異世界と繋がったある一室、そこに住む主人公は治療の対価として重要そうなアイテムを託される。そしてそれを欲する人間が現れては帰っていき…?

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思いついたので。


異世界わらしべ長者

「これは礼…と言っても少ないが、前金と思って受け取ってくれ」

 

「あっはい」

 

低体温症になって死にかけていた騎士を風呂に入れ、数日看病したらお礼をくれた。何を言っているのか分からないと思うが、兎に角自分の家は異世界と繋がったらしいのだ。中世からタイムスリップして来たのかとも思ったが、目の前で魔法を使って見せて来たので異世界だと思うことにした。

 

「世話になった、必ずもう一度来よう」

 

「ハハ…」

 

彼の腕にはTシャツを切り裂いて作った包帯が巻かれ、渡した鞄の中にはペットボトル飲料と日持ちするパンと非常食が納められている。彼がベランダに続く窓を開けると室内を眩い光が覆い、いつの間にか騎士の姿は無くなっていた。

 

「お礼って言われてもさ、困るよ」

 

渡された腕輪には細かな装飾が施され、部屋の電気を消して暗くしても自ら光を放つという特異性があった。インターネットで購入したガイガーカウンターを使っても放射能は出していなかった、多分大丈夫だが怖いので紙袋に包んで隠しておくことにする。

 

「…一応買い込んどくか、医薬品」

 

そう思い、最寄りのドラッグストアへと向かった。怪我をした異世界人がこれからも来るならば対応せざるを得ない、放置して死なれたら住むところが無くなってしまう。

 

ーーー

ーー

 

「今日は一日寝て過ごす予定だっ…た、んだけども…」

 

「…うぐっ」

 

「おーい大丈夫かよ、今度は何だ」

 

次来た異世界人は飲まず食わずで行き倒れたらしい、急に食べたら死ぬので取り敢えず水でも飲ませておいた。そして数日で立ち直るという驚異的な回復力を見せ、今日には帰ることになった。

 

「お世話になりました、本来ならばもっと長い間指導を続けるべきなのですが…」

 

「大丈夫ですよ、取っ掛かりが得られただけでも大きいんですから」

 

彼は魔法使いだったらしく、数日の間に魔法の使い方を教えてくれた。と言ってもこの世界では魔法が使い難いらしく、相当練習しなければ目に見える成果は無いとのことだ。異世界と繋がっているこの部屋は例外ということらしい、まあやるだけやってみる。

 

「この腕輪、本当に貰っても良いのですか?」

 

「私には異世界の物の価値が分からないですし、こちらの世界で売るにしても面倒なことになりそうなので」

 

「高度な守りの術…特に霊から身を守る力があるようですね、これから向かう先には霊も出ますので非常に助かります」

 

仲間を助けるべく先を急ぐらしい、是非頑張って貰いたいものだ。あの騎士も何やら行くところがありそうな雰囲気を醸し出していた、やはり異世界では何かが起きているのだろうか。

 

「何も対価を渡せぬというのは一門の恥、せめてこちらを」

 

「えっと、これは?」

 

「魔法の力を増幅し扱い易くする杖の核、魔獣の臓器から得られる魔石です」

 

道すがらで倒したモンスターの素材らしい。換金が比較的容易で高値で取引されるため、現金がわりに採取していたとのことだ。下級とはいえドラゴンに関する品らしく、兎に角売れるのは間違いないらしい。

 

「商人が迷い込んだ際に売れるかもしれません、こんな物しか置いていけず申し訳ない…」

 

「大丈夫ですから、仲間が待っているんでしょう?」

 

「…ありがとうございます、では!」

 

彼の背嚢には騎士と同様、こちら側の食糧を詰めておいた。二度目ともなれば慣れるものだ、今は魔法の練習あるのみ。

 

ーーー

ーー

 

