次の日のことは正直あんまり覚えてない。
夜が楽しみで仕方なくって、早く夜にならないかなーって考えてたら、いつの間にか晩ご飯を食べていた。
晩ご飯の後のティータイムも、何時くらいに行けばコヨちゃんがいるかなって考えてばかりで、ぼんやりと時計を見ていることが多かった。
そんなアタシをパパとママは苦笑いのような微笑みのような表情で見ているのが目に映った。
「リツカ、もう少し時間があると思うからシャワーでも浴びておいで。そうしたらちょうどいい時間になるだろうからね」
パパがそんなことを言ってくれた。
パパもママもアタシが早くコヨちゃんのトコに行きたいのがわかってるんだろうな。
「うん、わかった。そーするね」
パパに答えてからシャワーを浴びる。
シャワーから出たアタシはちょっとおめかししたくなって、お気に入りの黄色いシャツに同じ色合いのプリーツスカートを合わせてみた。
うん、悪くないと思う。
そして念のため2階に上がって窓の外を見るとすぐにコヨちゃんが目に入った。
アタシは階段を駆け下りて、パパとママに「行って来ます」って声だけかけて外に飛び出した。
そして暗い足元を気にもしないでコヨちゃんの元へと急いだ。
「おーい!コヨちゃーん!」
ブンブンと手を振りながら呼びかける。
「あの、リツカちゃん……やっぱり声が……」
そしたらまたコヨちゃんに注意されちゃった。失敗失敗。
とりあえず手を合わせてゴメンって頭を下げる。
そして頭を上げると、コヨちゃんの傍に男の人が一緒に立っていることに気付いた。
「えっと、コヨちゃんのお父さん……ですか?」
どうもコヨちゃんしかアタシの目には入ってなかったみたい。
怒られちゃうのかなって、ちょっとドキドキしながら聞いてみる。
「ああ、暦のお父さんだよ。佐伯リツカちゃん、で良かったかな?昨日は暦に付き合ってくれてありがとう。朝から暦が楽しそうに君の事を話してくれたよ」
コヨちゃんのパパはそんなことを口にした。
コヨちゃんがアタシのことをそんな風に話してくれてたことがなんだか嬉しくって、でもちょっと気恥ずかしくてコヨちゃんに視線を向ける。
あ、コヨちゃんのパパにちゃんと挨拶しなくちゃ!
「佐伯リツカです。昨日はコヨちゃ……暦ちゃんにいっぱいステキなものを教えてもらいました」
「ちょっとリツカちゃんに訪ねたいことがあるんだけど、いいかな?」
「は、はい。なんでしょうか?」
コヨちゃんのパパがアタシに質問して来るけど何かわからなくて、ちょっとビクビクしちゃう。
「リツカちゃんのお父さんは、佐伯知也さんで合っているかな?」
「えっ!?パパのこと知ってるんですか?」
急にパパの名前を出されてホントに驚いた。
「うん、昔仕事で少し付き合いがあってね。私達は明日の昼過ぎに帰るんだけど、その時にお父さんに挨拶させて貰えないかな?」
お仕事ってなんだろう?
コヨちゃんのパパは明日でいいって言ってるけど、すぐにパパを呼んだほうがいいのかな?
