怪文書置き場   作:ジャーム先輩

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七日目①

研修七日目。最終日。日が昇り始めた早朝。

名取支部長メビウスから緊急の召集を受け、あさひと天本は支部長室に急行した。

 

「天本、鳩原、両名参上しました」

「ご苦労様。悪いわね、帰り支度をしていたところに」

 

支部長室の中には部屋の主であるメビウスとその助手クライン。そしてその両脇には二人が見知った人物、神凪とアネモネが立っていた。

 

「昨日話した通り、あなた達には研修の予定を中断して帰ってもらうつもりだったのだけど…………状況が変わったわ」

「どういうことでしょうか」

「例のオーヴァード達の拠点が見つかったのよ」

「「!」」

 

メビウスの一言に二人が目を見開く。支部の長は重々しい口調で言葉を続けた。

 

「それ以外にも連中の情報はある程度掴んだわ。ただ、そのせいで少し面倒なことになってね」

「面倒なこと、ですか?」

「ええ。そうね、まずは現時点で判明している情報を伝えましょうか」

 

クライン、とメビウスが声をかける。「はい」と応じて小さな助手が一歩踏み出した。

 

「まず、彼らの正体は《ギルド》の本部構成員です」

「ギルド?」

「オーヴァードで構成された国際的な犯罪者連合です。本部の戦闘員であれば確かにあの力は納得できますが……しかし、どうして」

「動機は不明ですが目的は判明しました。彼らは名取で同時多発テロを巻き起こそうとしています」

「て、テロ!?」

 

思わず叫んだあさひにクラインは頷いた。

 

「はい。市庁舎、市街中心部、住宅街、産業道路の4ヶ所でオーヴァードによる大規模破壊が計画されています。時刻は本日の正午」

「今日って……しかも正午!? もうすぐじゃないですか!」

「ええ、当然防がなければならないわ。けれど一つ問題が発生した」

 

メビウスが説明を引き継ぐ。彼女はこの七日間で初めて見る真剣な顔をしていた。

 

「拠点が見つかったと言ったわね? 場所は再開発地区の南端。そして連中は、そこに数十人の人質を捕まえているわ」

「「…………!」」

「テロが失敗したときの保険といったところかしらね。いずれにせよ放置はできないわ。4ヶ所の同時テロを止めたとしても確保した人質を使って何かしらしてくるでしょう。テロを阻止するのと並行して、拠点にいる人質を救出する必要がある」

 

そこでメビウスが一度言葉を切った。

鋭い瞳があさひと天本を見つめる。

 

「《無敵艦隊(アルマダ)》、《魔笛(まてき)》。あなたたちに任務を命じるわ。ギルドに囚われた人質達を救出」

「やります!」

 

メビウスが言い終わる前にあさひの力強い宣言が部屋に響いた。

 

「……即答とはね。一応言うけどあなた達には拒否権があるわよ? 研修中は指揮権がこっちにあるとはいえ、これは明らかに研修の範囲外だもの」

「ありがとうございます、支部長さん。でも、大丈夫です。巻き込まれて助けを待ってる人がいるんですよね。だったら、ボクはその人たちを守りたいんです! …………いいですか、玲泉さん?」

 

視線を向けられた天本は微笑んだ。

 

「……ええ、もちろん。私達はそのための組織なのですから」

 

二人がこくりと頷きあう。それを見てメビウスが口角を上げた。

 

「いいでしょう。それじゃあ任務を下すわ。作戦開始予定時刻は五時間後の午前11時。─────頼んだわよ、あなた達」

 

 

▼▼▼

 

 

午前10時50分。名取市郊外再開発地区。

放棄された廃ビルの中で、あさひ、天本、神凪、アネモネの4人は窓からとある建物を観察していた。

 

「あれが、支部長さんの言ってた敵の拠点ですか」

 

彼らの視線の先にあるのは一棟の廃工場だ。元は車の鈑金を行っていたらしく、広いうえに部屋の数も多い。情報班から渡された地図を見ながらあさひは眉を寄せていた。

建物の周りに見張りはいない。事情を知らなければ内部に人間がいるなど気づかないだろう。

 

観察を続けながら天本が尋ねた。

 

「神凪さん、人質の居場所は掴めましたか?」

「ええ。全員一ヶ所に集められてるみたいです。この部屋ですね」

 

そう言って神凪が指したのは塗装エリア。廃工場の奥に位置する広い部屋だ。入り口からは遠く、その部屋へ辿り着くにはいくつもの部屋を抜ける必要がある。

 

「拠点に残ってるオーヴァード共は?」

「レネゲイドの反応がありますからいるのは確実です。ただ位置と人数が掴めません。エンジェルハィロゥがいるみたいです」

「チッ」

「……では、事前の取り決め通りに動きましょう。私と《冴える黒蛇》が正面入り口から侵入。拠点にいるオーヴァード達の注意を引いている間に《魔笛》と《皇帝》が人質のいる部屋へ直接入り込み、彼らを救出する。構いませんか?」

「はい!」

「ええ」

「…………」

「もうすぐ作戦開始時刻ですね。テロ計画地点で動く方達とずれるわけにはいきません、持ち場につきましょう」

 

