怪文書置き場   作:ジャーム先輩

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水〇敬ランドとか言ってきた人の正気を疑いました


劇場版ダブルクロス④

 

 

「なの」の保護が決まってから三日。

その間名取の裏方は慌ただしい時間を過ごしていた。

 

『夢の卵』の継承者が現れたことの報告、日本支部との協議、なのの扱いに関する嘆願。

医療班ではなのの治療と精密検査。非オーヴァードでありながら多くの傷を付けられた少女の治療法や検査の結果について医務室で議論が交わされる日々。

 

しかしその当人である少女は、取り調べを受けた最初の一日以降やることのない暇な時間を過ごしていた。

 

「なんだか申し訳ないの」

「何がだい?」

「てっきりなのはいろんなところに連れまわされて、いろんなことをやらなきゃいけないと思ってたの。でも一度お話したらあとはここでじっとしてるだけで…………」

「いいのかな、って?」

「の」

 

なのに与えられた部屋で、小さな体を抱きしめながら豊国氷華が問いかける。

今までの反動か、この少女はそういったスキンシップを欲しがっていた。最初は緊張していたその行為も今ではリラックスして受け入れられている。

 

「いいか悪いかで言えば、勿論いいさ。一度君から事情を聞きだしたんだからそう何度も繰り返す必要は無いし、そういった交渉事はあちらの仕事だ。それに気に病む必要もない。君が話したあのおじさんは、ああ見えて世話焼きだからね」

「……そうなの?」

「ああ。何か求められない限り、君はここでゆっくり過ごしていればいい。なに、今までの精算だと思えばいいさ」

 

そんなことを言いながら豊国はなのの頬を弄んでいた(ここ数日、彼女はその感触を大いに気に入っていた)。

二人の様子を見ながら、対面に座るこばとが持っていたココアを置いた。

 

「とはいえ、やることがないのも暇ですよね……。九十九さん、なにか良い考えはないですか?」

「私? …………ごめんなさい、特には…………」

「トランプも遊び尽くした感があるからね」

「なのはトランプ好きなの」

「…………今、彼女を外に出すわけにはいかないから…………やっぱり、なにか他の、遊べるものとか」

「「『お困りかな、お嬢さん』」」

「その声は─────!」

 

部屋の入口から声がかけられる。

そこにいたのは両腕を組み、壁に背を預け、謎の風格を出しながらサングラスをかけた二人の少年だった。

 

「……いつからそこに……」

「『フフフ…………「なんだか申し訳ないの」あたりからさ』」

「めちゃくちゃ最初からじゃないか、出待ちしてたのかい」

「フフフ…………普通に気付かれなくてビックリしてたよ」

「ご、ごめんなさい……?」

「『まあそんなことはいいとして』」

 

サングラス二人が歩み寄る。

そして能天気な声でこう告げた。

 

 

「「『行こうぜ、遊園地!』」」

 

 

▼▼▼

 

 

「ハッ」

「『ピー』」

「ミズニー!!!」

 

広大な空間に少年少女の声が響き渡る。

彼女たちは今、名取から離れた遊園地へと訪れていた。

 

「……………………」

はしゃぐ彼らを前に、九十九はつい数時間前のやり取りを思い返す。

 

 

 

『待って。『夢の卵』を宿した彼女を外に出すのはよくない。せめてもっと安全が確保された後で……』

『『それは違うよ九十九ちゃん。この子を連れ出すなら今じゃなきゃダメだ』』

『ど、どうしてですか?』

『『今のゴタゴタが終わればなのちゃんは十中八九日本支部で保護されることになるだろう。日本で一番安全な場所だし。でもそこでなのちゃんはどう扱われるかな? 『夢の卵』は爆弾だ。不自由なく過ごすことはできても、一生外に出られないかもしれないね』』

『……………………』

『『だから今なんだよ。まだここにいる内に、前例を作っておかなくちゃいけねーんだ』』

 

 

 

危険だと思いはしたが、最終的に九十九は提案を呑み込んだ。

上の許可は球磨川をはじめとする五人のオーヴァードが護衛に付くことで取れたらしい。

正直それでも不安は拭えなかったが。

 

