暦とリツカの日常風景   作:黒衣旅人

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暦さんとリツカさんが一緒に居るときは「~side」で両側の視点から描いて、同時に投稿する事を心がけていますが、独立した日常の話は「side」表記なしでばらばらに投稿します。
ですのでどちらかだけの更新になる時もあるかと思います。
作者的には極力セットにしたいとは思っていますがどうなるか現状ではわかりません。


第5話~何でもない日常:暦の1~

今年はあまり梅雨らしい梅雨じゃなくて、いつの間にか梅雨明け宣言が出されていた。

6月も末になったことで私の周りはざわつき始めている。

そう、高校生としての初の期末テストが近づいて来ちゃった。

学校の休み時間に私にわからないことを聞きに来るクラスメイトもちらほらと出てきた。

中学校からの知人は早くも私のノートを借りに来てコピーを取ったりしてる。

中学校の時はテストの前になると、私のノートはクラスメイトの手に渡ってなかなか戻ってこないこともよくあった。

だから私は普段のノートとは別に、家で復習をする時に要点をまとめたノートを別に作っていて、テスト前は主にそっちのノートで勉強をしていることが多い。

知人の一部はこの要約ノートの存在を知っていて、こっちを貸して欲しいって言ってくる人もいるけど、こっちを貸しちゃうと自分の勉強ができなくなるから、こっちのノートはその日のうちに返してくれることを約束してくれる人にだけ貸すことにしてる。

もう少し経ってテストが近づくと、中学校時代は私のノートの争奪戦が起こって結局誰が持ってるのかわからなくなっちゃって、自分が勉強できなくなることがあったからそんな別のノートを作るようにしたんだけど……。

今はまだ落ち着いていて、普段から勉強してる人たちがノートを借りに来るくらいで済んでる。

……でも、たぶん嵐の前の静けさでもあるんだけどね。

「小鳥遊さんゴメン、さっきの物理のノート見せてくれる?ノート取る前に先生に消されちゃった部分があって……」

ほら、こんな風にね?

「うん、いいよ」

ノートを渡すと田辺さんはすぐにページを捲っていった。

「あ、ここだ……あ~、こんなこと書いてたんだ。……あれ?小鳥遊さん、この所々にある黒い点って何?」

「え?それは私が考え事してる時にペン先が当たっちゃったんじゃないかな?」

そう答えたけど本当は嘘だ。

あの先生は板書の途中で黒板をチョークでトントンと叩くことがある。たぶんクセなんだろうけど、そんなクセが出るってことは重要なポイントだと思う。だから私は先生が黒板をトントンしたところに同じ数だけ点を打ってる。

「そっか、ゴメンちょっとこの部分写したらすぐ返すから」

そう言って田辺さんは自分の席に戻った。

田辺さんは中学校からの知人で、ちょっとした板書の漏れなんかでも気にしちゃう結構まじめな人だから私もそんなに苦手じゃないし、ノートを貸すことにも抵抗はない。

以前はその争奪戦で何回か貸したノートが私の手に戻ってきたときに落書きされてたり、ページがちぎり取られたりしてたことがあったから争奪戦の後はすごくヒヤヒヤしちゃう。

……確か違うクラスにまで行っちゃって返ってこなかったこともあったっけ。

また、争奪戦が起きるのかな?高校生になって知らない人も多いから大丈夫だといいな。

たぶん周りのみんなのネットワークで私のノートはもう標的にされちゃってると思うけど……。

「小鳥遊さん、ありがとっ!」

本当に少しの書き写しの漏れだったのか、田辺さんがノートを返しに来てくれた。

「ううん、気にしないで。……あれ?」

手渡されたノートには一口サイズのチョコが2つ乗ってた。

「えへへ、お礼ってことで食べちゃって」

田辺さんが舌をペロッと出しながら言う。

「そんな、あれだけで悪いよ」

「いいからいいから、……多分またお世話になっちゃうし」

ちょっと苦笑い気味で言う田辺さんは私にチョコの乗ったノートを渡すとまた席に戻って行った。

私はどうしようかなってちょっと考えて、次の授業までの時間を見てチョコを1つ口に入れて、もう1つはポケットに入れた。

 

 