「大丈夫だと思います……。今からパパを呼んで来ましょうか?」
「いやいや、暦とリツカちゃんの邪魔をするつもりはないよ。そうだね、明日の11時くらいに、この望遠鏡のところへお父さんを連れてきて貰ってもいいかな?」
するとコヨちゃんのパパは優しい顔でアタシ達の顔を見ながら、そんな風に言ってくれた。
「わかりました。パパに伝えておきます」
「うん、ありがとう。じゃあ私は先にテントに戻るから2人はゆっくり……あんまり遅くならないようにするんだよ?」
そう言い残すとコヨちゃんのパパは手を振りながらテントの方へと歩いて行った。
アタシは何がなんだかわからなくってコヨちゃんの方を向いた。
そうしたら同じようにコヨちゃんもこっちを見てて目が合った。
「……パパとコヨちゃんのパパが知り合い?」
「そう……みたいだね?」
「コヨちゃんのパパって、なんのお仕事してるの?」
「今は本屋さんだよ。……お客さんとかだったのかな?」
「う~ん……パパが本屋さんに行くことなんてないと思うな……」
2人で首をかしげていたけど、結局ぜんぜんわからなかった。
「まぁいっか。コヨちゃん、またお星様見せてー!」
なんだかよくわからないけど、コヨちゃんのパパもアタシがコヨちゃんと一緒にいることを許してくれたみたいだし気を取り直す。
「うん。あ、ちょっと待ってね」
コヨちゃんも気持ちを切り替えたのか、望遠鏡にかぶせてたシートを外して、またテキパキと準備していく。
ホントに慣れてるんだろうなーって思いながらその様子を見守る。
アタシが手伝えそうなことなんて何もないし。
しばらくするとクルクルを終えたコヨちゃんがアタシに望遠鏡を譲ってくれる。
「はい、わし座にあるアルタイルがこれで見えるよ」
「アルタイルって、確か「夏の大三角」のひとつだよね?」
この間のテストで出たからたぶん間違ってないはず。……あとの2つの名前は思い出せないけど。
「そうだね、あとベガとデネブをまとめて「夏の大三角」って言うね」
コヨちゃんは事も無げにアタシが忘れていた残りの星の名前も言ってくれた。
「わぁっ!すっごく明るい!」
覗き込んだ望遠鏡にはビックリするくらい眩しい星が映ってた。
「だよね!アルタイルって太陽の10倍以上明るい恒星なんだって」
恒星ってなんだっけ?でも太陽の10倍ってすごいことだよね?
「へ~、コヨちゃんって物知りだよねー」
素直な感想を口にする。
さっきの「夏の第三角」の星の名前もパッと答えちゃったし、今見てる星のことを説明までしてくれた。
「そんなことないよ、お星様を見るのが好きだから知ってるだけで……」
コヨちゃんが照れたように言うけどホントにスゴイと思う。
「でもアタシなんて「夏の大三角」も期末テストで出たから覚えてただけだよ。ベガと……なんだっけ?とか、もう忘れちゃってるし」
……うん、今コヨちゃんに聞いたはずなのにホントに思い出せない。
そもそも今見せてもらってる星の名前もアルなんとかとしか覚えてない。
「はい、リツカちゃん。またコーヒーでごめんね?」
そう言ってコヨちゃんがあの魔法みたいなコーヒーをまた渡してくれる。
「ううん、コヨちゃんのコーヒーならアタシ大好き!」
なんとかの犬?猫?みたいに条件反射みたいに答えちゃった。
そうして受け取ったカップに口をつけたら、やっぱりあの美味しいコーヒーだった。
そのまま飲み干しちゃいそうだったけど、コヨちゃんがまたクルクルしてるのが目に入ったからそれを見つめる。
今度はどんなお星様を見せてくれるんだろ?
「リツカちゃん見て。はくちょう座のアルビレオって星なんだ……あ、でもちょっと待って」
望遠鏡を覗こうとしたアタシにコヨちゃんが待ったをかける、なんだろ?
「今から見てもらうのが、このはくちょう座の頭の部分の星なんだけど、ちょっとそのまま空を見て探してみて?」
コヨちゃんが望遠鏡にかぶせてたシートから何か円盤みたいなシートを取り出して、アタシに手渡して難しいことを言う。
シートには星空の写真に星座がいっぱい描いてあった。
……お星様ってこんなにいっぱいあるんだ。
それでコヨちゃんは、はくちょう座の頭の部分って言ってて「ア」で始まってたから、このアルベリオって星だよね?
シートとにらめっこしながら指を空に向けて同じ形を探す。
えっ!?多いよ!なんだかシートにない星もあるみたいだし、どれのこと!?
