Graduate of 16
Act.6
Keep Living with Dreams
旅は終わらない
-Act Out-
継がれていく想い
「――いやぁー……」
棚に設置した『ソレ』を見つめて、私は声を上げていた。
立派な金色の杯。思ってたより大きいな、とは思ってたけど、いざ改めて目の前にしてみると、これは……なんというか……
「凄い存在感だね……」
「あぁ……他のを明らかに圧倒してるな」
私の言葉に、隣に立つお父さんも、そう言っていた。
その棚には、私が今まで獲得してきたトロフィーが飾ってあるけど。
ひときわ大きいそいつの自己主張の強さは、それらを抑え込んで余りあるほどだった。
「正直、結構浮いて見えるな」
「……それじゃ、」
顎を擦って苦笑いしている彼に、私は、にやりと笑った。
「これからもっと、取らなきゃね」
「……」
私の言葉に、お父さんは面食らったみたいだけど、すぐに、微笑すると、そうだな、と同意してくれた。
「……さ、じゃあそろそろ行こっかな」
「あぁ、バイト先に顔出すんだったか」
うん、と短く返し、部屋を出て、玄関へ向かう。靴を履くと、彼は私の名を呼んでくれた。
「あんまり遅くなり過ぎるなよ!」
「はいはいわかってますわかってますよー!」
それに私は、ちょっと雑めに、返した。
「行ってきまーす!」
いつか言いたかった 言葉があるよ
それは 特別なことなんかじゃないんだ
そうそれは 難しいことなんかじゃないんだ
「――ぎゃっはははははっ!!」
寮の一室で。
『彼女』の姿を見て、あたしは大笑いをしていた。
「お、お前っ、マジっ、スカート似合わねぇーっ!!」
「っ……っせぇなぁ……!!」
そんなあたしの視線の先。そこには、何度も目にしたツートンカラーの髪。
わなわなと肩を震わせている――『トウ』の姿がある。
そしてその服装は……トレセン学園指定の、あの制服。
「そんなんお互い様だろがっ!! オメーこそスカート似合ってねぇっての!」
「え~? いやいや、あたしはもうこいつの着こなし方、マスターしたし? 今のお前は言うなれば……そう、制服に着られてる、みたいな?」
「テメーぶっ殺す!!」
「おいおい待てって! 部屋狭いんだから暴れんなよー!」
そんな感じで、一頻り追い回されて。隣の部屋の生徒に怒られたところで、あたしたちは落ち着いていた。
「……ったく、オメーとだけは会わねぇように気を付けるつもりだったってのに。まさか編入初日に会うなんてよ」
「いやそれは無理あるだろ色々と。ってかお前が入って来たってんなら、そりゃ会いに行くだろ」
「はぁ? なんで――」
「お前も、立派なライバルだしな」
沈黙。トウは目を丸くしたが。林檎の成熟を早送りするみたいに、みるみる顔を赤くしていた。
「――だぁー!! っざけんな!! オメーいつからそんなキザなこと言えるようになったんだよッ!!」
「え? キザだったか? 今の」
「キザだった。だいぶキザだった。ピラミッドかってくらいのキザっぷりだったぜ」
「それはギザだろ」
「うるせーよ!!」
結構初歩的なミスだと思うんだが。よくそれで入学出来たなコイツも。
「……とにかく、これから校内の案内とかじゃないのか? さっさと行った方がいいだろ」
「誰のせいだと」
「いやあたしのせいじゃないだろ」
「いーや! オメーのせいだね!!」
「はいはい、わかったわかった。また怒られるだろ、そんな大声出したら」
「~~~、あぁ、そうだな……」
彼女は怒りをため息に変換することで発散させたようだった。いい子だ。
そういうわけで、彼女が支度を終えるのを外で待つ。……が、それもそれで時間がやたらかかったので、反発を振り切って手伝うのに一苦労。コイツ今までどうやって生きてきたんだ。ペンとメモ帳くらいすぐ出せるようにしとけよ。
「おし! そんじゃあ行くかぁ!」
「いや、案内くらいで気合い入れ過ぎだろ……」
彼女に言いながら、扉の閉じた寮室へ振り返る。あたしはそれに、小さく口にした。
「――行ってきます」
ただ風を待ってたんだ
答えもなく
いま僕は行くのさ イメージの向こう側へ
僕の向こうへと
さぁ 飛び立とう
「……お父様」
