多少変則的な流れとなりますが、ルサルカはマリィルートからアフターに行かずに直接神咒神威神楽に行った設定とします。また、ユ-ノには藤井連と天魔・夜刀の記憶はありません。
ルサルカは黒円卓の魔女と言うよりも、性根のところでは村娘でしかないアンナとして書いてあるので違和感を覚えるかもしれませんが、ご容赦ください。ロートスに至っては連を原型としていますが、水銀成分はそもそも入っていない設定となるので、作者の想像が入っています。
それでも構わないという方のみお進みください。
誤字、脱字があった場合は遠慮なくご指摘いただけるとありがたいです。また、感想をいただけると作者のやる気がアップします。
「なのは。今回もあたしの勝ちみたいね!」
目の前で威張っているのはアリサ・バニングス。金髪でかわいい少女だ。その表情は無垢で、少しひねたわたしにとっては羨ましくもあるわけで。
なぜ彼女が威張っているかと言うと、体育のマラソンで3位を取ったからだ。ちなみにわたしは4位だった。ちなみに大会でもなんでもない普通の授業でだ。……男子がんばれ。
ま、負けたわたしとしては先を行くこの子を追いかけるのが楽しくてしょうがない。だからといって手加減なんてしていない。正真正銘の全力で走って、それでも追い越せない。
で、どれだけ疲れているかと言えば――
「ぜー……ぜー……はー……はー」
口を開けば喘ぎ声しか出ないくらい。ああ、前世ではナチス親衛隊だったわたしがなんて無様ななんて思うけど、でも――これくらいでちょうどいいかもしれない。
わたしが転生した日本、海鳴市は拷問器具とか銃とか出てくるような物騒な町――かもしれないけど。愛しの彼の言葉を借りさせてもらえば、転生したわたしにとっては裏の世界のごたごたなんてジャンル違いだ。
わたしはこのまま魔術を身に着けることもなく、まっとうに生きて行こうと思う。
いや、まあ――実際乙女としては疲労困憊姿なんて人に見せられたものじゃないんだけど。まあ、そこは小学生ってことでゆるして?
「……なのはちゃん。大丈夫?」
優しい声をかけてくれたのは月村すずか。深窓の令嬢みたいな雰囲気をしておきながら、ちゃっかり1位を取っているのはこの子だ。
アリサちゃんですら息を乱しているというのに、この体力お化けは息一つ乱していない。
「ほら、しっかりしなさいよ。今日はまだ授業残っているわよ」
「……うえー」
なんだか少女に似合わないうめき声が漏れた気がするが、それはきっと気のせいなのだ。そういうことにしておこう。
しかし、魔女狩りで追われ、黄金に頭を垂れ、刹那に身を捧げたその先にこんな世界が待っているとは思わなかった。刹那の願いが叶えられたのか、わたしは知らない。あの駄犬に殺されてしまったから。実際、わたしは彼の役に立てたのかすらわからない。
けれど、わたしは彼が悲願を達成できたのだと信じている。でなければ、きっとこんな美しい世界が残っているはずがないから。
わたしには友達がいる。アリサちゃんとすずかちゃん。だから、前を向いて生きていきたい。きっとそうできたなら、刹那も女神も喜んでくれると思うから。
「――さて! 息も整ってきたし、行きましょうか」
勢いよく立ち上がる。わたしはこの日々を愛している。けれど、心の中には穴が開いている。会いたいよ、□□□□。
「なのは? どうしたのよ。元気だけがあんたの取り柄じゃない」
「何をぅ! わたしにだって特技はあるんだぞー」
失礼な言葉に怒る。こういうところは年相応で、本来の肉体年齢に引っ張られているのかもしれない。
「まあまあ。なのはちゃん、落ち着いて? ちょっと元気がなさそうだから心配してるんだよ」
すずかちゃんが間に入る。前世を覚えているわけでもない二人が傍から見ればわたしよりも精神年齢が高そうなのは屈辱です。はい。
予鈴が鳴った。どうやら遊びすぎていたみたい。体育着から制服に着替えなきゃいけないのに――
結局、間に合ったけど授業以外でも走ることになりました。まる。
「そういえば、なのは――あんたの夢って何?」
「いきなり何?」
お昼休み……屋上でママに作ってもらったお弁当を食べているときにアリサちゃんからいきなりそんなことを言われた。
「いや、あんたのは聞いたことがなかったなって」
「アリサちゃんは立派な女社長になりたい、だもんね」
「すずかのは大学院進学でしょ? で、なのははどうしたいのよ」
「わたし? ふふーん。聞いて驚きなさい」
立ち上がって胸を張る。せっかく転生したのだから、幸せをつかみたい。たぶん、待ってるだけじゃ前と変わらないから。
「わたしのは夢は――素敵なお婿さんを捕まえること!」
堂々と宣言したのに、目の前の二人はあきれたような眼でこっちを見てる。
ちょっと、夢見がちな少女みたいとでもいいたいの? ってか、小学生ならあんたらこそもっと少女趣味な夢を持ちなさいよ。
大体進学って何よ。進学って。んなもん考えるのは高校に入ってからでもいいじゃない。つか、今からそんなん心配するのは親の仕事でしょーに。