頑張って指をフラフラさせながらコヨちゃんの言った星……アルベリオを探す。
あっ!あった、たぶんだけどアレだ!!自信はないけど。
「う~ん、アレであってる?」
指を指したままコヨちゃんに聞くと、コヨちゃんはアタシの横に並んであたしの指の方向を見つめる。
きっとコヨちゃんはこのシートとにらめっこしなくてもわかっちゃうんだろうな。
「うん、あってるよ。あの星をもうちょっとよく見てから望遠鏡を覗いてみて?」
「わかったー」
正解だったことに嬉しくなったアタシは、首をフリフリしながらさっき名前を覚えたアルベリオを見つめる。
結構大きくて明るい星だなーって思いながら望遠鏡を覗く。
「あれ?あの星ってひとつじゃなかったの?」
望遠鏡に映っていたのは黄色と青の2つの星だった。
「うん、実はそうなんだ。目で見るだけじゃわからないけど、本当は2つの星が一緒に見えてるだけなの」
ホントにコヨちゃんにはビックリさせられてばかりいる気がする。
……あ、でもこのお星様って…………。
「へ~、すごーい!……ねぇコヨちゃん、このアルビレオってなんだかアタシ達みたいだね?」
思ったことを口にしたら、コヨちゃんは首を傾げちゃった。
「え?どうして?」
だって、今見てるお星様ってホント今のアタシ達みたいだもん。
アタシはコヨちゃんに向き直ってコヨちゃんの服を指差す。
「ほら、コヨちゃんは青い服でアタシは黄色い服。それで仲良くしてるお星様だもん」
コヨちゃんは自分の服とアタシの服を見てから口を開いた。
「ホントだ……でも、仲良くって」
その先を聞くのが怖くって、コヨちゃんの言葉をさえぎる。
「コヨちゃんはアタシと仲良くなるの、イヤ?」
「ううん、そんなことないよ。リツカちゃんの方こそ、こんな私と仲良くしてくれるの?」
コヨちゃんは「こんな私」って言ったけど、「こんな」じゃなくてとってもすごいと思う。
「もちろん!だってアタシはもうコヨちゃんのことお友達だと思ってるもん!」
だからアタシは迷いなく本音を言った。
「……ありがとう、リツカちゃん……私、友達ってほとんど居なくて、そんなこと言ってくれたのリツカちゃんが初めてだと思う…………」
そう口にしたコヨちゃんの目から涙がこぼれてた。
その涙がとってもキレイで流れ星が流れて行くようにアタシには見えた。
「もー、コヨちゃんのほっぺに流れ星が流れてるよー!……こんなワガママなアタシで良かったらお友達になってよ」
コヨちゃんの涙を人差し指で拭いながら、アタシの本心からの希望を口にした。
「うん……こんな情けない私だけど、よろしくお願いします」
そう言ってコヨちゃんはアタシにお辞儀をしてくれた。
やった!!コヨちゃんとホントに「お友達」になれちゃった!!
……でもコヨちゃん自己評価低いのもったいないなー。
優しいし、丁寧だし、いっぱい物事知ってるし、アタシの勝手なイメージだけど優等生っぽいし、こんなおっきな望遠鏡を使いこなしてるし、情けないトコなんてぜんぜんないのに。
「もー、コヨちゃんやっぱり硬いよー。あっ!折角だから乾杯しようよ!」
そう言ってコヨちゃんに渡してもらってたカップを持ち上げる。
コヨちゃんもボトルの蓋に入れたコーヒーを持ち上げてくれて、2人で乾杯した。
それが何かの合図になったように、アタシとコヨちゃんはずっとおしゃべりをし続けた。
アタシのコーヒーが減ったらコヨちゃんがボトルから自然に注いでくれて、それがアタシには本当に「お友達」になれたんだって実感できてすごく嬉しかった。
おしゃべりを続けてるうちにコヨちゃんのポケットからバイブ音が鳴り出した。
2人でスマホを取り出して時間を確認すると、昨日と同じように11時30分になっていた。
だから今夜のおしゃべりはここまでってことになって、アタシはロッジへ戻った。
ロッジの扉を開けると、やっぱりパパとママが待っててくれたから「たたいま」って言ったら、2人揃って「おかえり」って笑ってくれた。
「さあリツカ。今日も満足したみたいだしもう寝ようか、明日の朝は少しゆっくりしてお昼頃に帰るよ」
そうパパに促されて3人で2階に上がってベッドへと向かった。
パパとママに挟まれる形でベッドに入ったアタシはさっきまでのことを思い出す。
コヨちゃんと「お友達」になったんだアタシ……。
そう思うと、なんだかそれだけでまた嬉しくなった。
だけど、同時に変な感じがした。
なんだろう、ホントにアタシはコヨちゃんとおしゃべりしてたんだよね?
