目を閉じていると夏のキャンプのことがついさっきのことみたいに思い出せた。
ロッジの窓から夜に「女の子」を見ていたことや、パパやママと行ったハイキング。
それにその「女の子」との出会い……。
あの「女の子」があれだけ気になったのはアタシが直感的に仲良くなれるって感じてたのかな?
そんなことを考えてると自然と口元が緩んじゃってた。
すると階段を上がってくる足音に続いて部屋がノックされた。
アタシが現実に戻ってきて目を開けたのと同時くらいにドアからコヨちゃんのママがドアを開けて顔をのぞかせた。
「あ、良かった。リツカちゃんまだいたわね」
「お邪魔してます、挨拶もせずにすみません」
コヨちゃんのママがアタシを見て言ったから慌てて振り返って挨拶する。
「いいのよ。それより今日の夕飯、リツカちゃんも一緒に食べて行ってね。お母さんには電話して伝えてあるから。それから帰りはお父さんに送って行ってもらうから、ゆっくりしていってね」
コヨちゃんのママはまるでなんでもないことのようにステキなことを言ってくれた。
「え!?いいんですか?ありがとうございます」
「あ、夕飯は7時くらいになるから」
ペコリとお辞儀をすると、笑顔のままコヨちゃんのママは伝えることだけ伝えてまた2階へと下りていった。
ちらりと壁の時計に目をやる。
……えっと、今が5時半だからまだ1時間半もコヨちゃんとおしゃべりできる!
「やったー!まだゆっくりコヨちゃんとお話できるねー」
「う、うん。そうだね」
なんだかコヨちゃんが不思議な顔をしてるけど気にしない!
「雨も振り出したし、リツカちゃん傘持ってないからどうしようって考えてたら一気に解決しちゃった……」
「え、雨?……ホントだ」
コヨちゃんが雨って言うから天井を見上げる、屋根裏部屋だけあって見上げた天井は思いのほか高かったけど確かに雨音がする。
「リツカちゃん、気付いてなかったんだ……」
コヨちゃんがちょっと呆れたように言うけどホントに気づいてなかった。
だって懐かしい思い出にアタシの頭は埋め尽くされちゃってたから。
「うん、どっぷりと昔の記憶に浸っちゃってた」
だから笑ってそう答える。
するとコヨちゃんも笑ってくれた。
きっとアタシと同じように、あのキャンプのことを思い出してたんだろーな。
「あのキャンプ場の後は結構急展開だったよねー」
口にして思うけどホントにキャンプから帰ってからは怒涛の展開だった。
「そうだね、帰ってすぐに私がお父さんと一緒にリツカちゃんのお家にお呼ばれして」
パパがコヨちゃんのパパを家に呼んだのにコヨちゃんも一緒に来てくれて。
「で、アタシがコヨちゃんを捕まえて離さないからパパ達が諦めてコヨちゃんだけお泊りすることになって」
なんだかキャンプ場でのお別れみたいに思っちゃって「コヨちゃんを離すもんかー!」ってアタシがなって。
「お父さん達もなんだか仲良くなってて」
それでパパがコヨちゃんのパパを説得してくれて、晴れてコヨちゃんがお泊りすることが決定して。
「それでアタシ達は一晩中おしゃべりに夢中になって」
コヨちゃんといるだけで楽しくてずっとおしゃべりしてて。
「次の朝にリツカちゃんのお母さんに怒られちゃったね」
気が付いたら朝になっててママに怒られちゃった。
「そーそー「またいつでも会えるし電話も出来るでしょ!」ってね」
そこまで話したらなんだか可笑しくなってクスクス笑ったら、同時にコヨちゃんも笑ってた。
それからアタシ達はそれから今までのことをまるで時間旅行するようにおしゃべりしていった。
アタシの学校はエスカレーター式だから高等部になっただけだったけど、コヨちゃんは受験して公立の結構難しいところへあっさり合格して進学した。
そしたら中学のときより学校同士が近くなって、たまには帰りに待ち合わせして遊びに行くことができるようになったり嬉しいことが起きたりした。
