魔法少女リリカルあんな   作:Red_stone

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第10話 交渉

「――で、逃げられちゃったけど、どうするわけ?」

「……」

いや、しゃべりなさいよ。まったく……転生してもこんなところは相変わらずなのね――マキナ。つか、あんたの転生後の名前すら聞かせてもらってないわよ。

「こんにちは。なのはちゃん……でよろしいかしら?」

うお!? 空中スクリーン。考えてみれば、これくらいはできるか。なにもないところに魔法陣描けるくらいだから、後は声届ければいいのよね。

残念ながら、3Dスクリーンじゃないのよ。2Dなのよ。そこのところは結構残念。おとぎ話の国はないのね。

(なのは。変なこと考えてないか?)

(あいつ、何できるかわかったもんじゃないから、怪しいことはやめといたほうがよさそうよ? 日本にはこういう話があるわ――警察に疑われる奴が悪い)

(多かれ少なかれ、司法なんてそんなもんだろ。とはいえ、言ってることは正しいか)

ひそひそ話もこれくらいにしておきましょうか。つか、あいつなら傍受しなくしても大体の内容を察するくらいはできそう。

いい加減、話を始めましょうか。

「ええ、わたしのことはご存じみたいね。わたしの名前は氷室なのはよ」

「氷室なのはさんですか。私の名前はリンディ・ハラオウンと申します。そちらの子は息子のクロノ。どこで育て方を間違えたのか、無口な子に育ってしまって」

「……」

いや、こいつのこれは生来のものでしょ。というか、ちらっと視線向けてきたわ。――バレてる。もしかして見抜かれてる?

「ああ、ごめんなさい。本当の名前は高町なのはっていうのよ。パパに見知らぬ人には気を付けろって言われてるから」

この驚き方はなぜそんなことをするのだろうと純粋に驚いている。だしぬけに高町の名を聞かされたのなら、警戒するのが自然なはず。

なんせわたしの名前なんて、調べる方法はいくらでもある。そもそも御神流は裏の世界で有名で、高町はその技を受け継ぐ一族。要注意一族なんてリストが作られているのなら、乗っていないわけがない。

つまり、これで管理局の諜報能力の底が見えた。魔力と言うファクター、そしてクロノという存在さえなければ行方をくらませることも可能ね、これは。

「ごめんなさいね。いきなりお邪魔しちゃって――でも、あなたみたいな子どもがそんな危ないことをするものじゃないわ」

「そうかもしれない。それに、ジュエルシードのことはどうでもいいの。いや、どうでもいいっていうのは暴走さえしなければ誰が管理しても知ったことじゃないってことだけど」

「なら、後はわたしたちに任せてほしいわ。管理局にはロストロギアを管理する責任があるのよ?」

「ま、危険物の取扱いに慣れた組織に渡した方が安全でしょうけどね。でも、結局は本当の安全なんて担保の仕様がない」

つか、実は世界を滅ぼそうとしているナチスの残党でも、世界平和を謳う警察を名乗ることはできる。

自分だけの言い分でなくても、誤魔化しようは多い。

「私たちのことが信用できない、というわけですか?」

「それは違うわ。別に人の善意が信じられないわけじゃない。きっと、本当に悪い人なんて実はわずかしかいないのかもしれない」

そう、フェイトを侵したアレのような例外以外。

「けれど、組織は非情を求める。わたしが信用できないのは、組織という形態そのもの」

「――っ! あなた、本当は百年くらい生きてたりしない?」

驚いたような顔をする。まあ、組織に生きる人間なら覚えがあるのでしょう。私もナチスに居たころは飽きるほど見た。

権力を得たとたんに豹変する優しかった友人、そして上からの命令に逆らえず子供を虐殺し苦悩する兵隊。

「そんなことはないわ」

百年なんてとっくに過ぎている。前世の話だけれどね。まあ、うけとる方はそんな風に解釈するわけがないのだけれど。知らない方が幸せよね。

「そ、そう? とりあえず、艦にまで来てもらえないかしら。私が直接そこに行くのはちょっと問題があるのよ」

「ええ、いいわよ。遅くならなければ。これでも門限は厳しいの」

「遅くなるようなら私の方からご両親へお電話を差し上げてもよいのですよ」

「それには及ばないわ。6時まであと1時間はあるもの。――あ、それと」

「……何かしら?」

「お茶菓子は出るの?」

「ええ。ミッドチルダの有名店のを用意しておくわ」

「それは楽しみね」

ええ、ホントに。パティシエを目指す身にとって、異世界のお菓子なんて興味が尽きないわ。

「じゃあ、クロノ。案内して差し上げて」

「……」

無言でゲートをくぐる。わたしたちもついて行く。

 