天本の号令で4人が二組に分かれ、それぞれ別の場所へと向かう。

ちらりと顔を見れば、あさひと神凪は緊張している様子。アネモネはこんな時だというのに面倒くさそうな態度を隠さない。

 

分かれる直前、あさひが天本を呼び止めた。

 

「玲泉さん」

「? はい、どうかしましたか」

「あの……ええと……、─────ボク、頑張りますから!」

「…………。ええ、くれぐれも気を付けて」

 

はい! と答えてあさひは神凪と走り去っていく。

後ろに立つアネモネが笑いながら声をかけてきた。

 

「なンだよ、ママは教育方針変えたのかァ? 行かないで行かないでッて駄々こねるかと思ッてたンだがな」

「口論をしている場合ではないことくらいわかるでしょう。私達も行きますよ、《冴える黒蛇》」

「ハッ。いざって時に足引っ張るンじゃねェぞ」

 

 

そうして午前11時。

再開発地区での戦闘が幕を開ける。

 

 

▼▼▼

 

 

秒針が円の頂点を刺す。

その瞬間、《無敵艦隊》と《冴える黒蛇》は廃工場の正門めがけて飛び出した。

 

両手に銃を握った彼らは迸るレネゲイドを隠すこともなく全速力で疾走する。立ち塞がる障害が生半可なものなら食い破るという気迫を込めて。

 

正門を超える。襲撃は無い。速度は落とさずそのまま正面入口へ。

扉を蹴破る。入り組んだ視界に映る敵の影は無い。当てが外れたが構わず先へ突き進む。

一つ目の部屋。組み立て用の広いエリアへ踏み込み─────

 

「ッ左です!」

 

咄嗟に引き戻した二人の体の眼前を引き絞られた光線が通過した。過ぎ去ったことを確認し即座に部屋の中へ飛び込む。

 

そこにいたのは、仮面を着けた…………二日前に遭遇したオーヴァードだった。

その隣に同じく仮面を着けた人物がもう一人。背格好からしてこちらも同一人物だ。

彼女らの後ろには次の部屋へ続く扉がある。二人のオーヴァードはそれを守るように立っていた。

 

「(二人、ですか)……伏兵は?」

「少なくともこの部屋にはいねェな」

 

アネモネが断じる。天本の領域知覚にも引っかからない以上、それは正しいのだろう。

数は同数。二日前と同じ2対2。目の前のオーヴァード達は手練れだが、こちらが不利というわけでもない。

 

戦況を認識した直後、仮面のオーヴァードが握る銃からいくつもの光線が放たれた。

 

「チッ」

 

即座にアネモネが撃墜し、狙いを分散させるべく天本から距離を取る。光使いはアネモネをターゲットに定めたのか、もう一人のオーヴァードから離れて次々とレーザーを放つ。

 

「ンだよ、撃ち合いがお望みかァ!?」

 

部屋の右側では二人のエンジェルハィロゥによる射撃戦が始まった。

一方で天本と対峙するオーヴァードは動きを見せない。白くごつごつとした剣を握り静かにこちらを見据えるだけだ。

 

「…………」

 

右手の銃を撃った。解き放たれた弾丸は、しかし二日前と同じように展開された防壁に止められる。

構わずそのまま攻撃を続ける。拳銃の次はライフル、マシンガン、ガトリング、果てには弾薬を調整した大砲まであらゆる銃器を作り出しては使い潰す。

そして目の前のオーヴァードは、そのことごとくを防ぎきって見せた。

 

ぎり、と。天本は心中で唇を嚙む。

やはりこのオーヴァードは歪なほど防御に特化している。あからさまに見せた隙にも手を出さないのは攻撃しないのではなくできないのだ。

このまま続けても負けることはない。しかし勝つこともできない。

 

《冴える黒蛇》と相手を代えるか?

そう考えて、けれど却下。

離れた場所で放たれる攻撃の威力は今の天本とそう変わらない。戦っているオーヴァードとの相性は悪くないように見える。ならば代えるべきではない。

 

思考する間にも手は止まらず弾丸を撃ち込み続けているが例外なく止められる。その現状と、ふと過った考えが天本を焦らせた。

 

このオーヴァード達の目的は名取市の大規模破壊だ。人質はあくまで保険に過ぎない。

だからこそ拠点にそう多くの戦力は残さないだろうという前提の下でこの作戦は立案された。

残った僅かな戦力を全て引き寄せるべく、戦闘能力に優れた天本とアネモネを正面からぶつけ、あさひと神凪を裏からの救助に回した。

そして今、天本とアネモネは拠点に残っていたオーヴァードと戦っている。増援が来ない以上、この場に残している相手の戦力はこの二人だけ。

 

─────だがもしも、増援が「いない」のではなく「来ない」だけだとしたら。

攻め込んできた連中は二人だけで止められると判断し人質の傍に残っていたとしたら。

 

救助に回した二人は戦力としてこちらより劣る。その場に人質がいる以上、より一層厳しいこととなるだろう。

 

どうかこの廃工場にいる敵が目の前の二人だけであってくれと、そう願う天本の祈りも虚しく。

 

 

施設の奥で、炎のようなレネゲイドが噴き上がった。

 

 

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