「これ……」
「また……だな」
二人揃ってため息をつく。
「つい昨日じゃない」
「昨日だな」
「わたしなんて、なんか全身筋肉痛みたくなったわよ」
「魔力の使い過ぎだ。ホースの話をしただろう。本来なら、弾けてたぞ」
「おお。こわ」
「それでも、あいつのほうが怪我は深刻だな」
「そうよね。痛みは消せても、体の内側に負ったダメージは誤魔化せないでしょうに。外側から止血はできても中身はどうしようもない」
「その通りだよ。魔法の国ったって、そんな都合のいいように行くわけがない」
「けれど、あの子は戦うのよね」
「そうだ。何を渇望しているのかは知らがな」
感じるのは暴走体の波動……戦闘の気配。あの子は傷だらけの体で戦っている。それがわかる。
「行こう」
「お前が望むなら」
「「運命を救いに」」
上空。上からフェイトちゃんを眺める。振り返った。……ダメージは、顔には出さないようにしてるけど。でも、動くときに顔をゆがめてるし、動きが体をかばっている。
「レイジングハート!」
「
けれど、手加減はしない。
「さあ、全力で来なさい。加減なんかするんじゃないわよ。全霊で来い――でなければ、意味がないから」
「また、あなたですか。何度言っても、退いてはくれないんですね」
デバイスを構え、にらみ合う。槍と鎌……構えるのは背の低い子ども。地に足を付けて扱いきれるような代物じゃない。しかし、これらは魔法を扱うためのデバイスだ。
「さあ、行くわよ。今度こそ負けない。絶対に――」
「私は、やらなきゃいけないことがあるから――」
5mの距離? 地に足を付けていては遠きにすぎる。しかし、魔法使いにとってそんなものは一歩で詰められる。
「「勝つ!」」
互いの眼は、相手だけを捉えていて――それはきっと、勝負の中で分かり合うということなのだろう。
「
「
中心で衝突する。すさまじい音がした。
「……むぅ!」
「……おお!」
第一撃はわたしの負けね。まあ、もっとも仕方ないことではある。魔法と言う技術において先見の明はあちらにある。
経験と言うものは埋めがたい。だからこそ、それができるものは英雄と呼ばれる。そして英雄は人智を凌駕する人類の救い主にして――神の玩具。
ゆえにこそ、英雄の証を持たないわたしにこの状況をひっくり返すのは不可能だ。
「――くぅぅ」
「――バルディッシュ! 押し切るよ」
「
つばぜり合いから魔法を!
「……っちぃぃ!」
墜落し、地面にたたきつけられる――ところを強引に慣性に打ち勝って空を目指す。
「
その絶好のチャンスをあの子は見逃さない。雷の槍が射出される。あの一撃……シールドを破り、わたしの意識を飛ばすには十分だろう。
そして、雷は速い。撃ち落とせない――それはまごう事なき雷速であるのだから。けれど。
「車は急には曲がれない――魔法世界には車はあるのかしらね?」
笑みが浮かぶ。意識を持っていかれそうな中で、魔法を紡ぐのはたいへんだけどね――相棒がいるから、できる。
そして、あれに当てようとは思わない。あれは真実、あの子の切り札。必殺技に違いない。
「
桜色の奔流はあらゆるものを喰らい尽くす。そして、雷槍が見えなかろうが、それは私の心臓に向かっている!
「さて、非殺傷設定ではあるけれど」
当った、わね。
「非殺傷設定なら何してもいいってわけじゃねえぞ。非殺傷魔法で拷問しても、やりすぎりゃあすぐに死ぬしな」
「――フェイトぉぉ!」
離れたところで戦っていた二人が温度差の全く違う声を投げかけた。
いや、あれは戦いと呼べるのか? バインドで捉えられようとしてるのを必死に防いでいる――というか、遊ばれているといった風情。
ユーノ君はあいつなんて歯牙にもかけていない。ようにみせかけて、実は一杯一杯に違いない。こちらの戦いに介入できないように妨害しているだけである。
「――なのは!」
ユーノ君の鋭い声が届く。――わかってるっての。
「レイジングハート。全力で防御行くわよ」
「
ったく。いやな予感が膨れ上がる。――来る。
「
――砲撃? いや、違う。そんな上等なものじゃない。極大の雷に指向性を持たせて束ねただけ。しかし、強い。
単純明快。しかしそこに極大の魔力の暴威が加われば侮れない。人の身で雷をかわすことは不可能。わずかでも気を抜けば防御ごと砕かれる。
「……ぐっ! がぁあああああああ!」
雷。盾から回り込む余波ですら、バリアジャケットの上から激痛をもたらす。それに――この痺れ。
「終われ。……終われェ!」
感覚が消える。電気ショック、ね。あいにくと、電気椅子に座ったこともなければ、乗せたこともないけれど。こんなところで、そんな代物を味わう羽目になるとはね。
「終わるわけには――いかないのよ!」
天が晴れる。雷が砕ける。……耐えきった。
「――次は、わたしの番……っ!」
「
さあ、今度はあなたが耐える番!
