心は
巣立った
Graduate of 16
Act.2
Deeper than Dark
どこよりも深い闇の底で
-Act Out-
逃亡者
「――もー、マジかよー」
ミディアムロングの赤毛の少女が、唐突に声を上げた。
「ねー、明日からまた電気代上がるって」
「えー! また? 勘弁してよぉ……」
続けられた言葉に反応するのは、ウェーブのかかった、茶色のショートヘアの少女だ。
「もうこれ以上切りつめらんないわよ?」
「何言ってんダ。まだコスメ切りつめられんだロ」
「はぁ!? 切れるわけないでしょ! あんたと違ってアタシは見た目にも気ぃ使ってんの!」
「使ってそのザマじゃア世話ねぇナ」
「なんですってぇ!?」
「喧嘩しない……」
黒いツインテールにマスク、切り揃えられた前髪の少女が、ショートヘアの少女と軽く口論を交わし。
そしてそれを、亜麻色のおかっぱ頭の少女が咎める。
茶髪の少女は、そんな彼女をじろりと見つめた。
「……そう言うアンタはどうなのよ。またお菓子にご心酔なんじゃないでしょうね?」
「お菓子……」
しかしおかっぱの少女は、怖気付かずに両手でピースサインをする。
「先月は我慢出来た……」
「イイことだナ。どっかの誰かさんにモ見習ってほしいゼ」
「聞こえてんですけど!? 何アンタ!? アタシとやる気!?」
「おーおー怖ェ怖ェ。ビビりほドよく吠えるってナァ」
「なんですってぇー!?」
「はいはいそこまで。二人とも本当に仲良いよねぇ」
赤毛の少女は、二人の口論を止め――
気を取り直す。
「ともかく、用意しよ。『作戦会議』は後でも出来るから」
こんなところを。
『あの人』に見られたらまずい――と。
「――何がまずいって?」
言った時。
突然に聞こえた声に、四人は、一斉に反応していた。
当惑の視線の先――
立っているのは、また別の少女だ。
尖り気味の赤みがかったショートヘアに、鋭い目つき。羽織った深紅のパーカー――
一見して威圧的な見た目ではあったが、その表情は、どこか残念そうに翳っていた。
「……そんな反応しなくたっていいだろ」
「ふぇ――フェア姉! いつからそこに……!」
「たった今だよ。なんだなんだお前ら。あたしに隠して悪巧みか?」
ずい、と詰め寄る彼女に、彼女らは、またも一斉に視線を逸らす。その行動はあまりにも不自然であり、彼女に――フェア、と呼ばれた少女に、少なからぬ疑念を抱かせるには十分であったが、それでも彼女は、追及するようなことはしなかった。
したところで話はしないだろう、と思ったし、それで追い詰めるようなことをしたくない、とも考えたからだ。
「……そろそろ『出走』だ。準備しろ」
だから、そう言って背を向ける。
四人は顔を見合わせ、にっと笑うと、
『――おぉ!』
それぞれに声を上げ、歩き出すフェアの背中を追い始める。
五人、そうしてその『部屋』から退室し――
無機質で、薄汚れた『廊下』を歩いていく。
「……つーかお前ら、ちゃんと準備したのか? やたら話してたけど」
フェアが言う。
「もっちろん! 事前調査は万全だよ!」
赤毛の少女が言う。
「はん、ラジオ聴くことのどこが調査なのよ」
茶髪の少女が言う。
「メイクにしか興味のねェ奴に言われたくねェわナ」
黒髪の少女が言う。
「喧嘩だめ……!」
おかっぱの少女が言う。
がやがやと仲良く騒ぐ彼女らは――
やがて、その道を抜ける。
目の前に広がるのは。
広大ながら、閉鎖的な『レース場』。
『――!!』
そこは、はち切れんばかりの声で覆われている。
息の詰まるような熱気で満ちているのは――単純に、それがそれだけ分厚いものだから、というだけではない。
その場所が。
熱気の十分に発散されるに、相応しい構造ではないからである。
――『室内に』。
作られたレース場だからである。
『さぁ! 本日3走目の『ブラックレース』、出走が近付いてまいりました!!』
揚々と響き渡る声に、会場の熱気はさらに高まる。
