サファイアアリオンの担当は、どちらかというとコーヒー派だ。
目が覚めるからとか、味が好きだとか、そういう話ではない。
単純に、紅茶の良さがわからないだけである。
彼女の目の前には、こんこんと湯気を立てる紅茶が鎮座している。
その行く末をひたすらに見つめているのは、その存在をどう処理するべきかに迷っているわけではない。
紅茶の良さがわからないだけで、飲めないほど毛嫌いしているわけではない。その気になれば一気に飲み干してしまうことも可能だ。
手を付けないのは――
「――そういうわけでな。私は言ってやったわけだ。そんなことしてたらハゲが進行するぞとな!」
目の前の人物が。
理事長という席に就く、偉大な存在が。
その肩書きに見合わぬ、至極どうでもいい話を延々と語り続けているからである。
「そしたら何と言ったと思う? 『もう抜けるような毛もないわ!』だと! 驚嘆! まさかあの状況を、そんな一言で掻い潜るとはなぁ! はっはっは!」
「……そっすね」
担当は、今日こんな風に呼び出された。
重要な相談がある、と。
それより休日に学園へ赴くことの面倒臭さが勝った彼女は、バックレてやろうと一度は考えたが、あの理事長を敵に回したらどうなるかわからないと判断し、こうして不承不承赴いたものの。
一向に相談らしき話にはならない。
傍に控える駿川たづなも、にこにこと笑っているだけで、促すような素振りもない。
「それで……」
「あっ! そうだ! 堅物繫がりで思い出したんだがな!」
「……」
――この流れももう二、三回目だ。時間も、理事長室を訪れてから、既に数十分を刻もうとしている。
意味を感じない話に付き合わされるのは、もうこりごりだった。
「この間商店街で――」
「理事長」
だから担当は、ぴしゃりとその話を遮った。
「話ってなんすか」
「……」
その感覚を、秋川もまた感じていたということだろうか。
一息つくと、一度は閉じた扇子を開き直し、口元を覆う。
「……やれやれ。目上の人間の話を遮るものではないぞ」
「十分ですよ。空気が和み過ぎて酔いそうです。あなたなりの気配りかもしれないですけど。それに耐える方の身にもなってほしいですね」
「耐えるとは! 心外! まるで私の話がつまらなかったかのようではないか!」
「伝わったようで何よりっす」
「むぅ」
頬を膨らませる秋川に、なおも担当は朴訥とした目を向ける。それに観念したように、彼女はソファに深く座り直していた。
「……仕方ない。君がそう言うのなら」
そして――
言葉と共に、その瞳は、鋭い色を灯していた。
「話すとしようか」
酔いそうな空気。
担当がそう例えば空気は――彼女のその一言をきっかけに、再び引き締まっていた。
張りつめた糸のように、緊張感が広がる。
「メイクデビュー戦。観たぞ」
秋川の声が、波紋のように響く。
「いい走りをするじゃないか。君の担当は。結果は残念だったが……無事に未勝利戦も勝ち上がった。きっとトレーナーの腕がいいのだろう」
「……ありがとうございます」
「ははっ、君の口から真っ直ぐな感謝が出てくるとは。明日は槍の雨が降るかもなぁ」
そのような笑いすらも、もはや場を和らげるようなことはない。
彼女の口にするひとつひとつが、担当には、その身を張り付ける楔のように感じられる。
「しかしまぁ、奇異なことをするものだ」
そして、間もなくその言葉は。
「――学園のトレーニング施設を、一切利用しないとは」
尖鋭な凶器となり、彼女の胸を貫いていた。
それまで平静を保っていた彼女の目が。
驚愕に見開かれる。
秋川はそれを見て。
妖艶に口端を歪ませた。
「しかもなんだ? 各所の管理人と『仲良く』して……『中央が無くなった暁には、外部委託業者の客入りも復活するだろう』、などと嘯くとは」
まぁ嘘ではないだろうがな。
彼女は、語尾にそう付け足す。
担当は。
からからと乾いた口を動かし、辛うじて言葉を口にした。
――どうやって、と。