コヨちゃんがあんまりにも都合が良い存在に思えて、変な感じは不安へと変わっていった。
初対面のアタシに、とっても丁寧にお星様のことを教えてくれたコヨちゃん。
アタシのワガママに、嫌な顔もせず付き合ってくれたコヨちゃん
苦手だったコーヒーを、魔法みたいに美味しくしてくれたコヨちゃん。
すごく物知りで、いろんなことをアタシに教えてくれたコヨちゃん。
とっても優しくて、こんなワガママなアタシをお友達って言ってくれたコヨちゃん。
そんなことを考えていたら、本当はさっきまでのことは夢で、アタシは今日もこの部屋から「あの女の子」を見つめていただけじゃないかなって思っちゃって、すごく怖くなった。
それを振り払うようにギュッと目を瞑り、アタシは無理やり眠りについた。
なんだか怖い夢を見たような気分で目を覚ます。
外はまだ明るくなりきっていなくて、時計を見たら4時30分のちょっと前だった。
もう一度眠ろうと思ったけど、目を瞑る度にまた怖い夢を見そうだって不安で眠れなかった。
そんなことを繰り返していると、不意に左手が握られた。
ちょっとびっくりして顔を向けるとママが微笑んでいた。
「何か怖い夢でも見たのかしら?」
「……うん、多分そう」
「そう、なら今日はもう起きちゃいましょうか。アーリー・モーニングティーでも飲みましょう」
そう言ってママはアタシの手を握ったままゆっくりとベッドの横から抜け出し、そのまま手をつないでキッチンへと向かった。
「本当はベッドで飲むことが多いんだけどね。パパが寝てるし2人でこっそりお茶にしましょ」
そう言ってママはいつものように紅茶を入れる準備を始めた。
アタシはテーブルについてそれを見ながら、ぼんやりとしていた。
しばらくするとママがビスケットと一緒にミルクティーを準備してくれた。
「さぁ飲みなさい。温まるわよ」
「ありがとうママ。……えっ!?すごく甘い!」
ティーカップに口をつけたアタシは思わず声をあげちゃった。
普段はストレートティーか、ミルクティーにしても砂糖を入れることのないママだけど、このミルクティーにはたっぷりの砂糖が入っていた。
「アーリー・モーニングティーは朝一番に飲むから、頭を働かせるための糖分を摂るのに甘く作るものなのよ」
そう言ってビスケットをつまむママ。
……もしかしてママは普段からこうやって朝から紅茶を飲んでるんだろうか?
でも、確かにこうやって飲む甘い紅茶やビスケットはアタシに元気をくれて、アタシの中にあった不安を吹き飛ばしてくれた。
そうしてママとなんでもない会話をしながらのんびりしてると、時計が6時になったくらいにパパが眠そうな顔で階段を下りてきた。
「……ゆっくりしようって言ったのに、2人とも早起きだね。何かあったのかい?」
「ええ、そうかもしれないわね?アナタもアーリー・モーニングティー、飲む?」
ママの言葉にあくびをしながら頷いたパパがパジャマのままテーブルに着く。
そんなパパを見てると何か忘れてる気がした。
なんだろう?
