Mr.聖杯戦争in外典   作:英鈍

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fgoはまだバレンタインイベ中だからまだバレンタインだな、ヨシ!


とあるバレンタインの一時

 

 バレンタイン。

 それは聖ウァレンティヌスに由来する、家族や恋人、友人など、親しい者に感謝を伝え物──チョコレートを筆頭としたお菓子などを贈る記念日である。

 

 カルデアにおいても、トンチキハロウィン特異点やぐだぐだイベント同様恒例行事となっているバレンタイン。

 この時期になると、人類最後のマスター──藤丸立香が手作りチョコレートを契約したサーヴァント達に贈るのだが──

 

「という訳で、明雲さん。ハッピーバレンタイン!」

 

 明雲凪斗も例外ではなく、その対象であった。

 藤丸は赤毛のサイドテールを揺らし、丁寧にラッピングされたチョコレートが入った袋を彼に渡す。

 

「呼ばれたから来てみれば……毎年ありがとよ、マスター」

「蜘蛛丸の分もあるよ! いつも通り、甘さ控えめのビターチョコにしといたから!」

「◾️◾️◾️◾️◾️」

 

 凪斗の使い魔であり息子でもある蜘蛛丸の分も用意するのは流石と言うべきか。

 最初のバレンタインの際に甘い物が苦手ということが判明してからは、わざわざ律儀に苦味が強いビターチョコを彼女は作っているのだ。

 

「◾️◾️◾️◾️」

「何て言ってるの?」

「『毎年言っておりますが、わざわざ私に作らなくても良いのですよ? 勿論嬉しく、毎年味わわせていただいておりますが、他のサーヴァントの方々を優先した方が良いのでは?』だってよ」

「相変わらず真面目だねー、誰に似たのかな?」

「知らん。俺にも滝ちゃんにも似てないからな……いや、意外と根に持つ性格は滝ちゃんに似たか?」

「◾️◾️◾️◾️◾️!?」

「滝夜叉姫は『父様や凪斗に似たのでは?』って言ってたけど」

「お義父さんの方はありえるが……俺の可能性は無いな。俺はこんなに良い子じゃないからな!」

「◾️◾️◾️……」

 

 蜘蛛丸の性格に感心する藤丸。

 下手な人間よりも人間が出来ている土蜘蛛という摩訶不思議な存在の蜘蛛丸。何故この様な性格が出来上がったのか?

 

 特異点に同行した際は常に死角を意識し、マシュが間に合わない時に藤丸の盾となった回数は数知れず。野宿の際は糸を使ったワイヤートラップをいつの間にか張ってるし、人理修復の旅を始めた頃は自分に気を遣って、その一般的に怖いと思える姿を見せていなかった。

 

 平安京にて本来の土蜘蛛の在り方を知ってからはその疑問も加速傾向。頼光や綱、ヤマトタケルが見たこともない顔になったのも納得の性格の良さである。

 

「というか俺も、蜘蛛丸と同じで別に手作りじゃなくていいんだけど」

「えー、そんなに私の不味かったー?」

「そんなこと言うんじゃありません。冗談抜きで殺されちゃうから」

 

 主に某母や某姫、某女王に某最強竜に。

 

「ほら、カルデアに所属するサーヴァントも増えてきただろ?」

「昔は明雲さんとかエミヤ含めて十数人程度だったのに、今では百人超えちゃったからね」

「だから心配なんだよなぁ」

「心配?」

「そうそう」

 

 藤丸がサーヴァントに贈るチョコレートの全ては手作りである。

 そう、全て手作りなのである。

 昔の十数人ならまだしも、今の百人を超える数のチョコレート全てを作るというのは筋肉痛待ったなしの重労働。

 レオニダス等が課すトレーニングで鍛え抜かれた肉体が出来上がった藤丸であっても苦行という他ない。というか英霊であっても十分苦行である。

 

「俺ぐらい市販品でもいいんだよ。貰えりゃ十分嬉しいし、感謝の気持ちも伝わるからな。だから──」

「それ、明雲さんが私と同じ立場でも、素直に言うこと聞く?」

「…………」

 

 沈黙する凪斗。

 凪斗は古今東西の英霊が所属するカルデアにおいて、藤丸と唯一と言ってもいい共通点を持っている。

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()という点。

 

 もし凪斗が藤丸と同じ立場なら?

 アーラシュやダレイオス三世、テセウスあたりの言いそうな連中にその様なことを言われたら──?

 

「……聞かねぇなぁ」

「でしょ?」

 

 答えは否。

 そんな凪斗の返答に、藤丸は当然と言わんばかりに笑顔を浮かべた。

 

「全く、良いマスターに育ったなぁこんにゃろう!」

「どこかの誰かさんがサーヴァントとの付き合い方とかを手取り足取り教えてくれたからね!」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ! そんな良い子には良いモンをあげよう! ちょっと待っててくれ」

 

 

 ◾️◾️◾️

 

 

(明雲さん、今年は何くれるのかな?)

