禪院甚壱成り代わり 作:相川
ふと、俺は思った。真希と真依、彼女たちは一卵性双生児であり、呪術的に一人であるとカウントされる。つまり、生まれ持った呪力は半分ずつだし術式の性能だってそうなのだろう。だが、この日本には逸話を基にした呪霊が生まれることは数多くある。実際、直哉は先日高専の任務で明らかな
まあそんなことで、その土地の信仰が呪霊となるようなパターンもあるのだ。だったら、逸話を基にした呪具なんてのもあってよいのではないかという発想に至った。
そして、俺は禪院家の伝手をフルで使い求める呪具を探した結果、あった。
【雷切】それは目に見えない物を斬るという術式を持った刀である。値段としてはまあ気が遠くなるようなものだったが、これでも禪院本流。金なら何とか捻り出せた。俺の口座は吹き飛んだ。
俺は雷切を持って、真希と真依と共に高専へと足を運んだ。彼女達の呪術的な縁を切るためである。
「それでここに来たって訳か」
俺の目の前には東京校の生徒たちが勢揃いしていた。ついでに夜蛾も。それに加えて、夏油が保護したという双子。彼女たちは真希や真依と違ってしっかり術式を持っているし呪力もある。確か名前は美々子と菜々子だったか。彼女たちも総監部が好きそうな古臭い術式を持っている。あとは本格的に呪術を学び始めた恵もいる。十種影法術と知り、夜蛾は胃をさすっていた。
「ああ。だがこの二人が一人だと認識されている要因が分からなくてな。魂の繋がりみたいなものがあるのかどうか……」
見切り発車でここまで来てしまったが、実際どのような手段で切ればいいのか分からないのだ。
「それって成功したら甚爾君みたいなんがもう一人増えるっちゅうことやんな?え、怖すぎん?」
「まあそう言うことになるな」
真希が十分に天与から呪縛されていないのは半身である真依が呪力を持って生まれているからであって、それがなければ甚爾と同じになることができるはずなのだ。
「……この話は保留になるのか」
俺がそうぼやいたが、意外にも五条から助け船が出された。
「いんや、方法ならあるかも」
「本当かい?悟」
「ああ、その【雷切】を心臓に刺して、即座に硝子の反転術式で治してやればなんとかなるんじゃね?」
その一言に俺たちはドン引きした。まだ六歳とかそこらの子どもにやらせるようなことではない。七海なんて信じられないようなものを見る目で五条のことを見ている。
一般家庭出身の七海とは呪術師としては感性が似通っているところがあるので親近感が湧く。
五条の言っていることはまあ分かる。何が二人を繋げているのかは知らないが、流石に【雷切】で心臓を刺せば縁は切れるだろうと言うことだ。
「適当にこの二人の周りで剣を振り回すんじゃダメなの?」
そう家入さんに聞かれた。確かに、まずはそれを検証するべきか。
俺は【雷切】を手に持ち、鞘から外す。すると、今まで見えていなかった
「なんか見えるようになった。……これか?」
俺は真希と真依の間にある線に刀を振り下ろすと、ブチッ!という鈍い音と共にその繋がりは途切れた。
「「「「「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」」」」」
この場にいた全員の台詞が被った。
何が起きたかって?真希から発せられるプレッシャーが激増したのだ。
「俺と同じに成ったな。とは言え、まだまだガキだ。実力は俺には程遠いがな」
甚爾がそう言う。ということは、本当に天与呪縛が発揮されたのだろう。それと同時に、真依が持つ呪力量も今までとは比べ物にならないほど増加した。
「そんな眼鏡がなくとも呪霊が見えるようになったはずだが……夏油、試しに呪霊を一体出してみてくれ」
俺は夏油にそう頼んだ。そしてすぐに夏油は最下級の雑魚呪霊を取り出す。
俺は真希の眼鏡を外し、呪霊を見るように促す。
甚爾は五感で呪霊を感じ取れるようになっているから、真希も五感で呪霊が認識できるはずだが、果たしてどうなるのか。
そう思って真希を見つめていたが、当の真希は呆然としていた。だが、すぐに歓喜の表情を浮かべると頬を赤く染めて嬉しそうにする。
「……見える。見える!!」
女の子らしく飛び跳ねて喜ぶ様子に、俺はほっこりしたが、真依は少し複雑そうな表情で自らの姉を見ていた。
「ついでにこっちの双子にもやっておくか」
夏油によって保護された双子にも同様のことを施した。二人の呪力は倍になった。夜蛾は胃を押さえている。
「えげつないことすんね。甚壱さん」
五条がニヤニヤしながら話し掛けてくる。大方、自分に並び立てる逸材が一気に現れたことで上機嫌になっているのだろう。
「まあいいだろう。今の呪術界は腐りきっているからな、後進を育てるのは悪いことでもあるまい」
実際そうなのだ。呪術界が腐っているのは俺もよく知っている。ならば、比較的マシな価値観を持っている高専の面々を育てておくのは悪くはない。
「甚壱君、俺禪院家当主になりたいんやけど?今この瞬間に第二の甚爾君とも呼ぶべき存在が立ちふさがって来そうなんやけども?」
