」

「爺ちゃんだけ狡い……わかったよ」

「不死隊」

『『『御意』』』

 

 ダレイオス三世に従い、散らばったカードを片付ける不死隊達。

 凪斗が歯磨きをし終わった頃にはすっかり片付けられていた。

 

 一方、嵐吾郎は酒や残った肴を集め、何処かに出かける準備をしていた。

 

「あれ、爺ちゃんは何処にいくのさ」

「オレは知り合いんところでもうちょい呑んでるわ! オマエのおねむの時間を邪魔しちゃあいかんからなぁ! ダレイオスさん、孫のことはよろしくな!」

「任された。我が身に代えてでも、我がマスターの身を守ろう」

「応! それじゃあ凪斗、おやすみ!」

「うん、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 起床。

 夢を見ていた凪斗は、そのパジャマを汗でびっしょりと濡らしていた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 とある夢を見ていた彼は恐怖に襲われる。

 英雄に教わったように、自分が助けられた英雄のように笑おうとするも、できない。

 

 歯はガチガチと恐怖で動き、汗は大量に湧き出し、脳内では自分が──

 

 

 

 

(やだ。やだ、やだやだやだやだやだやだ。◾️にたくない◾️にたくない◾️にたくない! たすけてたすけてたすけてたすけてたすけ、て──)

 

 

 

「どうした、マスターよ」

「……ダレイ、オス」

 

 己のマスターの異常を察したのかダレイオス三世は凪斗へと歩み寄る。

 三メートル弱の巨躯に強面と、普通の子供ならば大泣きする彼の外見だが、転生者であるため精神年齢と肉体年齢が合わないのと、共に戦ったことでバーサーカーの時に片鱗しか読み取れなかった彼の性格を理解できた凪斗はその姿に安堵すら覚える、が。

 

「いや、何でもないから、大丈夫……」

「…………」

 

 これに関しては己の問題。

 自分が克服しなければならないこと。

 ダレイオスに話すことではないと判断した彼は、明らかに嘘だというのに大丈夫と言い放ち、ベッドに横になる。

 

 それを見たダレイオスは──

 

「マスター。少し、話をしたい」

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ……!」

 

 誰もいない夜の丘。

 ダレイオスに言われるがまま、人払いの結界を張る礼装を持ってきて、言われるがままに来た場所は、目を輝かせるには十分だった。

 

 満天の星。

 光が一切ない黒い空に彩られた数々の輝き。

 一つだけであれば微かなものだが、数多集まればこんなにも輝くことができるのか、と凪斗は思った。

 

 星々に圧倒される凪斗に微笑みながら、ダレイオス三世は言葉を発する。

 

「マスター。貴様がどのような夢を見たのか、余が知ることではない。だが、これだけは知っている」

 

「マスターがどのような生を歩んだかを」

 

「……そっか。見たか」

「うむ」

 

 マスターとサーヴァントの間には魔力経路が繋がれている。

 通常は経路を通じて魔力を供給するが、そこから通じてマスターの意識が曖昧になった時、経路を通じてマスターはサーヴァントの過去を見る。実際に、凪斗はダレイオス三世の他にも、金時やシグルドの過去も見ている。

 そして、それは逆も然り。

 

「……俺の体質については話したよな」

「『聖杯戦争に巻き込まれやすい』。マスターの前世、とある上位存在に殺され、この世へと産まれる際に押し付けられた、だったか」

「その通り。ブリュンヒルデさんを知ってるから、一概に神はクソって言えないけど、あの女神はクソだってことは言える」

 

 ブリュンヒルデに頭を撫でられた感触は今でも思い出す程に優しかった。

 

 しかし、あの女神は擁護すらできないクソだと言える。何せ、十数年そこらしか生きていない小僧でも分かる程に『嫌な奴』の雰囲気が滲み出ていたのだ。

 ラノベの主人公みたいに『人間観察』みたいな趣味など持っていない自分でも分かったのだ。絶対に碌でもない。

 

「唯一礼を言えるとしたら、お前らに会えたってことだけだな」

「ふっ、そう正直に言われると、中々嬉しいものだ」

「そうかい。俺はちょっと恥ずかしくなってきたところだ」

 

 凪斗が少し赤くなった顔を手で覆って隠すと、ダレイオス三世は揶揄うように、穏やかに笑うも、その笑みはすぐさま消え去った。

 

「多分、これからも俺は聖杯戦争に巻き込まれるんだろうさ。俺がここまで生きて来れたのは運が良かっただけに過ぎない。金時、シグルド、そしてお前。めちゃくちゃ強いサーヴァントを召喚できて、蛍姉さんやローランみたいに同盟相手にも恵まれた。それにシグルドからは短剣にルーンストーンも貰った。蛍姉さんには鍛えてもらっている。でも」