「『どうやって』? おいおい、本気で言っているのか君は」
秋川は――
漫談でもするかのように、それこそ軽薄に答える。
「『我々』を誰だと思っている。たった一人が作った不審な動きや繫がりくらい、その気になればすぐに上げられる。……それとも、ばれないとでも思っていたのか? はは――浅はかだな。いや、無知というべきなのか?」
どちらにせよ。
「――大一番に勝負を駆けるなら、小細工は最低限にするべきだったな。敢えて言おうか――」
「……」
「……、それで?」
ひれ伏すように俯いた担当に、秋川は一転、声色を穏やかにし、問いかける。
「どうして、こんなことをする」
こんなこと。
彼女の、各オーナーへ進言したことを考えれば、何を狙っているかは簡単に割り出せた。
つまりは――
「この学園を『転覆』させたところで、君も得をするとは限らないだろう」
それだった。
彼女の目的は――明らかに、トレセン学園中央校の、『破壊』だった。
「そも、どれだけ長期の計画を標榜しているんだ。こんなこと、一朝一夕で出来るものではない」
それでも彼女は。
明瞭にそれを目指して、水面下で活動していた。
「一体なぜ――」
「――ちっ」
理由。
動機だ――つまりは秋川は、それが知りたかった。
糾弾するでもなく、憤慨するでもなく。ただ真実を知りたいがために、矢継ぎ早に続けた問いかけに。
担当は。
不愉快そうな舌打ちを鳴らしていた。
それから、荒々しくその場に立ち上がる。
足は――部屋の出口へと向かう。
「……待て。まだ話は」
「あんたの言う通りだよ」
引き止める秋川の声に、担当は立ち止まって応じていた。
浅はかだったよ、と。
「もっと慎重にことを進めるべきだった。あぁ――あんたに言われるまでもなく、細心の注意を払ってはいたんだけどなこれでも」
「……」
出来れば、担当の口から聞きたかった。
だが、そこに来て、秋川の予測は確信に変わった。
再度、扇子で口元を隠し――
かつての醜悪な記憶を、苦みと共に引っ張り出す。
「やはり、『十年前のこと』か」
担当は何も言わない。
何も言わないが、その身の周囲には、どす黒い感情の靄が滲み出ているようだった。
小さなその背中が。
昏い感情で、黒く染まっているようだった。
「……君の身に起こったことは、痛ましいことだと思っているよ」
本心であった。
『事の顛末』を思えば、そのような言葉すらも、生温いほどだった。
「誰も犠牲にならなければ良かった。何も不幸にならなければ良かった。だが運命はそれを良しとしなかった――その結末には、心より哀悼を捧げる」
しかし、と。
瞳は、慈悲一色には染まらない。
「――だが、同情はしない」
なぜならそれは。
自分で蒔いた種だったからだ。
「君たちの身に、君たちがやったことが返ってきただけだ。そこに同情の余地はない――他の当事者たちも、一様に新たな道を歩み始めている。君もいい加減、過去という影から決別するべきだ」
「……うるせぇ」
ぼそり、と担当は返す。
それが秋川の耳に届いたかはわからない。
「それが君にとって重大だということも理解する。しかし、過去を見て前に進まないばかりでは、『彼』だって報われないはずだ」
「うるせぇ」
担当の声は、先ほどよりも大きくなる。
秋川は、変わらずに続ける。
「……本当は君だってわかっているのだろう。誰も悪くないということが」
「うるせぇ、」
とうとう彼女の声は、はっきりと聞き取れるまでになり――
「引き金を引いたのは、他でもない、自分たちだということが「うるせぇ、
うるせぇうるせぇうるせぇ、うるせぇッ!!」
遂には。
秋川の声を、乱暴に断ち切っていた。
その勢いのままに、振り返る。
彼女の目は。
くすんだ憎悪の炎で、悪辣と燃え盛っていた。
「……正論なんざいらねぇ。遂げることで終わるってんならそれで本望だ」
秋川やよい。
「あたしは――お前を、絶対に許さない」
吐き捨てるように、そう言って。
