16年度の卒業生(新版)   作:Ray May

41 / 51
命の火花

 アルちゃんを巡る、一連の騒動は終結した。

 

 あれだけの騒ぎだったのだ、建造物始めとする周囲への影響は相当なもので……一部店舗は、しばしの休業を余儀なくされているらしい。死者が出なかったのは、不幸中の幸いだったか。

 

 騒ぎを主導した過激派団体は、その構成員のほとんどが現行犯逮捕。リーダー始めとする幹部クラス――つまりは現場にいなかった構成員でさえ、軒並み逮捕されたそうだ。

 彼らに一体、どういった罪状が告げられるかはわからない。示談で終わるかもしれないし、一生を刑務所で過ごすことになるかもしれない。

 でも……もう二度と、私たちと関わることはないだろう。それだけは確かだった。

 

 正直、この流れるような逮捕劇には、私は、見えない何かの力を感じてならなかった。

 そしてその力の出所は……私には、ひとつしか思い当たらなくて。

 退院直後のトレーナーさんに、それとなく問いかけてみたのだ。……今回の一件。

 きっとあなたも、助けてくれたんですよね、と。

 

「あたしは何もしてねーよ」

 

 ……でも、彼女は淡白にそう答えるばかりだった。真偽は測り兼ねたので。私はそれに、そうですか、と応じるに留まっていた。

 

 この一件で、学園もしばらくは騒がしくなるだろう、と思っていたのだけれど。翌日から既に平常運転だったのには驚かされた。

 その平常ぶりは、まるでそんな騒ぎなど始めからなかったかのよう。

 ただ明らかに憔悴している様子の先生を見て、並々ならぬ大人の力というか、底力、意地のようなものを感じ……

 せめてそれに値するような何かをしなくちゃな、なんて密かに決意を新たにした、私だったりもした。

 

 ……で、そもそもの騒ぎの大元、アルちゃんはというと。

 翌日、すぐに精神鑑定を受けることになった。

 私たちからの目からすれば、明らかに『普通』に戻っているとはいえ、所詮は感覚的な話でしかない。

 科学による裏付けは必要だ。そしてその鑑定は――恐らくはそう簡単には終わらない。

 きっと何日、事によれば何週とかかるだろうな、と、タカを括っていたのだけれど。

 ……驚くべきことに、なんと2日くらいで終わってしまった。

 結果は――『異常なし』。

 

「……本当にそういった疾患だったのか、疑いたくなるくらいです。どこからどう見ても、普通の『女の子』ですよ」

 

 そんな風に先生は語っていたらしい。それこそ、精神を病んでいたということが、最初からなかったみたいに。

 いい結果、ではあるんだけれど。事態を知り及んでいる側からしたら……なんというか、その結果は、ちょっと『寂しくて』。

 私は、検査終わりたてのアルちゃんに聞いてみた――もう、『彼』(アルスヴィズ)はいないのか、と。

 

「んーん」

 

 すると彼女は、答えてくれたのだ。

 

「いるよ。まだ、いる」

 

 自身の胸に手を当てながら。

 

「わたしのむねの……ここんところで。

 

 いまもわたしを、みまもってる」

 

 ……それに私は、思わず顔を緩めて。そっか、とだけ返した。

 

 そうして、起きた騒動も、差し当たっての不安も、全てが解消されて……

 晴れて正式に、アルちゃんは迎えられることになった。

 

 トレセン学園中央校。

 その、編入生として。……

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 おせんこうのかおりが、あたりをただよっています。

 おいのりをすませて、わたしはその場に立ち上がりました。

 ぼせきを見上げて、少しだけ、なごりおしい気分になります。

 でも、あの人を待たせるわけにはいかないので、そのくかくから出ました。

 

「お祈りは済みましたか?」

「うん。だいじょうぶ」

「わかりました。では、行きましょう」

「ん」

 

 その人――めいどさんと手をつないで、そこから歩き出します。

 

「……よろこんでるかな、とれーなーさん」

「えぇ、きっと喜んでいますよ」

「本当に? わたし、色んな人、きずつけちゃった……」

「不可抗力というやつです。あなたのせいじゃありません……気にすることはありませんよ」

「ふか……なに?」

「不可抗力。まぁ、覚えなくていいですよ」

 

 大人のよゆう、みたいなものでしょうか。なんだか、知りたいことをかくされた感じがして、ちょっとむっとしちゃいました。

 

「……ごめんなさい」

 

 するとめいどさんは、いきなり、そんなことを言います。

 

「私が……もっとしっかりしていれば」

「んーん。だいじょうぶ。めいどさんは、いつもわたしと話してくれてたし」

「でも……それでも。あなたをもっと早くに助け出すことが出来てれば、こんなことも起きなかった」

「めいどさん……?」

「だから……その」

 

 そこでめいどさんは、手をつなぐ力を強くすると、立ち止まって、わたしのほうを見ました。

 それから、なんだか気まずそうに、言いました。

 

「あなたを、養子に取ることにしました」

「……? よーし?」

「……家族になる、ということですよ」

「……」

 

 わたしは。

 思わず、目を見開いていました。

 それがおかしかったのか、うれしかったのか、めいどさんは、やさしそうに笑いました。

 ……

 