「……あ」
彼女はため息をつき、呆然と桜光を見つめる。
「
デバイスの自動防御機能! けれど、あれだけの魔法を放った直後にどれだけの魔力を扱えるのかしら?
そんなガラスの盾……砕いてあげる。そして願わくば、あなたの心を聞かせて頂戴。
「いっけぇぇ!」
桜色の砲撃が盾を貫いた。
「ああ!」
「フェイト!」
見ればアルフはユーノ君のバインドに囚われている。悲痛な声を出しても――あれではどうしようもあるまい。
「……まだ」
「え?」
「まだ、私は落ちてない……!」
「うそ……あれを受けても飛んでいるの……?」
――そうか! プロテクションに大量の魔力を使ったから……本来の威力が出せなかった。そうそう連続で魔力を大量消費なんてできない。
「これで終わりですか? なら、ジュエルシードはもらいます」
「……冗談。あんただってふらふらじゃない。そっちこそ、降参するなら今のうちよ。心配しないで、優しくしてあげるから」
「なら、次――行きます」
ふらふらで、でも力強い瞳で宣言した。
「いいえ。今度もわたしから行かせてもらうわ」
負けてられない。とはいえ――砲撃は使えない。消耗が激しすぎる。
「……レイジングハート?」
「
「「っだあ!」」
寄寓にも掛け声は同時。そして、魔法はお互いに使えない。純粋な飛行能力、そして体術が勝負を決める。
激突する――直前。
死が落ちてきた。
「双方、退け」
まず視界に入ったのは黒。あらゆるものを漆黒に塗りつぶす死神。彼の前では、あらゆるものは塵芥。
「――あんたは」
手に感じるのは、まるで鋼を切りつけようとしているかのようなどうしようもなさ。そして、こちらの手が潰されてしまいそうな息苦しさ。
「フェイト!」
ユーノ君の意識がそれた瞬間、アルフがバインドを破った。そして、漆黒の鋼に殴りかかる。
「……」
無言。彼は一言発したきり押し黙る。
「お前、管理局か! 私たちの邪魔はさせないよ!」
アルフの拳に反応しない。そもそも両手はわたしとフェイトのデバイスを受け止めているために使えない。
しかし、そんなことは彼には関係がない。ちらとも視線を向けず――
「……がぎっ!」
アルフの拳が当る。そう思った瞬間、彼女はくの字に折れた。
一瞬だけデバイスから手を放して殴った。言うのは簡単だ――しかし、わたしと同じ子どもの身では、身体強化を使っても拳の一撃で大人を沈めるのは無理がある。
重要なのはタイミングと位置。アルフの全精神が攻撃にのみ集中した瞬間、最も弱い臓器を的確なスピードと衝撃で揺さぶった。……わずかでも意識をそらせばフェイトの鎌が我が身を貫く緊迫感の中で。
「……アルフ!」
フェイトちゃんが叫ぶ――彼女は今、何がどうなったのかわかってすらいないだろう。意識の隙間への打撃……それはアルフだけではあくフェイト――両者の隙が重なり合った瞬間に行われたのだから。
「――くぅ」
とはいえ、彼は……わたしの記憶の中の黒騎士と彼が同一の存在であるならば、だが……見る影もないほどに弱体化しているのは間違いない。それでいて欠片も勝機を見いだせないのは、さすがに英雄と呼ばれただけはある。
そう、力だけならわたしの方が上だろう。例え魔法に先日の長があったとしても、元の魔力が弱い。ゆえに彼の一撃は前世でのご都合主義の一撃必殺などではない。しかし、研ぎ澄まされた技術が泥臭い一撃を必殺に変えている。
――勝てない。無理よ。こいつには勝てない。格が違いすぎる。
「……この!」
わたしとて同じことだが、フェイトちゃんはデバイスを掴まれていて何もできない。まずは離れて、魔法を――といったところだろうか。わずかにデバイスを押し込む力を緩めた――その瞬間に顎を撃ちぬかれ、意識を暗闇へと吹き飛ばされた。
「――強いな」
ユーノ君が感嘆したようにつぶやく。
「そうね」
何が恐ろしいって、彼の強さは数値化できるようなものではないこと。それこそ、彼は魔力の強さ、一撃の威力、飛行速度、何一つとして突出しているものは何もない。しかし、現実はどうだ?