「の! 氷華お姉ちゃんもこばとお姉ちゃんも一緒にやるの!」

「えっ」

「わ、私もかい?」

「いくの! ハッピー」

「「み、ミズニー!」」

「の!」

 

お揃いのサングラスをかけてはしゃぐ姿を見ていると、なんだか力が抜けてくるのだった。

 

なにも彼女らは道楽でサングラスをかけているのではない。

このサングラスは特別製(byボンボルド)で、レネゲイドを隠す効果がある。

なのは非オーヴァードだが、両目の『夢の卵』がレネゲイドを放出している。それを隠すためにわざわざ全員でサングラスをかけているのだ。

 

そんなものを作れるならコンタクトなり眼鏡なりにすればいいのにと思わずにはいられなかった。ちなみに凛の発案らしい。ボンボルドも素直に要望を聞かなくてもいいのにと思った。

 

「華宵お姉ちゃんも!」

「え」

「ハッピー!」

「…………えっと…………」

 

九十九華宵16歳。

チルドレンである彼女には遊園地に来た経験はなく、当然こんな頭の沸いたフレーズを叫んだこともない。

だが。だがしかし。

「だめなの……?」と目を潤ませる少女を見てしまっては!

 

「は、ハッピーミズニー!!」

 

青空にヤケクソめいた叫び声が響き渡った。

 

 

▼▼▼

 

 

『大人も子どももいつまでだって楽しめる夢の世界!

君もミズニーランドで夢のようなひとときを過ごそう!(公式紹介文引用)』

 

園内に入り広大な空間と数多くのアトラクションに目を輝かせるなのを見て、護衛のオーヴァード達は微笑ましく思った。

 

「(……演技の準備はしておこう。あんな遊具で驚けるわけがないし)」

「(たくさんの人がぐるぐる回ってるけど、何が楽しいんだろう……?)」

「(知識としては入れていたが、やはりわざわざ体験するほどではないかな)」

「(昔は好きだったけど、オーヴァードになったらもう楽しめないよなー……)」

「(『困ったもんだぜ。こんな子供だましで騙されてやらなくちゃならないなんて』)」

 

 

結論から言うと彼女たちはめちゃくちゃ満喫した。

 

 

 

フリーフォール

「並ぶときに見ていたがこの程度の高さからの降下は日常的にやっているんだよ。今更怖がる理由も必要もない。この安全装置がギチギチに客の体を固定しているしね。これ本当に必要かな? まあいい、それにしてもわざわざここまでゆっくり上がらなくてもいいんじゃないかい? パッと上がってパッと落とすだけじゃないか。それでいいじゃないか。どうしてこんな緩やかな速度で風を感じさせるのかな。それに無音なのもよくない、せめてBGMくらい付けるべきだ。いや私は平気だが一般論としてね? ていうかこれ万が一安全装置が外れたら危ないんじゃないか。どう見たって死ぬ高さだろう。何が楽しくて一般人はこんな危険物に」

「氷華お姉ちゃん、怖いの?」

「怖い? はははまさか。私はバロールだよ? 重力操作、つまり高高度からの落下だってなんどもおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!?」

 

 

ゴーカート

「ダメなのこばとお姉ちゃん危ないの! 明らかにこのスピードで曲がりきれるカーブじゃないの!」

「だっ、大丈夫きっとやれるはずだから! ここさえ越えれば豊国先輩たちの車が見えてくるから! この加速を保ってたら追い越せると思うから!!」

「絶対そんな本気でやる勝負じゃないの! スピードゆるめ……なんか変な音がしてきたの!?」

「いっけえええええええええ!!!」

「のおおおおおぉぉーーーー!!!」

 

 

シューティング

「……この銃はおかしい。ブレが大きいし、発射までのラグも長すぎる。実戦でこんなものを使ったら一瞬で死んでしまうと思う」

「『見てごらんなのちゃん、開始前に「私は普段から銃を使っているから、きっと勝負にならない」なんて言ってたお姉さんの姿を。この分だと僕たちの圧勝になりそうだぜ』」

「の。敗北を知りたいの」

「………………………………」

「センパイさすがに光の銃は駄目だって!!」

 