普通ならば、あまりに閉鎖的な環境に、息苦しさも感じることだろう。
それでも彼女らにとっては、すっかり慣れたもの。集まった人々に対し、軽く手を振る余裕すら見せる。
ただ、そこに抱く感情は。
決して、感謝や好意などではない。
「……」
彼らの、一様に暗く、淀んだ瞳を見てしまえば。
盛り上がってくれてありがとう、などと、考えられようはずもない。
「今日も人気者みたいだね、フェア姉」
赤毛の少女が、フェアに話しかける。
それに応じ、フェアが辺りを見回すと、そこに集った他の出走者――ウマ娘たちが。
威圧的で、敵対的な目を向けていた。
親の仇でも見るかのように。
彼女らのことを、睨みつけていた。
「おイ『エンゲツ』。今日はビビッて後団に甘んじるなヨ?」
「はん! 『ショー』こそ負けた時の言い訳、考えときなさいよね!」
「だからだから、喧嘩はめっ……!!」
「『リョホー』は優しいよね……いっつも二人を宥めてくれんだから」
「『セン』にも感謝してるよ。いつもあたしに代わってまとめてくれるからな」
「い、いやいや。フェア姉には負けるって……!!」
茶髪――エンゲツ。
黒髪――ショー。
おかっぱ――リョホー。
赤毛――セン。
そして、フェア。
五人はいつも通りにやり取りをして。
誰からともなく、円陣を作った。
「――おし、それじゃ」
それから声を上げるのは、フェアだ。
「チーム『スイコ』――ファイッ!」
『おーっ!!』
「……毎回思うんだけど、この円陣辞めない?」
エンゲツは恥ずかしそうに言うものの。彼女らは軽快に笑うだけだった。
レース場に設置されたゲートは、お世辞にも豪奢なものとは言えない。
ところどころがさび付き、黒ずんだ年代物。
収まるのは、全部で16人のウマ娘たち。
着込んでいるのは、
年頃の少女らしい、有り触れた
『選手のゲートインが完了しました――『発券』が終了します』
場内にアナウンスが響き――
静寂が訪れる。
それを砕いたのは、乱暴なゲートの開く音。
『さぁ、今スタートが切られましたッ!!』
それを合図に――少女たちは駆け出し。
放送は実況を流し始め。
観客らは声を上げ始める。
芝ともダートとも取れないコースから、砂埃が巻き上げられ。
少女たちの姿をほんのりと隠す。
一見すると、それは何の変哲もないレースに見える。
服装の差異こそあれど――誰もが、『公式』に相違ないレースに臨んでいるように見える。
しかし、そのレースが『そう』ではないことは、程なくして証明されることとなった。
出走からしばらくして――
「――っ」
1コーナー――
最後尾で競り合っていた二人のウマ娘、そのうちの片方が。
もう片方のウマ娘に、接触していたのだ。
否、接触、という表現では生温い。
明らかに勢いをつけ、意図的に衝突したその動きは。
『タックル』という表現の方が近しかった。
「っ!?」
接触を受けたウマ娘はバランスを崩し――
そのまま身体を内ラチに打ち付けると、その場に転倒する。
本来ならば、咎められるべき違反行為。
それも、見るからに意図的なそれは、降着どころか、出走停止を受けてもおかしくないほど危険なものだ。
にも関わらず――レースは中断しない。
『おーっと転倒! 転倒だぁー!!』
それどころか――
観客たちは、いっそう盛り上がり、放送もまた、それを煽るように実況する。
誰も、糾弾の声すらも上げない――
それが全てであった。
それが、彼女らの走るレースを物語る、全てであった。
エンゲツは、開始直後からバ群の『ハナ』を取っていたが、横目でそれを見て気を入れ直す。
――始まった、と。
それまでより強く覚悟を決め、駆ける。
「――、」
そんな彼女に、すぐ後方のウマ娘が動く。
並走出来ていない彼女では、最後尾のウマ娘らのように、タックルのような行為には及べなかったが――
その代わり、と言わんばかりに。
「――!」
手を伸ばし。
はためくエンゲツの上着を、『引っ掴もうと』した。
エンゲツは、それを直感的に感じ取る。