 

 

おお、未来的。なんて思いながら艦の中を歩く。とはいえ、潜水艦の中も似たような感じかもね。四方八方が金属。ただし、窓からは宇宙ぽいような、なんかおどろおどろしい闇の空間みたいな何かが広がっている。

わたしたちは無言で前を歩くクロノ君についていく。いや、マキナなんて前々世の名前でしかないしね。

で、結局あいつは口を利かなくて――それでわたしたちも口のききようがない。いや、こんなところで前世の話で盛り上がるわけにもいかないし。

「いつまでその姿でいる気だ?」

……は? いや、この姿が本当の姿で、幻術かけたりしてるわけじゃないんだけど――なんて思ってると。

「そうだな。傷も言えたことだし、そっちのほうがいいか。なのはには二度目だったか」

そういって、煙を上げたと思ったら美少年になっている。

「――ええ!?」

「ん? 見せたことなかったっけか」

「ないわよ! わたし、ロートスがフェレットになっちゃったのかと思って――それで覚悟を決めていたのに! このオチってなんなのよ――私がアホみたいじゃない。すっごくうれしいわよ、もう!」

ぶんぶんと腕を振って抱き付く。すごいサプライズね、これは。

「お前、何言ってるのか分かってねえだろ。つか、覚悟って何の覚悟だよ」

「そりゃ、ケモナーとかそっち方面の」

「てめぇ、どんだけ歪んでんだよ!」

「ああ、ひっどぉい。これでもわたし純情系よ?」

しなをつくって上目づかいで見つめる。

「はいはい」

鼻で笑いやがった、こいつ。

「……ついたぞ」

「へ? ああ、うん。ついたのね。いきなりしゃべらないでよ、心臓に悪いじゃない」

心臓がバクバク言ってるわ。

「……」

「あんたはそういうやつよね」

「わかる? なのはちゃん」

割り込んできた声は扉の向こうから。艦長とは別の人ね。私たちほどじゃないけど艦に不釣り合いに若い。

「ええ。このむっつり具合は一目見た時からわかったわ」

「そうよね。なんでこんな子に育っちゃったんだろう。お姉さん悲しいわ」

けっこうきれいなお姉さんね。お調子者っぽいのが玉に瑕ってとこかしら。

「……」

「ほら、反応すら返してくれない」

「まあ、そこは後にしましょう。だってクロノってば、お笑い見せても、脇をくすぐってもくすりともしてくれないんだもの」

あら、親玉も来た。

「そう。まあ、こいつはこいつなりにあんたたちのことを好いてると思うし、いつかは笑ってくれるんじゃないかしら。常に笑ってるようになると気持ち悪いでしょうけど」

「それはそうかもね。じゃあ」

「話し合いを始めましょうか」

互いにうなづいて、切り出される。

 

 

 

「まず一つ、なぜ管理局員でないあなたたちが戦っていたのです? ここは管理世界ではありませんよ」

「ふむ。俺の方から答えよう」

「あなたは」

「ユーノ・スクライア。スクライアの一族なら調べればすぐにわかるだろう」

「ええ。聞いたことがあります。ロストロギアの発掘に協力してくれている一族でしたね」

「正直にハイエナって言ってくれてもかまわないぜ。あんたらは人員ばかりかかるうえに危険も多い調査活動の手間が省ける。俺らは俺らで、あんたらに危険物を引き取ってもらえる。遺跡調査だけが生きがいの厄介者一族ってな」

「いえ。そんな――管理局が危険を未然に防げるのはあなたたちのおかげもあります」

「まあ、管理局が危険を防げるっつっても一部の話だな。まあ、例によってあんたらにジュエルシードの輸送を頼んだんだが、ちと事故ってな。危険物がばらまかれちまった」

「それは……事実ですか?」

「事実だよ。まあ、操作系統になんか仕組まれたんだと睨んでるがな。事故対策として、ロストロギアは艦が揺れた瞬間に厳重に封印される手はずになっていたが、あらかじめ仕組まれていたはずの魔法が作動しなかった」