そんな話をしていたらコヨちゃんのママの声がして2人でコヨちゃんの部屋を後にした。
2階のダイニングにはアタシ達のご飯が並べられててコヨちゃんのパパとママはもう食事を終えてるみたいだった。
テーブルの上のご飯を見たときにアタシは反射的にバンザイしちゃってた。
「わー!コヨちゃんのお家のハヤシライスもすごく久しぶりだー!」
コヨちゃんちのハヤシライスは不思議なコクがあってちょっとクセになる。
そして気を使ってくれたのかアタシの好きなシーザーサラダがスープと一緒に並んでた。
「コヨちゃんのお母さん、ありがとうございます!」
シンクで洗い物をしてるコヨちゃんのママにお礼を言う。
「気にしないで、それより冷めないうちに食べなさい」
「「いただきます」」
コヨちゃんと対面の席に着いたアタシはコヨちゃんと一緒にいただきますをしたら、まずはハヤシライスに手をつけた。
「ん~っ!やっぱりコヨちゃんちのハヤシライスって美味しいよね!」
スプーンで一口食べて感想を口にする。
ルウは市販の物だってわかるんだけど、どう工夫してるのかただ甘いだけじゃなくてどっしりとした自己主張をする味に舌鼓を打つ。
「あらあら、ありがとうリツカちゃん。でもこのハヤシライスの隠し味は暦のお手柄なのよ」
コヨちゃんのママがコーヒーカップを2つ持ってテーブルへつきながらそんなことを言った。
「ハヤシライスの隠し味……ですか?」
なんだろ?なにか特別なソースとか入れてるのかな?
「そうよ、ルウを溶かした後に暦のコーヒーを少し入れてあるの、他にも隠し味はあるけどね」
なんとこんなトコにも「コヨちゃんコーヒー」が!
アタシはルーだけ掬って味を確かめてみる。
……わからない、美味しいのはわかるけどその奥に「コヨちゃんコーヒー」が隠れてるとは判別できなかった。
「う~ん?コーヒーの味なんてしないけどなー?」
なんだか悔しいけどホントにわからないものはわからない。
「リツカちゃん、コーヒーの味がしたら「隠し味」にならないよ」
コヨちゃんがそう言ってくれる。
確かにそうだ。
よっぽど鋭敏な味覚を持ってればわかるのかもしれないけど、アタシの舌じゃ隠し味の判別なんて無理だ。
それこそコーヒー味のハヤシライスでもない限りは。
「それもそっか」
あっさりと疑問が解決したアタシは笑顔に戻ってまたハヤシライスをスプーンで掬ってた。
「本当に暦はリツカちゃんと仲良くなったな」
コヨちゃんのパパがテーブルにつきながらそんなことを口にする。
「うん。リツカちゃんとお友達になれて本当に良かったって思ってるよ。さっきまでも初めて会ったキャンプのこと思い出したりしてたの」
コヨちゃんがそれに答えるけど、ちょっと直球過ぎてアタシは少し恥ずかしくなってた。
「ふむ、暦はあのキャンプより前にリツカちゃんに会っていたことは忘れているのか」
「「えっ!?」」
コヨちゃんのパパのビックリな発言にコヨちゃんと声がハモる。
……キャンプより前にアタシはコヨちゃんに会ってる?
なのにキャンプの時まではまったく知らなかった?
「まあ仕方ないか、暦もリツカちゃんも小さい頃だしな」
「コヨちゃんのお父さん、小さい頃っていつですか!?」
コヨちゃんのパパにたまらず尋ねる。
「うん?私が仕事で知也君のお宅に伺った時だから10年前、2人は5歳か6歳の時だな」
えっ!?そんな昔!?
「暦、そのときの話はしてあげるからちゃんと食べなさい」
考え込もうとしてたコヨちゃんが注意されてるのを見てアタシもスープに手をつけた。
「当時の私が銀行に勤めていたのは暦も覚えてるだろう?」
コヨちゃんがコクコク頷いてる。
確かにキャンプの時にもそんなことは聞いたような気はする。
「その頃は融資課にいてね、知也君……リツカちゃんのお父さんから新しい仕事のために融資をして欲しいという話が来たのに対応を任されたのが私なんだよ」
融資って言うと会社にお金を貸すことだよね?
