16年度の卒業生(新版)   作:Ray May

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玄界領域(前編)

 態度が悪い、と。

 アシカガトレセン時代に、フェアちゃんはたびたび先生に怒られていた。

 

 別に成績が特別悪いわけでもなければ、サボっていたわけでもない。

 むしろ、その面で言えば真面目だった。

 ただただ、言葉遣いが悪い。

 それだけだった。

 

 私はそれを、単なる反抗心か何かだと思っていた。

 周囲も、似たような印象しか持たなかった。

 

 性根は真面目で、優しいながら。

 どうしてそこまで、攻撃的な振る舞いをするのか。

 

 私たちは。

 知ろうともしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議な巡り合わせだねぇ」

 

 スカイさんの言葉に、私は振り向く。

 彼女は、悪戯が成功したとばかりに微笑んでいた。

 

「私が気まぐれに散歩して、偶然に出会った子が――君のお友だちだったなんて」

「……全くだよ」

 

 色々とものすごい偶然だった。

 スカイさんが気まぐれに出歩かなければ、見つかることは無かったろう――という意味でもそうだし。

 フェアちゃんが、こんな目と鼻の先の距離に住んでいた――という意味でもそうだし。

 

「どうやって見つけようかなって、ずっと考えてたのに」

「本当に大事なものは傍にある、ってのは本当だねぇ」

「……でもさ」

 

 灯台下暗し――何かを探し出そうと必死になっている時ほど、すぐ傍に目を向けるべきなのかもしれない。

 ……けれど。

 けれど、それにしたってだ。

 

「本当に住んでるの? ここに……」

 

 スカイさんに連れられて、辿り着いた場所。

『彼女』が住んでいると言われて、目の前にしたその家は……

 

「どー見てもお化け屋敷なんだけど……」

 

 そう――どー見ても、お化け屋敷。

 どー見ても、廃屋。

 私の目には、とても……とても、人が住んでいるようには見えなかった。

 

「そーだよねぇ。空き家って言われても信じちゃうよ」

 

 けらけら笑うスカイさん。一見、私を騙しているように見えるけれど、笑い終えた後に浮かべた瞳の色は、しっかりと真剣だった。

 

「でも確かだよ。確かにここに着いたし、招待もされたよ」

「……の割に人の気配はないよね。留守なのかな」

「じゃないかなぁ。それか、毎日居場所を替えてるとか」

「えぇ……勘弁してよ。やっと手掛かりがつかめたのに」

 

 けれどまぁ、現実的にそんなことはないだろう。そんなぽんぽん住居を変えられるはずも無いし。

 

「どーする~? 帰って来るまで待つ~?」

「スカイさんはいいの? あんま無理しなくても……」

「いやいや。乗り掛かった舟だしね。ちゃーんと最後まで付き合いますよ~」

「……ありがと」

 

 何でもないことのように言うスカイさんだけれど、その細かな心遣いが身に染みる。彼女は私の言葉に、どういたしまして、と返してくれた。

 

「それじゃ、来るまでしりとりでもしよっかー」

「え。いや、いいけど。見つかったらだいぶ気まずくない……?」

「ダイジョーブだよ~、犯罪してるわけじゃあるまいし」

「そ、そうだけどさー……」

「しりとりー、『り』」

「え。あ、りんご!」

 

 私の意志など関係なしに始めちゃうスカイさん。もうなんか、どうでもいいか。

 

「『ごりら~』」

「えっと……『ラッパ』」

「『パイナップル』~」

「『ルビー』……」

「『ビー玉』」

「……『マントヒヒ』」

「すごいとこ突くね~。『ヒモ』」

「も……『桃の木』……?」

「『金属器』」

「『キリン』――あ」

 

 あ、やばい。

 あまりにもボーっとやり過ぎた。普通に『ん』言っちゃった――

 

「『ンジャメナ』*1

「――!?」

「ん? どしたの~? まだ続いてるよ~?」

「え、あ? う、うん……」

 