 

 蜘蛛丸が淹れてくれた梅昆布茶を飲みながら、凪斗を待つ藤丸。

 チョコレートばかりで口が甘ったるくなっていたところに、梅昆布茶の程よい酸味と旨味がありがたい。そういうところに性格の良さが出てるんだぞ蜘蛛丸。

 

(去年はこれだったけど……)

 

 藤丸は首から下げている勾玉に触れる。

 勾玉には凪斗が獲ってきた竜の逆鱗やら黒獣脂やら蛮神の心臓やらに宿った思念を掛け合わせて、戦闘用に調整された人工霊が封じ込められている。

 

 凪斗曰く「マスターはいつの間にかどっかに行ってるからなぁ。マシュちゃんがいないこともザラにあるし、そん時のための護衛が必要だろ? サーヴァント相手には数分程度しか保たないが……気休めってのは、案外馬鹿にならないんだぜ?」とのことだ。

 

(うーん、否定出来ない……)

 

 下総を筆頭にマシュや他のサーヴァントがいないことも多い。

 その度に現地の野良サーヴァントに助けられているのだが、自分よりも数多くの英霊を知っている、二桁の亜種聖杯戦争を経験してきた彼からしたら気が気じゃないのだろう。

 

「はーい、明雲さんが戻ってきたぞー」

 

 そんなことを考えていると、凪斗がその手に何かを持って戻ってきた。

 

「お帰りー」

「緩いねー」

「梅昆布茶飲んでたらねー、なんかこうなったー」

「蜘蛛丸の淹れるお茶は絶品だからねー。最近じゃあ利休さんに茶の立て方も教わっててな。森君と一緒にお茶することもある……っと、はいこれ。今年の贈り物な」

 

 藤丸へと二つの物が渡される。

 それは……

 

「……ブランケットと、アルバム?」

「あぁ、ちょいと開いてみな」

 

 凪斗の言葉に従い彼女はアルバム表紙を捲る。

 そこに、本扉に貼られていた写真は──

 

「……懐かしいね」

「だろう?」

 

 カルデアがまたノウム・カルデアではなくフィニス・カルデアであった頃。

 特異点Fを乗り越えて第一特異点に臨む前に凪斗の提案で撮った、集合写真。

 

 中央には満面の笑みの藤丸と手を繋いで、不器用に笑顔を浮かべるマシュの姿。

 二人の横にはドクター──ロマニ・アーキマンとキャスター・レオナルド・ダ・ヴィンチが。

 四人の周囲にはレフの爆破工作を逃れたダストンやシルビア達カルデアスタッフの面々と、凪斗やエミヤ、クー・フーリンなどの最古参のサーヴァント達。

 

 フィニス・カルデアのマイルームに飾り、そのまま置いてけぼりにしてしまった、大事な写真だ。

 

「マスター。この人理を救う旅が終わった後、お前は日常へ帰る。いや、必ず俺たちが帰らせる。その日常で、この戦いとはまた別の苦しみがあることだろう。そんな時に勇気をくれるのは、思い出だ」

「思い出……」

 

 藤丸はページを捲る。

 フランス、ローマ、オケアノス、ロンドン、アメリカ、エルサレム、バビロニア、他にも様々な微小特異点。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼だからこそ、こんなに多くの写真が撮れたのだろう。

 捲る度に、懐かしさと形容し難い気持ちが心の中に湧いてくる。

 

「俺と蜘蛛丸が度重なる亜種聖杯戦争で心が折れなかったのも、思い出が勇気をくれたからだ。どんな状況であっても自分の中で輝く()()()があるのならば、人間は立ち上がれる。アルバムってのは、そんな()()()を思い出させてくれる代物なのさ」

「……そういえば、明雲さんもアルバムを作ってたね」

「まぁな。へこたれそうになった時は、いつもアレを見てたもんさ。笑って、泣いて、涙を拭って、未来へ進んだ。思い出がくれる勇気の凄さを、俺達二人はよく知っている」

 

 凪斗は藤丸の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「わぷっ」

「未来へ進むのは老若男女問わず生者の特権。思う存分笑って泣けば良い。時には倒れて休んでもいい、というか休め。進み続ける奴なんかよっぽどの超人か狂人だけだ。立ち上がって前へ進めば、お前の勝ちだからな」

「何に対しての勝ち?」

「そうだな、運命とでも言っておこうかね」

「運命……明雲さんらしいね」

「そりゃあな、こちとら運命に中指立てた男だぞ」

「そんなことも言ってたね。それはそれとして」

 

 藤丸は頭を撫でる凪斗の腕を掴む。

 

「いつまで乙女の髪に触れてるのかなー?」

「……すまん。近所の子と同じ感覚で接してた」

「滝夜叉姫に言お「すみませんでした」早っ!?」

「◾️◾️◾️◾️◾️」

 