長い春休みは二人の異世界人との遭遇というスタートを切っており、今は魔法の習得という中々ないイベントをこなしている。正に非日常、この刺激は現代での生活には無いものだ。

 

「うーん、分からん」

 

しかし壁にはぶつかるもので、根幹を成すという魔力の操作を上手く行えない状況が続いていた。魔法を扱えるようになるには短くても数年かかるらしい、単純な魔法を少し使える程度になるだけなら一年でギリギリなんだとか。

 

「まあ気長にやる…」

 

「ここは?!」

 

「…あー、貴方にとっての異世界です」

 

記念すべき三人目は身体中傷だらけの男性だった、なんでも危険な森で迷ったらしい。回復魔法の練習台になってもらいつつ買い込んでいた医薬品で取り敢えずの応急処置を施し、精神的にも少し楽になったという所で改めて話をすることになった。

 

「私は森番をやっていたんだが、急になんというか…森の中から異様な気配を感じてね」

 

「気配?」

 

「魔物か何かだと思ったんだ、でもタダの魔物じゃあなかった。アレは恐らく人を惑わす力を持った魔物だよ、私はまんまと狩場に引き摺り込まれたのさ」

 

彼の持ち物を整理した所、小ぶりだがしっかりとした造りの弓が見つかった。矢はあと数本しかないとのことだが、魔物と一戦交える気でいるらしい。

 

「光の魔法を使う力が私にあれば状況も違ったんだがね、奴は陽や炎の光をやけに嫌がっていた…勝機があるとすればそこだ」

 

「これとか使えますかね」

 

買ったはいいが思いの外強力過ぎて使い道がなくなった懐中電灯を彼に見せると、何度か使い心地を確認した後でゆっくりと頷いた。

 

「使える」

 

「魔石って使い道あります?」

 

「魔物にとっては垂涎の一品だな、奴らが同族同士で戦うのもそれが理由…えっ?あるの?」

 

「ありますよクソデカいのが、あげますあげます」

 

こうして魔石は敵を誘き寄せるための罠に使われることとなった、家にあっても腐らせるだけだし人の役に立ってもらおう。

 

「…何から何までありがとう、よければコレを受け取ってくれ」

 

「これは?」

 

「森番をしていた曾祖父が見つけたものだ、非常に強大な力を持つ魔物の体毛らしい。狼の魔物らしいが、大森林の主と噂される神狼のものだとかなんとか…」

 

「うっわあマジか、生で見てみたいな神狼」

 

異世界にありそうなアイテムが良い感じのフレーバーテキストと共に現れたこの感じ、男の子が大好きな奴である。

 

「神狼の物とあれば高値が付くだろう、本物ではない可能性もある以上対価というには弱いが渡せる物はこれくらいしかなくてな」

 

「いやもう全然大丈夫です、そういうの大好きなんで」

 

騎士の時にも色々聞いておくんだった、慣れてくれば非常に楽しい物だ。彼は小さな木箱に納められたそれをテーブルの上に置き、異世界へと帰っていった。上手く行くことを祈る。

 

ーーー

ーー

 

「…洒落にならない怪我人が来ちゃったなぁ」

 

流石に救急車を呼ぼうと思ったのは今回が初めてだ、滅茶苦茶血を流しているのだから面食らうのも無理はないと思いたい。

 

「回復魔法で傷は一応塞がるからこれで止血って、これ本当に大丈夫なんだよな」

 

魔法使いも森番も大丈夫って言ってた、なんとかなるはずだ。比較的動き易そうな軽装の鎧と大事に抱えた鞄、何かを運んでいた最中だったらしい。

 

「貴方は…?」

 

「異世界人って奴ですよ」

 

伝令として重要な指令を隣の砦まで運ぶ最中に魔物と遭遇し、この部屋にまで送られるような状態になったということらしい。指令書の内容を仕事上見ることは出来ないが、とても重要な物であることは確かとのことだ。

 