名も無きウマ娘の手先は、一瞬こそ意図通り、彼女の上着に触れるが――
「――触んなっ!」
エンゲツが加速したことで、掴む、という結果にまでは至れなかった。
その上、その行動のために、バランスを崩してしまったのだろう。
大きく減速し、そのまま後方のバ群に呑み込まれてしまう。
「邪魔だなァ」
そんな彼女を避けて、前へと躍り出るのはショー。
順位は4位。ライバル――エンゲツの元へと辿り着くには、あと二人追い越していかなければならない。
それを感じ取ったのだろう。2位と3位のウマ娘は、ちらと彼女の方を見やると。
見るからに意図的に減速し、彼女の近くへと寄る。
先のウマ娘がそうしたように――今度は、脚で。
ショーの脚を引っかけようとするが――
「温ぃナ」
ショーは、それを低く飛ぶことで回避し。
「こうやンだヨ」
着地と同時――
目にも止まらぬ速さで、お返し、とばかりにそのウマ娘の脚を弾いていた。
「きゃっ!!」
当然、体勢を崩した彼女は、ラチに身体を打ち付け、転倒してしまう。
それに動揺したもう片方のウマ娘には目もくれず――
ショーは、エンゲツのすぐ背後に追いついた。
「よォ、一人で行くなんテ薄情じゃねぇカ」
「ちっ、着いてくんな悪趣味!」
「……」
リョホーはそれを後団から見守る。
彼女の前方には、幾人ものウマ娘がしのぎを削っている。
いや、『ルール無用』に走るその様相は、『争い』という表現の方が近しいか。
どちらにせよ、まともなルートを塞がれ、満足に前へと出れない状況を見て――
「――、」
彼女は。
ラチへと脚を向けた。
軽快に跳躍したかと思うと――ラチを足裏で捉え。
「――ふんっ」
絶妙なバランス感覚で――
『ラチの上を走った』。
そのままの勢いで、バ群の前方にまで辿り着いた彼女は――再び跳躍し。
「あっ!?」
争い合うウマ娘の背中を、
「ぐっ!?」
いくつか伝い、
「ん、」
――コースに復帰する。
そうしてもぎ取る順位は――3位。
「行く」
「いいねリョホー!」
実際、何一つ『良く』はないが。
構わずセンは叫び、前へと駆ける。
未だ泥臭く足を引っ張り合っているウマ娘たちの中へ、乱暴に飛び込み。
「退きな、」
彼女らを。
掻き分けるように、押しのけた。
「
「――……!!」
凄まじい体幹と力。
体力を消耗し過ぎていた彼女らは、その押しのける力に対抗出来なかった。
力に従うまま、動かされ。
ある者は転倒し、ある者はコースから大きく逸れる。
結果として――無理矢理ながら。
コース上に、『道』が出来る――
「さぁフェア姉!」
それを確認したセンは、声を上げた。
「『トドメ』を!」
混沌極まる状況の中――
出来た即興の道を、閃光が走った。
会場の熱狂は、最高潮にまで高まる。
ターフを切り裂く『紅い閃光』に――
誰もが目を見張り、あるいは魅入る。
魅せられる。
「――」
フェアは。
最後方に控えていた彼女は。
驚異的な末脚で、ぐんぐんと順位を伸ばす。
「続くよ!」
センが、文字通りそれに続く。
「行く!」
リョホーもまた、負けじと追い縋る。
「はッ、相変わらず反則的ナ」
ショーは追い抜かれるも、呆れ気味にそれを見送り。
「っぱすごいわ……!!」
エンゲツもまた、苦笑いで前を譲る。
そうしてあっという間に先頭に躍り出たフェアに引っ張られ――
彼女らもまた加速し、先団としてひた走る。
無論、他の出走者たちも諦めてはいないが――もはやそこに、結束も団結も無い。
どこまでも醜く、無様に潰し合えば、そのような『追込み』に対応出来るはずもなく。
「――ッ!!」
果たして。
『――決めたぁー!! 1着は!! 『紅い閃光』、『ルビーフェア』!!』
レースは終わり。
熱狂は歓声へと変わる。
『2着、『エンゲツセイリュウ』、3着『ダイトウカンショー』! 4着『リョホーテンゲキ』、5着『ガゲキホーセン』! ――本日もまたチーム『スイコ』、
「……ちっ、またオレの負けカ」