そんなことを考えてるとコヨちゃんのパパがアタシの方を向いた。
「リツカちゃんはそのあたりの話をお父さんから何か聞いていないかな?」
う~ん……思い出そうとしてもそんな話はぜんぜん思い出せなかった。
「えっと……パパからは「潤也さんは僕の恩人だよ」としか聞いてません」
そう答えるとコヨちゃんのパパは苦笑しながら話を続けてくれた。
「それで融資するにあたってその業務内容の詳細を聞くのに合わせて、知也君がどんな人間なのかを見るためにあえて暦を連れて佐伯さんのお宅に伺ったんだよ。業務内容も重要だが、それを取り仕切る人間が信用できないと融資するかの判断をしにくいからな」
そこまで聞くとコヨちゃんが反応した。
「あっ!思い出した!ちっちゃな頃に知らないお家に行ってお母さんが日本人じゃなくて驚いたことあったけど、あれがリツカちゃんのお家だったの?」
うん?ってことはそんな昔に2人は家に来たってコトだよね?
ん~……なんか引っかかるような、引っかからないような……?
「暦は思い出したようだね。そう、それが佐伯さんのお家だよ。……まぁ暦は私の後ろに隠れてばかりだったがな。家族仲も良くて人間性に問題ないと私は判断して、仕事について知也君の考えを聞かせてもらったりしていたんだ。そうして最終的に私が判断した結果、決裁が下りて智也君の仕事に融資が決定したから智也君は私のことを恩人だなんて言ってくれているんだよ。だが私は自分の仕事を全うしただけだから、恩人でもなんでもないと言っているんだがね」
コヨちゃんのパパの説明を聞いてパパが「恩人だ」っていう理由がちょっとわかったけどアタシにはまだピンと来ない。
「その時に智也君と雑談を終えて、本腰を入れて仕事の話をし始めたときだったかな、リツカちゃんが出てきて暦を連れて庭に遊びに行ったんだよ」
あ!なんだかパパが難しい話をしてるトコに顔出したら、その奥に女の子が居たことがあった!
「あーっ!アタシも思い出した!同い年くらいの子がパパ達が話してる後ろで本読んでるの見て我慢できなくなって引っ張って行ったんだ!」
思い出したアタシは立ち上がりそうになるのをグッと我慢した。
あー、あのおとなしそうな女の子!あれがコヨちゃんだったんだ!!
……あの後ってアタシが無理やり庭に引っ張り出して駆けっこしたり、アタシだけははしゃいでた気がする。
「2人とも思い出したか。あの頃の暦は人見知りが結構酷かったからリツカちゃんが言ったように、本当に引っ張られて行っていたがな」
「し、仕方ないよぉ……今でも知らない人と話すのはすごく苦手なのに、急にお父さんが真面目な雰囲気で話してる所で知らない子に連れ出されちゃったんだから」
う、コヨちゃんの言葉は嘘じゃないだけにちょっとグサッと来た。
そうだよね、完全にアタシのワガママで庭に引きずり出しちゃったんだもんね。
「ははは、確かに暦は相当疲れたんだろうな。帰りの車の中ではぐったりしていたからな」
コヨちゃんのパパの言葉に今更になって申し訳なさが顔を出す。
「な、なんかゴメンね。その頃のアタシって結構ワンパクだったみたいだからコヨちゃんを相当疲れさせちゃったと思う」
だからおぼろげな記憶を頼りながらコヨちゃんに謝る。
「も、もう昔のことだし、私もあんまり覚えてないから気にしないで?」
コヨちゃんはそう言ってくれるけど、これはコヨちゃんは当時のこと割と思い出しててアタシをフォローしてくれてる感じだ。
「その話だけ聞いてると今の暦とリツカちゃんの様子が全然想像できないわね」
アタシ達が食べ終えた食器を片付けてくれていたコヨちゃんのママがアタシ達のマグカップを両手に戻ってきた。
マグカップの中はカフェオレが入ってた。
コヨちゃんのママもアタシの事を知ってくれてるからきっと甘い目に入れてくれてると思う。
「ああ、私もあの時の2人を思い出すと今の2人とは同じとは思えないくらいだな。暦はマシになったとはいえ、人見知りの気がまだあるしな」
あ、コヨちゃんのパパの言葉にコヨちゃんがちょっとへこんでる。
でもコヨちゃんっておとなしいけど、すごく優しいしとってもいい子だと思うな。