「何も知らされずに命を賭けて運ぶなんて、並大抵の覚悟では出来ませんね」

 

「普段であればそうです、ですが実は事前に一言だけ内容に関して教えられているのです」

 

「…そんな特例が認められるような事態ってことなんですね」

 

「はい、神狼を探せと」

 

「すごい聞き覚えあるなぁ」

 

ある魔法的なアイテムを完成させるため、神獣の素材が必要らしい。だが遭遇した者は皆死に、居るはずだという伝説だけが残る存在を信じることが出来るだろうか。

 

「あるんですよ、神狼の毛がここに」

 

「…は?」

 

「なんだかよく分からないんですけど、これは貴方に渡した方が良い気がします」

 

この体毛を伝令が手に入れた所で疑われてしまいそうだが、かと言って本物の可能性もあるコレを彼に預けた方が良い気がする。何故なら数回の交流を経て得た物を次の異世界人に渡すというサイクルは上手く回っているからだ、残してくれた物を欲する者が次に来る。

 

「どうぞ、持って行って下さい」

 

「貴方が神の御使か、いや聞くまい。傷の手当ありがとうございました、私はこれを本国に持ち帰ってみせます」

 

「お願いします、きっとそのために私の元に来たと思うので」

 

「私の残せる物といえばコレくらいですが、よければ」

 

そう言って彼が見せたのは何かの像であり、手の中に収まるほどの大きさではあるものの非常に大きな魔力が込められているように思えてならない。

 

「これは?」

 

「女神様の像に私が祈りと共に魔力を込めた物です、信徒の中で魔力が扱える者はこうして出来るだけ長い期間力を注ぎ込むのです」

 

「注ぎ込んで、その後は?」

 

「注ぎ込んだ量が多いほど強力な力となるのですが、その力を行使できるのは一部の神官のみなのです」

 

「使い道が限られ過ぎてる、絶対次渡すことになるなコレは」

 

この像には彼が信仰を始めてから注ぎ込み続けた20年分の力が内包されているらしい、確かに強力だ。

 

「貴方に渡せる物と考えた時にこれが真っ先に浮かびました、きっとそういうことなのでしょう」

 

「確かに受け取りました、これは必要とする人に渡します」

 

「お願いします、本当にお世話になりました」

 

ーーー

ーー

 

アレから一週間、異世界人はひっきりなしにやってくる。伝令さんから受け取った像は神官の少女に渡し、そして彼女から女神にルーツがあるという鎖を受け取り、更にそれを特殊な魔物と戦うという騎士に託し、彼から竜の力を持つというメイスを貰い、それを次来た戦士に渡し…

 

「どうか、どうかこれを勇者様に託してください」

 

「善処します」

 

ヤバそうな剣とか伝説的アイテムとかになり始めた、遂に魔物の王を殺せる唯一の剣という領域にまで来たのだ。

 

「うっわぁマジか、凄いなコレ」

 

手に持った感触からして普通の武器ではないということがよく分かる、女神が作り出した一振りという逸話も嘘ではなさそうだ。

 

「…というか女神様に関するアイテムが多いな、この一連の転移ってもしかしてその神に仕組まれてる?」

 

大事そうなアイテムの受け渡しを部外者に託すな、そこは一番外注に出したら駄目だろうと思いつつも何処か楽しんでいる自分がいるのもまた事実だ。

 

「というかベランダの窓がおかしいんだよな、普通に洗濯物干しても大丈夫なのか気にな…」

 

剣を手に持ったまま窓を開くと、その先には異世界があった。そう判断した理由は巨人と人間が戦っているからだ、それも剣と魔法で。

 

「…もしかして、アレが魔物の王?」

 

勇者と思わしき人物が果敢に剣で斬りつけるが、すぐに傷口が塞がってしまって有効打になっていない。やはり今この剣が必要なのだ、だが渡すためには向こう側に行かなければならない。

 

