怪文書置き場   作:ジャーム先輩

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独自設定の塊だよ!
シナリオに持ち出す気は無いよ!


アンチェイン
①『月の無い夜』


深夜であろうとUGNの明かりが消えることは無い。

ジャームの出現・暴走が時間を選ばないのは当たり前のことで、どのような時間帯であれ対応できるように職員が詰めている。それはここ名取支部においても変わらなかった。

 

ただし、それはあくまで『機器の作動を見逃さないように担当を付けておく』といった程度のもので、支部の中で夜回りをさせるほど厳格ではない。

日付が回った今のような時間ならば、廊下を歩く足音が聞こえないのも自然なことで。

 

「「……………………」」

 

そんな中、曲がり角で出くわした二人の少年は揃って「やっぱりか」という顔をした。

 

「お前もか」

「ってことはアネモネさんもですか」

「ハー……察しちゃいたが、面倒くせェことになりそうだ」

 

二人が向かう先は同じ。

つい数分前に秘匿回線で呼び出してきた、彼らが支部長の部屋である。

 

「来たわね」

「……チッ」

 

ノックを省いてアネモネがドアを開ける。

ゆったりとした椅子に腰掛けるメビウスはいつも通りの悠然とした表情で、しかしその様子を見たアネモネは小さく舌を打った。

 

「どうやらマジの大事みてェだな」

「任務ですよね。もしかして、あの人から……?」

「気狂いのラットさんも勘が良くなったわね。詳しくは本人に話してもらいましょうか。…………時間よ」

 

メビウスが時計を見てそう告げる。

長針が頂点を刺した瞬間、部屋の一角が歪んだ。

文字通りの次元の穴。距離を無視した空間移動。

そのゲートから一人の男性が現れる。

 

「夜分遅くに申し訳ありません。お久しぶりです、皆さん」

 

仕立ての良いスーツを纏い、柔和な笑顔に芯を構える男。

UGN日本支部長、霧谷雄吾。

日本のトップに立つ人物を前にして、一人は会釈し、一人は鼻を鳴らし、一人は目を伏せるにとどめた。

 

「やっぱりアンタか。で? 今度はどういう面倒事だ? わざわざウチに来なくたッて他にいくらでも伝手はあンだろ」

「お二人だけを頼っているわけではないのですが……どうしても、貴方たちの力を借りざるを得ない事態が起こりました」

 

アネモネと神凪はかつて一度だけ、極秘裏に呼び出された先で日本支部長から直接任務を下されたことがある。

 

それは特異な“愚者の黄金(デミクリスタル)”を宿した少年の護送。

目の前の霧谷が纏う空気はその時と同等以上に張り詰めている。

─────また貧乏くじかよ、とアネモネは溜息を吐いた。

 

「貴方がたに頼みたいのは、現在FHセルにて開発されているとある装置の破壊です」

「とある装置、ですか? それはどんな……」

 

簡潔な説明に続きを促す。

霧谷は頷いて懐から数枚の紙を取り出した。

 

三人がそれに目を向ける。

紙面の先頭には大きな珠のような物体の写真が載せられ、下部にはその名称であろう文字が記されていた。

 

「《ハーモナイザー》?」

「『調律するもの』という意味のコードネームです。その役割は大きく二つ。周囲の隠れたレネゲイド反応を感知すること、そして隔たれた空間を繋ぐことです」

「…………?」

 

説明を聞いていた神凪が首を傾げる。

それが何を意味するのかわからなかった。二人が目を通している資料を見ようとして気付く。

 

「───────────────」

「……アネモネさん?」

 

気怠げだった雰囲気が一変していた。

資料を凝視する眼は戦場のような鋭さを帯びている。

 

「ラットさん。少し前に、UGNのチルドレン養成施設に起こった変化を知っている?」

「いえ、すみません……」

「貴方も知っての通り、数年前に“反逆の聖人(イスカリオテ)”アルフレッド・J・コードウェルがFHに付いたわ。それに伴って数えきれないくらいの問題が起きたけど、その中でも最も大きなものの一つは『UGNの機密情報の多くがFHに流れた』ことでしょうね」

