「無限に広がる青い空! キュアスカイ!」
変身を終え、敵を見据える。
暗闇に目が慣れたのか、どこかで照明がついたのか、はたまたランボーグ自体が光を放っているのか、うっすらと周りが視認できるようになった。
決して明るくなったわけではなく、薄暗いままではあったが、敵の姿は見える、どこにいるかきちんと把握できる。これなら、戦える。
「ランボーグゥゥ!!」
般若のお面をした武者のような格好のランボーグ。大きさで言うと2mくらいあるだろうか。武器として持っているのは、芭蕉扇というやつか。ましろさんのお家のテレビで見たことがある。異国の物語に出てくる武器だったか。
周囲を確認する。一般的な学校の体育館ほどの大きさの空間。ただしドーム状の空間だ。上にも広い。外から見た時はそんなに大きな建物に見えなかったが、異界のような場所に引き摺り込まれたということだろうか。来た道は見えない。抜ける道も見えない。ここは完全な閉鎖空間のようだった。
そう、つまり救援は望めない。
「(何を考えてるだ私は)」
私だけでやる。そう決めたんだ。こんなところで立ち止まっていられない。こんな敵に苦戦するわけにはいかない。
さっさと倒して、ましろさんと花火を見に行くんだ。
そう考え、私は駆け出していた。
助走をつけて前に飛び、その勢いのまま技を出す。
「ヒーローガール!! スカイパーンチ!!」
くるりと体を前転させ、勢いを殺すことなく前へ拳を突き出し進む。
「はああああああああ!!!!!!」
ランボーグは芭蕉扇を自らの身体を守るように前に構えた。
私の拳が芭蕉扇にぶつかる。
「なっ!!」
防御を抜けない。芭蕉扇から、それを持つ手、手首、腕、肩が連動するように綺麗に勢いを殺された。完璧なタイミング。まるでバネのような柔軟な動きだった。
一旦退かないと。そう思った矢先、芭蕉扇が動いた。まるで壁が一瞬でせり寄るかのように、私の身体は芭蕉扇に張り付く。いや、吸い付くような感覚。圧迫感を感じるのも束の間、私は宙に投げ出された。そう、弾き返されたのだ。まるで私の力をそのまま返されたかのような威力と衝撃。
水平に飛ぶ私の身体。受け身を取る余裕もない。息すらまともに出来ない衝撃にただ身を委ねるしかなかった。壁に激突し、半径3メートルほどのクレーターを作った。
「かはっ……」
肺の中の空気が全て吐き出される。酸素が足りていない。さらには頭を揺さぶられたこともあり視界が暗転する。
「ぐっ……」
身体の至る所が痛かった。だが、どうやら骨折には至っていない模様。身体は動く。これもプリキュアの超人的な力が理由だろう。生身の身体であれば骨折どころか間違いなく即死だ。それがこの程度で済んでいる。まだ、戦える。
瓦礫から這い出て体勢を整える。揺れていた視界もなんとか回復した。
こちらは手痛いダメージを貰っている中、前方を見ると威風堂々と芭蕉扇を構えて仁王立ちするランボーグが目に入る。
あの芭蕉扇で防がれる。となると物理的な攻撃では歯が立たないか。とはいえ、自分にできる攻撃は物理的な打撃のみ。こんな時に、みんなが居てくれれば……。
「(また……!)」
また、弱気な気持ちがちらついた。それじゃダメだ。
一人で勝てなきゃ意味がない。どんな敵が来たとしても、一人で倒すことが出来なきゃ、ヒーローにはなれない。誰も、守れやしない……。
それでは、ましろさんを安心させることなんて……!!
「(考えろ、きっと突破口はあるはず……)」
あの芭蕉扇をどうにかしない限り、正面突破は無理だ。とはいえ、背後に回るにしても遮蔽物もなく開けた空間で、気付かれずに回り込めるかと言われると難しい。
ランボーグが一歩前へ踏み出して来た。
「(!?)」
思わず身体が強張ったが、動きは緩慢だ。先ほどの芭蕉扇の振りの速度は目を見張るものがあったが、あのランボーグ自身の足は遅い様子。
一歩踏み出したのも、前進を始めたわけではないようだった。
であれば何か、構えをとっている?
