怪文書置き場   作:ジャーム先輩

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④『Endin──』

 

「っと」

「おー」

 

隔離されていた空間が割れそこから放り出された時、向かい合う形で同行者がいた。

 

「ンだよ、随分ボコボコにされてンじゃねーか」

「鏡見てから言ってください、スプラッタ映画に出れそうな格好してますよ。……大丈夫ですか?」

「見りゃわかンだろ。リザレクト何度か切らされた程度だッつーの」

「それはまた珍しい……」

 

お互い傷ついてはいたが、負傷の程度で言えばアネモネの方が上だった。

とはいえ、戦闘に従事するオーヴァードにとっては、負傷など死んでいないならば誤差と言えてしまうのだが。

 

「で、お前がやり合ってたヤツは?」

「捕縛する寸前に逃げられました。本人の戦闘不能がトリガーになる感じのエフェクトで……」

「ハァ? おいおい《皇帝(エンペラー)》サマともあろうお方が敵を逃がしてンじゃねェよ」

「……そっちはどうなんですか」

「ん、同じ感じだな」

「人のこと言えないじゃないですか!」

 

その言葉には「敵地で叫ぶな」とだけ返して、二人は施設の奥へと歩みを進めた。

 

「こっちにいたのは“マスターレイス11(ラムダ)”だったんですけど、アネモネさんの方には誰が?」

「六番目だ。金髪ロン毛のお喋り野郎。相性だのなんだのうるせェヤツだッた」

「あー、やっぱり苦手なタイプをぶつけられてた感じですか」

「ブラム=ストーカーとバロールのクロスだな。従者で盾を作ッて、威力と頻度は大したことねェが避けらンねェ攻撃をしてくるヤツだ」

「なるほど、確かに相当相性が悪いですね……。こっちの方は」

「いや別にいい。知ッてるし」

「なんで?」

「言ッたろ、お喋り野郎だッたンだよ。アイツは今頃ボコボコにされてるだろォなあッ! て高笑いしてたぜ」

「それアネモネさんが笑ってません?」

 

警戒はしていたが、敵の襲撃は無くあっさりと目的地まで辿り着く。

 

部屋の中心には台座があり、その上に半径2m程の球体が乗せられていた。

資料に会った写真と変わらない。あれが《ハーモナイザー》だ。

 

首尾よく目的の装置を発見できたところで念のためそれぞれの能力を用い部屋を探ったが、何者かが潜んでいる気配も無かった。

 

「拍子抜けだな」

「“マスターレイス”を2人置く時点でかなりの警備ですからね。朝になったら追加の戦力が来てたらしいですし、それよりも早く手を出せたUGNの情報勝ちじゃないですか」

「ま、それなりに手こずらされはしたか。ンじゃさッさとブッ壊すぞ」

 

こくりと頷き装置の周囲を支配しようとして、

「─────?」

神凪は違和感を感じた。

 

「…………あァ?」

見れば、隣で銃を握ったアネモネも怪訝そうな顔をしている。

 

これはいったい何だろう。どこかで覚えのある感覚。

かつて一度だけ身を任せた、そう…………。

 

()()()()()()()()()()ような─────

 

 

「「──────────」」

 

《冴える黒蛇》と《皇帝》が同時に顔を見上げ。

 

直後、迎撃の構えを取った二人の体が吹き飛んだ。

 

 

 

『裏社会最強』と目されるオーヴァードがいる。

 

一人は、《狩猟者(プレデター)伊庭(いば)宗一(そういち)

超一流の戦闘能力を有した職業暗殺者であり、1000を下らない惨劇を引き起こした21世紀最凶のジャームである。

 

たった一人で一つの勢力に匹敵する彼はしかし、《冴える黒蛇》と《皇帝》、そして《リヴァイアサン》の三名によってUGN日本支部にて討伐された。

 

ならば《狩猟者》亡き今、最強の個人はいないのか。

 

否。

 

裏社会にはもう一人、『最強』と目される者がいる。

 

 

 

降り注ぐ瓦礫の中、一人の男が立っていた。

数十kmの距離を跳び、天井を割って乱入したのは禍々しい気迫を放つ老人。

 

()()()()()()()()()()()ジャームを仕留め。

()()()()()()()()部隊を下し。

()()()()()()()()()()()()()()唯一の魔人。

 

 

《カーネイジ》織戸(おりと)静馬(しずま)

 

 

月の無い夜に、伝説が降り立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

─────いつからか、鎖が見えていた

 

 

 

▼▼▼

 

 

当該セルの保管室は大きく破壊されていた。

 

まず、大穴の開いた天井。まるで隕石でも落ちてきたかのように、空を覆うべき屋根は砕け吹き抜けとなっている。

そして、左右の壁に走る亀裂。質量のある物体が高速で叩きつけられたことで放射状のヒビが入っている。

 

「ふむ」

 

その惨状を引き起こした老人は、獰猛に笑んだ。

 

 

「─────良い反応だ」

 

 

銃弾と鉄棘。

中央に立つその男をレネゲイドの渦が襲う。

 

放たれた攻撃は共に一片の緩みなく。威力より速射に力を割いたといえど、それは《冴える黒蛇》と《皇帝》が殺す気で撃った技だった。

 

二つの殺意が炸裂し、破砕音が響き渡る。

戦い慣れたオーヴァードでもまず見ることのない暴威。

 

「UGNに芽吹いたか。待っていた甲斐がある」

 

しかしそこには変わらず老人が立っていた。

 

「…………アネモネさん。あれ……」

「あァ、俺でも知ッてる。《カーネイジ》───『遭ったら逃げろ』のバケモンだ」

 

