魔法少女リリカルあんな   作:Red_stone

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第5話 それは魂に刻まれた傷痕なの?

「この気配……!」

わたしは明後日の方向をにらみつける。……暴走体だ。ユーノ君もため息をつく。

働きすぎはお肌に毒なのよ?

「……だな。今日は厄日らしい」

わたしは電話をかける。

「――もしもし、アリサちゃん。ちょっとした用事ができちゃってね。でも大丈夫……5分で済ませるから。もう少しだけ待ってて」

「は? まあいいけど、いった――」

切った。

「さて、レイジングハート。……行ける?」

Yes, my master.(当然です)

「よし。なら、行くわよ。セットアップ」

光がわたしを包み込み、変身が完了する。大事なところは光でちゃんと見えないわよ? ユーノ君以外には、だけど。

Set up.(変身完了)

「おいおい。1音節で変身しちまうか。かなりの才能だな――」

しかし、Sランクほどではないか。とユーノは独りごちる。

「ユーノ君。つかまってて」

飛行――というより跳躍。

地を蹴り、魔力で体を滑空させる。

「ああ。けど、この気配は物質融合型の暴走体かもしれん」

さっきのは純粋魔力の塊だっけか。攻撃力は比べ物にならないはずよね――まあ、比べる相手が精々コンクリートを陥没させる程度の力しかないけど。

「物質融合――人間が発動した?」

で、それが最悪。ジュエルシードの力を効率的に使われたら、おそらく聖遺物がないと話にならない。

「さすがにそれはないと思う。そうなれば、この程度じゃ済まない」

それは良かった。

「なら、小動物かな。この辺りにそうそう大型動物なんていやしないわ」

「そう願おう。小動物でも厄介だがな」

「先手必勝――え?」

止まる。思考が、動きが停滞する。

「犬か。横に倒れてるのは飼い主だな。見たところ怪我はない。驚いて気絶したか? なのは、彼女を巻き込まないように場所を移すぞ」

ユーノ君の言葉は耳に入ってこない。だって……

「白い……犬……っ!」

アレは駄目だ。友達の前では強がってたけど、白い犬だけはいけない。

「なのは? おい、どうした――なのは!」

「うう――」

応えられない。体が硬直してる。

「ぐるるるる……」

唸り声。怖くて仕方がない。今にもあの牙がわたしの喉を――

Protection(プロテクション)

っひぃ!

目をぎゅっとつむる。見てられない。正視できない。

「なのは――お前」

「駄目なのよ。犬――特に白いのは」

震えながらつぶやく。

「なぜだ? ってガキに聞くようなことでもねえな。立てるか?」

「……無理。足が震えて立てない」

「んじゃ、あいつが飛びかかってきたら大砲撃てるか」

「それも無理よ。だって、あいつのこと見れないんだもの」

がたがたと震えて、照準が定まるどころか腕を上げることもできない。

「……レイジングハート」

I don’t have automatic offence system.(自動迎撃機能はありません)

「そっか。なら、仕方ない」

はぁ、とユーノ君がため息をつく。……いや、失望しないで。わたしを見捨てないで。ユーノ君……ロートス……置いていかれたくないよ!

「に、逃げよう? あのくらいなら、多分被害も大きくないし誰かが倒してくれるかも――」

「いいや。それで済むならここまで来てねえよ」

「でも……」

だから、わたしを置いていくの? 「俺がやる。お前はここで見てろ。ってか帰っていいぞ。友達と遊んでろ。こいつを倒したらお前ん家で休ませてもらうから」

「でも、でも……ユーノ君は1週間は休まないといけないって」

「ま、あいつくらいなら何とかできるだろ」

「……やめて」

お願いよ、言うことを聞いてよ。あなたじゃ無理なのよ。

「心配すんな」

そういって、フェレットの前足で頭を撫でて――飛び出した。

「――ユーノ君!」

叫んでも、返事は帰ってこなかった。

 

 

 

「うおっ!?」

突進をかろうじてかわす。普通の犬と同じスピードしかないが、図体が違う。小さいユーノ君じゃ触れるだけでも弾き飛ばされる。

「ちぃっ」

犬が俊敏な動きでUターン。長く伸びた爪で引き裂こうとするも、小さい標的は捉えづらいらしい。

「うおあっ!」

飛ばされた。体当たりが当たったわけでも、その際に飛ばされたがれきが当たったわけでもない。衝撃だけで弾かれてしまった。

なんて――弱い。そんなに弱いのに、なぜ立ち向かえるの? そんなこと、わたしにはできないのに。

「うぐ――くそ……っ!」

ぶるぶると震える腕で立ち上がる。それで何かができるとも思えない。

「……かかってきやがれ!」

果敢に叫ぶ。その姿は英雄的ではあるけれど――だからと言ってジュエルシードを封印できる道理はない。

 

「やめて」

見ていられない。なんでそんなに傷だらけになっても立ち上がれるの?

「……勝てるわけないじゃない」

ユーノ君、わかってる? あなた攻撃できてすらいないんだよ。敵は隙だらけ――元々野生すら持たない飼い犬で、さらに暴走している今は扱いやすすぎるほど扱いやすい。

なのに攻撃が当たる当らないの土俵にも立てていないっていうのは、回避に全力を集中しなくちゃその時点で終わるってこと。

さらに攻撃ができたとしても、そんなものは意味がない。窮鼠なんて言葉があるけど、攻撃したところで徒労に終わるだけの相手がいるんだよ?

