怪文書置き場   作:ジャーム先輩

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男の子はみんなクロスオーバーが好きだからね




N市×B市
『研修プログラム』


「研修プログラム……ですか?」

 

 

UGN琵琶野(びわの)支部。

その支部長室で、鳩原あさひは言われた言葉をオウム返しに呟いた。

 

「はぁい、研修プログラムですよ、あさひクン。君には1週間、とある支部に行ってもらいます」

 

テーブル越しにもう一つのソファに座るのは、この琵琶野市支部の支部長である十六夜眞楠。彼はあさひの反応を楽しむように観察をしていて、言葉の続きを喋る様子が無い。

何が何だかわからず困り果てたあさひは、隣に座る天本玲泉に助けを求めた。

 

「もう、支部長。楽しいのはわかりますけど、ちゃんと説明をしてあげてください。鳩原さんが困ってるじゃありませんか」

「おおっと、これは失礼。それじゃああさひクンのために、しっかり説明をしましょうかね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

意地悪な大人に対して素直にお礼を言うあさひに、二人は軽く苦笑した。

 

「それじゃあまずは研修プログラムってのは何なのかって話ですが、こいつの正式名称は『複数支部間におけるエージェント交換研修制度』ってモンです。ま要するに、エージェントを短期間別の支部に行かせて勉強させようって制度ですね」

「うーんと、交換留学みたいなものですか?」

「おぉ良い例えですよあさひクン。その理解で大丈夫です。普段働いてる支部とは別の場所で、訓練やら調査やら戦闘やらを学んでもらうわけですね」

「なるほど…………」

「まあ色々面倒な条件やら手続きやらはあるんですが、そいつはあさひクンには関係ないのでどうでもいいとして。具体的な話をしましょうか」

 

あさひが頷く。ひとまずここまでの理解に問題が無いことを確認して、眞楠は話を続けた。

 

「期間は来週の月曜日から1週間。あさひクンにはその支部で研修を行ってもらいます。何をするかってのは現地で聞いてください。それとこの期間内は指揮権があっちの支部長さんにあるので、指示には従ってくださいね」

「ええっと……ボク一人ですか?」

「おやぁ? 不安ですかあさひクン?」

「あっ! い、いえ、大丈夫です。頑張ります!」

 

むん、と気合を入れるあさひの隣で「ふふふ」と涼やかな笑い声が聞こえた。

 

「すみません、少し意地悪が過ぎましたね。私も支部長も、鳩原さんを何も知らない支部へ一人で行かせるようなことはしませんよ。今回は私が鳩原さんと一緒にこの研修プログラムへ参加することになっています」

「そうだったんですね。よかったあ。玲泉さんが来てくれるなら安心です」

「あら。ふふ、嬉しいことを言ってくれますね。一緒に頑張りましょう、鳩原さん」

「はい!」

 

二人の様子を微笑まし気に見守る眞楠。そんな彼に、あさひが思い出したように尋ねた。

 

「そういえば十六夜さん、ボク達が研修に行く町ってどこなんですか?」

「おおっと、そういえばまだ言ってませんでしたねぇ。実はそこの支部の現支部長と少し伝手がありまして、特別に今回の申し出を受けてもらったんですよ。支部の名前は─────」

 

 

 

 

「─────UGN名取支部。この国でトップクラスにヤバい場所です」

 

 

 

▼▼▼

 

 

ガタンゴトンと車体が揺れる。

眞楠との話を終えた五日後。あさひと玲泉は名取市へ向かう列車に乗っていた。

 

「あ、玲泉さん! 海が見えてきましたよ!」

「ふふ、綺麗ですね。海が見えたということはもう少しで名取市に入ります。降りる準備をしておきましょうか、鳩原さん」

「はい!」

 

海に目を奪われながら荷物をまとめるあさひ。

そんな彼をいつもの笑顔で見守りながら、玲泉は眞楠から今回の研修プログラムについて伝えられた時のことを思い出していた。

 

 

『…………というわけで、玲泉さんにはあさひクンに同行してもらいたいんですよ』

『それはもちろん。むしろ鳩原さんを一人で行かせるようなら私からお願いしようかと思っていました。ですが支部長、私と鳩原さんがいない間、この支部で戦えるのは支部長だけになってしまいます。もしも厄介な事件が発生したら…………』

『そこは問題ありません。交換研修制度ですからね、お二人がいない間、あちらさんからエージェントを二人送ってもらえることになってます』

『それならよかった』

『えぇ、本当に。あちらさんにすれば実の無いお願いでしょうに、聞いてもらえて助かりましたよ』

『? ところで支部長、研修先はどこの支部なのでしょう』

『玲泉さんならご存知ですかね。名取支部ですよ』

『──────────。支部長。その支部がどんな場所なのか、わかっていらっしゃるんですよね』

『大事なエージェントを知らん場所に送り出すような阿呆じゃありませんよ、俺は』

『……………………理由をお聞きしても?』

『玲泉さんの懸念は理解してます。どうしてかはわかりませんが、起こる事件の量も質もあの街は飛び抜けてる。あさひクンを行かせるのはそりゃ心配でしょう』

『でしたら』

『ですが、あのレベルの支部でなけりゃあさひクンの成長に繋がらないってのも事実です』

『……………………』

『『超血統(フルブラッド)』の適合者どうこう以前に、あさひクンは大きな才能を秘めてる。いずれは玲泉さんレベルのエージェントに成るだろうって位にね。ただ、それはあくまでその才能が開いたときの話です』

