番外短編:寇討の天子 黎國VSパーパルディア皇国 作:御代川辰
鉄砲玉として最前線に送った私掠船団の
だが表情は芳しくなく、額から流れる汗は頬を冷たく濡らしている。理由は現在航行中の西側の海域から見て反対側、つまり進行方向の東側の海域に陣を張る黎國の艦隊を表す駒にある。
(…………あの祭典の場で監査軍がフェン国上層部とレイの内通を阻止できていれば、ここまで不利な状況にはならなかったのだが)
現状パーパルディア皇国海軍が黎國水軍に劣るのは大まかに三つあり、第一に兵站、第二に将の人数、そして第三に艦隊の規模である。まず兵站に関しては語るまでもない。侵略のための外征に次ぐ外征が原因で物資の流通に支障が生じる事が常態化し、物流の停滞を避けるための道路整備や施設建設を24時間体制で継続しているがために、その負担が後方支援の妨げとして重くのし掛かっている。
次に将の人数だがこちらにも分かりやすい弱点が存在する。皇国は勢力拡大を迅速に行うため自国の領域を囲む全方位を攻撃対象としているので、諸将は必然的に分散されてしまうために効果的・効率的な連携が困難で、更に現地の反乱に対処するために長期に渡って滞在する事が当たり前となり、任地から離れられないと言う事態が発生する始末。
三つ目の皇国海軍の弱点である運用する軍艦の総数だが、これは主力となる戦列艦が大多数を占める一千隻にも届く大規模な物で、パーパルディア皇国の艦隊は半世紀近くにわたり海戦で無敗を誇っている。しかしそれはあくまでも第三文明圏の内側での話であり、自国が栄える領域の外に目を向ければ上位列強二国の金属製の軍艦には手も足も出せない水準だ。
しかもニシノミヤコ上陸後に宣戦布告を発表する予定の都合上艦隊の集結が間に合っておらず、今回第一陣として派遣されるのは戦列艦と揚陸艦のみで構成されたたった百隻程度の小勢であり、すでにニシノミヤコ沖に展開している黎國水軍三百隻と比較しても見劣りする。
もちろん標準的列強国民であれば文明圏外国程度恐るに足らずと連呼する場面だが、今最も重要なのは敵国の存在する領域でもなければ自軍の艦隊規模や敵艦の詳細などでもなく、敵軍が運用する兵器の危険性をこちらが把握できていないことである。
(そもそも戦列艦の装甲が高水圧の水魔法に耐えられる確証がない)
実のところパーパルディア皇国海軍が戦列艦の防護装甲に用いる金属鈑の強度では、初速も加速度も低い大砲の砲弾を防ぐ事はできても高熱の火炎魔法から艦内を守りきることは難しい。魔力を通す術式を刻んだものを使うにしても費用対効果が一定ではない上、皇国の鍛造技術では短期間のうちに量産できるような代物でもない。
現に津波に呑まれる事故に遭った砲艦の魔導装甲が魔力で強化された状態だったにも関わらず、叩きつける波の力に耐えられず激しく損傷した状態で大量に発見された事例もあり、津波にすら耐えられないのに津波以上の圧力を込めた水で攻撃を受ければひとたまりもない。
そもそも戦列艦の側面に大量の砲を備えているのは射程内における命中精度の低さを補うためであり、大艦隊や射程外の敵にを面で制圧する事は物理的に不可能なため敵が船を放棄して地上に逃れてしまえば無用の長物となり果てるだろう。
「全滅の覚悟をしておかなければな……」
まだ見ぬ敵への警戒心を微塵も隠さず、アルカオンは魔信水晶を手に取り指示を下す。海図の手前側にに置かれている駒の配置は、ちょうど弓形の包囲陣を組んでいた。
「一つ、伺いたい事があります」
そしてその頃、反対方向から向かってくる
自らも海域の気候海流の再確認のため大量の資料を読み直していた
「洋上での防衛戦で沖から外洋に離れるのは定石ですが、敵の別動隊への対策はしなくてよろしいのですか?」
側近は海図に自分の指を置き、一度目は
また現在
故にこちらの戦術目標である後方地たる
「そのためにこの密集円形陣を選んだのさ」