 

お化け屋敷

「……………………」

「凛お兄ちゃん、どうしたの? さっきから静かなの」

「し、白銀さんも、こういうところ苦手なんですか?」

「んえっ? いやまさか、こんなのせいぜい小学生くら」

「『わあ!! ぶっ』」

「ビックリした……やめてよセンパイ、手が出ちゃうでしょ」

「で、出てましたよ」

「顔がへこんでるの」

 

 

3600度ジェットコースター

「『ねえ凛くん。こういうのって隣の女の子がきゃーきゃー言うのを楽しむものだと思うんだ』」

「ジャンケンに負けたんだからしょうがないじゃん。今回は俺たち二人が人柱だよ」

「『3600度ジェットコースター……子供だましもいいところだぜ。こんなに大きい安全装置で二人一緒に固定してるのにさ』」

「それがなかったらブッ飛ばされるって。……お、もうすぐ頂上かな」

「『………………………………凛くん』」

「なにーセンパイ? そろそろ落ちるから舌噛んじゃう……」

「『取れちゃった』」

「は? ちょっ──────────ぉぉぉぉ!!???」

 

 

 

多くのアトラクションを回り、このままのペースでやっていると体力が保たないことを感じた彼女たちは一度休息をとることにした。

 

園内の片隅に設置されたフードコート。

球磨川と凛が食べ物を、豊国とこばとが飲み物を、そしてその間に九十九となのが場所取りをしていた。

 

周りに人のいないスペースに座り、九十九はやっと一息ついた。

 

「遊園地ってすごいの。とっても楽しいの」

「うん……そうだね。正直、ちょっと疲れたけど」

 

日頃から動き回っていると言われればそうなのだが、どうにも普段とは違う体力をゴリゴリと削られる感覚があった。

目の前の8歳児は疲れた様子も見せず楽しそうにしている。これが若さか、などと年寄りじみた感慨を覚えた。

 

「九十九お姉ちゃんは、楽しくなかった……?」

 

ため息を吐く九十九を見て、なのが不安そうに尋ねてきた。

 

「いや…………そんなことはないよ。楽しかった」

「本当?」

「こういう施設に来たのは初めてだったけど…………うん、楽しかった。周りの楽しそうな様子を見るのも、一緒になって騒ぐのも……あまり経験が無かったから、戸惑いはしたけど……楽しかったと思う」

「! それならよかったの!」

 

九十九は言葉に詰まりながら、それでもどうにか素直な気持ちを伝えようとした。

こういうプライベートな会話は得意ではないし、できることならこばとや凛あたりに任せたかったが、それでもちゃんと答えたかった。

護衛が目的だったこの時間を楽しいと感じたのは、きっと本当のことだから。

 

上手く伝わったかは不安だったが、なのは答えを聞くと嬉しそうに笑ってくれた。

それを眩しく感じながら、食事を調達しに行った4人の方を見る。列がはけるまでにはまだ時間がかかりそうだった。

 

「…………あなたは」

「?」

「あなたは、楽しめてる?」

「もちろんなの!」

「そう」

 

答える笑顔に嘘はない。少女はきっとこの初めての体験を記憶に刻んでくれることだろう。

考えて、九十九は一歩踏み込むことにした。

 

卓上に置かれた小さな手にそっと触れる。

なのは嬉しそうに握り返してきた。

 

「どうしたの、九十九お姉ちゃん」

「あなたの過去は深く心に刻みついていて……その影響を断ち切るには、きっと長い時間か、大きなきっかけが必要になると思う。境遇は違うけれど、私も“遺産継承者”で、この“遺産”に囚われてるから…………少しだけわかるんだ」

「? お姉ちゃん?」

 

あどけない顔が戸惑いを浮かべる。

やはり急だっただろうか。話の誘導が思いつかず、直截に切り出すしかなかった。だがあいにく話術など持ち合わせていない。

だから九十九は、核心を突く言葉を紡いだ。

 

