怪文書置き場   作:ジャーム先輩

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メビウス:良い空気吸ってる
アネモネ:不味い空気吸ってる
神凪  :空気吸えてない




四日目① あさひside

研修四日目。朝。

 

あさひと天本は神凪に案内され、昨日まで使用していた訓練室ではなく初めて訪れる部屋へ連れてこられた。

 

コの字型に長机と椅子が設置され、正面にホワイトボードが取り付けられた一般的な会議室だ。強いて言えば多少広いという程度。

 

とりあえず椅子に座り、待つこと数分。

ガチャリとドアが開き、初日に対面した名取支部支部長メビウスが部屋の中へ入ってきた。

 

「えっ。どうして支部長さんが……」

「それは勿論、今回の調査任務に同行するのが私だから─────」

「ええっ!?」

「─────というのは冗談よ。まあ、まずは説明をしようかしら」

 

素直に驚くあさひを愉快気に笑い、メビウスは中央の椅子に座るとあさひと天本に数枚の書類を投げ渡した。

 

「メビウスさんが仕事してる…………」

じろり。

 

「それが今日あなたたちに担当してもらう調査任務の概要よ」

「……メビウス支部長。任務が二種類ありますが、これは今日中に二つこなせということでしょうか」

「その通りよ。……ああ、言わなくてもいいわ。流石に一日で二つの事件の調査をしろっていうのも酷な話よね。私はそこまで鬼じゃないわ? ちゃんとあなたたちのことを考えてるもの」

 

感激したように目を輝かせるあさひとは異なり、天本はこの時点で何やら嫌な予感が走った。

 

「そもそもの話、調査任務にエージェント三人なんて過剰でしょう? だからそこのラットさん以外にもう一人ウチのエージェントを呼んで、二人ずつコンビを組ませようと思ったの」

 

入りなさい、とメビウスが告げた。

その人物の機嫌の悪さを示すかのようにドアが乱暴に開かれる。

そこに立っていたのは、つい昨日天本と衝突した男……アネモネだった。

 

「えっ」

「……………………」

 

戸惑うあさひ。無言の天本。

当のアネモネは舌打ちを零して椅子に座り、神凪は遠い目で宙を見つめる。

 

「さあ。今日どっちと組むかはあなたたちが決めていいわよ」

 

この地獄のような空間を作り出したメビウスがわざとらしい明るい声でそう宣う。

場を支配する彼女はにこやかな笑みさえ浮かべていた。

 

「…………ちなみに僕がアネモネさんと組むっていうのは」

「馬鹿かテメエ」

「黙ってなさい」

「はい…………」

 

室内に数秒の沈黙が満ちる。無言で瞑目していた天本が口を開いた。

 

「では私が《冴える」

「ボクがアネモネさんと組みます!」

 

その声をあさひの宣言が遮った。

天本が驚いたようにあさひを見る。

 

「は、鳩原さん?」

「玲泉さんは神凪さんとお願いします。実はボク、アネモネさんと話したいことがあったのでありがたいです!」

「ですが……」

「決まりね。白髪のラットさんはアネモネと、魔女のラットさんは気狂いのラットさんと動きなさい。ああ、言ってなかったけど明日はまた組む相手を交代するから」

 

それじゃあ調査頑張りなさいと、そんなあまりにも軽い言葉で四日目の研修は始まった。

 

 

▼▼▼

 

 

─────面倒くせェことになりやがった。

 

支部の廊下を歩きながら舌打ちする。すれちがった情報班の奴が悲鳴を上げて逃げていった。

ムカつく。テメエにキレてるわけじゃねェよ。

 

「あ、あの…………」

 

今朝になって俺に命令してきた時のババアのムカつく顔を思い出す。

何が調査任務だ、ふざけやがって。カンナギに投げりゃいいだろそんなモン。研修には貴音が絡んでるから断るわけにもいかねェってのが余計にムカつく。

 

ムカつくといえばあの女もだ。あいつが何考えてんのか察しはつくが、心底気に入らねェ。

死にてェなら俺の目に付かねェとこで死にやがれ。

 

「えっと、その......」

「……………………チッ」

 

支部を出てしばらく歩いたところで、後ろの奴に尋ねてやることにした。

さっきからそわそわしやがって鬱陶しいからだ。言いてェことがあンなら言いやがれ。

 

「で? 話してェ事ってのは何だよ」

 

とは言ったがそんなモン分かりきってる。

昨日あの勘違い女と揉めた場所にはコイツもいた。大方文句でも言ってやろうって腹だろ。

 

「あ、はい! 昨日のことなんですけど……」

 

いちいち反論すンのも面倒くせェし聞き流す。そのつもりだったんだが。

 

「ありがとうございました!」

「……………………あァ?」

 

コイツ、なンつッた?

 

思わず後ろを振り返る。馬鹿みてェに真っすぐ頭下げてやがった。

 

「……テメェ、何言ってやがる?」

 

意味が分からねェにも程がある。コイツ、昨日のやり取り聞いてなかったんじゃねェだろうな。

 

「? だって、玲泉さんとボクのためにわざわざ言ってくれたんですよね?」

「………………………………………………………………」

 

開いた口が塞がらなかった。俺が黙ってる間にこの白髪頭はペラペラ言葉を続けやがる。

 

「きっと玲泉さんはボクのことを思って手加減してくれてたんだと思います! でも、それっていつか良くないことになりますよね? だって、ボクもそうですけど、玲泉さん自身の成長も止めることになっちゃいますから......。それがわかってたからアネモネさんはああ言ってくれたんでしょう? だから、ありがとうございます!」

 

心の底から感謝してるって面で、コイツはニコニコ笑ってやがった。

 

「……………………なんつーか」

「はい!」

「カンナギとは違う方向で気持ち悪ィなお前」

「ええ!?」

 

牧場の羊でも見てる気分だった。悪意なんて知りませんって面してのほほんとしてやがる。

良いように聞こえるが、これその内マズいことになるんじゃねえのか? 知らねェが。

 

「気持ち悪い……気持ち悪い……?」

 

ブツブツ呟いてるコイツに、一つ言ってやりてェことができた。

つーか一昨日の訓練を見てる時に思ってはいたことだ。あの勘違い女の方がムカついて流してたが。

カンナギの野郎はその辺気付いてンのか? 気付いてたとしても言わねェか。

 

「おい白髪頭。お前に一つ言うことがあった」

「白髪頭? な、何ですか?」

 

きょとんって面でこっちを見てくる。やっぱ羊みてェなやつだ。

 

「お前、強くなりたいって思ったこと無ェだろ」

「……………………え?」

 

あァ、やっぱりな。

 

「ジャームと戦ったことが無ェのか? いや違ェな。負けたことが無い……苦戦したことも無ェだろお前。あの勘違い女が過保護っつーのもあるが、まァ才能でゴリ押せる相手だったんだろうな」

「あの、何の話ですか?」

「それだけじゃねェがそれが理由でもあるか。要するに、だからお前は強くなりたいって思ったことが無ェんだ」

「そんなことないです! ボクは強くなりたいって思ってます!」

「そうか? まるで足りねェよ」

 

白髪頭の額を指で押さえつける。

 

「必死さ。闘争心。執念。まァ何て言ってもいいが、そういうやつがお前には無ェんだ。強くなろうって意思が欠片も無ェ。だからそれだけの素質を持ってるくせに成長が遅ェ。今まではそれでも勝てる奴等だったンだろうよ。だがな、もしこれから先、お前より強ェ奴と出会ったら─────」

 

 

 

「─────お前は、お前の大切なモンを失うぜ」

 

 

 

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