「まったく、友人との語らいを邪魔するなんて無粋な敵ね」
わたしは目を凝らす。ここがジュエルシードが発動した場所。そして、この近くにあるのは間違いない。
「いきなり襲い掛かってこられないだけでも感謝しとけ」
「ま、それを言ったらそうなんだけどね」
危険なのはイヤよ。怖いのも。
「……ジュエルシードが暴走したのはこの辺りのはず」
「――いないわね」
おっかしいわねー。反応を見る限り、この辺にあるはずなんだけど。
「……っ! なのは」
「へ? きゃあっ」
見えない何かに殴られた。
「これ?」
「透明ってなわけでもない。高速で動いてるんだ」
そうみたい。透明なだけなら捕まえられるんだけどなー。
「バリアジャケット着てたからダメージないけど、それを考えても威力が低すぎないかしら?」
「おそらく速くなりたいという願いが正しい形で叶えられたから、高速に付随する効果がなくなっているんだ。周りを見ても衝撃波で荒らされた様子はない。キャンセルされてる。威力がないのは嬉しいんだが……」
ユーノ君が深刻な顔でうつむく。わたしもこればかりはどうしようもないかも。
「なるほど。ただ速いだけで、殺傷能力とかないも同然なのね。でも――」
「それだけに捕まえるのは難しい」
「どうしようかしら――にゃあっ!?」
真正面から顔面に当たった。痛くはないけど――むかつくわね。
「とりあえずバインドを仕掛けてみてくれ」
「ぜったいに捕まえてやるわ――レイジングハート」
仕掛けたそばから次々に発動する。けれど捕まえられない。発動から動きを捉える一瞬にも満たない間を奴は駆け抜けて……またぶつかった!
「小型犬だな」
わたしのあまり飛ばされない姿を見てユーノ君が推測する。大型犬だったらさすがに弾き飛んでいるだろう――普通のスピードで飛びかかられても。
「小さい方が厄介じゃない? ユーノ君が踏みつぶされないってことはいいけれど」
「素早い奴に当てるにはどうすればいいと思う?」
これは参ったとユーノ君の顔に書いてある。けれど、わたしはにっこり答えてあげる。絶対回避に対する回答――ジャンケンにおけるグーに勝てるパー。
「必中させるには避けようがない攻撃をすればいい――けど、ユーノ君の結界は耐えられる?」
結界があるなら、そこに捕まえて全てもろともに燃やし尽くしてしまえば逃げようがない。これかそ絶対命中……いや、パクリだけど。
「なるほど。と言いたいが、巻き込まれる俺はどうすりゃいいんだよ。バリアジャケット持ってないぞ」
「むむ。ユーノ君をわたしの服の中に入れる感じで。ユーノ君が望むなら下の方に潜り込んでもいいのよ?」
「寝言が聞こえるな。しかし、そもそもバリアジャケットに他の生物を入れて保護するなんて機能はないしな。あまり変なことはしたくない」
やん。恥ずかしがっちゃって。
「なら、選択肢は一つね」
わたしの顔は笑みを刻む。やってやろうじゃない。白騎士のお株を奪ってやるわ。
「なにする気だ?」
「相手が速いのなら、こっちだって速くなればいい。足を引けるくらいにね――でしょ?」
「いくらお前がAAAランクの魔力を持っているとはいえ、無茶だ」
やれやれ、と首を振る。……ふふん、あまり舐めてくれるんじゃないわよ?
「無茶を通すってのは、主人公の条件でしょ」
「なのは――」
心配する声は聞き流す。さて、やってみましょうか。短い間だけど魔法に触れた。そのわたし流のアレンジを!
『さらばヴァルハラ 光輝に満ちた世界』
これは正直、侮辱になるようなことだけど――まあ、あんた相手だからどうでもいいわね。恥なんて、あんたにはないでしょ。使わせてもらうわ、駄犬。
『聳え立つその城も 微塵となって砕けるがいい』
わたしなりのやり方……魔法についてはそう多くのことを理解できたわけじゃない。けど、わけわかんないものをどうにかするのってけっこう得意なのよ。
だって、前世ではわたしは魔女。あの変態な水銀が作った馬鹿みたいに複雑で、嫌がらせとしか思えないほどややこしい術式を扱ってきたんだもの。
「
「フェンリルモード!」
普通の速度強化じゃ追い付けない。だから――これで!