今までは異世界の人々がこちらに来ては帰っていた、だが自分が向こうに行っても帰って来られる確証はない。それにこの窓の先に行けば戦場の真っ只中だ、死ぬ可能性だって大いにある。

 

「…南無三!どうとでもなれェ!」

 

だが今までこの部屋に来た人々は立ち向かうため、使命を果たすため、誰かのために帰っていった。自分だけ見ているだけというのはどうにも性に合わない、やる時はやる男だというのを女神とやらに見せつけてやる。

 

「魔物の王を滅する剣を御所望だよな、そうと言ってくれ勇者様!」

 

「貴方は!?」

 

「ただの、異世界人だッ!」

 

魔法は練習した、だが実戦で通用する威力だとは思っていない。しかし羽のように軽い剣を飛ばす程度であれば可能だ、自分の魔法で傷が付くほどヤワな作りでもあるまい。

 

「受け取れェーー!」

 

指向性を持たせた魔力の爆発により剣は飛翔し、勇者の元へと一直線だ。それを彼は器用に掴み取り、そのままの勢いで一太刀浴びせて見せる。

 

「…効いてる!」

 

「後は頼んだぞー、俺は今ので魔力が切れた」

 

「えっ」

 

魔力というのは使い過ぎると気を失うらしい、急速に意識が遠のいていく中でそう思った。

 

ーーー

ーー

 

「…ここは?」

 

「異世界ですよ、狭間の賢者殿」

 

「そんな名前だったんだ俺って」

 

やけに大きな部屋、やけに大きなベッド、複数人の使用人達と神官がよく着ている服に似た物を着た女性。自分はまだ異世界側に居るということだろう、目の前にいる神官は恐らくかなり高位の人物なのではないだろうか。

 

「魔物の王を滅するまでの道のりは長く険しいものでした。ですが必ず貴方が手を差し伸べ、道を指し示したということを知らぬ者はおりません」

 

「やっぱり助けた全員が関係者だったわけね」

 

「教会と王国は貴方に多大な恩があります、まさか勇者様に託せなかった剣までも携えて授けに向かわれるとは…」

 

彼らは感極まって泣き始めた、こうなって来るとかなり怖い。というのも自分は半ばその場の勢いで全てを決めており、最終的に魔王討伐にまで至ったのは関係者達の尽力と女神とやらの怪我人放り込みシステムがあったからだ。

 

「女神様からもお告げがあり、賢者様に出来る限りの礼をせよとの内容でした」

 

「報酬は最後の最後にくれるんだ」

 

「ひとまずこの屋敷はご自由にお使いください、働いている者達も皆が貴方に仕えることを望んでおります」

 

「…す、スケール感がおかしくなる」

 

結局のところ、自分は異世界に大きな屋敷を持つことになった。使い道は特にない、異世界にあるので国に税金を納めなくてもいいのが最大の利点なのかもしれない。時たま覗きに来ては魔法の勉強をしたり、少しの間滞在したり、楽しく使わせてもらっている。言えば使用人達が大抵の物を用意してくれたのは有り難かった、かなり高価らしい本も図書館を作れそうな程の数が集まったのには仰天したが。

 

ベランダに続く窓はいまだに異世界と繋がったままだ、きっとまた怪我人が転がり込んでくるだろう。だからその時に備えて用意をしておくのだ、きっとまた面白い出会いがある。だが自分に会いたいがために女神にまつわる聖地で自傷行為に及ぶのは本当にやめよう、狂気じみた信者というのはいつの時代も怖いものというのがよく分かった。

 

「狭間の賢者様!おぉ!賢者様!」

 

「絶対流血してアドレナリン出まくってるだろテメー!落ち着けェ!」

 

「どうか私の祈りを女神様に、どうか!」

 

「女神ィ!こんな奴送ってくんな!というか止めろ…オイコラッ!オイ!」

 

なんともまあ、退屈しない春休みを過ごせそうだ。

 


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