 ……あれ。おかしいな。私の記憶が正しければ、しりとりって、『ん』がついた時点で終わりだったと思うんだけど……

 

「な……『茄子』」

「『すみれ』」

「れ……『レール』?」

「『ルッコラ』」

「ら……『ラッコ』!」

「『コアラ』」

「え、ら……『ランタン』!」

 

 って――やばい! また言っちゃった。なんやかんや二回目だ。

 さしものスカイさんも、更にここから続けるのは――

 

「『ンゴロンゴロ保全地域』*2

「何それ!?」

 

 ……とか思った私が甘かった。なんかもう、何でもアリだった。

 

「あ」

「え?」

 

 そんな中で――

 スカイさんが、唐突に声を漏らす。

 弾かれて、背後へと振り返ってみると……

 

「――うえぇ~っ、ショーのバカァ! もう知らないもんっ!」

「だかラ悪かったって言ってんだロ。んなに泣くことねぇだろウガ」

「はいはい、もうすぐお家だからね。そんなに大声出さないこと」

「よしよし……」

 

 鬱陶しいまでに騒がしく、何やらやり取りしながら。

 歩いてくる人影が、五つ。

 

「――だからいつも言ってんだろ。もっと大人になれって」

 

 そのうちのひとつ。

 繰り広げられていた口論を制するように。

 冷静に言う、それは――……

 

「お前らももう13……」

 

 ……私の。

 よく知るものだった。

 短めの赤髪。

 鋭い目つき――

 

「……」

「……」

 

 夜の帳の中、目が合う。

 視線を通し、筆舌に尽くし難い感情が行き来する。

 刹那。あるいは永遠。

 重苦しいまでの静寂が、そこに漂って。

 

「――……?」

 

 彼女の口が、何かを紡いだ。

 私の目には。

 

 アリオン、と見えた。

 

「――やー、皆様方」

 

 その時――

 スカイさんのふわふわとした声が、停止した時間を動かしていた。

 

「昨日ぶりだね~――今日はお友だちを連れて来たよ」

「おぉ、悪いナ。今ガキをあやしてるとこでヨ」

「っ、ガキじゃ、ないわよぉっ! ガキじゃないもんっ!!」

 

 何でもなく話し始める、彼女らの傍ら――

 ……『彼女』は。

 フェアちゃんは、無言のままでいたけど。

 

「……、」

 

 目を閉じて。

 開けていた。

 

「……久しぶりだな」

 

 そして。

 ごく普通のことのように、冷静に、そう言っていた。

 

「六年ぶりくらいか?」

「……うん。そんなとこだね」

 

 だから、私も。

 思わず、駆け出したくなる衝動を、頑張って抑え込んで。

 応じる。

 

「びっくりしたよ。まさかこんなことしてるなんてさ」

「うるせぇよ。こっちにも事情ってもんがあるんだ」

「だろうね。いくらお人よしでも、理由なくそんなことしない」

「褒め言葉として受け取っとくよ」

 

 肩を竦める彼女。

 余裕そうに、何でもないことのように。

 本当に――『いつも通り』に。話して。

 

「――入れよ。とりあえず」

 

 私たちに、勧めた。

 

「積もる話があるんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計が壊れていた、とのことだった。

 

「んと……この辺?」

「もう少し右……」

 

 センちゃんとリョホーちゃんは、新品の壁掛け時計を設置する。

 

「――そしたらコイツ、なんて言ったと思う!? 『何も考えてねぇかラそんな簡単なこともわかんねぇんだロ』~、だって!! 有り得ない! もっと言葉選ぼうとか思わないわけ!?」

「はン。そんだけ元気なラ、もウ心配はいらねぇナ」

「はぁ!? どの口がほざくわけぇ!?」

「平和で何よりですな~」

 

 エンゲツちゃん、ショーちゃん、スカイさんは談笑していて。

 そこから少し離れた、縁側で。

 

「――なるほどな」

 

 私は……フェアちゃんと、話していた。

 

「例の『事件』に、そんな裏があったなんてな」

「全くね。なんで私があんなことしなきゃいけなかったんだか」

 