午前中最後の授業が終わってお昼休みなると、クラスメイトはグループになったり、購買へ足を向けたりそれぞれのお昼ごはんの準備を始める。

私は学生鞄からお弁当とちっちゃな水筒の入った手提げ鞄を取り出して、教室から出て生徒で賑わう廊下の端を歩きながら目的の場所へと足を進める。

職員室に立ち寄って、先生に一声かけて鍵を借りると2階の図書室の隣にある図書準備室へと避難する。

「……だめだなぁ、やっぱりまだみんなと一緒に食べるのは苦手かな」

無人の図書準備室に入ると内側から鍵を閉めつつ、そんなことをつぶやいちゃってた。

「リツカちゃんとなら一緒にごはん食べても大丈夫なのになぁ……」

ここにはいない私にとっての親友のことを思いながら、長机のパイプ椅子に座りお弁当を広げる。

お弁当箱のふたを開けて水筒からお茶を入れると、手を合わせていただきますをして今日のお弁当を食べる。

鍵は閉めてるし図書委員でもない限りこの部屋に用事はないから誰も来ない、私の秘密の隠れ家。

教室にいると一人だけ浮いちゃうから、普段はこうしてお弁当を食べ終えたらお昼休みが終わるまではここでゆっくりと読書タイムだ。

たまに自分で持ってきた本を読むこともあるけど、この部屋には図書室から撤去されて廃棄待ちになってる本やまだ図書室に出されてない本、それから時期に合わせて入れ替えられる本が置かれてるから読む物には困らない。

それに廃棄予定の本は全部チェックしてて、欲しい物があれば先生に言うとだいたい問題なく貰うことができちゃうから私のお小遣いの節約にもなってくれる。

お弁当を食べ終えてごちそうさまをしてから立ち上がって、今日は何を読もうかなって本棚を見てると「友人を作るコミュニケーション術」と書かれた本が目に入ってちょっと悩んじゃった。

でも、きっと読んでも無駄だよね。

だって、こういう本に書いてあることってほとんど「自分から」話しかけたり「自分が」何か行動することが前提だもん。

私は基本的に自分から他人に話しかけるのはすごく苦手だ。

話題が思いつかないってこともあるけど、何よりも私が言ったことで、相手を悲しませたり怒らせたりするのがすごく怖くて何も言えなくなっちゃうから。

そう思うとやっぱりその本に手を伸ばすことはできなくって違う本へと目を走らせる。

本棚を横へと移動しながら見ていると次は「演歌の世界」ってタイトルの本が目に留まった。

……演歌かぁ、少しは聞くけどあんまり詳しくないからちょっと面白そうかも。

そう思って少し高い位置にあるその本を背伸びして手に取ると、レコードジャケットが並んだ表紙が目に飛び込んできた。

なんだかますます興味をひかれちゃって、椅子に戻るとさっそく本の頁を開いた。

……へ~、演歌って暗い歌ばっかりかと思っちゃってたけど「心情」を歌った歌が多いんだ。だとしたら小説を歌にした感じなのかな?帰ったらお父さんにいくつか聞かせてもらおうかな?

本を少し読み進めていると予鈴が鳴ったので慌てて片付ける。

まだ中身が気になったこの本はお弁当箱と一緒に手提げ鞄に入れて、帰ってから読むことにした。

職員室に鍵を返した私は早足で教室へと向かう。

でも気をつけないと転んじゃう恐れがあるから走ったりすることはしない。

ギリギリで教室に戻った私はちょっと荒くなった呼吸を整えながら次の授業の準備をした。

 

 

午後の授業も全部終わって帰り支度をしてるときに、また声をかけられた。

「小鳥遊ー、悪いんだけど英語のノートちょっと貸してくれ」

声に振り返ると内田君が両手を合わせて頭を下げていた。

「うん、いいけど」

学生鞄の中からノートを取り出し内田君に差し出す。

「内田ー。小鳥遊さんの英語のノート、ほとんど筆記体だけどアンタ読めんの?」

すると内田君の後ろから田辺さんが声をかけてきた。

テストではちゃんとブロック体で書くけど、自分のノートは面倒だからつい筆記体で板書を取っちゃってる。

それを聞いた内田君は私のノートを開いたら、がっくりとうなだれてノートを私に返してきた。

「スマン、小鳥遊。俺には無理だった……。田辺、ノート貸してくれ」

「はいはい。どーせ中間テストでクラストップだったからって、小鳥遊さんに目をつけたんでしょうけど、小鳥遊さん中学の頃からずっと筆記体だからこの子のノート読むにはそれなりに英語知ってないと無理よ?」

