怪文書置き場   作:ジャーム先輩

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劇場版ダブルクロス⑧ Side球磨川

 

 

《女王》が『夢の卵』により更なる力を解放したのと時を同じくして、四体のジャームもまた異質なレネゲイドを纏った。

 

それは埒外な膂力の上昇を。

それは新たな能力の開花を

それは異なる対象の拡張を。

それは定めた上限の撤廃を。

 

掴みかけていた勝利の天秤が反則的な速さで傾いていく。

 

そして、最初にその瞬間が訪れたのは─────

 

 

─────一番に敵を引き受け、最も長い時間を戦っていた球磨川禊だった。

 

 

▼▼▼

 

 

敵との距離を無かったことにし、背後から拳を叩きつける。

分厚い鎧に命中すると同時、突き刺していた螺子が共鳴し更なる衝撃を生み出した。

 

 

球磨川禊の《脚本作り(ブックメーカー)》。突き刺した相手への様々な阻害効果を誇る技だが、球磨川はこの戦いで主に攻撃時の衝撃増幅として使用していた。

全ての効果を乗せていては侵食率がもたない。そしてそれを使わなければダメージを通せない程に相手が硬い。

 

敵の攻撃を捌き、《脚本作り》を混ぜた攻撃で傷を付ける。そうして球磨川は《城兵》と渡り合い、勝負を有利に運んできた。

だがここに来て状況が変わる。

 

「『マジかよ』」

 

振るった拳が───それまでは効果を上げていた攻撃が───鎧に何の傷も付けられない。

飛び込んできた獲物を潰すべく大楯が振り上げられ、間一髪で躱した球磨川は大きく距離を取った。

 

そうして対峙する敵を改めて観察する。

やはり間違えようもなく、少し前からその巨体は目に見える程の異質なレネゲイドを纏っていた。

 

「『……出る漫画間違えてないかい? ここはサイヤ人が出てくる世界じゃ』」

 

立っていた地面が粉砕された。

飛び退いた球磨川の体へ続けざまに大楯が振るわれる。

 

「『(うーん、これまずいなあ)』」

 

横凪ぎの盾から身を伏せる。

流れるように振り下ろし。左に飛んで辛くも回避。

浮いた体へシールドバッシュ。間に挟んだ腕が砕けた。

 

「『(明らかにパワーが跳ねあがってる。装甲の硬化よりもこっちの方が厄介だ。あんなにブンブン振り回せる物じゃないだろうに)』」

 

吹き飛んだ体が壁を貫通した。瓦礫の中で大の字に埋もれる。

粉砕された両腕を無かったことにしながらぼんやり考え事。

 

あのレネゲイドを纏った瞬間から《城兵》の膂力は全くの別物になっていた。

力が上がれば速度も上がる。上がった速度は間隙を減らす。

今までは余裕をもって避けられていた攻撃だが、このままいけばいずれ捕まるのは時間の問題だ。

 

異常なほどの膂力。攻撃が通らない硬さ。

いっそ笑いたくなる戦力差だ。いや既に笑っているが。

 

「『(………………………………逃げちまうか?)』」

 

できないことはないだろう。

膂力に比例して《城兵》のスピードも上がっているが球磨川とてバロール、空間移動はお手の物だ。このままやり合うよりは多少希望があるように思えた。

 

一緒に突入した四人は、まあ、なるようになるだろう。

囚われたなのは、まあ、しかたないのではないか。

どうせあと何十分かで発射される『天の火』で事態は解決するのだろうし。

そんなことをつらつらと考えて。

 

…………それはなんか、格好良くないなと思った。

 

「『やきが回ったもんだぜ』」

 

へらへら笑って立ち上がる。握る螺子にありったけのレネゲイドを込めた。

 

これからするのは全身全霊を振り絞ったただの突貫だ。

先程弾かれたのと全く同じ攻撃。違うのはそこに込められたレネゲイドの質と量。

 