《カーネイジ》織戸静馬。

甚大な被害を齎した、あるいは強大すぎる力を有したごく一部のオーヴァードを、UGNは『触れてはならない』存在として指定することがある。

 

それらを纏めたレッドリスト、その一枚目に名を連ねる特級の怪物。

それこそが二人の前に立つ老人の正体だった。

 

「……………………」

中央の老人に意識を向けたまま、アネモネは神凪と視線を交わす。

 

今対峙しているのがかつての怪物と並ぶ魔人だとしても、その撃破が目的ではない。

二人の任務はあくまで『ハーモナイザー』の破壊。《カーネイジ》は任務に関係ない、予定外の乱入者でしかないのだ。

 

戦術を組み立て、その銃が上を向き。

 

「なんだ、まだ覚えられていたか」

声はすぐそこから聞こえた。

 

その拳を避けられたのはアネモネだったからだ。

反射で首が傾いて、そこでようやく老人が目の前にいる驚愕が追い付いた。

馬鹿な。ずっと意識は向けていた。それなのに十数メートルの移動に気付けなかった?

 

困惑をよそに身体は動く。

近すぎる距離を離すために地面を蹴りつけ───動かない。

 

「─────ッ」

 

腕を握られ投げ飛ばされたということに気付く前に、風と音の圧がアネモネを襲う。

 

地面に激突し赤いシミとなる寸前、速度が弱まり軟らかい地面が弾丸と化した体を受け止めた。

 

「アネモネさん!」

 

受け止めた仲間への追撃を止めるべく神凪が前に出る。

老人の行く手を阻む茨の雨が魔法のようにすり抜けた。

そうして現れた体に蹴りを放つ。その瞬間に神凪は天地を失った。

 

目前に迫った拳を横合いから飛んできた銃弾が弾き、アネモネの方に跳ぼうとした老人の動きを茨が一瞬妨げる。

 

強制的に始まった死の舞踏。

二人が逸らし、弾く拳の一つ一つが紛れもない致死であり、「手強い」ジャームの全力など目ではない暴威だった。

 

「「~~~~~~~~~~ッ!!」」

 

半径3メートルの空間で嵐が舞う。

それが止まなかったのはひとえに、そこにいたのが《冴える黒蛇》と《皇帝》だったからだ。

時間にして三秒。彼らでなければ既に十度は死んでいた。

 

『ハーモナイザー』の破壊? 冗談ではない。

この怪物からほんの刹那でも意識を抜けば、弾け飛ぶのはこちらの頭だ。

 

「(キッツい! 認識が追い付かない! でも─────!)」

 

因子は既に浸透した。

《皇帝》が場を支配する。

 

「(─────あの時の《狩猟者》程じゃねェ!!)」

 

大地が老人の脚を絡め取り、須臾の刹那動きを止めた。

 

「アネモネさん!!」

「神凪!!」

 

叫び声を掻き消す衝撃が鳴る。

止まった一瞬に完璧なタイミングで光が迸り、重なった追撃と合わせて老人の体が吹き飛んだ。

 

深い傷は見て取れない。だが大きく体勢を崩したその姿はこの戦闘で初めて生まれた明確な隙だ。

銃を撃つよりも、棘を放つよりも、彼ら自身の一足が最も速い。

 

宙を舞う体を左右からの手刀が貫

 

「─────今、何と言った」

 

止まっていた。

崩れ切った体勢。死角からの挟み撃ち。比類なきと言うべき速度。

それらを全て無視して、二つの腕を老人の手が掴み取っていた。

 

「(何だ、これ。掴まれてるのは片腕なのに)」

「(足の指一本動かねェ。どンな理屈だ……!)」

 

身動き一つとれず、腕を突き出した無防備な姿勢のまま致命的な静止を強制されている。

頭上から声が響いた。

 

「ワシはお前たちを知らん。名乗れ」

「……《冴える黒蛇》」

「……《皇帝》」

「─────ほう」

 

老人の眉が動く。

平淡だったその声が初めて変化を見せた。

 

「お前たち、もしや伊庭を殺った者たちか」

「…………っ」

 

神凪が息を呑んだ。

 

伊庭。伊庭宗一。《狩猟者》と恐れられた男のかつての名。

日本支部での決戦において、日本最高峰のオーヴァード三人が死に物狂いで打ち勝った魔人。

だが彼はFHに所属していたわけではない。何故《カーネイジ》がそれを気にする?

 

「……間違ッてねェよ。だが仇討ちは受け付けてねェな」

「─────そうか。そうだったか」

 

腕を掴む力が強まる。骨が軋む音がした。

《カーネイジ》は、

 

「は。ははははは!! そうか、お前たちか!! ワシはなんと運が良い!! 伊庭を殺した者どもと!! こうして見えることが叶うとは!!」

 

《カーネイジ》は、嗤っていた。

運が良い、願ってもないと、心底からの喜色を込めて。

人を竦ませる大笑が響き─────どろりと闇が生まれ出た。

 

「「─────ッ!」」

「となればつまらぬ幕引きにするわけにはいくまい! 闘いには相応の舞台がある!!」

 

闇がひとりでに渦を巻き、三人の周囲を取り囲む外壁となる。

エフェクトではない。それよりももっと濃密な、衝動が形を成したレネゲイド。

 

それは欲望によって生み落とされた、邪魔者のない世界の終点。

そこに存在を許されたのは、たった二人のオーヴァード。

 

 

「さあ─────存分に死合おうぞ」

 

 

今ここに、《リヴァイアサン》はいない。

 




エンディング乱入おじいちゃん

普通に出会っちゃいけない化物
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