ヒスイグループ本社ビルを見上げて、私は声を漏らす。
「ん~?」
隣に立つお父様は、どこかのほほんとした声で答えるけれど。私の内心は……そこまで穏やかではなかった。
「さすがにこれは……やり過ぎですよ……」
「え~? そうかなぁ」
そうですよ、と私は真剣に言う。だって、ビルの壁にはでかでかと、『スレイエメラルド 第██回有マ記念大会 出走おめでとう!!』という垂れ幕が垂れているのだから。
周囲に立つ社員たちも、おぉー、とかって声を上げてるけれど。あの、その、感嘆してる場合じゃないです。
「確かに出走自体は喜ばしいことですけれど、私は大きな結果を残せませんでした」
「うーん、お父さんはそうは思わないけどねぇ」
「……っていうか、会社を上げて煽られてるような気すらします」
「おいっ! 誰だのぼりの内容を考えた奴は! 許さんぞ!」
『アンタだよッ!!』
社員からの総ツッコミを受けて、お父様は縮こまってしまった。まぁ……なんかもう……いいや。どうでも。
「あのー……そ、それで、スレイちゃん?」
嘆息した時、おどおどと話し掛けてきていたのは、現・秘書の女性だった。
「なんでしょうか」
「いや、えーっとね。その、あなたの出走と、無事に完走したことを記念して、今度、その、打ち上げ? みたいなのをね。するんだけど……」
彼女は、まるで仏像を前にしたみたいに手を合わせると、深く頭を下げていた。
「お願いっ、その、あなたにも、来てほしくて……!!」
「……」
それを聞いた時。この一連の行動の真意が見えていた。
「最初から、それが目的ですか」
社員の皆様方は、苦笑いと共に視線を逸らす。この人たちは……団結力が強いというか、悪戯心がすごいというか、なんというか。一体誰に似たんだか……
「あ、あなたがそういう浮ついたことが嫌いっていうのはわかってるけど、でも、やっぱり主役がいないと盛り上がらないっていうか……! だからお願いっ、この通り!」
「……」
最初は拒否しようかと思った。けれどその時、脳裏をよぎるのは昔の映像。それに苦さを感じると、湧き上がってくるのは正反対の意志。
「……、」
一つ息を吐いて、私は答えた。
「……今回だけですよ」
『――!!』
すると社員たちは、一斉に歓喜の声を上げて、
「――みんな! こうしちゃいられないっ!! もう一度『作戦会議』するよっ!!」
『おー!!』
と、秘書さんの一声と共に、ドドドドド……と、社内に戻ってしまった。
……たかが私ひとりのために、一体何を企画するつもりなんだろうか。っていうか、仕事はしないでいいのかな、この人たちは……
「はっはっはっ! スレイちゃんは本当にみんなに愛されてるなぁ」
残された私の隣、お父様は豪快に笑うけれど。私としては複雑な心境だった。だって……
「愛されてるというか、遊ばれてるというか……」
「いーいじゃないか。気付かれずに放っておかれるよりかは、なんぼかマシだ」
「いい食い物にされてる気もしますけれどね」
「こらこら、うがった見方をするんじゃない。こういう好意は、素直に受け入れるものだよ」
笑いながらも真剣な彼の言葉に耳を傾け、まぁ、そういうものなのだろうなと納得する。それからふと、腕時計に目を落として、『いい時間』だということに私は気付いた。
「……では。ちょっと出てきますね」
「ん? お出かけかい? 珍しいじゃないか」
「えぇ……まぁ、その」
少し恥ずかしくなり、目線を逸らしながらも、彼に答える。
「……友だちと、遊ぶ、約束を……」
「――!!」
すると――お父様は。
雷に打たれたみたいに、目を見開き、飛び引いていた。
「と――友だちと、あ、遊ぶッ!? あのスレイちゃんが!?」
「そ――そうですよ! な、何か悪いですか!?」
「いや、いやいやいや! 悪くない! スレイちゃんの、スレイちゃんの成長ぶりにっ! お父さん、びっくりしちゃったんだ……!!」
お父様、よよよ、と泣き崩れながら、ハンカチをポケットから取り出して、目元を拭い始める。嬉しい気持ちはわからないでもないけれど。そこまで大袈裟にリアクションせずとも……
「うぅ~、成長したなぁ~、スレイちゃあ~ん……!!」
「……、もう時間なので行きますね」