「キャンプの時はリツカちゃんから暦に声をかけてくれたようだが、翌朝から暦はリツカちゃんの事をよく話していたし、そう言った意味でも珍しく思ったものだよ」
「そうね、学校の友達の事も私達が聞かないとあまり話してくれないのに、あの時は暦が朝からリツカちゃんの事ばかり話していたものね」
あ、なんかコヨちゃんもアタシとおんなじ感じだったんだ。
コヨちゃんは恥ずかしがって俯いちゃってるけど。
「コヨちゃんもそうだったんだ。アタシもキャンプ場でコヨちゃんと会った後は、コヨちゃんのことばっかり考えててパパとママに呆れられちゃったもん」
アタシはそう言って笑ってた。
だってパパとママには悪いけど、あのキャンプのことと言えばコヨちゃんのことが真っ先に浮かんじゃうし、3日目にいたっては日中に何をしてたのかすら覚えがない。
「じゃあ私達は、やっぱりあのキャンプ場からお友達になったんだね」
「そーだね。昔会ったときはアタシがコヨちゃんで遊んでただけみたいだし」
コヨちゃんと顔を見合わせてクスクスと笑い合う。
「まあ仲が良いのはいいことだ。リツカちゃん、これからも暦のことを頼むよ」
「私からもお願いするわ、リツカちゃん。暦はあまり友達付き合いが上手くないから、これからもよろしくね」
コヨちゃんのパパとママがそんなことを言ってくれる。
「はい!コヨちゃんとはコヨちゃんに嫌がられても大切なお友達です!」
それに私はピシッと挙手して迷いなく答えた。
「リツカちゃんその宣言はなんだか恥ずかしいよ」
コヨちゃんがアタシに向かって言うけど、その顔は笑顔だった。
そうしてアタシ達の「本当の」出会いの話を聞いた後は少しみんなで雑談して、コヨちゃんのパパが送って行ってくれるって言うからコヨちゃんにバイバイして、いったん自分の靴を取りにコヨちゃんの部屋へ戻る。
そのままコヨちゃんの部屋から直接外へ出て階段を下りると、こっちへ出てくるのがわかってたかのようにコヨちゃんのパパがジープみたいなワゴン車?を寄せてくれてたから助手席に乗り込む。
コヨちゃんのパパに送ってもらうのももう何度目かな?
「リツカちゃん、シートベルトはしたかい?」
「はい、大丈夫です」
シートベルトがきちんと刺さってることを確認して答える。
「それじゃあ出すよ」
そう言ってコヨちゃんのパパは家の裏手から表の道路へと車を発進させた。
するとすぐにコヨちゃんのパパのスマホが鳴り出した。
手元の操作でハンズフリー通話にした車内にコヨちゃんの声が聞こえる。
『もしもしお父さん?リツカちゃんに渡す本忘れちゃったんだけど戻ってこれる?』
「あっ!そうだった!コヨちゃんにアリス借りに来たの忘れてた!!」
「わかった、まだほとんど離れてないからすぐに戻るよ」
そう言うとコヨちゃんのパパは住宅街の中をぐるっと回ってまたお家へと車を寄せてくれた。
「ありがとうございます、すぐに戻ってきます!」
アタシはコヨちゃんのパパにそう言って、コヨちゃんの部屋へ駆けて行って手提げ鞄を受け取ると車へとんぼ返りした。
「すみません、お待たせしました」
ちょっと雨に濡れちゃったけど手提げ鞄は濡れてない。
すぐにシートベルトをするとそれを確認したコヨちゃんのパパが再び車を発進させる。
……なんだか手提げ鞄がアリスだけにしては重いんだけど何が入ってるんだろ?
そしてアタシの家まで送ってもらって、コヨちゃんのパパにお礼を言って家の中に入ると玄関で手提げ鞄を開けて中を見た。
見るとアリスが2冊にマザー・グース、それに世界史と経済史の本。
……えっと、コヨちゃん。パーティーの話題をこれで勉強しろってことかな?
ひとまずこれにて第1話から続いていた6月のある日の話は終了です。
2人の「お友達」のスタートと、さらに昔の話と書きたかった部分は書けたので、これ以降は1話完結型の話を思いついたら書いていこうと思います。
ポツポツと書きたいネタはあるので筆が乗ったら更新させていただくことになるかと思います。
拙作ですがお付き合いいただける方はたまに見てやってください。