禪院甚壱成り代わり 作:相川
あまりにも禪院家での扱いが悪かった真希と真依が見ていられなくなったので、俺は二人を伏黒夫妻の家へと連れてきた。ついでに、ここ数年で価値観が矯正されてきた直哉も一緒である。
伏黒夫妻はここ数年で、椿さんの親戚の子である津美紀という名の女の子を引き取り、伏黒津美紀と姓を変えて恵の姉として生活している。姪っ子まで増えてしまって、俺の父性は上がるばかりである。
津美紀ちゃんであるが、彼女は根っからの非術師であり、術式どころか呪霊すら見えない。呪霊は見えても良いことがないので、ぶっちゃけ良かったのではないかと思っている。
とはいえ、恵が術式持ちで且つ禪院家相伝『十種影法術』であることが明らかになったため、実家に知られるとものすごい面倒になる上、椿さんと津美紀ちゃんの待遇は最悪となることが確定した。
「賑やかなこったな」
「悪くは無いだろう」
嫌なことばかり考えてしまったが、目の前で遊んでいる甥っ子と姪っ子、それから従姉妹の双子を見ると連れてきてよかったと思う。
下手に伏黒家へと禪院の人間を連れてきてしまうと、どこからか実家に情報が漏れ、伏黒夫妻と子供たちの存在が露見してしまうかもしれないという懸念はあったものの、椿さんからドンと来いと器の違いを見せつけられてしまったため連れてきた。
恵と真希、真依は歳が近いということもあって仲が良い。直哉は兄としての自覚が出たのか、それともシンプルに尊敬する甚爾が近くにいるからなのか、いつもと比べれば割と大人しい方である。
やはり子供たちが年相応に遊べているのを見るのはなんとも健康に良い。おっさん臭い感性かもしれないが、実際おっさんであるから何も言えないのだ。
「恵の術式が十種なのは想定外だが、どうする?呪術に触れさせるか?俺としては、自衛手段として身につけさせるくらいはした方がいいと思うが」
恵の存在がバレたら、実家はなんとしてでも手に入れようとしてくるはず。その手段は合法違法問わないという嫌な信頼がある。
それに、呪霊が見えてしまうのだから、やはり呪霊に対応出来る戦闘力が必要になるはずだ。
「……そうだな。まァ俺は呪術を教えられねぇから、そこんとこは兄貴に頼むわ」
「任せろ」
これでも俺は次期当主候補に名を連ねるのだ。呪術師としての実力は特別一級であるから、それなりに強い。
「そう言えば、五条の坊が星漿体の護衛任務を受けてるらしいじゃねぇか」
「ああ、五条悟と夏油傑のコンビか」
「知ってんのか?」
「まあな。ウチは御三家だぞ?呪術界における情報網くらいそこら中に張り巡らされている」
「俺のところによ、星漿体の暗殺依頼が来たんだわ」
「……受けたのか?」
「いんや?でもまァ、五条の坊をボコす機会は失っちまったな」
そう言って自虐的に笑う甚爾。彼は冗談半分でそんなことを言ったのだろうが、俺としては冗談には聞こえなかった。
甚爾が今持っている武器には、発動中のあらゆる術式を強制解除させる天逆鉾。両端を認識されなければ無限に伸びる万里ノ鎖。使用者の膂力に応じて威力が上がる游雲。あらゆる物理的硬度を無視する釈魂刀。そして、それら呪具を格納する呪霊。
甚爾のフィジカルで、全力を出されると俺ですら対応は容易ではない。そんな甚爾が本気で五条を殺すことになれば、恐らく殺せるだろう。
そんなことを考えていると、ふと俺は一つのアイデアを思いついた。
「五条悟をボコしたいなら、高専の教師になるってのはどうだ?」
「……はぁ?」
俺の提案に甚爾の表情は今まで見てきた中で随一の呆れ顔となっていた。
「いや、よく考えると中々理にかなっている。まず、高専の庇護下に入ることが出来る事。それから高専の呪術師とコネが作れること。特に五条悟が近くにいるというのはそれだけで利点ではないか?」
五条家の実質的な頭が近くにいる状態で、甚爾をどうこうしようと思う人間はそういまい。恵や椿さんの情報は限られた人間にだけ知らせておいて、彼らが高専の施設で暮らすことが出来れば、その安全性は一気に跳ね上がる。
その利点に気がついたのか、甚爾はしばらく考えたあと結論を出した。
「悪くはねぇ」
「だろ?高専は呪術界でも良心と呼べる人間が揃っている。これ以上の優良物件は他にあるまい」
「ああ、後で嫁に話しておく」
「おう。話が纏まったら俺に言え、高専に話を通しておく」
高専とのコネがあれば、直哉が当主となる間の安全は今よりも保証されることになる。俺と甚爾による隠蔽よりかはマシだろう。
俺が伏黒家の味方だとしても、俺が禪院家の人間であることは変えることが出来ない事実。俺の動きを不審に感じる人間が居ないとも限らない。
「二人して何話しとるん?」
俺たちが今後の方針を論じている間に、直哉が近づいて来て話に混じる。
「甚爾を高専の教師にするかって話をな」
「甚爾君を?」
「ああ」
「なら俺も高専に入ろかなー」
「……東京校だぞ?」
「え、なんか問題でもあるん?パパに頼めばなんとかなるやろ」
こいつはどれだけ甚爾が好きなんだ。最早執着の次元だぞ。
「高専に入るなら途中入学になるぞ?今の一年は二人いるらしいが馴染めるのか?」
「問題あらへん。弱すぎやったらちょぴっといじめるかもしれんが」
「……ほどほどにしておけよ」
直哉の性格はマシになったとはいえ、まだ少し矯正の余地がある。いや、このくらい性格が悪い人間は術師非術師関係なくいるところにはいるか。