……これ以上は耐えられそうにない。そういうわけで私は、踵を返し、歩き始めた。
「行ってきます」
いつまでも色褪せない 憧れがあるよ
だから 行かなくちゃ サヨナラの代わりに
君がくれたんだ
この勇気を くれたんだ
「――そしたらおばあさんはこういいました! がおー! たべちゃうぞー!!」
わたしは、せいいっぱいの力でそれを読み上げます。勇気をふりしぼって、えんじてみます。
「するとあかずきんはいいました! わるいおーかみめー! これでもくらえー!! どかーん! どごーん!!」
長いようにも、短いようにも思える時間は、気が付けば過ぎ去っていて。
「――こうして村には平和がおとずれました。めでたしめでたし」
言い終えると、ぱらぱらと拍手が上がる。めいどさんは、まんぞくそうな顔で何度もうなずいていました。
「素晴らしいクオリティです! これなら初等部の子の心も鷲掴みですよ!」
「ほんとに? こんな感じでだいじょうぶかな?」
「はい、間違いありません! この私が保証します!」
もちろん、そのほしょうなんてありません。それでも、なんだかとっても勇気付けられたきがして、ふしぎと、元気になれました。
「ですが、またどうして紙芝居を?」
もっともなことを、めいどさんはたずねてきます。練習に付き合ってもらったけど、そういえば話していませんでした。
「……んーん。あのね、色んなかのうせいをためしてみたくなって」
わたしは、たくさんの時間をむだにしてきました。やれたかもしれないことも、やらずにやってきました。これは、それを取り戻すものに、少し似ていました。
わたしは、うしなわれた時間をとりもどすみたいに、自分の出来そうなことをためしてみることにしました。
……その勇気を、あのありまきねんは、わたしにあたえてくれました。
「それで、一番に思い付いたのが、これだったの。とれーなーさんも、よく聞かせてくれてたから、おぼえてる」
「……そうですか。立派になりましたね」
「あ、でも、れーすでかつのもまだあきらめてない! ……ありまじゃ、みんなをがっかりさせたから……」
しゅんとしてしまいます。あの大会で、少なくないふぁんがはなれたって、にしざきから聞きました。もう二度と、あんなことはしたくないし、しないと思っています。
「……にしざきは、まいる? ろせんでがんばろって。よくわかんないけど、わたしも、それでがんばろっておもってる」
「ふふっ、そうですか。……いいですね」
めいどさんは、そこでわたしの頭をなでてくれました。
「……いいこと、ですね」
めいどさんは、やさしく笑ってくれます。わたしも、それにつられて、気付けば笑っていました。
しばらくそうしたあと、めいどさんは、腕時計をかくにんしました。
「……そろそろ時間ですね。行きましょうか」
「ん、わかった」
なので、わたしたちは立ち上がります。だれも使っていない、とれーなー室。かつて……わたしが、住んでいたその部屋に。
わたしは、一言つげました。
「――行ってきますっ」
ただ虹を待ってたんだ
疑いもせずに
いま 僕は行くのさ イメージの向こう側へ
空の向こうへと
この翼で
――生徒会室で、トウカイテイオーとナイスネイチャが話している。
「……今日でここも見納めか。寂しくなるね~」
「だね。ま、立派な『次期会長』さんなんだ。しっかりやってくれるよ」
「……そうだね」
――テイオー、ネイチャの方に歩み寄る。ちょっと座って、と短くお願いする。
「? どしたの?」
――テイオー、同じように座り込み、ネイチャと同じ目線に立つ。
――それから、ネイチャに顔を近づけると、自身の額を、ネイチャの額にくっつける。
「――!? ちょ、テイオー……!?」
「……ありがとね、ネイチャ」
――動揺するネイチャをよそに、テイオーは言う。
「キミのお陰で……ここまでやれた。キミがいたから、ここまで来られた。キミじゃなかったら……ここまで、来られなかった。
キミを選んで……良かった」
「……」
――ネイチャ、しばし無言になるが、同じように、額を押し付ける。
「……そんなの、こっちこそ、だよ。
アタシも……あんたに選ばれて、良かった」