『…………私や支部長との訓練を増やすという手もあると思いますが』

『わかりきった議論はやめましょうや玲泉さん。訓練だけじゃストップがかかる、必要なのは刺激と実戦です。で、この街はあさひクンにはぬる過ぎる』

『…………』

『あさひクンにこの支部にいてほしくないって話じゃあないんですよ。本人がこの街が好きだってんなら残ればいい。こちらとしても助かりますしね。ただ、持ってる力を磨かないってのは、そりゃ駄目です。この世界はそんなに優しくない。玲泉さんだって、いつまでもこの支部にいられるわけじゃないでしょう?』

『そう、ですね』

『だからこそ今回の研修プログラムってわけです。この1週間であさひクンに何かを掴み取ってもらう。もちろん危険な街だってことは重々承知してますよ。それを含めて玲泉さんに同行をお願いしてるわけです。納得してもらえましたかね』

『…………ええ。失礼しました、支部長』

『いーえいえ、心配になって当然のことですからね。それじゃあよろしくお願いしますよ玲泉さん』

 

 

「……さん? 玲泉さん?」

 

知らない間に考え事に没頭してしまっていたらしい。自分を呼ぶ声で玲泉は意識を取り戻した。

 

「はい。どうしましたか、鳩原さん?」

「あ、いえ、なんだかぼーっとしてたので」

「あら、これはすみません。景色に見入ってしまっていたようです」

「わかります。綺麗な海ですよね!」

 

玲泉が眞楠との会話を思い出している間に荷物の積み下ろしは終えたらしい。あさひの足元にキャリーバッグが置かれていた。

 

「ええっと、駅に着いたら支部の人が迎えに来てくれるんでしたっけ。名取支部って危険なところなんですよね? 怖い人じゃなかったらいいな……」

「大丈夫ですよ。『この《魔笛(まてき)》に対して無礼だぞ!』と言えば、きっと恐れ慄くことでしょう」

「ボクそんなに有名なんですか!?」

 

 

▼▼▼

 

 

そんなことを話している間にも列車は進む。程なくして市街地に入り、二人を乗せた列車はついに名取駅へと到着した。

 

『名取~、名取~。お降りの際は足元にご注意ください』

「行きましょうか、鳩原さん」

「はい!」

 

現在時刻は午前11時。混み合う時間帯からはズレていたようで、列車を降りる際に困ることは無かった。

 

階段を下り改札口を出る。街の中心部にある駅というだけあって、ピークでなくとも人通りはそれなりに多い。

迎えに来てくれるはずの人間をどうやって探すかと考えたところで、二人の方へ近寄ってくる者がいた。

 

「『こんにちは。琵琶野市からいらっしゃった方々ですか?』」

 

あさひや玲泉と同年代に見える少年だった。

首元に白いマフラーを巻き、優し気な笑顔を浮かべている。彼は穏やかな声で二人にそう尋ねてきた。

 

「『ええ、一週間ほど研修で』。……貴方は名取の方でしょうか」

「はい。初めまして、神凪優希といいます。今回お二人の案内役を任されました。よろしくお願いしますね」

「これはどうも。天本と申します。こちらこそよろしくお願いします」

「あっ! ボクは鳩原あさひです! コードネームは《魔笛》です! よろしくお願いします!」

「天本さんと鳩原さんですね、長旅お疲れさまでした。ひとまず支部へご案内します。車を用意しているのでついてきてもらえますか? 詳しい話は車内でしましょう」

 

神凪という少年が先導する形で三人は駅の中を歩きだす。向かう先は駐車場らしい。

前を歩く神凪を観察していた玲泉に、隣からあさひが小さな声で話しかけてきた。

 

「びっくりしました。なんだか凄く優しそうな人ですね……」

「あら、わかりませんよ。あれで本当は怖い人かもしれません。がおー!と」

「ひっ」

「? どうかしましたか?」

「いえいえ、初めて訪れる街なので少し珍しかったようです」

「ああ、なるほど。そうですね、本当なら色んなところをご案内したいんですけど残念なことにメビウスさ……支部長がお二人を待っているので……。ああ、でも夜でもよければいくつか見て回れるかもしれません。鳩原さんは水族館とか好きですか?」

「はっ、はい! 好きです!」

「あはは、それはよかった。後でこの街のパンフレットを用意しておきますね。行きたいところが見つかったら僕に教えてください」

「わあ、ありがとうございます!」

 

そんなことを話している間に三人は駐車場に辿り着いた。

いくつもの車が駐まっている中で神凪がとある車へ向かう。後部座席が広いタイプのワゴン車だ。

運転席に座っていた職員らしき男性がドアを開けてくれ、あさひと玲泉は後部座席に座った。助手席に座った神凪が「お願いします」と伝え、車が発進する。

 

 

「では改めて。コードネーム《皇帝(エンペラー)》、神凪優希です。

 

 

 

 ─────ようこそ名取市へ」

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