 

UGN創設者の裏切り。

それは多くの面で計り知れない影響を及ぼしたが、機密管理の観点からすればメビウスの語ったことが最も大きなものだった。

 

当時行われていた研究の内容。能力開発のノウハウ。優秀な能力を持つ者の情報。UGN内部の構造。そして─────

 

「─────チルドレン養成施設の場所」

「!!」

 

ある意味で、最も伏せられなければならない機密。

 

「裏切りが発覚した後、そこの支部長さんが主導して最優先で養成施設の移転と隠蔽が行われたわ。当然ね。少ない労力でUGNの将来の戦力を大部分削ぎ落とせる……あちらからすればこれほど美味しいターゲットは無いでしょうから」

「計画にあたり、我々は二つのステップを取りました。一つは“反逆の聖人”の失踪当時にUGNが管理できていなかった場所を選ぶこと。もう一つは、バロールの能力によって養成施設を隔離空間へ移すことです」

 

情報が流れていない場所へ移し、更にバロールの能力で異なる空間へ隔離する。

懸念もあったがチルドレンの安全を考慮すれば必要な措置だった、と霧谷は結んだ。

 

「そんなことがあったんですね……」

 

知らなかった事情に息を吐いて、神凪の表情が強張った。

 

「……待ってください。『周囲の隠れたレネゲイド反応を感知して』、『隔たれた空間を繋ぐ』って─────」

「ええ」

 

霧谷雄吾は頷いて、途切れた言葉を肯定した。

 

 

「《ハーモナイザー》は、チルドレン養成施設を襲撃するための装置です」

 

 

「──────────」

 

施設には、当然多くの子供たちがいる。

オーヴァードであり能力制御を学んでいると言っても、彼らにジャームに抗えるだけの力は無い。

「才能のある」チルドレンだろうと、施設にいる段階ではFHのエージェント一人と戦えるかどうかが関の山だ。

施設にいる教官たちも、数で攻められればどうしようもない。そして磨り潰された後に待っている未来は言葉では言い表せない悪夢だ。

 

「─────『装置の破壊』つッたな。この粗大ゴミをブッ壊してどうにかなる問題なのか」

 

顔を上げないまま、冷えた声が響いた。

 

「この情報を見る限り、もう少しで完成するとこまで来てンだろ。だったら設計図なり開発に関わった研究員なり全員始末しねェと同じことが起きるだけなンじゃねェのか」

「それについては問題ありません。そもそもがなぜ実現するのかも不明な開発品です。“組合”に連絡を取り調べたところ、《ハーモナイザー》の核には空間にまつわる“遺産”が使用されていました。現物を破壊すれば同じ物が作られる可能性は限りなく低いでしょう」

「低いだァ? テメェまさか『これなら大丈夫だろう』にガキどもの命賭ける気か?」

「アネモネ」

 

上がりかけた熱が鎮まる。

それを自覚してチルドレンは舌打ちを零した。

 

「失礼したわ」

「いえ、真っ当な意見です。私としても装置の破壊のみで止めるつもりはありません。ですがそれには時間がかかる。まずは当座の危機を凌ぐために完成しかけている《ハーモナイザー》を破壊するというのが今回の目的です。……わかっていただけますね?」

「……チッ。わかってる。悪かッた」

 

霧谷がそれに頷き、場を流す。

 

「この事態に伴い、UGN日本支部長として任務を下します」

 

資料から顔を上げた三人と目を合わせ、上に立つ者の威厳を纏った声で発した。

 

「《()える黒蛇(くろへび)》、《皇帝(エンペラー)》。直ちに該当セルへ潜入し、探査装置《ハーモナイザー》を破壊せよ」

「「了解」」

 

二つの声が重なった。

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

その男たちはすぐそこに迫った未来のことで笑い合っていた。

 

日常の守り手とやらを夢見る子供を蹂躙した時、どんな顔を浮かべるのか。

大切な教え子たちを目の前で辱められた時、どんな叫び声を上げるのか。

 

五人のジャーム達が甘美な想像を語る中で、部屋の扉がキイと開いた。

 

「あ? だ

 

消滅する。

 

迸った極光が、固まっていた三人の上半身を音一つ立てず消し飛ばした。

 

─────侵入者だ!