《城兵》に勝つには、勝って仲間を助けに向かうには、その攻撃を通すしかないのだから。

 

「…………思いの外、粘るものだな」

「『少年だからね。友情努力勝利はお約束だろ?』」

「そうか。だが、無意味だ。俺は無敵の城塞。その程度では、傷一つ付かん」

「『じゃあその鎧を壊せたら、君は晴れて嘘つき仲間だ』」

 

《始まりの過負荷》が螺子を構えた。

《城兵》がその手に大楯を構えた。

 

ほんの一瞬、レネゲイドが凪いだ。

荒れ果てた空間に静寂が訪れて。

 

 

─────球磨川禊が踏み込んだ。

 

 

《脚本作り》。

ありったけの阻害能力、そして出来得る限りの衝撃増幅を込めた、この戦いのフィニッシュホールド。

 

ほんの僅かでも傷が付けばいい。攻撃が通るのなら、何百回でもそれを撃ち込んでみせる。

そうしたら、後輩たちを助けに行けるから。

 

《城兵》は動かず、ただその大楯を前に向けた。

両者が激突する。

 

楯と螺子。城壁と矛。互いに矛盾する存在。

ぶつかった瞬間、接触面を起点に膨大なレネゲイドが吹き荒れた。

 

 

「は、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

ありったけの力を込める。ありったけのレネゲイドを込めて突き通す。

括弧付けることさえかなぐり捨てて、阻む城塞を突き崩さんと吠え猛る。

 

そうして、嵐のやんだ先には─────

 

 

「嘘つきには、できなかったな」

 

 

─────傷一つ無い《城兵》が立っていた。

 

「『…………………………………………ちぇっ』」

 

壁に吹き飛ぶ体。

呼吸が途切れ、視界が明滅する。

 

 

目を開けた瞬間、球磨川の前には致命的な一撃が迫っていた。

 

 

▼▼▼

 

 

「博士、本当によかったのですか?」

 

名取支部、支部長室。

沈黙したまま通信端末を見つめるメビウスに小さな助手が声を上げた。

 

「何がかしら」

「あの五人だけで行かせたことです。彼女達の力を疑うわけではありませんが、敵には『夢の卵』があります。もしそれに手を出していたらと考えると…………やはり、今からでも追加戦力を出した方がいいのではないでしょうか」

「それが無理なことはあなたもよくわかっているでしょう」

 

遠慮がちな具申が冷酷に退けられる。

助手は小さな肩を縮めた。

 

「本部からの命令に逆らうことは許されない、名目的にも実利的にもね。『護衛任務を遂行するべく追いかけたところ該当地区に到達した。通信端末の破損により本部からの命令が伝達されていない』なんて口実が成り立つのはあの五人だけ。命令が下された以上、名取支部から戦力を出すことはできないわ」

 

向かい合う助手は気付かなかった。

主の唇が緩やかな弧を描いたことに。

 

「そう─────」

 

 

「名取支部からは、ね」

 

 

▼▼▼

 

 

どうやっても避けることの叶わない位置とタイミングだった。

引き延ばされた時間の中でそれを感じ取った球磨川禊は、目を伏せて、ほんの僅かに唇を歪めた。

 

 

「『また勝てなかっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パ ァ ン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟していた痛みは来なかった。

目を開ければ、なぜか球磨川の背後に《城兵》がいる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 

「つまらんことをするな。それは正しい形で言う台詞ではない」

 

球磨川禊は知っている。

二者の入れ替えという特異な能力を。

そして、上着を脱ぎ捨て入口に立つその人物を。

 

 

「そうだろう─────我が教え子よ」

 

 

「『………………東堂…………先生……………』」

 

球磨川の横を風が舞った。

重量級が疾風の速さで乱入者の排除に跳ぶ。

 

「『先生っ!』」

「潰、れろ」

「久方ぶりの再開なんだ」

 