そう答えながら自分の学生鞄からノートを取り出して内田君に渡す田辺さん。

「中学から学年トップ争いしてる小鳥遊さんはレベルが違うってこと、わかった?」

「いま痛感した。そう言えばあの雑誌の今週号だけどさー……」

「えっと、じゃあ私は帰るね?」

そのまま雑談を始めた2人を置いて、私は音楽プレーヤを立ち上げて、イヤホンを着けてから教室を後にした。

今日は図書室の当番でもないから、このままお家へ帰ってさっきの本でも読んでいよう。

帰り道はお気に入りの音楽を聴きながらゆっくりと帰ることにしてる。

駅まで歩いて電車とバスを使って家まで1時間ほどあるから音楽もじっくりと聴くことができるし、なによりイヤホンをつけていると、あまり誰も声をかけてこないから安心できる。

そうしてトコトコと学校を後にして駅に向かって帰路についた。

 

 

「ただいま」

そう言って玄関で靴を脱いで2階のリビングへ入るとお母さんが居た。

「お帰りなさい、暦。さっきお父さんも帰ってきたところよ」

「ただいまお母さん、お父さんも今日は早いんだね?」

お父さんは今は駅前近くの古書店「雲雀堂」をお爺ちゃんから引き継いで経営してる。

普段なら朝の10時くらいにお店を空けて19時くらいまで営業してるんだけど、その日の客足や卸しの状況を見て早めに切り上げて帰ってくることも多い。

だから雲雀堂の営業時間って実は明確に定まってないし、シャッターや看板にも書いていない。

「お父さんもただいま」

「ああ、お帰り暦」

お父さんのほうを見るとソファーに座って、ちょうどDVDを見始めたところみたいだった。

荒波をバックにした映画会社のロゴが消えると、雪の中をなんだかすごく派手なトラックが走ってきて「トラック野郎」って赤い筆文字が現れた。

タイトルかな?って思っているとその下に次は黄色い筆文字で「故郷特急便」って出たからシリーズ物なのかな?

なんとなくお父さんの隣に座って見てるとトラックの飾りや運転手さんが大写しになったあとで、いきなりおっきなエレキギターの音が入ってきてビックリしちゃった。

どうやらオープニング曲みたいだけど、これって演歌だよね?

「お父さん、これって演歌でいいのかな?」

「ん?そうだな、歌謡曲とも言えなくはないが演歌になるな。……~♪」

そう答えるとお父さんは小声でその歌を歌ってた。

お父さんの歌を中断するのは悪くって、学生鞄の中からお弁当箱の入った手提げ鞄を取り出してお母さんのところへ持っていく。

手提げ鞄の中に借りてきた本があったから、それだけ手にとって手提げ鞄をお母さんに渡す。

「ありがとうお母さん。……お父さんの見てる映画、なんだかすごく古いみたいだけどお父さんの好きな映画なの?」

「そうねぇ、ずいぶん昔の映画で、お父さんも再放送でしか見たことはなかったみたいだけど結構気に入ってるみたいよ。私も一緒に見たことがあるんだけど、結構破天荒な映画で「私もこれだけ自由な生き方ができたらな」ってお父さんがつぶやいてたのを覚えてるわ」

「そうなんだ……」

やっぱりお父さんも苦労してるんだなって思いながら、またお父さんの隣へと戻る。

ソファーへ座ると歌も終わって、今度はさっきのとっても派手なトラックとまた別のやっぱり派手なトラックがカーチェイスをしてた。

……トラックでカーチェイスしてるのを見て、お母さんの言った破天荒の意味がちょっとわかった気がした。

「ねえお父さん、ちょっといい」

「どうした、暦」

……あ、一旦停止するんだ。ホントに好きなのかなこの映画。

お父さんにお昼に借りてきた本を見せて、演歌を貸してほしいって告げるとお父さんは腕を組んでちょっと悩んだ。

「演歌といっても様々だが、どんな演歌が聞きたいんだい?」

お父さんの言葉にちょっと悩む「どんな」と言われても、私は演歌に詳しくないから興味から聞きたいだけなんだけど……あ、そうだ。

「えっと、この本に書いてあったんだけど「心情」や「情緒」を歌った歌がいいな」

するとお父さんはまたちょっと考え込んじゃった。

「そうだな、それならちょっとバリエーションを持たせて選んであげよう。夕飯までにUSBに入れて渡すよ」

そう言うとお父さんはDVDの一旦停止を解除した。

「ありがとう、それじゃあ私は部屋にいるね?」

「ああ、良かったら後でその本を私にも貸してくれないか?」

「うん、わかった」

そう答えて階段を上がろうとした私の目に、さっきの派手なトラックの飾りを鉄パイプで壊してケンカする映像が見えた。……ホントに破天荒な映画なんだろうな。

 