「……なのは」
声すら振り切って進む。
「待ちなさい!」
それでも、追い付けない。ならば、もっと速く。追い付くまで、どこまでも……音の壁を突き破る。音を蹴り砕いて、さらにその先へ。
「いい加減に……しな……さ……い!」
――まだまだ! ああ、あなたに手が届くまで……わたしはどこまでだって飛び上がれる。速度を追い求めるだけの幻想と化そう。そして――足をつかむのに成功する。……よっしゃ!
「これで――終わり!」
「
光が収束する。そして、極大の光が解き放たれる。残るのは青い宝石とぐったりとした白い子犬が一匹。
やれやれ、今回のはつかれた。――っ!? 何か来た……!
「……ジュエルシード封印」
「誰!?」
さて、封印だというところにやってきたお邪魔虫。……けっこうかわいい子じゃない。
「ごめんなさい。それは言えません。けど、あなたの持ってるジュエルシードは危険なものなんです。だから私に渡してください」
「へぇ。いきなり現れて勝手なこと言ってくれんじゃない」
幼い子ね。わたしと同じくらいじゃない――戦争末期でもここまで小さな子たちを戦線に行かせなんかはしなかった。いや、指揮権なんて持ってなかったけど兵隊としてそこまでの非道をする者に従うことなんてできない。
「ごめんなさい」
「謝られるのは趣味じゃないわ。聞きたいのはひめ――」
「おい、てめぇ何言おうとしてやがる」
「もちろん、聞かせてもらいたいのはあなたの事情よ」
危ない危ない。前世に引きずられるところだった。今のわたしは魔法少女ってことを忘れちゃダメよね。
「……ごめんなさい」
「だからあやまるのはいいんだってば。それに気づいてる? 今、あんたは視線を下に向けてる。それって――まさに心にやましいことを抱えてる人間の行動よ」
ま、誰が最悪なのかって……この子にそんな顔をさせる奴なんだけど。まだ親に甘えていたいかわいい盛りの娘でしょうに、なんでこんなことになってるのやら。
違う意味で大人すぎる小学生もいるけどね。
「……ジュエルシードを一つ賭けてください」
「それ、わたしのよ? それに、交渉の基本をわかってないわ。いい――相手に与える返事は、はいかイエスよ」
ちっちっち、と指を振って教えてあげる。
「なら――返事は聞きません」
「
「消えた!?」
驚いて口をあんぐりとあけてしまう。ぜんっぜん見えない。魔法の発動を感じ取れればよかったんだけど。きっと、魔法の習熟度が違う。
「終わりです」
「
おそらくは高速移動で後ろに回った彼女は、雷の鎌を振り上げて――
「――なんつて。ばーん」
「
後ろを見ずに砲撃を敢行する。私の戦闘センスを舐めないでよね。あんたみたいな小娘なんて、一挙一動までお見通しよ。
「――っ!?」
金髪の子があの体勢から回避を試みる。慣性で体を引きちぎるような無理やりな離脱。あれだと強引にかわしたほうが痛いでしょうに。
「……ぐぅっ! はぁ、はぁ、はぁ――」
あの子は鎌を構えなおす。
「
「気にしないで。むしろ、あなたはよくやってくれてるわ。視線もなしでの砲撃をよくやってくれた」
ここまで正確に後ろ向きの砲撃をコントロールできるとは思ってなかった。正直、かすらせてビビらせようかと思ってたくらいだもの。
「あなたたちの作戦は失敗しました。降参してください」
「……その腕で何言ってるの?」
無理よね。ディバインバスターが腕に当たっていた。もうその腕は使えない――もちろん、ゆっくり休めば回復するけどね。
「……」
「だんまり? でも、降参する気はなさそうね」
「私にはジュエルシードが必要なんです」
未だに鎌を構えたままの彼女が言う。
「なら、事情を教えてもらいたいわね。ほら、なんせどこかの誰かみたいに黄金の奇跡を追い求めて、永遠の奴隷にされちゃった人もいるぐらいだから――軽はずみな行動は後悔を招くわよ?」
「なにを言ってるのかわかりません」
「世の中、そうそううまくいくようにはなってないってことよ」
「――それでも、笑ってほしい人がいるんです」
あらあら。顔は真剣そのもの。退く気はさらさらないってわけね。
「……そう。それがあなたの理由か。でもね、それは大人の義務よ。子供が苦しみ、傷ついてまでやることじゃない」
「あいかわらず、あなたの言うことはよくわかりません」
「あなたの周りにはロクな大人がいないわね。じゃ、わたしがやるしかないかな――!」
レイジングハートを掲げ、魔法を宣言する。――けれど。
「
「
やっぱり、発動速度はわたしが遅い! こんな早撃ちじみた競り合いには負けるわ。槍と弾がわたしの近くでぶつかり、視界をふさぐ。
「
けれど、見なくたって防御くらいはできんのよ!