担当は、理事長室から、荒々しく立ち去っていた。
攻撃的な足音が遠ざかっていく――
たづなは、それを追うように扉へと向かいかけるが、
「たづな」
秋川が呼びかけたことで、止まっていた。
振り返る彼女に、秋川は、息を吐いてから言う。
「いい。追うな。それより、サファイアアリオンを呼べ。大至急だ」
「……しかし」
「これだけ強引で、無謀な手を打ったのだ。もう打てる手立ては限られている」
ならば、せめて最後まで。
彼女の好きにさせてやろうじゃないか。
「……」
秋川の瞳が翳りを帯びる。
人間の醜さを。脆さを。危うさを――何より、弱さを憂いて。
「……哀れな子だよ。あの子は」
その声は、切り離したはずの同情で、哀しげな色を伴っていた。
「……トレーナーさんが……?」
大至急来いというから。
訪れた理事長室で聞かされた話は、寝耳に水ってもんじゃなかった。
理事長さんは、うむ、と深刻そうに頷く。
いつもは朗らかな笑みを忘れないたづなさんも、今回ばかりは顔を険しくしている。
当然か。学園に雇われる側のはずのトレーナーさんが。
よもや、反旗を翻すような行為を働いていたというのだから。
「た、確かなんですか?」
「言質は取った。敵意を隠しもしなかったよ。彼女は……去り際にはっきりと言っていた。私を決して許さないと」
「じ、じゃあ、私のことは? 契約はどうなるんです!? これから……」
「事実上の契約解除だ。というか、あちらがどんな魂胆であれ……そのようなトレーナーを、健全なウマ娘につけておくわけにもいかん」
その間、出走停止になってしまうのは――
本当に、申し訳ない。
……理事長さんは、見たことがないくらい沈んだ顔をしている。私は……怒っているという感情にまで、辿り着けていなかった。
事態が急すぎて。
事実が衝撃的過ぎて。
それをまだ受け入れることが出来ていないのだろうか。
あるいは――
心のどこかで、納得している自分がいるのだろうか。
……不審な点はあった。ありすぎるくらいだった。
何か彼女なりの考えがあるんだろう、と、深く考えないで来た。
それが学園転覆の足掛かりだっただなんて。
誰が想像するだろうか?
「……」
次に何を言えばいいのかわからなくなる。
胸の中を必死に弄って。
とにかく、確認しなければならない、最も手近なことに思い至る。
「……どうして」
そう。
どうして、だった。
「どうして、そんなことを……」
「……そこまでは語らなかったが。推測くらいは出来る」
「――! 理事長、それは……」
おそらく、それがあまり口外されてはいけないような事柄なのだろう。
たづなさんが一歩前に出て、理事長さんに呼びかけるけれど。彼女は、閉じた扇子をたづなさんに掲げて、その動きを制していた。
「いい。気にするな。どうせ調べればすぐに出てくること……それに、彼女は被害者だ。知る権利はある」
「な、なんですか。そんなに込み入った事情が?」
「込み入ったというか、こじれた事情だな」
顎に指を添える理事長さん。
「……少し長い、というか、聞くに堪えない話になると思う。それでもいいか?」
「……」
学園と担当さんの因縁。
あるいは、理事長さんと担当さんの因縁。
人と人とが関わるこじれた関係性なんて、清らかなものだと信仰できる者は少ないだろう。
嫌な予感がして。
妙な感覚がして。
その先を躊躇ったけれど。知らなくてはならないことだ。
それを知らずに、のうのうとこの先も生きようと思えるほど。
私も、お気楽じゃない。
「……、」
だから、理事長さんの忠言に、ゆっくりと頷く。すると、彼女もまた、真剣な表情で頷いた。
「……まぁその前に。基礎知識を話さなければなるまい。しっかり着いて来いよ――日本競レース史の復習だ」
紡がれた字面は浮ついていたが――
場の空気を変えるには、あまりにも力不足だった。
――日本競レースの勃興期を支えた、四つの名家のことを覚えているか?
