うるせぇ! ジークくんのところをまだ悩んでんのじゃあ!
というわけで番外編です。ごめんなさいね。
万が一が、起きようとしている。
草の根一つすらない荒れ果てた野。
この荒野が元は草木生い茂り緑に溢れた長閑な草原であったとは誰も思わないだろう。
荒野と化した元凶。彼女のマスターの手により白き巨神となりつつあるセイバー・アルテラ。
彼女は荒野に続き周りの文明という文明を侵食し、己の糧とすることで未だ成長を続けている。
これ以上の成長を阻止するべく、三騎のサーヴァントと彼らのマスターが協力し戦っていた。
オリバー・クロムウェルの『王殺し』の異名が昇華された宝具による弱体化、蘆屋道満とマスター達による最大限の強化、クロムウェルの鉄騎隊達による支援を受けた呂布奉先の力を以って尚アルテラは止まらない。
そのような英雄達による世界の滅亡を防ぐための決戦の裏には、この戦いの勝敗を分けるもう一つの死闘があった。
アルテラのマスター、アグリュト・パレネ・ギオスセファルと、クロムウェルのマスター、明雲凪斗の戦い。
ギガースをルーツに持ち、その力は封印指定執行者や代行者に匹敵すると言われる力を持つアグリュト。
数多の聖杯戦争を生き残り、時には優勝。雑賀孫一に鍛えられたことで強靭な肉体と雑賀の戦闘技術を習得し、レムナント・コードという強力な手札を持つ凪斗。
その戦いの結果は──
「想像以上にも、程があったな……」
「…………」
──アグリュトへと、軍配が上がりつつあった。
肩で息をするアグリュト。
彼が纏っていた魔獣の皮を材料に作られ魔術防護が施された衣服はところどころ裂かれ、その筋骨隆々とした強靭な肉体が晒されている。
彼の肉体に刻まれた数少ない古傷は開き、古傷を容易く凌駕する数十を超えた新たな傷が幾つも付けられ出血。再生阻害の呪詛もあってか今治すのは厳しい。
特に目を引くのは彼の顔の傷だろう。
四十代後半の歳に相応しい精悍な顔の左目に、斜めに傷が走っているのだから。
左目より流れ出る血。
凪斗のシグルドより贈られた短剣により左目を深く斬られたことでアグリュトは左目の視力を完全に失ってしまった。
しかし、他に目立った傷がないことが彼の実力の高さを示していた。
一方、地に転がり伏せる凪斗。
重傷深傷大怪我致命傷襤褸雑巾──言葉では形容できない程の傷。
本人に言うことはないだろうが、
三つの原初のルーンストーン全てをサーヴァント達へと貸したことが仇となったのか、誰がどう見ても、魔術刻印によりかろうじて生き長らえているだけの状態であった。
「よもや……ここまでとはな……」
アグリュトは凪斗を賞賛する。
己は紛れもなく強者。
敗北はあったがそれも極小数にして上澄みも上澄み。
己の父に祖父。そして埋葬機関の代行者など、己からしてもおかしいとしか言えないような化け物達だけだ。特に埋葬機関はよく自分でも生き延びられたと思う。
しかし、凪斗という存在はアグリュトに死を予感させ、彼の持つ巨神因子を解放させるまでに追い詰めた。
その事実を知ってパレネ家の者達が、魔術師達が、聖堂教会の代行者達がどれ程驚くかこの青年は理解していないだろう。
「さて……これも我が太祖復活のためだ。別に恨んでも構わぬがな」
吹き飛ばされたことでアグリュトから少し遠い位置にいる凪斗。
アグリュトはその分厚い拳を硬く握り歩み寄る。
目の前で再契約をしたため確証は取れており、ライダーが崩れたその瞬間保たれている均衡は一気に瓦解することだろう。
しかし相手は数度の亜種聖杯戦争を生き延びてきた者。最後まで何をしてくるか分からない。
警戒しながら徐々に、徐々に近付き── 瞬間、アグリュトは直感に従い身を捻る。
「ッ!」
アグリュトの脳天があった位置を通過する弾丸。遅れて鳴る発砲音。
咄嗟に凪斗の方に目を向ける。
そこにあったのは倒れ伏す凪斗の姿などではなく──
「……チッ、今のを躱すのかよ」
「……!?」
──膝を突き、硝煙を銃口から漂わせた銃を持つ凪斗の姿があった。
動揺。
瞳孔が驚きで拡大する。
あれ程の傷を負わせたというのに立ち上がる凪斗に対して息を呑み、何故立ち上がれたか考察するアグリュト。
(何故、立ち上がれる? あの一撃は我が生において、あの代行者に食らわせたものを凌駕する、最高と言っても過言ではない一撃。あの御方の顕現による因子の共鳴による強化すらあったのにだ。何故──)
アグリュトは一つの答えに辿り着く。
魔術界においてそのようなことを成し遂げる魔術というのはあるのだろう。しかし凪斗の魔術は『鏡』。そのような芸当はできない。
なら、広まっているものであり、尚且つ容易く入手できるものと限定できる。