 話題は、少し前に学園を席巻したあの事件。

 私が――私たちが引き起こした、世間全体をも巻き込んだ、大騒動。

 

「でもお陰様で、いい学園生活を送らせてもらってるよ。……レースもうまくいってるしね。今のとこは」

「お前の活躍はちょいちょい見るよ」

「あ……ホントに?」

「この間なんて、変な特集組まれてたぜ」

 

 変な特集……心当たりはある。なんか、自称ウマ娘マニアの何とかって人が取材を求めてきたんだよな。執念に負けて許可したけど……

 

「驚いたな。まさかお前が、ここまで大きくなるとはな」

「いやいや。私一人だけの力じゃ――」

「あたしには、真似出来ねぇよ」

 

 フェアちゃんの声が、痛々しい色を伴う。翳りを帯びた瞳を見ると、それ以上の自分語りが、酷く罪深いもののように感じられる。

 

「……フェアちゃんの方は?」

 

 逃げ場として選んだ話題は、少し悪手だったろうか。

 

「わざわざ訊くかよ」

 

 彼女は、苦笑いを浮かべていた。

 

「見ての通りだよ。それ以上もそれ以下もねぇ」

「……そう言われても。その……色々気になるとこが多くてさ」

「あいつらのことか?」

「……それもだけど」

 

 当然、それもだけれど。

 ここ最近の、彼女の生活もそうだし。

 ……私が誘おうと思っている、『夢』のことも、そうだし。

 

「まぁ、成り行きで保護して、生活してるってだけだよ」

「成り行きで見ず知らずの子を保護する? 普通……」

「『普通』はねぇだろうな。でもあたしの生活は、『普通』じゃねぇからな」

 

 彼女の目は、目の前の庭に向けられている。使い古された丸机、黒板。小屋には、数羽の兎。

 

「……あぁ。普通じゃねぇんだ」

「どれくらい続けてるの?」

「そろそろ一年だな。早いもんだ」

「その間もその、ずっと……一人で?」

「まぁな。見ての通り、一人暮らしだし」

「あの子たちの、家族は?」

「事情聴取かよ」

 

 気付けば、矢継ぎ早に質問を投げかけていた。苦笑いと共に緩く咎められ、思わず口を噤む。

 

「……ごめん」

「謝罪は求めてねぇっての」

 

 フェアちゃんは困ったように言い、改めてこちらに視線を向ける。昔とほとんど変わらない、鋭い目。

 

「それで?」

 

 続けられた問いに、思わず固唾を呑んでいた。

 

「どうしてここに来た。まさか、たまたまここまで来たわけじゃねぇだろ?」

「……」

 

 スカイさんをも伴ってここに来ている時点で、薄っぺらい嘘なんて意味がない。

 そもそも、話さなくては進まないのだ。

 覚悟を早く決めるか、遅く決めるかの違いでしかない。

 

「……、」

 

 だから。

 私は、一瞬のうちに覚悟を決めて。

 

「――フェアちゃん」

 

 言った。

 

 

 

「私の夢に、

 協力してくれない?」

 

 

 

「……夢?」

「うん……」

 

 怪訝そうなフェアちゃんに、洗いざらい話した。

 内容はもちろんのこと。

 目指そうと思った経緯も――全部。

 

「……」

 

 全てを聞いたフェアちゃんは、しばし無言になる。

 特別不快そうだったり、怪訝が更に深まった感じでもない。

 むしろ、口を少し開け、それに期待しているようですらある。

 ――好感触。個人的な印象はそれだった。

 

「……どう、フェアちゃん」

 

 行けるかもしれない。

 これなら、応えてくれるかもしれない。

 そんな希望と共に、彼女にもう一言進んだ。

 

「私と一緒に……来ない?」

「……」

 

 フェアちゃんは、少し間を置いて。

 背後へと振り返る。

 そこでは、みんなが未だに騒いでいる。

 楽しげなその喧騒に、彼女は何を思ったのだろうか。

 