――……えっと。春山家、
――その通り。我々は家ごと、レースに関連する四つの役割を分担していた。
――『不動』の春山。司るのは、レース設備の運営、保守、管理。
――『実力』の夏陽。司るのは、トレーナーの育成、教育機関の運営。
――『慈悲』の秋川。司るのは、各トレセン学園の運営、管理。
――『奸計』の冬天。司るのは、レースの規則、規約の制定、管理。
――四名家は、勃興期を越えても、しばらくはその影響力を維持していた。だが事業が軌道に乗るにつれ、一部とはいえ、家族経営のごとくその権利を総取りしていることが問題視されるようになってな。
――批判の煽りを受け、その力は時と共に薄まっていくことになった。
――……自分で言うのも何だが、秋川家は上手く立ち回った方だと思うよ。譲渡出来る権利は譲渡し、方々からの批判を上手いこと避けた。そのお陰で、トレセン学園中央校における利権は失わずに済んだ。
――だが……他三家は、見る見るうちに衰退していった。それぞれが、あの手この手で力を維持しようと模索していた。時に狡猾な手を使い、時に汚い手段を用いた。誰もが、生き残るために躍起になっていたよ。
――そのさなかで……ある一報が我々の間に走った。ちょうど十年前のことだ……
――当時のトレセン学園中央校理事長――まぁ私の母上なわけだが――が、病床に伏したのだ。
――手は尽くされたが、病状は思うように回復しなかった。結局、それからそう長い時間を置かずに、息を引き取ってしまわれたよ。
――お年を召していたからな。仕方のない話ではあった。私も家族も覚悟していたし、大儀を果たした彼女をベッドの傍で見送ったよ。……泣きはしたがな。
――問題は――その後だった。
――母上は、遺書で、後継者として私を任命していたのだが……
――その頃、すっかり没落の道を歩んでいた他三家が、こぞって私に接触しようとしてきたのだ。
――なぜなのか、などは言うまでもない。
――そう。その頃、まだ年端も行かない少女だった私を手籠めにし、トレセン学園の利権を手中に収めようとしたのだ。*1
――それも、三家が協力してじゃない。それぞれに個別に動いて、だ。全く、あの時の混沌と言ったらない……今思い出しても虫唾が走るほどだ。きっと何もなかったなら、私はすっかり連中の言いなりになって……いわゆる『傀儡政権』じみたことになっていたことだろう。
――だが母上は、そんな彼らの醜い本心をも見抜いていた。
――遺書において、私の周囲を固める幹部をも細かく指名し――他家の、というか、全く無関係の他者すらも、付け入る隙を無くしていたのだ。
――さすがに連中も、そこまで予期していなかったらしい。事実に舌を巻いて、一人、また一人と手を引いていった。時間はかかったが……最後には、トレセン学園に魔手を伸ばす輩は消え、平穏が訪れてくれたよ。
――ただ……
――冬天家だけは、それでも最後の最後まで、目的を達しようと足掻きに足掻いていた。
――考えてみれば当然だ。春山家と夏陽家は、施設という目に見える資産がある。中央校から手を引いたところで、他に生きながらえる手段はあった。
――だが冬天家は違う。彼らが司っていたのは、規則という形のない『了解』だ。お家を建て直せるほどの資産は多くは無い……実際、四家の中でも、その影響力は最も小さかったしな。
――彼らが復権するには、中央校以外にはなかった。故に血眼になって、ある種惨めなまでに、戦うしかなかった。
――……しかし結局、それは叶わなかった。
――時の冬天家当主は、その責任を取り、お家を破門になった。
――日本有数の資産家から一転、一般人へと成り下がってしまったわけだな。
――そうなれば当然、悪意ある輩が近付くことになる。
――その権益のため、あるいは私怨のため――
――時に、殺害予告じみた嫌がらせまでされたそうだ。
――状況を見かねた元当主は、せめて家族にだけは危害が及ばないよう、妻と離婚。
――その一人娘は、妻の実家に引き取られることとなった。
――……元当主の訃報が伝えられたのは。
――それから間もなくのことだった。
――……もうわかるだろう。