 脅しをかけた瞬間手を離し土下座する凪斗。

 サーヴァントの身体能力を無駄なく使った無駄のない無駄な動きに藤丸は驚愕する。

 これには蜘蛛丸も「おそろしく早い土下座。私でも見逃しました」のコメントが。

 

「マスター、一つアドバイスだ。もし好きな人が出来たら俺みたいに、妻の名前を出したら即座に手のひらを返すくらいには躾けておけ。男ってのは馬鹿な生き物だからな」

「◾️◾️◾️◾️……」

「これは私でも何言ったか分かるなー……」

 

 親の姿に嘆く蜘蛛丸であった。

 

「あぁそうそう、マスター。もし好きな人が出来たら、清姫や頼光さん、モルガンにメリュジーヌなんかの奴らの事は気にせずアタックしな。なーに、心配はするな。そん時のための集まりを作ってるんでな」

「いつの間に……」

「いつの間にって……そういうのはもうカルデアじゃ日常茶飯事だろ?」

「確かに……」

「俺達サーヴァントは"死者"だからな。"生者"の隣には"生者"が、"死者"の隣には"死者"がってのが世の道理さ。だから俺と滝ちゃんは死んでから式をあげた。俺が生きてた時も……いや、この話はいいか」

 

「まぁとりあえず、マスターは生きてる奴と結ばれな! その集まりも森君、斎藤さん、ニキチッチ、シグルド、ヘクトール……他にも色々集まってるから本当に気にすんなよ!」

「ヘルラはいないの?」

「……()()()()()()はなぁ……気不味いからあんまり顔合わせないようにしてんだよ……まさか別側面の俺と会うのがこんなに気不味いとは思いもしなかったぜ全く……はい、ヘルラについてはまた今度な、な!」

 

 強引に話を変え、凪斗はブランケットを指差す。

 

「おっと、言い忘れてたけど、ブランケットは蜘蛛丸の手作りだぞ。この日のために三ヶ月前からハベトロットとクレーンさんとヴラド公の元で修行しててな。出来に関しては三人のお墨付き、通りすがりのメディアさんからも『金羊毛には流石に劣るけど、素晴らしい出来ね』との高評価も頂いている逸品だ」

「え、そうなの!?」

 

 蜘蛛丸を見ると、謙虚な彼にしては珍しく胸を張っていた。

 あの四人に認められる程とは、それはそれは大変な道のりだった事だろう。

 

「まぁ、そういう訳だ。ブランケットは普段使いもできるし、アルバムはまだ余白が沢山あるからマスターの好きに貼ればいいさ」

「そういえば、このアルバムって名前とかあるの?」

「名前ぇ? そういや考えてなかったな……」

 

 顎に手を当てる凪斗。

 数十秒考えた後に、彼は口を開いた。

 

「そうだな……『苦しい時。そんな時。頼りになるアルバム』略して──」

「クソアルバムじゃないよね流石に!?」

「ハッハッハッハッ! 流石にジョークだよジョーク! 若い子ってのは良い反応するねー、揶揄い甲斐がある」

「もー!」

 

 ポカポカと凪斗の腹を殴るも全く動じる様子がない。

 おのれサーヴァントの耐久力。いや、生前であってもこの幼少期から鍛えている筋肉の塊には効かないだろう。

 素直に諦めてベッドへ座る藤丸。

 

「……で、本当の名前は? その様子じゃ、どうせ考えてるんでしょ?」

「当然。そのアルバムの名前は──」

 

 

 

 

「──巡星録(じゅんせいろく)。良い名前だろ?」

 

 

 





巡星録

明雲凪斗からのお返し。

ブランケットは蜘蛛丸の糸で作られた彼お手製のもの。
二月の始めにバレンタインの準備をする者が大半の中、何と三ヶ月前に動きこの日のために修練を積み重ねてきた。流石蜘蛛丸と言ったところである。
師匠三人+通りすがりの金羊毛所持者のお墨付きを受けたその手触りは絶品という他なし。
あなたに絶妙な暖かさと心地よさ、そして安らぎを齎すことだろう。

アルバムにはあなたが今まで歩んできた特異点や異聞帯、カルデアでの交流の最中で撮られて来た写真が沢山。中にはあの違法建築物の写真も存在する。撮影者曰く「気付いたらパシャってた」とのこと。
余白はまだまだあり、その余白をどのように埋めるかはあなた次第。
それはあなたが今も尚記憶している彼ら彼女らとの出会い、育んだ絆が幻などでは決してなく、現実であったという証明である。
ページを捲る度にあなたはその時のことを鮮明に思い出し、笑い、泣き、そして勇気をその心に宿し、足を前に進ませる事だろう。

──未来へ進むための一歩というものは、重く苦しいものだ。どうか、死者(我ら)との思い出が、生者(あなた)がその前へと進み出す一歩の糧にならんことを。


感想とレムナント・コードの案、お待ちしております。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=320095&uid=418240

それと巡星録の意味ですが、星"を"巡る旅なのか、星"が"巡る旅なのか、はてさてどちらなのでしょうかねぇ?
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