アリサちゃんもアリサちゃんで、小学生が会社経営とか考えてんじゃないわよ。つか、アレってけっこうどろどろしてるわりに、人間性捨てられるなら誰でもできるわよ? まあ、お金持ちならって条件が付くけど。
そんな愚痴を視線に乗せるとすずかちゃんは――
「私は素敵だと思うよ?」
くてん、と首をかしげてフォローする。けど、わたしは「なのはちゃんってば、かわいいんだから」という生暖かい視線を今も感じてるわよ。
「ま、夢は人それぞれよね」
あんたは本気でもうちょっと可愛らしい夢を持ちなさい。
「それだけじゃないわ。二人で喫茶店を経営するの。いつまでも変わらずにそこにあるような主張しすぎない、けど視線を向ければそこにあるような店がいいわね」
「へぇ。雰囲気だけとはいえ、構想は持ってるのね。どんなスイーツを出すとか決めてあるの?」
「――うぐ。いや、そこらへんは全然。ママに料理教えてもらったりはしてるわよ」
「そう。きっとなのはちゃんなら、素敵なお店を作れるよ」
「ありがとう。すずかちゃん。わたし頑張るね」
とはいっても、ママには簡単なお菓子作りしか許してもらえてない。正直、食べられるレベルでいいなら古今東西の料理はあらかた作れるんだけど。
「そうだ、なのは。試作品作ったなら私が味見してあげてもいいわよ」
「それ、お菓子食べたいだけじゃないの?」
さすがにここで目をキラキラさせるほどには子供か。
「友達の夢を手伝いたいって言う好意がわからないの? 見た目通り、舌は確かよ」
「アリサちゃん、見た目通りって……。まあ、いいか。なのはちゃん、そのときは私も手伝うね」
「すずかちゃんまでぇ」
がくん、と肩を落とすと二人が笑い続ける。
「むむー」
と唸るけど、なんだか私までおかしくなってきて笑ってしまう。
そして予鈴が鳴る。
笑ってる場合じゃなかったー!
しっかしつまらないわねー。これが飾りのない素直な感想と言うやつです。はい。
そもそも前世では義務教育すら受けてないわけだから、わからないことはかなーり多くありますが興味がわかないのですよ。ええ。
左を見てみる。アリサちゃんは真剣に黒板に向かっている。注意してみると、どうやら先生の言葉やら補足やらまで書いて、綺麗なノートを書いている。赤と黒しか使ってないわたしのノートなんて足元にも及ばない。実際、成績も及ばない。
右を見てみる。気づいたのかすずかちゃんがにっこり笑い返してくれた。愛想笑いを返して黒板になおる。
やっぱり授業は真面目に受けないといけないわけですか。ま、成績だろうと何だろうと置いてかれるのは好きじゃないしがんばりますか!
そう心に決めた瞬間――
(あーあー。……テステス。マイクテス。……ホンジツハセイテンナリー。聞こえている奴いるか?)
とても懐かしい調子の声が聞こえてきて。
「ロートス⁉」
バンと机をたたいて立ち上がり、叫んでしまった。教室中の眼がわたしに集まる。いわく、「なんなんだ、こいつ?」
だらだらと背中に冷や汗が流れる。顔がこわばっていくのがわかる。とてもいたたまれない。……誰か助けてー。
「すみません、先生。なのはちゃんの具合が悪そうなので保健室に連れて行ってあげてもいいですか?」
「月村か。ああ、よろしく頼む。では、授業を続ける」
ああ、なんて情けない。と心の中で涙を流しながらすずかちゃんに手を引かれるに任せる。
「どうかしたの? 眠っちゃってたってわけでもなさそうだけど」
「いやぁ。なんか懐かしい声が聞こえた気がして」
目をそらす。実際わたしにもなにがなんだか全然わかってない。けれど、これがロートスの声なら放っておけるわけがない。
ただ声自体は似ていない。なんだか妙に幼い声で、彼の声とは似ても似つかない。もし幼かったら、なんて思うけどきっとそれでも違う。
なぜわたしが彼の声なのだと思ったかと言うと、声の調子だ。しゃべり方のリズムとでも言おうか。彼の声は妙に頭に残る。というか、意地でも忘れない。
「そうなの?」
「でも、勘違いじゃないかなぁ。すずかちゃんは聞こえなかったでしょ?」
「うん、きっとアリサちゃんもそうだよ」
「やっぱりね。きっと勉強疲れよ。1時間も寝てれば治るわ」
「……授業、さぼる気なの?」
「いや、これはやむにやまれぬ事情ってやつよ」
「もう、なのはちゃんたら」
すずかちゃんがため息をつく。……ぐぬぬ。
「一緒にさぼっちゃう?」
「だめだよ。ちゃんとお勉強しないと」
この真面目ちゃんめ。
「まあまあ、今日くらいいじゃない」
「でも――」
「ああ、保健室についたわね。じゃ、もういいわよ。すずかちゃんが一緒に寝てくれないのなら、わたしは寂しく一人で寝てるから」
「……はぁ。それじゃ、お大事にね。授業が終わったらすぐ行くからどこかに行っちゃだめだよ」
「どこに行こうって言うのよ? 少し眠るだけなのに」
「いいから、おとなしく寝ててね。絶対だよ?」
そう言うとすずかちゃんは教室に戻っていった。
わたしは心の中で舌を出す。バレちゃったらしょうがないわね、ベッドの上で大人しくしてることにするわ。
まあ、何もしないというわけではないけれど。
さて、少しあの忌々しい水銀みたいに話してみましょうか。
諸君、魔力とは何だと思う?