「怖い、か」

「その通りだよ。怖い、怖いんだ。でも、絶対に巻き込まれる。多分、俺は戦わなくちゃいけない。戦わず、なんてことはできないんだ。シグルドの短剣もルーンストーンも通じない相手を俺は知っている。もし、そんな奴らが現れたら俺は死ぬ。金時に言われたように笑う努力はしているんだよ。実際に笑ったら恐怖は紛れたさ。でも、それ以上の恐怖が襲ってきて、夢の中でも俺は──」

「マスター」

 

 短く、しかし力強い声。

 彼の滲んだ視界に、わざわざその巨躯を彼の小さな身体に合わせて屈み、目線を合わせたダレイオス三世の顔が映った。

 

「マスター。その通りだ。その通りだとも。マスターのこれからの人生には、途轍もない苦難がマスターを食らおうと待っている。それは、余であっても挫けそうなものなのかもしれない……その上で言おう」

 

 

 

「負けるな。立ち上がれ」

 

 

 

「────」

 

 

 その言葉は誰でも言える。

 

 

 だが、それを言ったのがダレイオス三世ならば──

 

 

 征服王イスカンダルを相手に幾度も立ち塞がった不撓不屈の王が言ったのならば──

 

 

「だが、それでも尚挫けそうになったのならば、絶望し心が折れそうになったのならば」

 

 

 

「その時は──」

 

 

 ◾️◾️◾️

 

 

「…………ハッ」

 

 起床。

 懐かしいものを見たなと彼──現在二十一歳の明雲凪斗は笑う。

 

 此処は京都に建てられている明雲家が所有する、魔術工房でもある別荘の一つ。彼の見目としては古き良き日本家屋。

 此度の京都亜種聖杯戦争においての彼の拠点である此処は、今までの亜種聖杯戦争で最も彼の実力を発揮できる場所と言えよう。

 

 眠りから覚めたばかりの彼の耳に、ズシンズシンという重い音と浪漫に溢れた駆動音が入る。

 

「我がマスターの起床を確認。身体状態を解析……解析結果『快眠ではなかった』」 

「勝手に解析するなよ……その通りだけど」

「むぅ……我が行動に否があったと理解。済まなかった、マスター」 

 

 彼の今回の亜種聖杯戦争でのサーヴァント、アーチャー・源為朝

 為朝は魔力消費が極めて多いサーヴァント。

 しかし、聖杯回路を持ち膨大な魔力を秒単位で生成できる凪斗の手によって、文句なくトップサーヴァントと言える強敵達相手に彼はフルスペックで戦えていた。

 

「まさか夢の中で夢を見るとはな……」

「多重夢、ストレスや疲れなどが原因で起きる現象。この身には起こり得ないものだが、マスターの身に起きても仕方ないと推察」

「そりゃあな……」

「◾️◾️」

「お、ありがとな蜘蛛丸」

 

 蜘蛛丸から運ばれたお茶を飲みながら凪斗は回想する。

 

 京都亜種聖杯戦争は正に魔境。

 

 セイバーは平安最強の怪異殺し、源頼光。

 アーチャーは鎮西八郎、剛勇無双たる源為朝。

 ランサーは戦国最強の一人、本多忠勝。

 キャスターは修験道の開祖である神変大菩薩、役小角。

 バーサーカーは鬼の頂点の一つ、陸奥の悪路王。

 

 数多の亜種聖杯戦争を経験した凪斗であっても『えぇ……田村麻呂とかヤマトタケルとか秀郷さんがいないだけマシ、ではないなクソゲー!』とコメントした程。

 ちなみに他マスターからは『聖杯の寵愛者(ギャラハッド)が源為朝召喚とかクソゲーじゃねぇか/じゃない!』とコメントされている。日本英霊における最上位層を召喚した時点でどっちもどっちである。

 

 そして現在はセイバー・源頼光とアーチャー・為朝のみであるが、それまでに至る過程は……

 

「いやホント……よく生きてたよなぁ俺ら」

「同意……」

「◾️◾️……」

 

 凪斗は疲れ切った目で虚空を見つめる。為朝と蜘蛛丸も同様だ。

 

「我が矢が切り裂かれる日が来ようとは……弾かれるなどのパターンは想定していたが、真正面というパターンは我がデータベースにおいての検索でもヒットせず。得難い経験であったが、端的に言おう。ゾッとした」