「ん~……僕がアーリー・モーニングティーをアイラと飲むのは久しぶりだね」
「そうね、普段だと起きたらすぐに仕事の準備ですものね」
「まぁ、僕がアイラより起きるのが遅いせいだけどね」
仕事?
その単語に何かが引っかかった。
あっ、そうだ!コヨちゃんのパパからの伝言を伝え忘れてた!!
「ねえパパ。コヨちゃんのパパがね、今日の11時くらいに望遠鏡のところに来て欲しいって言ってたの!」
あぶないあぶない。ホントに忘れちゃうトコだった……。
「あの子のお父さんが僕に?」
紅茶のカップを手にしたパパが不思議そうな顔をする。
「うん、なんか昔お仕事でパパに会ったことがあるみたいだったよ?」
「リツカ、そのコヨちゃんって子のフルネームを言えるかい?」
えっと……コヨちゃんは暦ちゃんで、暦ちゃんが名乗ってくれたのは……。
「えっとね、小鳥遊暦ちゃんだよ」
良かった、覚えてた。
というか「お友達」の名前を忘れそうになっちゃってるって、それはダメでしょアタシ。
「小鳥遊?そのお父さんの名前は聞いたかい?」
「え?ううん、コヨちゃんのパパの名前は聞いてないよ」
「そうか……だけどリツカと同じくらいの歳の女の子がいて」
「あ、アタシとコヨちゃんは同い年だよ」
アタシはコヨちゃんと同い年だってことを答えてあげる。
「同い年なのか!?じゃあやっぱりあの小鳥遊さんか!」
急にパパがおっきな声を出すから驚いちゃった。
でもホントにコヨちゃんのパパは、パパの知り合いみたいだ。
「パパもコヨちゃんのパパのことわかるの?」
一応口に出して聞いてみる。
「うん、知ってるどころじゃない人だよ!」
パパのテンションがなんだかすごく上がってる。
「11時だったよね?何か手土産でも買いに行こうかな……」
「アナタ、落ち着いて。あの小鳥遊さんならそんな物受け取ってくれないんじゃない?」
「そ、そうかな?……いや、そうかもしれないね」
あ、どうもママもコヨちゃんのパパのこと知ってるみたいだ。
なんだかソワソワしてるパパを見てるとあっという間に時間が過ぎちゃった。
ママがティーセットを片付けるのを手伝ってたら、リビングからパパの呼ぶ声がしたからそっちに行く。
「リツカもそろそろ着替えて準備して。10時30分には出るから」
そう言うパパはもう準備が出来てた。
アタシはそれに頷くと部屋で着替えてリビングに戻った。
「よし、行こうかリツカ」
10時30分にはまだなってないのにパパがアタシの手を引いてロッジの扉を開く。
パパに手を引かれてコヨちゃんが使ってた望遠鏡のところまで来たけど、シートのかかった望遠鏡があるだけでコヨちゃんはいない。
まだ11時まで時間はあるし当然なんだけど、その望遠鏡を見てるとコヨちゃんはやっぱりアタシの勝手な夢だったんじゃないかって思って、とっても怖かった。
……コヨちゃん、ホントに居るよね?夢なんかじゃないよね?
そんな不安に押しつぶされそうになっていると、テントの方から2人が歩いて来るのが見えた。
コヨちゃんだ!ホントにホントのコヨちゃんだ!!
「あっ!コヨちゃーん!!」
コヨちゃんが見えたのが嬉しくっておっきな声で呼んじゃった。
「リツカちゃん!」
そしたらコヨちゃんもこっちに走って来てくれた。
「あははっ!コヨちゃんだー!夢じゃないんだー!」
笑顔でいっぱいになったアタシはコヨちゃんの手をとって、その温もりを感じる。
良かった……ホントにコヨちゃんはここに居るんだ……。
「えぇ?どういうこと?」
コヨちゃんが困惑顔で聞いてくる。
「いやー、コヨちゃんと夜にばっかり会ってたから、アタシが勝手に都合の良い夢を見てたりしないか心配だったんだー!」
「そんなことないよ、それじゃあリツカちゃんが私のお友達になってくれたのも夢になっちゃうの?」
コヨちゃんが恐ろしいことを言ってきた。
そんなこと絶対にイヤだ!