 

そう叫ぼうとして、二人の男は口を開けないことに気付いた。

それに動揺した一瞬の間に一人の頭が吹き飛ぶ。

たった一秒で一人になった男に残されたのは逃走だけで、そしてそれすら許されてはいなかった。

足が動かないことを理解した瞬間、男の口に銃口が捻じ込まれた。

 

「《ハーモナイザー》はどこにある」

 

冷えた声。

一切の抵抗を禁じられた男は必死で首を縦に振った。

銃口が引き抜かれ、喉が自由を取り戻す。

 

 

叫び声を上げる寸前に光が男を撃ち抜いた。

 

「チッ。……オイ、何か持ってたか」

「残念ながら武器と通信端末くらいです。せめて地図でもあればよかったんですけど」

 

蹂躙の主─────アネモネが、遺体を探っていた仲間に問いかける。

動かぬそれらの手を組ませ、神凪は首を振った。

 

「仕方ねェ。霧谷が言ッてた構造と変わッてねェ前提で動くぞ。周りを潰しながら奥に進む」

「音は消してましたけど、鋭い人は気付いたかもしれません。気を付けて行きましょう」

 

部屋に入って三十秒と経たず、二人のオーヴァードは意見を合わせて先へ進む。

 

二人がいるのは既にFHのセル内部。

霧谷雄吾に任務を下されてから十分後のことだった。

 

 

 

『今回の任務にあたり、留意してもらわなければならないことがあります』

 

セル内部の人員や構造など判明している限りの情報を伝えた後、霧谷はそう口火を切った。

 

『この作戦に貴方がた以外の人員を投入することはできません。最も避けなくてはならない事態は《ハーモナイザー》が持ち去られ、行方も分からなくなることです。作戦開始前の機密保持と空間固定の必要性から、該当セルに送り込めるのは二人まででした。救援は無いと思ってください』

 

そんな言葉を続ける間も表情は変わらない。

 

『FHが《ハーモナイザー》の情報が漏れたことに気付くのは今から約6時間後の午前8時です。お二人を送り込んだ直後に電波遮断を行うため、それまでは敵の増援が来ることはないでしょう。とはいえセルには間違いなく手強い警護役がいるはずです、油断はなさらずに』

 

最後に、と彼はほんの少しだけ息を吸った。

 

『この任務の目的……《ハーモナイザー》の破壊は、絶対に成し遂げられなければなりません。何を置いても、何があろうと、必ずこの装置を破壊してください』

 

 

 

「日本支部長サマは残酷だよなァ。『死んでも任務を達成しろ』だとよ」

 

セルの中を進みつつ、出発前のやり取りをアネモネが皮肉気に笑った。

同じく隣で周囲を探っていた神凪がそれを聞いて苦笑する。

 

「いや、それを言われても頷いたのは誰ですか。命令だったのは確かですけど、もし拒否権があっても受け入れてたでしょ」

「あ? そンときゃお前だけ行かせてたな」

「僕に拒否権は……?」

 

そんな言葉を交わしながらも足取りは変わらない。能力で姿を消し、周囲を探りながらセルの奥へ進んでいる。

 

《ハーモナイザー》がどこにあるかは判明していない。

だがまあ、こういう重要な物は深部で保管するのが定石だ。渡された建物の構造図からある程度の当たりは付けている。

 

何者が待ち受けているかもわからず、対策されているとはいえ装置を持ち去られる可能性もある以上、暴れまわって全員を誘い出すのは得策でない。

そのため二人は隠密に装置へ辿り着き、そのまま破壊するという方針で動いていた。

 

─────そう上手くはいかないだろうけど

 

文字通りの本拠地だ。いくら音を消しレネゲイドを絞ろうと、見つかるのは時間の問題だろう。

二人が『それ』に反応できたのは、その考えを念頭に置いていたからだ。

 

()()()()()

 

二人の頭上を薙いだのは、剣のように集束したプラズマだった。

 

「チッ」

 