――お互い、そうしてしばらく時を過ごす。
――どちらからともなく額を離し、その場に立ち上がる。二人、生徒会室の扉の前に立つと、姿勢を正す。
「それじゃ!」
「ん!」
『――行ってきます!』
風を追い越せる その時
――寮室の窓枠に凭れながら、サクラチヨノオーは、メモ帳にペンを走らせている。
――そこには、『蹄跡は一日にしてならず』という文言が書かれているのが分かる。
――チヨノオー、ペンを引っ込め、メモ帳を閉じ、窓から空を見上げる。
――一陣の風が吹き、彼女のボブカットの髪としばし遊ぶ。
――ノックの音が響く。彼女のルームメイトが姿を現し、先生が呼んでいることを告げる。
――チヨノオー、それに溌溂と返事をし、そそくさと窓を閉める。その姿に、かつての暗い様子はない。
「……よしっ」
――身支度を整えた彼女は、すぐさま扉へ向かう。
――扉に手を掛けると、寮室へと振り返り、言った。
「行ってきますっ」
虹を手に入れる その時
――セイウンスカイは、実家の玄関で靴ひもを結んでいる。
――土間で靴の先端を地面に叩き、異常がないことを確認する。
「忘れ物はないな?」
「ん。大丈夫だよ~」
――祖父の言葉に、スカイはいつもの調子で答える。祖父の老健な顔が、若々しく、男らしい笑顔で綻ぶ。
「またいつでも帰ってこいよ。じいちゃんは暇してるからな!」
「あはは。それじゃ、また暇つぶしに来ましょうかね~」
「おう、また釣りの極意を教えてやるからな!」
――またまたー、と冗談めかしながら、スカイは玄関の引き戸を開ける。
「――じゃ、行ってきまーす!」
笑ってくれるのかな
――メジロ邸正門前で、ドーベルとブライトが談笑している。
――そこへ、メジロラモーヌがやって来る。
「! ラモーヌさん」
「お見送りまでせずとも~」
「いいえ。立派な『家族』を見送るのは、『姉』として当然の務めよ」
――ドーベルとブライト、目を合わせて笑う。
――ラモーヌ、依然として無表情だが、どこか楽しそうにも見える。
「……あなたたちは、メジロ家として素晴らしい走りをしたわ。ただ、順位は順位。
次こそは、栄光を掴み……そしてこれから先も、メジロの名に恥じないレースをなさい」
『――はいっ!』
――ラモーヌの言葉に、二人、元気よく返事をする。
――そこで、黒塗りの車が停まる。その後部座席に乗った二人は、窓を開けて、ラモーヌに手を振る。
「行ってきます!」
「行ってきますわ~」
逢えるかな
――病院の前で、サイレンススズカは花束を受け取っている。
――あまり聞かない送り出し方に、彼女も少し恥ずかしそうにする。
――担当の看護師は、しかし、信じ難そうに顎に指を添えた。
「……でも凄いですね。こんなにも早く歩けるようになるとは……」
「ふふっ、意志のなせる業、でしょうか?」
「それだけで済ませてはいけない気もしますけど……」
――話す二人の傍に、車が停まる。運転席に見知った顔を認めて、スズカは助手席に乗り込む。
――看護師、彼女に慌てて言う。
「あの! まだ無理して走ってはダメですよ! しっかり調整してくださいね!」
「はいはーい、わかってますよ!」
――運転手――西崎は、それに軽い感じで応える。看護師、不安そうに見守るが、スズカの優しげな瞳で、胸をなでおろす。
「それじゃ、」
――スズカ、助手席の窓から、看護師に手を振る。
「行ってきます!」
しばらくして――
ただ風を待ってたんだ
答えもなく
「――トレーナーさんたちも来ればよかったのに」
「いやいや。さすがにそれは無茶でしょ」
私のボヤキに、ネイチャさんはそう答えていた。
「っていうか、今でも十分大所帯だし。これ以上は贅沢ってもんでしょ」
「まぁ……そうですね」
私もそれに応じつつ、少し離れた場所を見る。公園――『元・アシカガトレセン学園』隣の、広大な敷地で。
教頭先生は、テイオーさん、チヨちゃん、スカイさん。
ドーベルさんにブライトさん、フェアちゃんスレイちゃんアルちゃんにまで囲まれながら、『それ』をいじっている。
三脚に取り付けられた、最新式のカメラ。なんだかいつもよりそわそわしているように見えるのは……まぁ、有名人に囲まれまくってるからだろうなぁ。