実況を聞いたショーは、悔しがっているようには聞こえない声色で言っていた。
「これで戦績は、50戦47勝だナ」
「はぁ!? 何言ってんの!? アンタは47敗よ! 勝ち越してんのはアタシなんだから!」
「嘘つくナ。んなに負けてるわけがねェだロ」
「いーや! 絶対アタシのが上ね!」
「けーんーかーしーなーいー……!!」
「いーんだよリョホー。やらせておけば」
いつものごとく口喧嘩を始める二人を、リョホーが宥めようとし、センが引き止める。二人はいつもこんな調子だ――咎めても意味はない。
やりたいだけやらせておけばいい、と、その目はフェアの方へと向いていた。
手を握ったり開いたりを繰り返し、身体の調子を確認しているらしい。
「……フェア姉。今日も見事だったよ」
「……はは」
彼女の言葉に、フェアは恥ずかしそうに言った。
「そんなことねーよ」
「――いやぁ、そんなことねーことはねーんだよなぁ『閃光』サマ?」
そんな彼女に――
悪辣な声を掛ける者が、一人。
『……』
未だ会場は歓声に包まれているが――
その刹那、五人の間に緊張が走る。
和気藹々と話していた彼女らは――
一瞬にして黙り込み、威圧的な視線を送る。
視線の先――
それに晒されているのは、一人の女性だ。
特徴的な耳と尻尾を生やしていることから、彼女もウマ娘ということが分かる。
180はあろうかという長身。
白と黒、ツートンカラーに染め上げた長髪に。
濃いめの化粧。
大多数に漏れず、その容姿は眉目秀麗だったが――
振る舞いは、あまりに悪然としていた。
同胞として受け入れるには。
あまりに、悪意が滲み出ていた。
「……何の用だ、『トウ』」
フェアの声が低くなる。
それまでとは打って変わってのその声は、凶器のように鋭く尖っていたが――
トウ、と呼ばれた彼女は、けらけらと笑うだけだった。
「んな嫌がらなくてもいーだろぉ? 『メイヨ』ある勝ちウマサマに祝福の一つでもやろうってんだからよぉ」
「いらねーよそんなもん」
「おいおい釣れねーなぁ。いーじゃねーかよ少しくらい話してくれても」
それともなんだ? ――と。
トウはぐにぃ、と口元を歪ませる。
「……そんなに話したくないぐらい、ビビってんのか?」
「――何よ、もっかい言ってみなさいよオバサン」
弾かれたように前に出たエンゲツは、トウにそう言って対抗する。
その表情は、可憐なまでに対抗心に燃えていたが、
「 」
トウがぎろり、と睨みつけると。
カエルのごとく震え、硬直する。
すぐさまフェアが割って入ったことで、視線からは逃れられたものの。
ただのそれだけで、少女一人を掌握したかのような、
殺意と。
敵意と。
悪意に。
満ちた瞳だった。
「……帰んな、トウ」
ただ、フェアだけは怖気付かず。
彼女に対抗する。
「いずれにせよ、あんたと話す気はねぇ」
「……はん。そうかい」
小馬鹿にしたように笑った彼女は、言う。
「『また』ぐちゃぐちゃに出来る日を楽しみにしてるぜ……『閃光』チャン」
すれ違いざまに告げながら。
彼女らの脇を通り、そこから立ち去っていた。
一体を支配していた、濁々たる暗黒が晴れ、会場の熱気が復帰する。
「――はぁ!」
最初に深い息を吐いていたのは、エンゲツだった。
「ったく、相変わらずキモい顔すんだから……」
「オメーが震えてるノ見るのは面白かったけどナ」
「は、はぁ!? べ、別に震えてないし!!」
「よしよし……大丈夫だよ……」
「な、慰めなくていいっての!!」
「……、」
一時はどうなるかと思ったが。
いつもの調子で話し始める一行を見て、フェアは胸を撫で下ろす。
ただ、いつまでもここで話していることも無い。
「……行くぞお前ら。次のレースが控えてる」
だから、彼女らに呼びかけた。
「『賞金』受け取って……とっとと帰るぞ」
「――で、オレはこう言ったわけだナ。『パスタにワサビは絶対合わねーヨ』って。なのにコイツ、性懲りもなく試しやがってヨ」