「
「それに――片手じゃあ、ねぁ?」
真正面からつばぜりあうこの子に向かって笑いかける。後ろからの不意打ちを破られたのなら、今度は正面切っての速度勝負。この手の人間は考えることが単純でやりやすいわ。
「……ジュエルシードを――渡せ!」
「え? きゃあっ!」
いきなり力が強くなった。それにわずかだけど、なにか覚えのある――忌々しい気配を感じたような。
「私の目の前から、いなくなれ!」
「……あぐっ!」
強引に純粋な力技でたたきつけられた。
……そんな。プロテクションをつばぜり合いから力づくで破るなんて――それも片手で!
「
「いい子だね。ご主人様を守るために自分で判断できるなんて」
レイジングハート。いい子ね。さすがにこれで見逃してくれるでしょう――って!
「……待ちなさい。さっきの力、あれは――」
あれだけは見逃すことはできない。あんなものが、それがただの残滓だろうと、存在しているのなら命に代えても壊さなければ。
いいえ、それより、この子のことが心配。あれに影響を受けているのなら、彼女は……!
「ごめんなさい。このジュエルシードはもらっていきます。――それじゃ、もうにはこの件にはかかわらないでください」
「……あなたは」
あの子は、わたしを無視して行ってしまった。……また、こうなるの? やっぱり、わたしは置いて行かれる運命だとでも。
わたしにあの子の破滅を後ろで見ていろと?
「気にするな」
「……ユーノ君?」
「ジュエルシードが盗られたのは想定内だろう。それに、こうなっても問題はないさ」
「慰めてくれるのね。でも――」
あの子を救えなかったことには変わりない。
「正直、お前のことはよくわからん。だが、負けたこと自体はそんなに落ち込んでもいないんだろ?」
「そうね――負けるのは、慣れてるから。でも……」
「置いて行かれたくない、か?」
「そうよ。わたしは魔女の鉄槌なんかじゃない。地星でも、ついていきたかったのよ。あの……疾走する彼に。愛していたの。愛されていたかった」
――マレウス・マレフィカム。黒円卓副首領に名づけられた魔名にして、わたしの宿命。嫌がらせ以外の何物でもないけれど、だからこそ真実。
だって、神様の言うことなんですもの。どんなに嫌でも、わたしは“それ”でしかないのか。逃れられたと思ったのは――ただの勘違い?
「じゃ、追いかければいいさ」
「――え?」
一瞬、意味がわからなかった。けれど、それはとても単純なことだと気付いて――
「そっか。追いかければいいんだ……あの子は死んでない。死人を追いかけても溝が広がるだけ――ええ、そうね。あんたの言う通りよ、黒騎士。なら、あの子が生者であるうちに追いついてやる」
それこそが、宿業からの脱出。あなたの宇宙から完全に逃れ出る方法なのでしょう? クラフト――水銀の蛇。
「なら、やることは決まったな」
「ええ。ジュエルシード集め……下りてなんかやるもんですか」
決意を新たに。でも、まずはお茶会の続きね。
「にゃはは。ユーノ君追いかけてたら転んじゃった」
というわけで、誤魔化す。いや、けっこう苦しいけど。
「ちょ! どろどろじゃない――しょうがないわね」
「なのはちゃん、けがとかしてない? 大丈夫?」
あんたら、少しは疑いなさいよ。
「さっさと脱ぎなさい。服を洗ってあげるから」
「え? こんなところで露出プレイ? ちょっと勘弁してほしいかな――なんて」
「……なのはちゃん、脱衣所はこっちだよ」
あれ? すずかちゃんが呆れたような目でわたしを見てる。しかも、アリサちゃんお家を自分の家のように。
「じゃ、悪いけどお風呂場借りるわ」
「私の服貸してあげる。その服は脱いでおけば洗濯させるから」
「そうだ。いっしょにお風呂に入らない?」
「ああ。いいわね、それ」
「なら、ユーノ君も一緒に入る?」
「この子はダメよ。男の子だから」
わたし以外の、なんて――許さないから。