「じゃあ……わたし、めいどさんを、おかーさんって呼ばなきゃダメだね」

「う……そ、それはまぁ、そのー、手続きも今からなので。まだ呼ばなくていいというか……」

「じゃあ、いつかは呼ぶね」

「……、まぁ、呼びやすい方でいいですよ」

 

 めいどさんは、座り込んで、わたしをしょうめんから見つめました。それから、わたしと、自分のおでことを、くっつけました。

 かぜのとき、とれーなーさんにそうされたみたいで。

 じんわりと、あたたかなかんじが、むねの中に広がりました。

 

「……もう二度と、あなたを独りにしません」

「……」

 

 ことばのいみは、あんまりわかりませんでしたが、なんとなく、それがとってもいいことだということはわかりました。

 だからわたしも、めいどさんのりょうかたに手をあてて、目をとじていました。

 おでこからつたわる、めいどさんのたいおんを。感じていました。

 

「……さ、行きましょう」

 

 しばらくして、めいどさんは立ち上がります。わたしもそれにうなずいて、めいどさんに引かれるまま、歩きました。

 

 車にのって、めいどさんのうんてんで、次の『もくてきち』へ。

 見えてくるのは……とっても、とってもおっきな『こうしゃ』。

 それだけで、わたしはわくわくしたけれど。

 

「――あ!」

 

 まどごしにみえたすがたに、思わず、声をあげていました。

 

「めいどさん、はやくはやくっ!」

「はいはい、今停まりますからね。少し待ってください」

 

 ほどなく、車は止まりました。わたしはしーとべるとを取り外して、外へ出て、がくえんの正門に走り出します。

 もっと言うなら……

 そこでまっている、その人のもとに。

 

「――すずかーっ!!」

「あ、アルちゃん――」

 

 へんじをまたず。

 わたしは、その人……すずかのむねの中に、とびこみました。

 

「わ、ちょっ……」

 

 すずかはわたしをうけとめてくれました。ぐりぐり、ぐりぐりー、と、すずかのおなかのあたりにかおをおしつけます。

 ……やった。あえた。

 またあえた。

 うれしくてうれしくて、ぎゅーっと、すずかをだきしめてしまいます。

 

「もう、危ないでしょう」

 

 すずかは、そんなわたしに言ってくれますが。

 

「倒れたらどうするのよ」

「すずかーっ、すずかすずか~っ」

「……」

 

 けっきょく、ため息をついただけでした。

 

「あははは……」

 

 すずかにからだをくっつけたまま、うしろに目を向けてみると、そこにはめいどさんがいました。

 

「もう、すっかり懐いたようで……」

「そうみたいです……全く、私の何がそんなに好きなのかしら」

「ぜんぶ! すずかのこと、ぜーんぶすきっ」

「そ、それはどうも……」

 

 すずかは、どうしてか目をそらしてました。わたし、何かへんなこと言ったかな。

 

「……今日はよろしくお願いしますね」

 

 めいどさんは、そんなすずかに言いました。

 

「また時間が近くなったら、お迎えに上がります」

「はい。大丈夫です。任せてください」

 

 すずかは、めいどさんにそう答えると。

 ちょっと力ずくで、わたしをひきはがしてました。

 

「さ。行くわよ。今日は学園を案内するんだから」

「あ、そうだったっけ」

「そうだったわよ。ほら」

 

 すずかが、わたしに手をさしだしてくれます。わたしは……それを、ちょっとだけためらったけど。

 ゆびのせんたんから、手のひらへ。

 ゆっくりと、つないでいました。

 

「……それじゃ、行きますね」

「はい。お気をつけて」

 

 そして、めいどさんに見送られながら、そこから歩き出します。

 

「――アル!」

 

 でも、ちょっとだけ歩いて。

 わたしたちは、呼び止められました。

 立ち止まって、ふりかえると。そこで、めいどさんは。なんだか泣きそうな顔をしながら、しせいを正して。

 

「――、」

 

 言っていました。

 

 

 

「――いってらっしゃい!」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

「……」

 

 わたしは。

 それに、わらいながら。

 

「うんっ」

 

 大きくてをふって、答えました。

 

「いってきまーすっ!」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 三女神像の頭頂部に、一頭の蝶が留まる。

 サイレンススズカとダイヤアールヴァクは、像の傍を通る。……

 

 

 

「……そういえば」

「ん?」

「まだ、すずかの本名、聞いてない」

「サイレンススズカよ」

「さいれんすずか……?」

「サイレンススズカ」

「さいれんすずか」

「……サイレンス」

「さいれんす」

「スズカ」

「すずか」

「サイレンススズカ」

「さいれんすずか」

「……もうそれでいいわ」

「ん。わかった」

 

 

 

 二人は、やがてそこを通り過ぎる。

 蝶は、そんな彼女らを見守るように、留まり続ける。

 二人の姿が校舎の中へと消えていくと。蝶は、翅を大きく動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてまた、どこかへと向けて、羽ばたいていった。

 

 

 

Uma-musume

Graduate of 16

 

Act.4

Rise to the Freedom

自由への羽ばたき

 

-End-

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。