芭蕉扇を上へ振りかぶって、片足を前に腰を落として……。
ランボーグが構えた芭蕉扇を振り下ろした。
「まずい……!!!」
次の瞬間、巨大な空気の圧がこちらに飛んできた。強風なんて言葉が可愛く思えてくるほどの空気の塊。それが眼前に広がっていく。
避けるまでもなく再度壁に叩きつけられる。先ほどのクレーターがさらに大きくなった。瓦礫が辺りに散りばり、自分の身体はさらに壁に深くめり込んだ。
油断した。まさか遠距離攻撃が、あのような風を打ち出してくるなんて。本来そのような武器だったのか。分からないが、今いる現実こうなっている。
早く抜け出て体勢を整えなければ、次が来る。
痛みを耐えて、壁から離れる。相手を見据える。身体の痛みからも、ダメージを考えても、もう何度も受けられない。敵の攻撃を見極めなければ。
「(考えろ、考えろ……!)」
幸いと言うべきか。一気に肉薄して追撃してくるような機動力も無ければ、先ほどの技においても連射力は無い模様。
であれば、どうすべきか……。
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『攻撃を防がれる時の対処法?』
『はい。最近は特にですが、私の攻撃が防がれることが多いじゃないですか。パワーが足りないのか、速度が足りないのか。どうしたらいいのかなって、考えてるんですが……』
在りし日の会話。
私はあげはさんに相談を持ちかけていた。それは自分の攻撃が通じない時の対処法についての話だった。
考えてみればいつも、ランボークを相手取る際、猪突猛進に初手真っ直ぐ攻撃を仕掛けるが、防がれたり弾かれたりすることが大半だった気がする。
だけど、いつもそこから仲間の力や知恵を借りて勝利へと繋げていた。
でも、それではダメだ。"私"がなんとかするのであれば、必ず対策するべき課題だ。
『うーん、ソラちゃんの攻撃っていつも正面から真っ直ぐだから、敵にも防がれやすいとこがあるのかも。まあ、それは私たち全員にも言えることではあるんだけども』
『正面から真っ直ぐ、ですか?』
『そう。だからそういう時は、硬い装甲を持ってる相手なら、弱点を探るとか。防御してくる相手なら死角から攻撃するか、もしくは相手の攻撃に合わせたカウンターを狙うとか、かな?』
『なるほど、あげはさんはやはり作戦を考えるのが上手いですね!』
『作戦というか、一種の戦術かな。もちろん正面突破で倒せる相手かもしれないし、とりあえず小手調べってことで、初手は正面から真っ直ぐ行ってもいいかもしれないけど。相手がどんなことをして来そうか、観察するのは大事だよ』
『相手の観察ですか』
『そう。攻撃の通りそうなところはあるか、どんな攻撃をしてきそうか、攻撃の頻度はどうか、動きは速いのか。それらを観察した上で作戦を考える。自分の攻撃だけでどうにも出来ないなら、仲間との連携とかも視野に入れて、もし仲間がいない状況なら周りに使えそうなものはないか、自分の技で工夫応用できそうなところはないか、考える』
『考える、ですか』
『そう、パワーや速度、反射神経とかを鍛えるのももちろん大事だけど、戦いで大事なのはそれだけじゃないって、私は思うかな』
『死角からの攻撃……カウンター……』
『それじゃあ一つ一つ訓練してみる? 私のガードに対して攻撃を通せるか、その二つを試してみよっか!』
『模擬戦ですか!』
『そうだよ。よし! そうと決まれば早速準備。気分アゲてこ!』
『はい、よろしくお願いします!』
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そう、教えてもらった。
こう言う時は、死角を取るか、もしくはカウンターを決めるか。どっちだ。どっちが通る……?
「(……先手必勝です!)」
前を見据え、足を力を入れて駆け出す。
一瞬で最高速に入り、敵へ肉薄する。
「ヒーローガール!! スカイ!!!」
芭蕉扇を構える、防御の姿勢に入るランボーグを横目に私はそのままランボーグの横を通り抜け、ランボーグの背後の壁の方に前進した。
右腕に溜めた力はそのままに、くるりと身体を回転させ壁を蹴り、180度進む方向を変える。そのままランボーグの背後を捉える。ランボーグは正面からの攻撃に対する防御を解く間もなく、無防備な背中を晒していた。
「パーーンチ!!!」
もらった!! と心の中で叫んでいた。
しかし、その攻撃が通ることはなかった。
まさに攻撃が当たる直前、その刹那にて、敵が眼前から消えたのである。
攻撃は空を切り、必殺の一撃は不発に終わった。
地に手をつけくるりと前転し着地する。
すぐさま状況を確認した。
『周りが、見えない』
敵が消えたのではなく、空内に一切の光がなくなったのだ。まるで最初に入って来た時のような暗黒。自分の姿は確認できるが、それだけだ。半径1mより先が真っ暗で何も見えない。敵の能力によるものか、空間自体のギミック、罠によるものか。どっちにしても、これではまともに戦えない。
相手からもこちらが見えないだろうか。いやそんな都合のいい話はないだろう。相手からは見えると考えて行動すべきだ。
であれば、風の攻撃か、直接攻撃か。
視覚がダメなら、聴覚だ。全神経を集中。以前カバトンとの戦闘でやったように、反射神経を極限まで高める……!