舌打った襲撃者の隙を潰すように熱波が撃ち込まれ、それを前後に避ける。

 

無論、それで終わるほど素直な二人ではない。

突出して来たブラックドッグを銃弾と鉄棘が挟み、しかし展開された複数の障壁がその大部分を弾き落とした。

 

「「……………………」」

 

その隙に退がったブラックドッグは追わず、焼き切られた壁の向こうを見る。

そこには5人のジャームがいた。

 

─────強いな。それに巧い。綺麗に連携が取れてる

─────ただ撃つだけじゃ重なった障壁は抜けねェか

 

初撃の後の援護といい、同時に張られた障壁といい、連携が練られているうえに個々のレベルも高い。

全力を出すならいくらでも手はあるが、先が見えない以上、侵食率は抑えたかった。

 

向こうの土俵で上回ろうとすれば時間がかかるだろう。そして敵がそれを狙っていることは明らかだ。

 

障壁が3人、白兵が1人、遊撃が1人。

いかにも防戦に向けた構えを見て、アネモネは退屈そうに鼻を鳴らした。

 

─────崩すか

 

合図はしない。まあ合わせるだろうと押し付けた。

踏み出した先は障壁役の3人。

 

「まずはテメェらだ!!」

 

叫んで踏み込む。

かろうじて目で追える程の高速で接近してくる男を見て彼らは僅かに動揺した。それでも連携が乱れなかったのはその実力故だろう。

 

発砲された光弾を防ぐ位置に三枚の障壁が出現し─────光がぐにゃりと折れ曲がった。

 

「が、はっ……」

 

不自然に曲がったそれが貫いたのは、電気を束ねるブラックドッグだった。

胸に開いた大穴を見つめ、剣と共にその体が崩れ落ちる。

 

「な……」

 

障壁役の思考が止まった一瞬で周囲の全てが牙をむいた。

鋼糸となったコンクリートに縛り上げられた3人へ無慈悲な銃口が向けられる。

 

「(───障壁が張れん!?)」

 

乱されたレネゲイドに彼らが気付いた時にはもう終わっていた。

 

「さて、とォ」

 

真っ赤に染まった眼。

四つの死体の前に立つ悪魔に見止められて一人残ったサラマンダーは硬直し、その瞬間に鋼糸がサラマンダーを拘束する。

身動き一つ取らせぬ糸は同時にレネゲイドも阻害していて、瞬間的なエフェクトの使用が不可能になったことをそのサラマンダーは理解した。

 

磔になった男に今度こそ足音が近づいた。

 

「テメェなら知ッてそうだな。《ハーモナイザー》はどこにある」

「………………………………」

「オイオイだんまりかよ。ンじゃ答えやすくしてやる。このセルにあるのは間違いねェな?」

「………………………………」

「奥か? それともどッかの小部屋か?」

「………………………………」

「チッ。せめてこれくらいは答えろ、最近このセルの構造は変えたか?」

「………………………………」

「はー…………。オイ神凪、もういいぞ」

 

目を瞑り口を閉じ続ける男の様子にアネモネは溜息を吐いて振り向いた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──────────!!??」

「はいビンゴ」

「ぁ…………」

 

鋼糸が引き絞られ、その口を永遠に閉ざした。

 

男は最後まで気付かなかっただろう。最後のカマかけはあくまで確認であり、アネモネに尋ねられた時点で結果は決まっていたということに。

 

「うし、ご苦労」

「なんてフォローし甲斐のない…………ていうか作戦があるならせめて合図くらいしてくださいよ。どうしたんですか最初の攻撃を曲げられなかったら」

「上手くいッたじゃねーか」

「上手くやったんですよ!」

「よかったな」

「よかったな!?」

 

小声で叫ぶという器用な真似をする神凪をよそに体の調子を確かめる。

侵食率は抑えている。攻撃も受けずにすんだ。問題なし。

対面の相方も実のところ行動阻害のエフェクトしか使っていない。侵食は同じく軽微だ。

 

「聞いてたな? 《ハーモナイザー》は奥だ。行くぞ」

「了解です」

 