パァン

 

「挨拶くらいはさせてくれ」

 

襲撃者と獲物が入れ替わる。

空を薙いだ《城兵》に背後から拳が突き刺さった。

 

「ぐっ……?」

「む、硬いな」

 

《城兵》が背後を薙ぐ寸前に拍手の音。

距離を無視してその男は球磨川の隣に立っていた。

 

「さて、久方ぶりだな球磨川よ。息災そうでなによりだ」

「『先生こそ。それより、どうしてここに……?』」

「愚問だな。教え子が危機に陥っていると聞けば駆けつけるのが教師の役目だ。そして─────教え子の見せ場に華を持たせてやるのもな」

 

久しぶりに会った恩師は……東堂葵は満足そうに球磨川を見ていた。

球磨川はなんとなく目を逸らした。

 

「随分な大物と戦っているようだ。注意点は?」

「『とんでもないパワーとそこから来るスピード。馬鹿みたいな硬さの楯と鎧。あとこれはリクエストなんですけど、できるだけ早く片付けたいです』」

「承知した。さあ我が教え子よ、腕は鈍っていないだろうな」

「『見てくださいよこのぷにぷにの腕を。毎日枕を持ち上げてるんです』」

「余裕があるなら問題なし。では─────」

 

二人は互いを見ず、しかし全く同じ構えを取った。

 

「「『調理をはじめようか!』」」

 

《城兵》へ向かって駆け出す。

フェイントも何もない、真っ向からの突撃。

 

「舐め、るな」

 

当然、相手もただ待ち構えているわけではない。

突っ込んできた二人を薙ぎ払うべく重々しい大楯が振るわれる。

 

パァン

 

「む、ぅ……!?」

 

薙ぎ払ったはずの獲物がいない。

何も無かったはずの左から拳が突き刺さる。

 

鎧で受けて反撃。再び相手を見失う。

死角からの衝撃。振った先に相手がいない。

楯を構えて突撃。避けられぬ速度が空振りする。

 

鎧を揺らす攻撃を受けながら《城兵》は唇を噛む。

高速移動か? だとしても今の自分が捉えられない速度があるとは考えづらい。

それにこの乱入者が現れてからの攻防には違和感があった。単純な直線移動ではない、これはおそらくは…………。

 

「入れ替え、か……!」

「勘が良いな」

 

背後からの声。同時にそこから強力なレネゲイドを感じた。

咄嗟に背後からの攻撃へ楯を構えて。

 

「『ばあ』」

「っ─────」

「─────黒閃!!」

 

 

衝突の瞬間、レネゲイドが黒く光る。

部屋の中を反響する轟音が響き渡った。

 

「…………これでも砕けんか。尋常ではないな」

「当然、だ。俺は無敵の城壁。何人たりとも、破れはしない」

 

衝撃は強く、だが命中した鎧にはひび一つ入っていなかった。

 

東堂が加わり膂力と速度の猛攻を翻弄できるようになっても、未だその前には純粋な硬さの壁がたたずんでいる。

 

「貴様の能力は厄介だが、永遠に続けられるわけではない。その瞬間が訪れた時が、貴様らの終焉だ」

「『あーだめだめそれ没だよ。僕含めて五人いるんだからさあ、長くやってたら読者がダレちゃうって。巻きでいこう巻きで』」

「…………」

 

この期に及んでもまだそんな戯言を吐くのか、と《城兵》は呆れた。

あのへらへらした顔を歪めてやらなければ気が済まない。

 

「巻くもなにも、貴様の拳も、その男の攻撃も、俺には通じん。そんな貴様らに、何ができる」

「『だったら宣言しよう─────あと三手で決着を付ける』」

「っ……?」

「『それじゃあ頑張ってくださいね、東堂先生!』」

「……結局、他人任せ、か」

 