何でもアリの不思議パワーかな? それは大抵の場合は違うよね。魔力とは魔法もしくは魔術を運用するためのもので、そこには法則がある。
では、実際に魔力とは何なのだろう。人の魂? いいえ、それは違う。それは永劫破壊の燃料だけれど、それは魂であって魔力ではない。
ここで逆説的に考えてみると、人間が法則――それは大抵が言葉だったり印だったりする――を使って摩訶不思議なことを起こすための燃料のことを言っていると考えることができる。この場合、前に挙げた魂は魔力と同様の運用ができるものであるから、魂は魔力の一形態と考えることもできる。例えば、原油と石油の様に燃料と言う点では変わらないのかもしれない。
なにが言いたいのかわからない?
せっかちな人ね。あまり結論を急いでも陳腐にしかならないわ。それが魂をかけた言葉でも、それに至る経緯を省いて言葉だけ取り出せば、それはいわゆる“痛い”セリフでしかなくなるように。
けれど、冗長なのは認めるわ。だから言いましょう。魔力とは、そう名付けられたから魔力となるのよ。
大気中に漂っているこれ。引力でも磁力でも電力でもない力。そしてわたしはこれを体内に入れることができた。だから魔力と名付けた。そして、それが第一歩。大気中にただよっているだけなら、ただのよくわからないゴミだ。けれど、名前を付けてしまえば操れる。やらないけど、身体能力の強化なら魔力を体に通すだけでできちゃう。
名前とは存外に重要なものだ。それこそ神の力を持つ者でも、名を呼ぶだけで息も絶え絶えの満身創痍にできてしまったから。ぶっちゃけ体験談だから、このわたしが名前の重要性を違えるわけがない。
語りはこれでお仕舞っと。楽しめた? 楽しめなかったのなら、ごめんなさい。もうちょっと真剣に瓦売りの真似事をやるべきだったかしら。
ま、それはいい。さっきの声は頭に直接響いた。なら、これは魔力で持って声なき声を届けるのがこの魔法。
名付けるならば、念話。
(――ロートス? 聞こえてる?)
……っしゃ! 成功。返事は帰ってくるかな。
(…………お前、アンナか)
返事が帰ってきたぁぁ!なんかテンション上がってきましたよ。
(で、どうしたのよ? こんな不思議会話できるようになるなんて、あんたらしくないんじゃないかしら)
(いや。それはもういいから)
もういいって何よ! まあ、普通に考えればもう答えは出してるから今更って意味でしょうけど。
ま、使えるなら使えるで、これくらいなら携帯電話のほうが便利だしね。自前で電話交換手の真似事やるのって、メンドい。
(あんたさ、どこにいるの?)
(あのさ……いいにくいんだけど――)
これは、戸惑い? まあ、そりゃそうよね。わたしだって驚いてるもの。
(なによ?)
(さすがに若作りしすぎじゃないか? お前がそんなロリ声出してる姿はちょっと見たくないぞ)
(うるっさい! 今はピチピチの8歳よ)
(おお。奇遇だな。俺も10行ってないんだ)
(え? それってもしかして……)
(転生ってやつだな。スクライア一族ってとこに生まれた。いやぁ、そういうの調べたことはあるけど、どれもこれも作り話くさかったなぁ。お前も知ってるだろ? つか、その調査ってお前と一緒に行ったっけ?)
(いや、わたしは行ってないわよ。あとで散々愚痴聞かされたけど)
転生前、20世紀のドイツにいたころ、わたしたちは遺産管理局という場所に勤めていた。ああ、なんて懐かしい。まあ、ナチお得意のオカルト方面の話になるから転生してから調べてはないけれど。
(まあいいや。ところで、ちょっと助けてくれ。公園ぽいところにいるんだが、体力がけっこう限界でな。休めるところを提供してくれるとありがたい。あと、俺と契約して魔法少女になってくれるともっとありがたい)
(――は? 助けるのはそりゃいいけど、魔法少女って何よ。さすがにこんなナリのわたしでも、今更そんなもんになるのは羞恥心が……)
(……………………)
(って、寝るな――! ああ、もう……今すぐそこに行ってやるから逃げんじゃないわよ、ロートス!)
そう念話で怒鳴ったわたしの頭にすずかちゃんの言葉は残ってなかった。