「気づいてる? あなたは私たちに触れられると嬉しそうにするけど、()()()()()()()()()()()()()()()()ことはこの3日間で一度もなかった」

「──────────!」

 

なのが息を呑む。

それに構わないよう努めて、九十九は言葉を続ける。

 

「責めてるわけじゃないの。あなたの過去を考えればその反応は至極当然のものだと思うし、それを問題にしたいわけでもない。けど言うまでもなく、それは正常な反応じゃない。本当なら、あなたは自分から親しい人に触れていいの。それを自制する必要はないの」

「……………………」

「もちろん今すぐそうしろって言いたいわけじゃなくて…………あなたが誰かに触れられることを受け入れられるようになったこと自体、大きな一歩だと思うし……ああ、何て言えばいいのかな、つまり」

「聞いてるの。聞かせてほしいの」

「つまり、私が言いたいのは…………あなたがいつか、自分から誰かの手を握られるようになることを祈ってる…………っていう、ことなんだけど……」

 

尻すぼみに声が途切れた。

ああもう、自分はいつもこうだ。一度任務を離れればこんなにも情けない。

焦って言葉を重ねるばかりで全く筋道が通っていない。こんな体たらくで何を伝えられたのだろうか。恥ずかしくて顔を上げることさえできなかった。

 

「…………ごめんなさい。何を言ってるかわからないよね」

「九十九お姉ちゃん、こっちを見てほしいの」

 

繋いだままだった手に力が込められた。

促され、ゆっくりと対面に座るなのを見る

 

「ありがとうなの。そして、ごめんなさい」

「…………何が」

「心配してくれてありがとうなの。祈ってくれてありがとうなの。なのは本当にとっても嬉しくて、ありがとうなの」

「…………」

「そして、ごめんなさい。なのは、きっと……まだ誰かに触るのが怖いままなの。お姉ちゃんたちが触っても大丈夫って教えてくれて、それでも、どうしても手がすくんじゃうの。だからまだ、なのからお姉ちゃんたちに触るのは、難しいの。でも、いつか…………」

「…………うん」

「いつか、なのからお姉ちゃんたちの手を握って、ありがとうって言いたいの」

 

九十九の手を握り返す小さな手は暖かかった。

 

「こばとお姉ちゃんはお世話焼きなの。なのの近くに誰もいなかったら絶対に抱き着いてきてくれるし、自分の分のデザートをいっつも分けてくれるの。お姉ちゃんたちの中で一番小さいけど、一番お姉ちゃんって感じがするの。

 氷華お姉ちゃんは子供っぽいの。難しい喋り方をするけど実は怖がりで、嫌いな食べ物もあるの。なののほっぺたをつまむのをやめてって言ってもやめてくれない意地悪なの。でも氷華お姉ちゃんはなのを触るのが好きだけど、本当はなのも好きなの。

 凛お兄ちゃんはいっつも明るいの。肩車してくれたり、そのままびゅんびゅん走ってくれたり、何をお願いしても笑って「いいぞ!」って言ってくれるの。こばとお姉ちゃんと逆で、元気なお兄ちゃんって感じなの。

 禊お兄ちゃんは変な人なの。トランプで負けそうになったら変なこと言って変なことするし、なのが何か聞いたら嘘しか言わないの。本当っぽいのがタチ悪いの! でもなんだかんだ言ってなのには甘い気がするの。かっこつけなの」

 

そうして、虹色の瞳が九十九を見つめた。

 

「九十九お姉ちゃんは優しいの。メリットなんて無いはずなのに追われてるなのを助けてくれたの。あの部屋の中でなのを抱きしめてくれたの。おしゃべりじゃないけど、いろんなことを考えてくれてるの。こうやって、がんばってなのにお話してくれるの」

 

だから、と少女ははにかんだ。

 

「いつか絶対、お姉ちゃんたちの手を握って、ありがとうって言わせてもらうの!」

「……………………そっか」

 

繋いだ手を握る。

 

祈らずにはいられなかった。

いつか彼女が、過去の呪縛から解き放たれることを。

 

 

 

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