「ヤダ!もうコヨちゃんはアタシのお友達なの!」
だから逃がさないとばかりにもう片方の手も捕まえて2人ではしゃぐ。
「やっぱり佐伯君だったか、久しぶりだね。今の活躍も少しだが耳に入っているよ」
コヨちゃんのパパの声がしてハッとした。
そうだった、コヨちゃんのパパがアタシのパパに用事があったんだった。
「あ、あの。初めまして小鳥遊暦と言います」
コヨちゃんもそれを思い出したのかアタシのパパに向き直ってお辞儀した。
「あはは、リツカと仲良くしてくれてありがとう、暦ちゃん。僕はリツカの父で佐伯知也と言います」
パパがアタシとコヨちゃんを交互に見つめる。
あれ?パパの言葉遣いがなんかちょっと丁寧だ。
「でも小鳥遊さん、本当にお久しぶりです。あの時は本当にありがとうございました」
そう言ってパパはコヨちゃんのパパにしっかりとお辞儀をした。
その様子にコヨちゃんとアタシは、またお互い顔を見合わせて頭にハテナマークを浮かべていた。
「昔の話だ、気にしないでくれ。積もる話もあるだろう、少し向こうで話さないか?」
「ええ、よろしければ是非」
そう言って管理棟の方へ歩きだす2人。
「あぁ、暦。望遠鏡を片付けるのは手伝ってあげるから、少し待っていてくれ」
「リツカ、暦ちゃんにあんまり迷惑かけちゃ駄目だぞ」
そんな声をかけられるが、私達2人はまだ顔を見合わせたままだった。
「なんだかパパの方がコヨちゃんのパパにお礼言ってたね……」
「お父さんも「昔の話」って言ってたけど……」
「コヨちゃんのパパって本屋さんだったよね?」
「うん。でもお爺ちゃんが死んじゃうまでは、確か銀行で働いてたと思う」
「パパの仕事って貿易関係なんだけど、それと関係あるのかな?」
「……わかんない。お父さんが銀行でどんな仕事してたのか私も詳しく知らないから」
昨夜と同じように2人で首をかしげるけど、やっぱりぜんぜんわからない。
「あっ!そうだコヨちゃん、メッセ交換しよ!」
「あ、そうだね。リツカちゃんと連絡取れなくなっちゃうところだったね」
あぶないあぶない、コヨちゃんの言うとおり連絡出来なくなるトコだった。
スマホをリンクさせてお互いのアカウントを交換する。
「え?コヨちゃん、コレっ……」
画面に映ったコヨちゃんのプロフを見て笑いそうになっちゃった。
だってコヨちゃんが上からこっちを覗きこんでるんだもん。
あ、でもなんだかアタシが望遠鏡になった気分かも。
「わー!?画像変えるから!リツカちゃん今見たの忘れて!」
コヨちゃんが手をパタパタ振りながら顔を真っ赤にしてる。
アタシはこれでもいいけどなー。
でもやっぱり笑いそうにはなっちゃうけど。
そうしてるうちにコヨちゃんのプロフ画像が変更された。
……アルビレオだ。
きっとアタシが唯一名前を忘れないだろうお星様。
アタシとコヨちゃんを結び付けてくれた大切なお星様だ。
アルビレオの写真を見てたらまたちょっと不安になった。
「また、コヨちゃんはアタシと遊んでくれる?」
その場に座りこんで、不安からそうつぶやく。
「うん、もちろん」
そしたらコヨちゃんも隣に並んで座って答えてくれた。
「また、コヨちゃんのコーヒー飲ませてくれる?」
「うん、いつでも淹れてあげる」
「また、一緒にお星様見せてくれる」
「うん、また一緒に見てくれたら嬉しいな」
「ずっとお友達でいてくれる?」
「リツカちゃんがイヤじゃなければ、ずっとお友達でいて欲しいな」
アタシのワガママにすぐに答えてくれるコヨちゃんの優しさで、不安がどんどん消えていった。