聖餐杯は砕けない。それは無敵の鎧に閉じこもって腐った男の言葉。でもね、結局彼を砕いたものは神の玩具だった。あなたは玩具になりたいの?

「あきらめなさいよ」

相手は勝てるはずのない敵なんだよ? なら逃げてもいいじゃない。誰も責められないよ。力がないんだもん。しょうがないよ。

「なのに、なんで立ち向かえるの?」

そういえば、蓮君もそうだった。勝てるはずのない大隊長に臆することなく立ち向かっていった。

憎しみもあったろう。けれど、彼を立たせたものは守りたいという想いだった。なら、あなたも――? 水知らずのここに住む人たちを守りたいと?

「けれど、無理」

蓮君は勝った。けど、それは神の玩具だったから。水銀によるブースト……最後には彼の神にすら勝ってしまうほどになったが、そこに至るには神の力というファクターが不可欠でしかない。なによりも、その筋書きを描いたのは本人だ。

「この世界に神はいないのよ……っ!」

わたしは生まれてこの方、座が発する思念を感じたことがない。大極()を満たす想いは真っ白で純粋な無。誰のものでもない想い。

「勝てるわけ……ない……!」

だからこそ英雄的な行為はただの玉砕。ユーノ君がここで戦ったって意味はない。いくらかの時間は稼げはするだろうが、その時間の活かしようがないため、やっぱり意味はない。

「逃げてよ」

ぽつりと吐き出した想いは、きっとユーノ君には届いていない。犬の唸り声にかき消されてしまっただろう。

Please stand up and fight.(なぜ戦わないのですか?)

「レイジングハート。無理よ――足が震えて立てないもの」

I am device(私はデバイスです)

「だから何?」

I need your order.(あなたの指示がなくては戦えません)

「それでこんなところでじっとしてるわけ?」

「|You can’t seal jewel seed.《あなたには暴走体を封印することはできません》」

「そうね――無理よ、そんなの」

But, I and you must beat everything.(しかし、あなたと私でなら勝てます)

「勝つって……あんたがわたしをどうにかするの? 道具のくせに」

「|I don’t have hurting master system.《私があなたに危害を加えることはあり得ません》」

「そう――」

Are you sit there forever?(あなたは彼を見殺しにしてもいいのですか?)

ユーノ君。今、戦っている。このままだときっと死んでしまうだろう。また、わたしを置いて閃光になってしまう。

――そんなのは嫌。

そうよ。これだけ励まされて、膝を抱えたままじゃ女が廃るってもんよ。わたしは、仲間が殺されるのを黙ってみていられるわたしになりたくない。

「レイジングハート!」

Yes, ma master.(はい。やりましょう、供に)

“犬”に打ち勝つ。そう――決意したんだ。生まれなおしたときに。今度こそ、好きな人の足を引っ張る自分じゃない。力を振り絞って、好きな人についていける自分になるって!

「ディバイン……」

「……buster(バスター)

あふれ出る光は桜色。まるでわたしの思いのように透き通っている。

極大の光はあらゆるものを破壊せず、しかし通り過ぎたわだちを浄化する。犬が弾き飛ばされる。

「――ユーノ君!」

「悪いな。助かった……って、おい」

ユーノ君の呆れたような声。だって、しょうがないでしょ? わたしは勇者様じゃなくてお姫様だから――怖いものは怖いの。

「問題ないわ」

「いや、あるだろ――目をつむるなよ」

「怖いんだから仕方ないでしょ」

master, left come.(マスター、きます)

先の一撃はユーノ君を離脱させるものだから当ててない。当然、わたしに攻撃しようとしてくる。

「こまめに当てていくわよ!」

Divine shooter(ディバイン・シューター)

数は6。正直、完全には制御しきれないけど方向さえ制御でいれば十分……ええ?

「……当らない?」

Look your enemy.(よく見てください)

――無理!

「……っぐ!」

さすがに重い。あいつの体当たり――前回の奴とは比べ物にはならないわね。でも――

「わたしとレイジングハートの敵じゃない」

Restrict Lock(レストリクトロック)

犬に平面の紋章が絡みつく。……捕まえてやった。

「……うえ」

ユーノ君が声を漏らした。まあ、わかるわよね――足を引っ張ってどうするか、なんて。

「今度は本気で行くわよ!」

Divine buster(ディバインバスター)

動きを止めて大砲を叩き込む。

犬は断末魔を上げながら消える。いや、犬本体とジュエルシードだけが残る。

「――なのは、封印だ」

「リリカルマジカル! 封印すべきは忌まわしき器ジュエルシード! ジュエルシード封印!」

「……ふぅ」

「紆余曲折はあったけど、終わり良ければ総て良しね」

「お前が言うな」

ユーノ君がジト目で見ているのは見なかったことにする。いや、ここは元の姿に戻って倒れた犬に駆け寄る場面なのかもしれないけどね。

「……あ。5分なんてとっくに過ぎてるじゃない!」

「……ピンチだな」

「急いでいくから、アリサちゃん、すずかちゃん。許して~」

結局、こってりとしぼられることになったとさ。全然、終わりが良くないじゃない。

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