こうまであっけなく才能に事欠かない天才児に勝ってしまうとは……それも、敗者は目覚めた後はむしろよく寝た後のようにすっきりしているような優しい落とし方で。
「……これ、わたしたちの役目は終わりってこと?」
「みたいだな。とんでもないぞ、こいつ」
「まあ、みればわかるわよね」
「お前は知らないだろうが、魔法戦と言うのはとかく魔力量が勝敗を分ける傾向がある。魔術師ランクが上の人間に対しては勝てないなどという風説がまことしやかに流れているのだから」
「それはわかるわ。圧倒的な力を目の前にしたとき、人はどうしようもない」
「しかし、あいつは」
勝った、とつぶやいた。
「それでも、絶対的な力の差を覆したわけでもないけれど」
「……?」
「――っ! この波動」
また。以前にも感じたこれは――!
「――ぬ」
先ほどまで何物にも動じず、不動であった鋼が声を漏らす。
「……管理局」
フェイトちゃんが睨んでいる。意識が刈り取られたはずなのに! 人体の構造的にここまで早い復活なんてありえない。
「――お前らは母さんを邪魔する」
母さん? あの子の母親ね――やはり犯罪者ね。おそらく、ユーノ君が乗った次元航行船に細工をしたのも彼女。
「お前ら、全員! 消えてなくなれ!」
デバイスが光を放つ。極大の気配があふれ出す。全てを滅さんとする滅塵滅相が雷となって振り下ろされる。
「全力で守れ」
鋼が言う。――わかってる。この威力はヤバイ!
「ユーノ君!」
「ああ、3段結界だ。やるぞ!」
吹雪の中で耐えるように2人と1匹が身を寄せ、盾が3重に展開される。これで――いける? 生き残れる?
いや、無理だ。
この威力は耐えられない。黒騎士とて、特別なのは技術。ゆえにただの暴威には倒れ去る。
「――ごめんなさい」
わたしは誰に謝ったのだろう?
「なのは。もうちょい気張れ……!」
無理よ。力を出し切っても、これはしのげない。雷の暴風――それが自然現象などとは比べ物にはならない。まさに神の怒り――無慈悲なる裁き。
ああ、聞こえる。貴様ら全員消えろ。神は人間など、否……すべての生物の存在など認めない。貴様ら、誰の許可を得て生きている――そんな、腐臭を放つ想いが。
「また諦めるのか?」
黒騎士の、心を抉る一言。――ああ、思えばいつもあなたの方が正しかったわね。死者には追いつけないと教えてくれたのも、夜刀の真の願いに応えたのもあなただった。
「――そう何度も、無様な姿をさらせなんてするもんですか。わたしはね、これでも負けず嫌いなのよ――!」
気合を入れなおす。そして、叫びに呼応したかのように雷はその密度を減らす。……これなら!
「ユーノ君! もう一頑張り行くわよ」
「ああ。てめぇこそへばんなよ。なのは」
さあ、希望が見えてきた。
「「だあらっしゃあああああ!」」
そして、雷が晴れる。
そして、晴れた後には人影はない。――逃げられた。
「でも、ま。生きてりゃ十分めっけもんよ」
「ああ。あんたもよく耐えてくれた」
とにもかくにも五体満足であることを確認して、安堵のため息をつく。
「またお前らに会うとは思わなかった……
そんなわたしたちをあいつはほほえましげに見て、微笑した。
12話で完結させようと思いましたが、この分ではそれは無理みたいです。16話くらいまで行くかもしれませんが、よければ付き合ってください。