となれば答えは一つ。
「──霊薬か……無茶をする。あれ程の傷からの全癒。大きな代償があるだろう。何故──」
「無茶、ねぇ……テメェふざけてんのか?」
凪斗はアグリュトが発した『無茶』という言葉に反応し青筋を立て、怒りの形相となる。
「今この場で、無茶をしていない奴なんていねぇんだわ。サーヴァント達もマスター達も、死力を尽くして戦っている。ましてや、俺は巨神の要石であるテメェの始末を任された。だけど、しょーじき認めたくはないが、テメェは俺より格上。なら──」
凪斗はニィと、かつて己を救ってくれた叛逆者のように笑い、その事実を、霊薬の代償を告げる。
「寿命を削る程度、無茶の度合いには入らねぇだろ?」
「ッ!?」
アグリュトは戦慄する。
寿命を削るということは日々生きるだけで行われている。
だが、
「貴様……子は!? 貴様の跡を継ぐ子は!? 貴様の子を産む女はいるのか!?」
「ンなのいる訳ねぇだろぉ! こちとら十五だぞ!? それにこんな厄介な体質のせいで生涯童貞はまだしも生涯独身確定路線なんだよバーカ! 自分で言ってて泣きそうになってきたけどなぁ! てか突然何言ってんだテメェ!?」
跡を継ぐ子すらいないというのに寿命を削る。
魔術師であり、先祖代々受け継がれる使命のために人生を捧げたアグリュトは理解できなかった。
アグリュトが死んだとしても彼には子がいる。故にパレネ家は続き、その使命は受け継がれる。
だが、凪斗には子がいない。女もいない。
だというのに寿命を削る、命を燃やす。己を薪とし力を得る。
「正気の沙汰ではない! 常軌を逸している! 何故そこまで、己を削ることができる!」
「世界の危機だからに決まってんだろぉ! ……なんてな。俺はそこまで、
「では何故だ!? 太祖が完全に復活すれば確かに世界は終わるだろう! だが、それではない!? ならば何だというのだ!? 何故だ!? 何故だ何故だ何故だ!?」
アグリュトは狂乱する。
巨神の復活は彼の、ひいては祖先の悲願。復活したのならば己の命が断たれても構わない。
だが、凪斗は何故寿命を削ることができる?
他のマスター達は、
では、凪斗は何のために戦っている──?
「ハッ、テメェに言っても多分分かんねぇだろうよ。ただ、一つ言うなら──」
「報いるためだ」
「報いる、ため?」
「そう言ったろ。聞こえなかったか? 四十後半でもう難聴か?」
アグリュトは心底疑問に思う。
『世界を救うため』よりも上のもの。
それが報いるため?
誰に報いるというのだ。
何に報いるというのだ。
それが、『世界を救う』よりも上だというのか?
ふと、ある者の名を口にする。
「アサシン……」
己とアルテラを殺しかけた女傑。
幾多のトラップを仕掛けた工房の中を掻い潜り、己とアルテラに刃を突き刺した優れた暗殺者。
最期に笑って逝った英雄。
彼女の刃に己は心臓を、アルテラは霊核を突き刺された。
咄嗟にアルテラが一撃を加えたことで行動不能にし、ライダーのマスターから奪った令呪三画全てを使用したことでアルテラは復活。アサシンに止めを刺せた。笑いながら逝った彼女の姿は印象に残っている。
己も工房内に施した、パレーネー半島に触れている限り無敵だったというギガース、アルキュオネウスの伝承を利用した、代々パレネ家に受け継がれている術式と神代より続く魔術刻印により何とか回復することに成功した。
しかし、彼女の宝具に付随する毒は今も尚、アグリュトと巨神になりつつあるアルテラを蝕んでいる。
そう、宝具。
凪斗はアグリュトとアルテラの暗殺をアサシン・荊軻に命令する際、宝具を使えと加えて命じた。
荊軻の宝具『
その真価は己が還らないことを覚悟すること。その覚悟があることで、彼女の宝具はその力を発揮する。
宝具の使用。
意味するのは『死んでくれ』という命令。
聖杯を求めて召喚された、この現界を奇跡と思っているサーヴァントの願いが叶わないということ。
そのような命令に対して荊軻は、天下の義侠はそのことを、彼女の願いを踏み躙ることを理解した上で──承ったと応えた。
凪斗は確かにこの決戦、世界を救うために戦っている。己の日常を、祖父や時々来訪する義姉や聖騎士、そのマスターと暮らす日常を守るために戦っている。
だが、それ以上に。
明雲凪斗という男は荊軻の忠に、義に、覚悟に。
彼女の主であった男として、報いるために戦っていた。
「……ハッ、ハハ──」
「……?」
「ハハハハハハハ!!」
そのことを理解したアグリュトは天を仰ぎ笑った。
治りかけた傷が開くことも構わず笑う。凪斗が怪訝そうな顔をすること構わずに笑う。
おかしい、おかしいにも程がある!