「……、」

 

 目を向け直した彼女は。

 

「悪いな」

 

 果たして――そう答えていた。

 

「付き合えねぇよ」

「……」

 

 ……いや。

 動揺するものか。一発で応じてもらえる、なんて考えるのがそもそも浅いのだ。

 ゆっくりと、確実に、説得するんだ。

 

「……どうして?」

「金だよ」

 

 訊ねると、彼女はあっけらかんと言った。

 

「中央ってのは金がかかるだろ。協力したいのはやまやまだけど、今のあたしに、そこまでの余裕はねぇ」

「でも、奨学金とかあるんだよ? 実際、それで通ってる子もいるし……」

「奨学金も返さなくちゃならないだろ。あたしも実力に自信はあるけどな。分の悪い賭けはしたくない」

「……」

 

 ……違和感を覚える。

 その答えは、直前の彼女の行動に一致していなかった。

 お金だけが問題になるなら――

 今、みんなを振り返ったのは……なんだったのだろう。

 

「……フェアちゃん」

「なんだよ」

「嘘吐いてるよね」

「吐いてねぇよ」

 

 追及すると、彼女は答えた。

 吐いてねぇ、けど。

 

「話す真実くらい、選ばせろ」

「……」

 

 ……壁を感じる。

 この六年という歳月は、私と彼女とを引き離すには、十分な長さを持っていたみたいだ。

 彼女のことを知っていたつもりなのに。わかっているつもりなのに。

 こうして、突き放すも同然の言動をされたことが……

 

 ……少し。

 ショックだった。

 

「薄情だなぁ」

 

 言葉に詰まって。

 俯くと。のんびりとした声が、そこに割り込んできていた。

 

「親友に隠し事するなんて」

「……スカイさん」

「……うるせぇな。お前には関係ないだろ」

 

 スカイさんは、私の隣、フェアちゃんとは、私を挟んで反対側へと腰を下ろす。フェアちゃんは……彼女の登場に、不愉快そうだったけれど。スカイさんは気にしていなさそうだった。

 

「つーか、あいつらの相手はどうした」

「ご飯の支度するってさ。それより……美しい覚悟だね」

 

 スカイさんの口から出てきた言葉は、少々唐突だったように思う。小首を傾げると、その口元に、意味深は笑みが灯る。

 

「自分の信念のためなら、親友を欺くことも躊躇わないってわけだ」

「……欺いてねぇよ、あたしはただ――」

「あぁ、いや、いや。いいんだよ。君がそうしようとそうしなかろうと、私には()()()()()だしね」

 

 意趣返しみたいな言葉に、今度はフェアちゃんが言葉を詰まらせる番だった。

 

「……好きにすればいい。それをどうにかこじ開けるのも、この子の仕事でしょ」

 

 でもわからないな、とスカイさんの瞳が、神妙な色を帯びた。

 その目に――一体、どんな世界が映っているのだろう。

 

「私には、君が苦しんでるように見える」

 

 望んで、そうしているようには見えない。

 

「自分がしたいことを――

 

 必死に、

 我慢しているように見えるんだけどな。

 

 ……あくまで印象だよ? 印象。そうじゃないならそうじゃないで、それまでだけどさ」

 

 あんまり我慢し過ぎるのも。

 よくないと思うけどなぁ。……

 

「……」

 

 フェアちゃんは、すぐには答えない。

 その間に、一陣の風が吹き込んできた。

 庭に植えられた植物が、ざわざわと、どこか不穏な音を奏でる。

 

「……お前ら、明日は暇か?」

「え?」

 

 それが鳴り止んでから。

 フェアちゃんは、私たちに問いかけていた。

 頓狂に応じるけれど、彼女の目は揺らいでおらず。

 

「暇だったら、またここに来い」

 

 そのまま、続けていた――そこで。

 私の現実と、覚悟を見せてやる――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で」

 

 翌日の夕方。

 