 

お母さんに晩ごはんができたって呼ばれて2階へと下りる。

「暦、一応なるべく偏見は捨てて選んでみた。他も聞きたかったらまた言いなさい」

そう言ってお父さんは私にUSBメモリを渡してくれた。

「ありがとうお父さん」

USBメモリを受け取った私はそう言って自分の席に着いて、家族でいただきますをして晩ごはんを食べた。

お肉たっぷりのロールキャベツを食べ終えた私は、家族でごちそうさまをしてからお母さんの洗い物の手伝いをしようとシンクへと足を運ぼうとした。

「いいわよ暦。お父さんに借りた音楽、聴きたいでしょ」

お母さんがそう言ってくれたから、その言葉に甘えて自分の部屋へ戻る。

机の引き出しからノートパソコンを取り出して電源を入れる。

このノートパソコンはお父さんのお古で、法人向けモデルらしいけど詳しいスペックは知らない。

そもそもインターネットでの調べごとや音楽を聴いたりするくらいで、いま流行りの動画サイトなんかを見るわけでもないし、音楽や映像の編集なんか当然することもないから、たぶんどんなパソコンでも私には違いがわからないと思う。

ただ、このノートパソコンは小さくて薄くて軽いから私にはとってもありがたい。

立ち上げたパソコンにログインすると早速お父さんから借りたUSBメモリを差し込む。

中には20曲ほどの楽曲が入ってた。きっとお父さんが私のリクエストから合いそうなものを選んでくれたんだと思う。

私はそれらの楽曲を再生すると、インターネットで歌詞を見るべくブラウザを立ち上げ曲名を入力しようとして、1曲目のイントロでこけそうになった。

「……コレ、さっきお父さんが見てた映画のオープニング曲だ」

お父さんが趣味で入れたのかわからないけど、とりあえず曲名で歌詞を検索する。

「えっと……「一番星ブルース」っと」

曲を聴きながらお目当ての歌詞を読んでみると、予想外って言ったら失礼かもしれないけど、すごく短い詩の中に哀愁を感じさせる歌詞が詰まっていた。

お父さんはどうやら趣味だけじゃなくて、ちゃんと私のリクエストにも合った曲を入れてくれてるみたいだ。

それから2時間くらいかけて歌詞を読みながら曲を聴いたり、気になったところを聴き返したりしていた。

入ってた楽曲で私が知ってたのは2曲だけだったけど、明るかったり暗かったり、勇ましかったり哀愁があったりと情緒豊かな曲ばかりで、思ったとおり小説を読んでるのと似たような気持ちになって、すっかりのめりこんじゃってた。

どれも良かったけど、個人的には「豊後水道」って曲が聴いた中では一番好きだった。

男の人の歌だったけど、去っていった女の人を思う優しい気持ちがゆっくりしたテンポで歌われてて、なんとなくだけど歌詞にない女の人の様子が見えるようで惹きこまれちゃった。

あとはテレビで何回か聴いたことはあったけど、ちゃんと聴いたのは初めてかもしれない「津軽海峡・冬景色」こっちは歌詞を読んでからだと目を閉じればその情景が目に浮かぶようなダイレクトな曲だった……けど、ちょっともの悲しすぎて1人で聴いてると寂しくなっちゃう感じがした。

これまで好きこのんで聴いたことはなかったけど、ちょっと演歌にも興味が湧いちゃった。

またお父さんにオススメを聞いてみようって思ってたら、そろそろ今日の復習をしてお風呂に入って寝ないといけない時間になっちゃってた。

学生鞄から今日の授業のノートを取り出して、机の引き出しから対になる要約ノートを取り出して今日習った内容を思い返しながら、ポイントを要約ノートに書き写しつつ、関連しそうな内容を教科書のページ数とともに書き込んでいく。

そうして私のなんでもないいつもの1日は過ぎていった。

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