そしてアタシは我慢できなくなった。
「コヨちゃん大好きーっ!今日でお別れするのヤダーッ!!」
コヨちゃんに飛びつく。
コヨちゃんの優しさと暖かさが嬉しくって、今日お別れだってコトがイヤでたまらなくって、涙が出るのを隠すようにコヨちゃんの胸に顔をうずめる。
「私もリツカちゃんが大好きだよ。今日はもうお別れだけど、お父さん達が知り合いみたいだし、会える機会はきっといくらでもあるよ」
そんなアタシにコヨちゃんは優しく声をかけてくれた。
その優しさがとっても嬉しくて、アタシは更に泣いちゃった。
「小鳥遊さんがそんなに近くに住んでるとは思いませんでしたよ」
「確かに昔、佐伯君の家を訪ねたときも、私の住所については何も言わなかったか」
そうしてるとパパ達の声が近づいてきた。
「ええ、ですから驚きました。……おや?」
「暦……なにかリツカちゃんを泣かせるようなことでも言ったのかい?」
コヨちゃんのパパに、コヨちゃんは悪くないってちゃんと伝えなきゃ。
アタシは泣くのを我慢して、体を起こしてコヨちゃんのパパの方を向いた。
「……ううん、コヨちゃんはなにも悪くないよ。コヨちゃんがとっても優しくって、アタシがお別れするのが寂しくって泣き出しちゃっただけだから」
そう答えながら目元を拭う。
「……リツカにも良い友達が出来たみたいだね、大切にするんだよ」
パパがしゃがんでアタシの頭を撫でてくれた。
「うん、アタシにもすごく大切なお友達ができたんだ」
またちょっと泣きそうになったけど、しっかりと断言してパパに抱きついた。
コヨちゃんのパパも何か言ったみたいだけどアタシにはよく聞こえなかった。
そして一応立ち直ったアタシはコヨちゃんにバイバイしてパパとロッジに戻った。
「久しぶりに会った小鳥遊さんはどうだった?」
ロッジへ入ったアタシ達にママが紅茶を片手に聞いてきた。
……ママって隙あらば紅茶を飲んでる気がする。
「うん、やっぱりすごい人だよ。ゆっくり話したくなって来週の日曜日に家に招待しちゃったよ」
「あら、じゃあアタシも久しぶりに小鳥遊さんにお会いできるのね」
えっ!コヨちゃんのパパが来るの!?じゃあコヨちゃんも!?
「ねえパパ!日曜日にはコヨちゃんも来るの!?」
パパの方に振り向きとっても大事な質問をする。
「あー、どうだろう。暦ちゃんも連れて来て欲しいとは言わなかったからなぁ……」
パパのバカーッ!アタシにとってはコヨちゃんが何より重要なのに!
うん、あとでメッセで絶対来てって言おう。
「ねえママ、帰ったら紅茶の淹れ方、アタシに教えて!」
「あらあら、暦ちゃんに出すつもりね。良いわよ、基本的なことと押さえておくべきポイントは教えてあげるから練習しなさいね」
「うん!わかった!!」
コヨちゃんが来たら美味しいコーヒーのお返しに今度はアタシが美味しい紅茶をコヨちゃんに淹れてあげるんだ!
そうと決めたら帰ったら特訓しなきゃ!
アタシはそんな決意をしつつ、帰る準備をすることにした。
ちなみに帰りの車の中で、パパにコヨちゃんを誘ってくれなかったことの文句をたっぷりとぶつけた。
書きたかったことの1つ、2人の「お友達」としてのスタート地点を書くことが出来ました。
作中の描写でなんとなく察している方もいらっしゃるかもしれませんが、モチーフになった場所は存在して、実際にとても綺麗な星空を堪能できます。
作者は普段は星にさして興味はありませんが、そこでの星空には圧倒されました。