「――しかし、残念だねぇ」
ネイチャさんの目が、私たちのすぐ傍に向けられる。視線の先には――一本の大木。
今も昔も、変わらず聳え立つ、立派な大樹。
「気前よく咲いててくれたら、最高だったのに」
「まぁ、『ご神木』側の都合もありますから……」
苦笑いしながら答える。春先、暖かくなり始めているにしても、木々としてはまだ時期ではない、ということなのだろう。私も、咲いていてくれたら……とは思ってたけど。それこそ贅沢、というものだ。
こればっかりは、仕方がない。
「でも、良かったね」
「え?」
やや唐突なネイチャさんの声に返すと、彼女は笑っていた。
「『約束』、果たせて」
「……」
私は一瞬、それに無言を変えすけど。
「……、はい」
同じように、微笑みを以て、返していた。
僕の向こうへと
「――おーい、ネイチャー! ちょっと手伝ってー!」
「あいよー、今すぐ! ほら、アリオン」
「あ、はい」
テイオーさんの呼びかけに応じて、私たちはそちらへかけ寄ろうとする。でも一体何に手間取ってんだろうか。最新式とは言え。
そこまで手間取るようなことも――
「――?」
と。
その瞬間。
顔の横を、何かが通り過ぎたことに気が付いた。それは正面にまで回り込み、私の視界に入る。楕円形をした、淡い桃色のそれが、何なのかを。私はよく知っている……
信じ難くて。
私は、思わず立ち止まり。
背後へと、振り返っていた。
「――……」
……すると。
そこでは……
「……? どしたのアリオン……」
まだかけ出していなかったネイチャさんが、問いかけてくる。
私は、それに答えられなかった。そしてきっと……答えるまでもなかった。
だってそれは。
すぐ目の前に、あったのだから。
ただ虹を待ってたんだ
疑いもせずに
……ご神木が。
満開の花を、咲かせていたのだ。
「――……な」
ネイチャさんは、唖然と声を漏らしていた。
「なんで!? さっきまで蕾だったのに……!」
「……」
……それは。
たまたま起きた、珍しい現象だったのかもしれない。
偶然が重なった結果、見られただけの。有り触れた出来事だったのかもしれない。
でも、私はそれを見て。
温もりを。暖かみを感じられて……
……自然と。
笑っていた。
君の空へ
色んな人に、支えられた。
色んな人と、出会った。
「――ネイチャー、もうちょい右寄って!」
テイオーさん。
「んと、この辺? 微調整難しいなぁ……」
ネイチャさん。
「でもでも、凄い横断幕ですよね! みんなからの想いも伝わってきます!」
チヨちゃん。
「そりゃも~、セイちゃんも頑張りましたからね~」
スカイさん。
「えっと、バランス的にはこの辺かしら」
ドーベルさん。
「では、わたくしは、このあたりですわね~」
ブライトさん。
「じゃ、私はここね」
スズカさん。
「――ほら、あなた達は前に座って! その方が画が綺麗でしょ!」
教頭先生。
「どーん! わたし、ありおんちゃんのおひざー!」
アルちゃん。
「やはり恥ずかしいですね……こういうのは……」
スレイちゃん。
「文字見えた方がいいよなもっと? あたしは寝転ぶか!」
フェアちゃん。
そして。
「……」
私――……
……観ていますか、校長先生。
色々なことが、ありました。
悲しいこと。苦しいこと。
いっぱい、いっぱい、ありました。
でも、でも、それ以上に。
楽しいこと。嬉しいこと。
いっぱい、いっぱい、ありました。
ちょっと、時間が掛かっちゃったけど。
ちょっと遠回りも、しちゃったけど。
でも、私は。
でも、私たちは――
ようやく、
ここまで、
辿り着けました。
だから、
だから――
この声を。
この姿を。
これからも。
きっと。
見守っていて、
くださいね。
「――さ、撮るわよー、みんな!」
――教頭先生が、カメラのタイマーをセットし、私たちに加わる。
「せー、のっ!!」
その声の合図で、私たちは、横断幕を掲げる。
そして、息を大きく吸い――
――、
――言った。
『――我らっ!!
トレセン学園ーっ!!』
小気味いいシャッターの音が響く。
――『我ら、トレセン学園!!』
横断幕には、そんな文字が、騒がしく躍っていた。