「そう、なのはがそう言うならいいわ」
「うふふ。じゃ、ユーノ君にはここで遊んでいてもらおっか」
「籠はあるわよ。また逃げ出したりしないようにここに居てもらおうか?」
「大丈夫。この子はこれに夢中になっているもの」
ちょっと変な形をした石をユーノ君に握らせる。帰り道で拾っておいたの――いきなり走り出した理由の一つくらいは用意しておかなきゃいけないでしょ。
「ねぇ、なのはちゃんには好きな人いる?」
わたしたちは3人で仲良くお風呂に入っている。女同士だから、当然何もつけてないわ。
「いきなり何?」
「最近ちょっと変わったから、好きな人でもできたのかなって……」
「好きな人ね――ええ、いるわ」
“人”とはちょっと言えないかもしれないけど。
「ホント?」
「嘘ついてどうするのよ」
「なら、あんたは付き合ってるの?」
「いいえ。そういうのは、無理かな」
いや、だって――アレだもの。
「悲しくない?」
「そうかも。けど、それで諦める方が嫌なの」
「ねえ、なのはちゃん――どこかに行ったりしない?」
「行かないわよ。なんで?」
「だって、ときどき遠くを見てる。ここじゃないどこかを見てるみたいで、幻みたいに消えちゃいそうだなって」
「そんなことないわよ。わたしの現実はここにしかないわ」
「じゃあ、これからも私たちと遊んでくれる?」
「もちろん。あんたなんか友達じゃないって言われたら泣いちゃうわよ」
「うん。これからもずっと友達でいようね」
「ええ。ずっと――」
「私も忘れないでね」
「うん、アリサちゃんも。ところで――あなたたちの方はどうなの? 好きな人いるかしら?」
「私にはいないわ。残念ながらね」
「アリサちゃんはそうなんだ。私は……男の人よりも友達と遊んでいた方が楽しいかなって」
「うふふ。すずかちゃんはかわいいね」
「……うう。いつもはなのはちゃんの役割なのに」
「それ、どういうことかしら?」
「さ、いい加減ゆでだこになっちゃうわ。そろそろ出ましょ」
「うん。それじゃ、次はお部屋でゲームしよっか」
「ゲームねえ。わたしは苦手なんだけど」
「主役はなのはちゃんだからがんばってね」
「はい?」
「さ、服が乾くまでは付き合ってもらうわよ」
「はいいいい?」
「うきゃう!」
あ、死んだ。画面の中でGAME OVERの文字が躍っている。
「あ、なのはちゃん。ボタンを押すタイミングがちょっとずれてるよ」
「今度こそ――」
そして死ぬ。今、わたしボタン押したわよね!?
「今度は操作まちがえたわね。ジャンプはBよ」
「あれ? えと、えと、ええと……」
はぁ? ちょっと、Bボタンってどれ? この赤いの? それとも黄色?
「ハンマーはCボタンね」
「え? ああ、これかしら」
あ、黄色はCだったわ。ボタンの上にCって書いてある。
「なのはちゃん、4つのボタンの位置くらい覚えないと」
「あら? 固まっちゃったの?」
かちゃかちゃと赤いボタンを押すけど、ひょこひょこ腕を動かすだけで移動しない。さっきは動いたと思ったんだけどなー。
「十字キーで動くんだよ。さっきまでできてたでしょ?」
「……ジャンプ!」
とりあえずBボタンを押してみた。
「よくできました」
「次はどうすればいいの? わ――敵が来た」
「も一回ジャンプね」
「そりゃ! ――あ」
キャラはジャンプして――敵キャラの上に落ちた。またしてもげーむおーばー。
「進まないと当たっちゃうよ」
「ああ、もう! ややこしいったらないわ」
「これくらいは簡単にできるはずなんだけどね」
「大体ボタンが多すぎるのよ。ボタンなんて1つで十分じゃない」
これ、人類にクリアできるゲーム?
「ぼやいでないで、ほら――キャラが復活したよ」
「うう……代わってくれない?」
「「代わってあげない」」
泣きながら、ボタンをかちゃかちゃする。あれ? 攻撃ってどのボタンだったかしら。
長くなってしまいました。次は多分もうすこし少なくなると思います。