音が聞こえた。これは、風の攻撃する前、芭蕉扇を構えて風を圧縮していた時の音。
方向までは分からないが、タイミングは分かった。
「今……!」
右前方からの風の攻撃。姿勢を低くし踏ん張っていたおかげで、軽く後方に押し除けられるだけで済んだが、ダメージがないわけではない。やはりこれでも、何度も受けられない。
攻撃が来た方向を見据えて、前進するが、すぐ様次の攻撃を溜める音が聞こえた。
すぐ前進をやめて先ほどの防御の姿勢を取る。
「(同じ方向から来るとは限らない……!)」
まさにその通り、次の攻撃は先ほどとは全く違う方向から飛んできた。また数メートル押し除けられる。
この状況下において、視覚で敵を捉えられないのであれば先制攻撃は不可能であることは自明だった。であるなら、次の手としては当然カウンターしか残す手はないのだが。なんとか敵の攻撃を耐えることはできても、攻撃を受けていてはその間に敵は移動と次の攻撃の準備を終えてしまう。それではカウンターが成立しない。
それなら、まずはこの攻撃を避ける必要がある。どこから飛んでくるのか、予測する必要がある。風の収束音のおかげで、タイミング自体は掴めるのだが、この閉鎖空間のせいなのか、音の方向を正確に捉えることができない。
ならば、どうすれば……。
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『風の動きの読み方、ですか?』
『はい! 空港では風を操るランボーグとの戦いでしたが、相手の風に翻弄されるばかりで、私、何もできませんでした……。もし同じような敵が来た時になんとかできるように、知っておきたいんです』
空港での風を操るランボーグとの一戦の後、私はツバサくんに風の読み方について相談を持ちかけていた。
『あの時の状況でいうなら、翔子ちゃんも言っていたシャボン玉で風を読む方法の話になりますね』
『シャボン玉で風を読む、ですか? 確かに空港の時はそのようなことを言っていましたが……、結局あれってどういうことなんですか?』
私の質問に対しツバサくんは得意げな笑みを浮かべ、どこからか取り出したホワイトボードで説明をしてくれた。
『風というものは言ってしまえば空気ですから、目には見えません』
『はい、それは分かります。でも、見えないものを見るというのは、矛盾しているように思えるのですが……』
『そうですね。そこで、シャボン玉です。軽く宙を浮かぶシャボン玉は、その軽さと大きさ故に風が吹くと簡単に風に飛ばされます。つまり、風を見るのではなく、風に飛ばされるシャボン玉を見ることで、風の流れを知るんですね』
『はっ! なるほど、そういうことだったんですか。だからあの時プリズムショットで……』
『はい、乱気流の中にプリズムショットを打つことで、乱気流の流れにプリズムショットが流されて、そのプリズムショットが風の流れを教えてくれた、というわけです』
『なるほど……。それなら、私だけじゃ風の流れを読むことはできませんね……。何か、便利な道具とか、身近にあって使えそうなものとか、無いのでしょうか?』
『うーん、そうですね。風を読む道具としては、これでしょうか……』
『これは、あれでしょうか。ましろさんから聞いたことがあります。鯉のぼり、というやつでしょうか?』
『あはは……、似ているけど違います。これは、風速旗というものです』
『風速旗?』
『はい。これはおもちゃみたいなものですが、ちゃんとしたものはもっと大きいです』
ツバサくんが手に持つ風速旗に息を吹きかけた。
『こうやって、風が吹く方向に靡くんです。しかも、旗の形から風の強さも分かるんですよ』
『すごい! これはすごいです! これがあれば、風のランボーグが出て来ても安心ですね!』
『あはは、そうかもしれませんが、これを四六時中持ち歩くのも難しいかも……』
『そうですか……。もっと身近に使えそうなものがあればよいのですが……』
『うーん……。あ! ソラさん、キュアスカイならあれが使えるんじゃないかと思います!』
『あれ?』
『いいですか? あれというのはーー』
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ああそうだ。思い出した。
彼が言っていた、あの話。もしかしたら使えるかもしれない。
自分の姿はギリギリ見えるのだ。やってみる価値はある。
私は左肩に付いているマントの先を左手で持ち、前に掲げた、左腕に沿うようにマントが垂れ下がる。
垂れ下がったマントの先を見つめ、その先の行動にすぐ移れるように神経を集中させた。今こそ、滝の修行の成果を。視覚と聴覚を、限界まで研ぎ澄ます。
ヒラリ、とマントが小さく左前方へと靡いた。
攻撃の前の空気の収束、つまり風は敵の方へ流れている。マントの靡いたその先に、敵はいる……!
そこからの行動は早かった。収束音の後飛んでくるであろう風の攻撃に対し、真横にズレるように回避。すかさず敵の攻撃の軌跡をなぞるよう、攻撃の軸を合わせて全力ダッシュ。
「ヒーローガール!!!」
渾身の力を込める。敵との距離感は分からない。しかし、この軸上に必ずいる。全力の攻撃を、拳を前に、突き進むだけだ……!
「スカイパーーーンチ!!!!!!!!」
芭蕉扇を持つ腕に当たった。腕が砕け、そのまま胴体に突っ込んだ。勢いはそのまま、私の拳は、身体は、ランボーグの巨体を突き破った。
「スミキッタ〜〜」
ランボーグの身体が虹の光を放ち粒子へと変わる。ランボーグのいた場所には般若のお面が落ちていた。
程なくして暗闇が解け、薄暗くはあるが空間に明かりが戻った。よく見ると通路の扉が開いている。あれは出口に続いているのか。
出ることができればよいが……。悩んでいても仕方ない。今は進むしかない。
ああ、ましろさんはどうしているだろう。
はやく、行かなければ。
安心させて、あげないと。
私は全身の痛みに耐えながらも、通路へと足を進めた。
to be continued...