「結構な魔力込めた筈だったよな、あの時」

「通常の八割増しであった」

「結構どころじゃなかった。やっぱ平安も戦国も何もかもおかしいよ……蜘蛛丸も殺されかけたし」

「◾️◾️……」

「咄嗟に将門公の呪を出して良かったな本当。お前が殺されちまったら滝ちゃんに面目が立たないからなぁ……」

 

 蜘蛛丸は彼のサーヴァントであった滝夜叉姫と共に作った、凪斗にとって子供のような存在であり、滝夜叉姫は前世を含めて凪斗が◾️◾️をした相手。

 蜘蛛丸が殺されそうになった時、彼はかなり焦った。それはもう焦った。為朝と蜘蛛丸と共に無事に帰還した時は蜘蛛丸に抱きつき泣いた程であった。

 

「まぁこうして生きてんだ。後はセイバーに勝って、亜種聖杯を手にするだけ。と言っても、俺はほぼ叶える願いなんてないんだけどな! 為朝が全部使っちゃっていいよ! ぶっちゃけ、一年後くらいには()()あると思うし。な、蜘蛛丸」

「◾️◾️」

(マスターの体質……難儀なものと再推察。否、再確信)

 

 凪斗が体質と説明しているものは、とある世界のとある女神に勝手に殺され勝手に押し付けられた転生特典である『聖杯戦争に巻き込まれやすい』。

 聖杯戦争という人外魔境の戦いに幾度も巻き込まれる運命など、人の身には到底耐え切れない過酷なものだと、為朝は思った。

 

 為朝の反応を見て凪斗は笑う。

 

「そんな反応しなくていいよ為朝。これでも楽しんでるんだぜ? どんな英雄と会えるのかとか、どんな英雄と共に戦えるのかとかな! 時々クソッタレって思うけど──」

 

 

 

「──蜘蛛丸やお前と会えた。それだけで、俺は幸せ者なんだよ」

 

 

 

「──」

 

 

 蜘蛛丸を撫でる凪斗を見て為朝は思う。

 

 それは本当のことなのだろう。

 私と会えた。それだけで嬉しい。

 それは真実。彼の本音。

 

 だが──

 

 為朝は知っている。

 彼が歩んできた過酷な道筋を。

 幾度も死ぬような思いをしてきた彼の生を。

 自分のせいで敗北した英雄の腕の中で、涙を溢れさせながら共に笑う幼き彼を。

 巨神を復活させようとする巨人を倒すため、己の腕が千切れてもなお竜殺しの剣を打ち込んだ彼を。

 自分が抱える◾️◾️に突き動かされ、絶死の霧を走った彼を。

 何よりも──己が真に叶えたい願いを叶えられず、慟哭する幼き彼を。

 

 彼はこの世界を知っていたという。

 だが、百聞は一見に如かず。

 怖かっただろう。恐れただろう。辛かっただろう。

 知っていたからと、映像で見ていたからと、しかしそれは現実とは違う。

 肌で感じた暴威は、彼を恐怖へと陥れたに違いない。

 

 

 しかし、彼は笑っていた。

 

 

 誰よりもヒーロー(英雄)である漢に諭された彼は、誰とも知らない己を、何の事情も知らないというのにその身を捧げて守った叛逆者(英雄)のように笑い、突き進んだ。

 

 

 そこに至るまでに、どれ程の苦難と苦悩があったのか──

 

 

 

「──マスター。我が今世の主、明雲凪斗よ」

「ん?」

 

 

 

 ならば──

 

 

 

「マスターのこれからの道先には、多くの苦難が待ち構えていることだろう。その渦中にて、絶望し心が折れてしまった時は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私を呼んでくれ」

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その時、我が剛弓、我が機体の全機能全兵装を以って、マスターの敵全てを薙ぎ払うことを、此処に誓おう」

 

 

 為朝の誓い。

 それに対して凪斗は─

 

 

 

「──ハハッ」

「……? どうした、マスター」

 

 

 

 顔を手で覆って、笑った。

 

 

 

「いや、何。少し思い出してな」

 

 

 

 思い出すは、共に戦った英雄達。

 

 坂田金時。

 シグルド。

 ダレイオス三世。

 アーラシュ。 

 ユーウェイン。

 ◾️◾️。

 クロムウェル。

 滝夜叉姫。

 藤原秀郷

 テセウス。

 ◾️◾️◾️◾️◾️。

 ◾️◾️◾️◾️◾️。

 

 

 

「何で、俺のサーヴァント達は揃いも揃って──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を覆った手からは雫が零れ落ち──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──おんなじことを、言うのかなぁ……!」

 

 

 

 

 

 その声は紛れもなく、震えていた。 

 

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