世界のこれからを分けるこの戦いを、短い時を暮らしただけの女に報いるために戦っているとは、誰もが思うまい!
そんな者がこのような現代にいるとは!
世界を救う決戦を、誰かに報いるために戦う。
そのような者、まるで──
「パレネ家当主、アグリュト・パレネ・ギオスセファル」
名乗る必要などない。
戦場で相手に名乗ることなど、アグリュトの生において一つもなかった。
しかし何故だろう。
目の前の青年が己の名を知っていようが知っていまいが、『己の口から名乗りたい』。無性にそう思い、何の脈絡もなく名乗ってしまった。
「────次期四代目雑賀衆棟梁・明雲凪斗」
アグリュトの名乗り。
凪斗は少し動揺し硬直するが、名乗り返す。
今、己が最も誇りに思っている二つ名と共に。
過去に共に戦い、己を命を賭して逃がしてくれた、獅子の騎士のように。
名乗り。
魔術師同士の決闘などでは断じてない聖杯戦争では決して起こり得ない儀礼。
それを熟知しているアグリュトと、何度も聖杯戦争を経験している凪斗がするとは何と奇妙な因果か。
思わず両者は笑みを浮かべるが、アグリュトは一瞬だけ。
凪斗は本人の意思とは別に、無意識で未だ笑みが続けられていた。
笑ったからとて関係なし。
戦場で名乗ったのならば、後は戦うのみ。
どちらかの命が尽きるまで。
「『
──何度も見てきた。
彼は第二の生において得た全てを使う。
レムナント・コード四番。
古代ペルシャの大英雄の残滓より作りし礼装が、三代目雑賀衆棟梁に鍛え上げられた肉体を超人のモノへと引き上げる。
元より優秀であった彼の魔術回路。
それが願いにより文字通り
だが、彼は更なる力を欲する。
聖杯回路は限界を超えて駆動し、凪斗の全身に走る痛みと共に莫大な魔力が生産され続ける。
シグルドの贈り物である原初のルーンが刻まれた水晶の短剣。
元より現代ではオーバースペックであるソレが、シグルドの残滓が組み込まれたことでレムナント・コードとなった短剣が変形していく。
水晶が放つ深い青緑の輝きが深紅へと染まる。
それと同時に短剣の刀身は伸びていき、短剣と長剣の中間の長さとなった。
剣はまたも姿を変える。
深紅に染まった輝きは再び青緑に。しかし、色がより澄み渡り、輝きが強くなっている。
刀身は長剣程の長さとなり、持ち手がシグルドが振るう
変貌した短剣──『
ルーンが刻まれた複数の短剣が正面へと雷光を放ちながら輪を描くように旋回し、彼は短剣に向けて拳を構える。
何度も見てきた、シグルドの宝具のように。
「巨神因子最大励起。我らが太祖の元に新たなるマキアの開戦を。かの雪辱を我は晴らす」
──此処こそ分水嶺。
構える凪斗に対し、アグリュトは拳を握り、ただ敵を見据える。
死徒を相手にした時も、魔術師を相手にした時も、幻想種を相手にした時も、代行者を相手にした時も、父との死合いの時も──四十余年の生において、彼は埋葬機関の代行者を筆頭とした類稀なる強者以外に対し、因子を励起させることも、ましてや使うこともなかった。
アグリュト・パレネ・ギオスセファルが、歴代でも巨神因子の最高の適合率を持つため、身体が因子に影響されていき、徐々に人間から外れていったが故に。
だが、彼は巨神因子をたった十五歳の齢の青年に対して使用し、最大励起させる。
ソレは何故か?
ギガントマキアにおいて英雄ヘラクレスが参戦したことで惨敗を喫したギガース。
その末裔たるアグリュトという『巨人』が、明雲凪斗という『人間』を──
「
「これより──雑賀を開始する」
ちなみに
どっかの源氏ロボが霊基の残滓どころか、平安最強に切り落とされた半身と己の霊基全部、更には亜種聖杯の願いに源氏テクノロジーと全部ぶち込んで銃とその拡張ユニット作ったせいで最強の座から落ちました。
実は最後のところをやりたいがために書きました。悔いはない。
では、感想ください!