「だって試してみないとわかんないじゃない! そもそも料理は自由なのよ! あんたにとやかく言われる筋合いないわ!」
「ワサビはないよ……エンゲツちゃん……」
「リョホーまでそんなこと言うの!? それじゃアタシがバカみたいじゃん!!」
「バカだロ実際」
「はぁ!? アンタもっかい言ってみなさいよ!!」
「また喧嘩してる……」
府中駅周辺――
エンゲツ、ショー、リョホーの三人がコンビニ前でたむろしているのは、センとフェアがそのコンビニへ買い出しに行ったからである。
時間にして数十分も無かったはずだが――
そんな短い間だけでも、彼女らが軽い口喧嘩をするには、十分だったようである。
「もー、やめなって。今度は何してんのさ」
「セン! ちょっと聞いてよ! ショーったらアタシのことバカ舌っていうのよ!? ひどいと思わない!?」
「え、事実を言うのってひどいの?」
「なっ!? ど、どういう意味よそれーっ!!」
「……」
ただ、センもセンで、止める気があるのか無いのかわからないのが問題だった。
きょとんと真っ当な返事をしたことで、エンゲツという火に油を注ぐ結果となる。
年頃の女の子らしく騒ぎ立てる様子を見ながら、フェアは困ったようにも、愉快そうにも見える笑みを浮かべる。
「……ほら、口だけじゃなくて手も動かせ。食わなきゃぶっ倒れるぞ」
『はーい』
彼女が呼びかけ、レジ袋の封を開けると。四人がほぼ一斉にそこに群がる。
「――あっ! ちょっとショー! それアタシが狙ってたやつ!」
「んだヨ狙ってたッテ。だったら付箋でも貼りつけとケ」
「はいはい、欲しいならまた買ってくるからね。……リョホーは大丈夫? 相変わらず少食だけど」
「これでも多くした方……」
余り物でいい、というのがフェアの考えだ。
センが言った通り、足りなければ買い足せばいい。
だから、食料の争奪戦には積極的に参加せず――その代わりに。
目は、駅ビルに取り付けられた大型モニターへと向けられる。
――そこではちょうど。
目を引く『特集』が組まれていた。
『さぁ! 本日もやってきました! 週刊ウマ娘! このコーナーでは、自称ウマ娘マスターのこの私が! 毎週個人的に気になるウマ娘の紹介をさせていただいております!』
『第██回目の本日は、こちら! そう! 先日、トレセン学園を混乱に陥れた『悪役』でありながら、その走りで多くの人々を魅了したウマ娘――』
『――サファイアアリオンさんです!』
「……」
しかし、予想だにしない人物の登場に。
フェアは目を見開く。
モニターはそれを意に介さず。
番組の内容を垂れ流し続ける。
『――いやぁー、すごいですよね。最初は奇妙なやつだって思ってたんですけど、見てるうちにどんどんハマっちゃって』
『ダンスと歌声に課題あり、という声もあるようですが……』
『そこがまたいいんじゃないですか! もー、わかってないなぁ!』
「……」
『――なんか不思議な子ですよね。決して『皇帝』や『帝王』みたいな凄い走りでもないのに。見てると勇気づけられるっていうか……元気が出るっていうか』
『なんか、応援したくなるんですよねぇ』
「…………」
「……フェア姉?」
センの声が聞こえ、我に返る。
フェアは、一様に不思議そうに見ている四人に目を向け、気を取り直していた。
「あ――あぁ」
「どしたの? ボーっとして」
「いや……なんでもねぇ」
そう。
なんでもない。
「なんでもねぇよ」
なんでもない。
こんなこと――気にすることでは、ない。
「それより、早く帰るぞ。明日もバイト入ってんだろ」
フェアは。
彼女らを先導し始める。
「あたしは大丈夫かな。今日は結構余裕あるし」
センは。
「リョホーは眠い……」
リョホーは。
「誰かさんガまた夜更かししねぇトいいケドなァ」
ショーは。
「ふん! アンタこそ、今度こそ寝坊しないことね!」
エンゲツは。
導かれるまま、歩いていく。
それぞれに、口々に会話を交わしながら――
路地裏に続く、薄闇へと。
たじろぐこともなく、歩いていく。