「反転術式覚えたんだろ?ならいける」
「いけるか!甚壱君でも甚爾君には勝てへんやん!ってかこの二人は呪術的には透明人間なんやで?領域にも感知されない存在なんやで!?」
「なんとかなるだろ」
まあそんな軽口を叩いているが、実際真希が禪院家の当主になれるかと言ったら厳しいと言わざるを得ない。そもそも術式を持っていない上に、禪院家のトラウマ伏黒甚爾と同一の存在なんて怖がられて当主どころじゃないと思う。
「まあ、真希は甚爾に弟子入りだな。強くなりたいんだろ?」
そう聞くと真希は真剣な顔をして頷いた。
「当主には俺から言っておこう。真依はどうする?」
「私は、呪術師にはなりたくないけど……お姉ちゃんに置いてかれるのはやだ。それに……」
真依はそう言って彼女の術式である構築術式で刀を作り出した。
「私もこれくらいできるようになったから」
呪術的に双子でなくしたというだけでここまで効果が表れる物なのか。
「真依も高専で英才教育を受けていた方が良いかもな。当主には俺から言っておこう」
最早俺は当主との窓口になりつつあるような気がするが、まあ気にしない。
「それで、兄貴の用件はこれだけなのか?」
「ああいや、まだあと一つ残っている」
俺のふとした思い付きと言うのは、何もこの双子に関することだけではない。
少し思ったのだ。甚爾の天与呪縛は呪術的に透明人間であると言うことを。そして、十種影法術は調伏の儀を複数人で執り行うことができると言うではないか。だが、複数人で行った調伏はその後無効になる。
「なら、呪術的に透明人間である甚爾が調伏の儀に乱入しても無効にはならないのではないか?」
というか、禪院家にこの天与呪縛が生まれたのってそういう役割があるのではないか?
俺のその一言によってこの場に天使が通過した。誰も何も話さない。それもそうだろう。若干五歳である恵が、歴代誰も調伏できなかったという魔虚羅を調伏できる可能性が浮上したのだ。
「魔虚羅の能力はあらゆる事象への適応。つまり、魔虚羅を倒すには初見の技で適応前に葬るしかない。甚爾自身にそれほどの火力があるかは知らないが、甚爾が持っている呪具にもってこいの物があっただろう?」
そう、釈魂刀である。
「……えげつなさすぎるって甚壱さん」
この場の人間の意見は五条のその一言に全て集約されていた。
「とりあえず、鵺や大蛇で試してみたらどうだ?」
ということで、初めは鵺や大蛇で試してみることになったのだが、召喚した瞬間に殺された。
「どうだ恵、調伏は出来たか?」
甚爾は息子である恵にそう聞く。恵は一度目を見開くと、もう一度鵺と大蛇を召喚した。そして、その二匹は恵を主として付き従っているのがありありと見えた。
「どうやら、成功したみたいだな」
「……やっば」
「うわぁ……」
「えぇ……」
俺の一言と共に高専の最上級生である三馬鹿は引いていた。まあ分かる。ここにいる恵は今この瞬間に六眼無下限に並び立つことが証明されたのだ。
確か慶長だったか、その時代の六眼無下限の術者と十種影法術使いが相打ちしたという文献が残っていたはずだ。
「あかんやん。あかんやつやん。俺の立場が次第に追いやられとるやん。禪院家の相伝で、禪院じゃ伝説扱いされとるような十種、しかも魔虚羅調伏者って。実家に知られたら次期当主確定やんけ」
「まだ魔虚羅は調伏してないぞ」
「時間の問題やんか!というか今すぐにでもやる気やん!もう調伏したも同然なんよ!」
まあ、恵が禪院家の次期当主になるのかはおいおい判明するだろう。多分だが、椿さんが許さないと思うけれど。甚爾は自分の息子が禪院家当主になったら面白そうだなんて考えていそうだが、なんだかんだで息子と娘を気に掛けている。悪いようにはならないはずだ。
「うっし、やるか」
「ほらもう甚爾君釈魂刀装備して準備万端やん。今から俺も乱入して魔虚羅の調伏をなかったことにしよかな」
「んなことしたら殺す」
「冗談やん甚爾君。関西出身ならもっとユニークな返しができないとあかんで?」
大阪出身ではないと思うのだがというツッコミは無粋だろうか。
「よし、じゃあ恵。魔虚羅出せ」
「うん。布瑠部由良由良」
八握剣異戒神将魔虚羅
現れるのは異形の怪物。圧倒的なプレッシャー。
本来目がある場所から複数の翼が生え、右腕には退魔の剣、頭上には魔虚羅の真骨頂である布瑠の方陣。そこに存在するは覚醒した五条悟に引けを取らないほどの埒外の化け物。
それは不躾にも自らを呼び出した矮小な人間に立場と言う物を教えるため、すぐさま罰を与えるべく動いた。
だが、相対するのは世界から呪縛され、世界から祝福された天与の暴君。自らの息子を害そうとする愚かな怪物に暴力とはなにかを教え込む。
勝負は一瞬で決着した。
魔虚羅が狙っていたのは恵であり、甚爾が狙っていたのは魔虚羅。その認識の差が如実に表れた。透明人間はその性質を遺憾なく発揮し、未だ誰の下にもついたことがない傲慢な式神の首を刎ねたのだ。
「いっちょあがり」
ここに、歴代最強の十種影法術の使い手が爆誕した瞬間であった。
高専の戦力エグイことになってるんだが。