――そう、その引き取られた一人娘というのが……
――君のトレーナーだよ。
――サファイアアリオン――……
……一連の話は、複雑なところもあったけれど。
なんとか、理解することが出来ていた。
並べた両膝に握った両拳に。
自然と、力が入る。
「……十年ぶりに接触してきた彼女は、私を退陣に追い込むために行動していたというわけだ」
理事長さんの瞳に、悲しげな色が灯る。
それを見て、胸が、締め付けられる。
「……残念だな。彼女は、優秀な能力を実演してみせていた。今度は共に歩んでいけると、信頼していたのだがな」
「あ――あの。ち、ちょっと、待ってください」
言葉を発するのに、随分な力を必要としたように思う。
それまでの話が、彼女の行動が。信じられなくて。
「でも……え? でも、それじゃあ、トレーナーさんがしようとしていることって……」
だってそれって。
つまり、それって――
「……あぁ。君の思っている通りだ」
私のしどろもどろな問いかけの意図を、理事長さんは汲み取ってくれていた。痛々しく、その瞳が揺れる。
「完全な……逆恨みだ」
そうだった。
完全な……逆恨み、だった。
「たぶんそれは……あの子も自覚している。ここを出ていく時、相当な癇癪を起こしたからな。それでも捨てられない……付き合わなくてはならない理由が、きっとあるのだろう」
囚われている。
彼女もまた、過去に囚われている。
「……難儀な話だよ」
あの小柄な背中が。
かの生徒会長の姿と、重なる。
「あの子にもきっと、まだまだ多くの可能性があるはずだというのに」
それを棒に振っている。
それを無意味なものにしている。
「どうにか、『自由』になってほしいものだ」
「……」
象徴するかのような。
彼女の言葉に、俯く。慈愛に似た嘆きは――我が事のように、深々と、私の胸に滲んだ。
未来を無駄にしている。
過去のために。
有限の時間を、浪費している――
「……ともあれ、今回の件。君は被害者だ」
理事長さんは続けるけれど。
「新たなトレーナーが一日でも早く着くよう、最善を尽くす。具体的には――」
ありがたいそれら配慮も、頭の中でキャッチ出来ずに、通り抜けていく。
直面した現実に。
悶々と、やり場のない気持ちが積もっていく。
「――、――……」
トゥインクルシリーズ。
可憐な少女たちが、青々としたターフを疾走する姿を見て、絢爛豪華な花道を想像する者は多いけれど。
その実態は、想像と、あまりにかけ離れていた。
悲劇と使命に悩まされ、腑抜けてしまった会長。
過去と私怨に囚われて、前へと進めないトレーナー。
どんな手段を講じようとも、打開出来ない込み入った状況……
……
なんというか……
「……」
みんな。
ばらばらだ……
「……」
トウカイテイオー。
「…………」
トレセン学園の転覆。
「………………」
トレーナーさん。
「……………………」
……
――レース――……
「――ッ!!」
――刹那。
私は、勢いよく立ち上がっていた。
がたん、とソファがやかましい音を立てる。
理事長さんとたづなさんの目がこちらに向く。
二人に目配せをして――
……まずは、頭の中を整理した。
「……理事長さん」
問いかける。
その上で、問いかける。
「理事長さんは……この学園が、大事ですか」
「……?」
理事長さんは、怪訝そうに首を傾げる。
それはとても大切で、大事な質問だ。
「当たり前だ」
彼女はそれでいて、その事実を理解してくれたのだろう。
淀みなく答えてくれる。
「生徒を、愛していますか」
応じて、私は更に訊ねる。
「……当たり前だ」
彼女も、再び答えてくれて。
「みんなのためなら、何でもやる覚悟がありますか」
「……当たり前だ。それがどうした」
そんな風に、結論を述べないまま、意味不明な質問を繰り返したからだろう。
目に見えて不快そうに眉を顰める理事長さん。
でも私は、それに申し訳なさも、怖さも感じない。
「……だったら、やることは一つですよ」
ただ――それを確かめられて。
覚悟を認められて。
身分も忘れ、自分の表情が、不遜に変わったのを感じた――
口端が。
妖しく歪んだ。
「――私と、
悪巧みしません?」