「なんであたしが付き合わなくちゃなんねぇんだよ……」

「ごめんなさいごめんなさい……!! 保護者同伴でって言うから仕方なく……!!」

 

 心底に不機嫌そうな声のトレーナーさんを、神仏か何かのように拝み倒す。

 ……翌日。フェアちゃんの見せてくれる何かを見るため、再び彼女の家にやって来たものの。

 誰かしら保護者を連れてこいって言うから。トレーナーさんに同伴を求めたのである。

 

 ただ、本来なら今日は、トレーニングをするべき日。

 ただでさえ昨日、会いに行くのに無理言っておやすみさせてもらったのだ。

 本当なら、こんなことしてる場合じゃないんだけど……

 

「……まぁいいけどよ。それで身が入らなくなったら世話ねぇし」

 

 なんだかんだ、彼女はそれを許してくれる。やっぱり心根はお人好しだった。

 ……本当に、ありがとうございます……

 

「でもよ、」

 

 ちらとその目が、私の傍に向けられる。

 

「オメーが着いてくる意味はあんのか?」

「いやいや~。ここまで来たら、そりゃ着いて行くでしょ~」

 

 いかにも不可思議そうな声に、やんわりとした声が答えた。

 スカイさんは――

 昨日と変わらぬ軽い感じで、彼女の質問に答える。

 彼女も彼女で、色々やらなきゃいけないことがあるだろうに、それでも付き合ってくれているのは、譲れないものがあるからか、サボるためのいい口実を見つけたからか。

 

「『通りかかった船』だしね。それに私も……その覚悟とやらが気になるし」

 

 行かない理由はないでしょ~――と、彼女は言うけれど。

 語頭に附された言葉に、違和感を覚えた。

 

「……」

 

 そしてその正体は、すぐにわかった。

 

「……それ、ただの船だよね」

「お~、鋭いね~」

 

 指摘すると、へらへら笑う彼女。……分かり辛いボケだった。

 

「よう」

 

 そんなやり取りに、フランクな声が割り込む。

 

「約束通りだな」

「うん。……約束通り、来たよ」

 

 家の敷地から出てくるのは……フェアちゃん。

 あの四人の子たちの姿はまだない。一緒に行く、って話だったはずだけど。まだ準備中なのかな。

 

「オメーがルビーフェア(親友)か」

 

 対して、ずい、と身を乗り出すトレーナーさん。フェアちゃんと比べて、体格は一回りくらい小さいはずなんだけど。彼女の方が目上というのが一目でわかるから不思議だ。

 ……態度のせいだろうか。

 

「コイツから話は聞いてる。まぁ今日は、くれぐれもよろしくな」

「――はい」

 

 嘗められないためか、信用を置いていないためか。威圧感マシマシに言う彼女に――

 フェアちゃんの声は、仰々しかった。

 

「本日はご足労願いまして、ありがとうございます」

 

 ……深々と。

 頭を下げていた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「……お、おぉ」

 

 ……あのトレーナーさんが若干引いてる。そんな反応、予想だにしなかったのだろう。気持ちはわかる。

 こんな『いかにも』な見た目をしているのに、その実ものすっごく礼儀正しい、なんてなったら、温度差で風邪ひいちゃうよね……

 

「フェア姉!」

 

 と、そこで。

 あの子――センちゃんの声が飛んでくる。

 目を向けてみると、家の中から、例の四人組がそそくさと出てきていた。

 

「ごめん、リョホーが準備に手間取って……」

「ごめんなさい……」

「ったくもう、あんたいっつもこうじゃない」

「オメェも人のこと言えねぇけどナ」

「……またぞろぞろ出てきたな」

 

 トレーナーさんの言葉がちょっと面倒臭げなのは、それだけの人数を覚えられる気がしないと思ったからか。

 

「役者はそろったな」

 

 どちらにせよ――

 フェアちゃんは、言う。

 

「じゃ、行くぞ」

 

 そうして、目的地もろくに告げないまま……

 私たちの、先導を始めたのだった。

 

*1
チャドの首都。

*2
タンザニアの自然保護公園。

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