上裸の男は「ふっ」と笑っていたがもはや虚勢にしか感じない。

球磨川の拳も、それより威力のあった東堂の拳も、《城兵》の鎧を砕くことはできなかった。そうである以上この二人の手に勝つ手段は無いのだから。

 

 

一手。

《城兵》が球磨川に飛び掛かる。

 

パァン

 

「そう、だろうな」

「『おっと』」

 

薙いだ楯が背後に回った球磨川を捉えた。

左腕と螺子を挟み直撃は避けたようだが、その軽い体では受けきれない。

 

「まずは、お前だ」

 

二手。

体勢を崩した球磨川の首を刈り取るべく楯を振るう。

その寸前に響く拍手の音。

 

「(()()()())」

 

来ると思っていた。

 

入れ替えの厄介なところはタイミングと位置。

逆に言えば、それを予期できるなら脅威は減る。

 

仲間の窮地にこの能力を使わないはずがない。

ならば残るは入れ替える対象。攻撃を捌くために入れ替えるなら《城兵》と球磨川、もしくは《城兵》と東堂。

この二択は絞れないが─────《城兵》が飛び込んだ現在の位置関係ならば、どう入れ替わっても背後を狙えば球磨川に当たる。

 

甲高い音が鳴った瞬間、《城兵》は己の背後へ楯を薙いだ。

 

「─────な」

「音が鳴っても入れ替わるとは限らない。単純だけど引っかかるよな」

 

そこにいたのは東堂葵。

球磨川の首を薙ぎ払うべく振った楯は、東堂にとって掴み取りやすい高さで向かってくる。

 

「没収させてもらう、ぞ!」

 

左腕に楯が食い込み、ぼこりと筋肉が隆起する。

腕を絡ませ、支点を弄り、「ふんっ!!!」大楯が《城兵》の手を離れた。

 

三手。

《城兵》の背後で噴き上がる、爆発的なレネゲイド。

 

「(奴では、砕けない! だが……っ!)」

 

砕く手段は無いはずだ。

だがここにきて先程の戯言が頭を過ぎる。

『三手で決着を付ける』。まさか、本当に?

 

思考する時間は無かった。

 

「お、おおおおお……!!!」

 

背後を振り向き、頭と心臓をガードして。

 

「『信じてくれたの? 嬉しいなあ』」

 

やって来たのはほんの僅かな衝撃だった。

腕の隙間から見えたのは、奇妙な形の、螺子……?

 

「……っ!!!」

 

脚本作り(ブックメーカー)》。

《城兵》の身体能力が一時的に封印される。

 

 

鈍りきった視界の中で、彼は己を挟んで向かい合う師弟の姿を見た。

 

 

体格も能力も異なるが、その構えは鏡合わせのように同じもの。

腰を落とし、腕を引き、構える拳にレネゲイドが凝縮する。

 

《脚本作り》によって封印されているのは《城兵》の身体能力であって、その鎧の堅牢さには何の影響もない。衝撃増幅効果は乗せられたが、それでも彼の城塞は損なわれることなくそこにある。

それをわかってなお、《城兵》は確かな悪寒を感じ取った。

 

向かい合う二人が一瞬の呼吸を終えた。

澄み渡る意識がその拳にのみレネゲイドを宿す。

 

球磨川の一撃も、東堂の拳も、その城塞に傷を付けることは叶わなかった。

ならばそれが─────正面からぶつかり合ったら?

 

 

 

 

無敵の城塞

 

 

 

 

VS

 

 

 

 

「「──────────黒閃!!!」」

 

 

 

 

 

重々しい、何かが崩れ落ちる音。

 

「『やれやれ─────』」

 

一度きり鳴り響いたそれを背に、彼はボロボロの服を整えた。

 

 

「『─────また勝てなかったぜ』」

 

 

《始まりの過負荷》・《変態》VS《城兵》、決着。

 

 

 





東堂の救援適性があり過ぎるんだよね
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