纏う空気が切り替わる。

保管場所は判明した。もはやあちこちを探して回る必要もない。

能力による隠密も解除して、《冴える黒蛇》と《皇帝》は一直線に駆け出した。

 

 

疾走する。

 

 

壁を分解して前へ。足場に穴を開けて下へ。

モルフェウスとオルクスが特権を振るい、無法なまでのショートカットを行っていく。

 

動線が乱れるように設計されていようが、文字通り一直線に動く二人には関係ない。

歪められた広さを移動速度で飛び越え、装置のある部屋へ反則的な速さで近づいていた。

 

作戦開始前に見せられた地図は頭に叩き込んでいる。このペースならば数分とかからないだろう。

殺風景な内装が後ろに流れていく。敵地の中を踏破していく。

目的の部屋が徐々に近づき、その間も疾走する彼らを阻むものは無かった。

 

「……アネモネさん」

「わかッてる」

 

無さすぎた。

 

全速で駆けているとはいえ立ち塞がる敵がいない。

重要装備を保管する拠点にそういった仕掛けが無いはずはないのに、このセルにいるだろう構成員が現れる気配もなかった。

 

先程の戦闘の内容は把握されていると思っていいだろう。

侵入者がいることも、目的が《ハーモナイザー》であることもわかっているはずだ。なのにどうして妨害する様子が無いのか。

 

《ハーモナイザー》を持って逃げ出した?

恐らく違う。

霧谷の指示によって周辺の空間が固定されている今、《ディメンジョンゲート》は使えない。万が一それでもゲートを開けるような能力者がいたとしてもその気配には気付くはずだ。

物理的な逃げ道も全て潰されている。逃走したというのは考えづらい。

 

「…………本当に、止めに来る気配もありませんね」

「アイツらで全員なわけはねェし、ホームで怖気づくほどお行儀よくもねェわな。なのに寄って来るヤツらはいねェ。…………止めてるヤツがいるな」

「ここのリーダーですか」

「それは知らねェが、少なくともさっきの戦闘で俺らの力を理解できるヤツだ。『連中以下をいくら送り込もうが意味は無い』ッて判断したンだろ」

 

あの5人は統率が取れていた。

個々の練度も高く、普通のセルに彼らを明確に上回る戦力はそういないだろう。おそらくはこのセルにおいても。

 

「………………………………」

 

アネモネの推測を聞いて神凪は考え込んだ。

 

指示役が妨害に意味はないと判断したとして。

何の障害もなく《ハーモナイザー》の下まで辿り着けるのならそれでいい。そのまま装置を破壊して終わりだ。

だが、もしもこの先立ち塞がる者が現れたのなら。それはつまり…………

 

 

─────視界が切り替わった。

 

 

「「─────ッ!」」

 

隣を走っていた仲間が姿を消していた。

 

足を止め、周囲を見回す。

アネモネの周りには果ての見えない広大な空間が。

神凪の周りには闘技場のような狭い部屋が展開されていた。

 

「(……バロールの空間転移か。セルの中に作った別空間に飛ばされたッてとこだな)」

「(合流は……難しいな。空間が閉じてる。能力者をどうにかしないと出られないタイプだ)」

 

動揺は最小限に、状況把握へ意識を向ける。

 

バロールの能力によって強制的に転移させられた。

研究所の外……それこそ国外にでも飛ばされていたらマズいが、外の空間が固定されている今それはない。単純にセルの中に作られた別空間に引きずり込まれた形だ。相方もおそらくは同じ状態だろう。

 

敵の狙いは足止め───では、ない。

二人が分断されたこの状況には明白な意思があったから。

 

「お初にお目にかかりますー」

広大な空間に金髪の男が現れた。

 

「……えっと……こんばんは……?」

狭い闘技場に黒髪の女が佇んでいた。

 

『もしも立ち塞がる者が現れたのなら』。

それはつまり─────

 

 

「“マスターレイス 06(ツェータ)六条(ろくじょう)水無月(みなづき)。強盗犯には消えてもらおか」

「“マスターレイス 11(ラムダ)藤咲(ふじさき)依令奈(えれな)。……じゃあ、殺すね……?」

 

 

─────始末できると確信した相手だ。

 

 

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