「なるほど。これは、上層部に報告する必要があるかもしれませんね」

「やめとけ、やめとけ。そんなんはイタチごっこだよ。それと、今はジュエルシードのことに集中しようぜ」

「――ええ、はい。あなたたちに来てもらってる以上あまりこちらの無駄話を聞かせるのも申し訳ありませんしね」

「そうしてくれ。こいつには門限があるんだ」

「では、ロストロギア……ジュエルシードが次元航行艦の事故により、この海鳴市にばらまかれてしまったということでいいですか? ……エイミィ。少し調べてもらえる」

「そういうことだ。んで、事故に巻き込まれた俺は負傷を負って……なのはに協力を仰いだ。そして暴走したジュエルシードを封印して回っていた」

「そう」

「検索完了しました。データをそちらに回います。しかし、これ……とんでもない危険物ですね。まるで爆弾」

「ふむ。確かにこれは放っておけはしませんね。暴発を防ぎたい気持ちもわかりますし、その気持ちは立派です。――しかし危なすぎます」

「おいおい。大人に任せるべきとかいうなよ。魔法文明がないここじゃ、どうしてもジュエルシードは持て余す。言うまでもなく管理局は人手不足。他に選択肢はないんだよ……穏便に済ませようとすればな」

「それでも、他に手段は――」

「ないさ」

ユーノ君は断言した。1秒の迷いもなく、それが最善であったと自信を持っている。

「――っ!」

それを感じ取ったのか、驚く気配がこちらにまで伝わる。

「まあ、あったとしても今更そんなことを言っても意味がないだろう」

「では、もう一方の勢力……彼女たちのことは?」

「さあ? まあ、あの子たちを操ってるのが事故を仕組んだ黒幕ってところだろうな。普通に考えてそうだし、変な設定持ってきても興ざめだろ」

「その言い方にも言いたいことはありますが」

「奴らについて知ってるのは、フェイトとアルフっつう名前だけだ」

「……苗字は?」

「それがわかったら、もしかしたら黒幕が分かるかもな」

「……」

「で、どうする?」

「どう、とは――」

「どうせお前ら、この後協力を求めるつもりだったろ」

「――っ!」

どこまで鋭いのだ、この子どもは――! そんな恐れを含んだ目を向ける。

「ちょっと考えればわかるさ。なのははともかく、俺はミッドチルダの住人だ……旅暮らしでもな」

「それが――いえ。ランクがどうのはすでに知っていましたか」

「どういうこと?」

口をはさむ。

「お前とフェイトは推定でAAAクラスだ。これがすでにとてつもなく貴重。管理局に入ったらエリート間違いなし。だがな、フェイトはSランクの魔法を使用した」

「――いえ。最後に放ったあの魔法はSランクオーバーです」

「そうか。ま、ともかく敵があんな魔法まで使えるとなりゃあ手が足りんだろ。それとも、この艦にSランクオーバーを相手にできるだけの装備があるのか? 聞いた話、そこまでの武装を施した艦は10隻もねえって聞くぞ」

「――ぐ」

「図星だろ? その艦はこんな辺境に飛ばせるような艦じゃない。なら、戦力の不足はどうするかって話になるよな?」

「それは――その通りです」

「なら俺たちを協力させるしかないわけだ。しかも、自由意思で。そうだよな? 管理局の規定では現地の住民を徴用するのは禁止されてる。しかし、本人の希望なら話は別だ」

「それも、その通りです」

「じゃあ、やっぱり俺たちに協力を仰ぐ以外にない。考えればわかるさ」

「では、協力してくれると?」

「待てよ、それはそっちの都合だろ。他人がどれだけ必要としてても、それで俺が助ける道理なんてどこにもない。借金に苦しんでる奴を見かけても、肩代わりしてやろうって奴は相当の変わり者で大馬鹿者だ」

「交換条件があると?」

「まず一つ。今までやってきたことは見逃してくれ。最後にはちゃんとジュエルシードも渡す。だから、フェイトのことは任せてほしい」

「彼女が何か?」

「あいつは苦しんでるんだよ。だから助けてやりたいらしい」

「――なのはさん?」

「うん。あの子は私が助ける。……絶対に」

「そうか。ならそうしろ」

「――クロノ?」

「俺は、あの残滓を片付ける」

「ええ。できればお願いしたいわね」

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