「コヨちゃんまだかなー」
久しぶりに家にコヨちゃんが来てくれることになったアタシは部屋にいても落ち着かなかったから、お昼ご飯を食べた後もリビングに残ってテーブルに頬杖をついて足をパタパタさせていた。
「もうすぐでしょうから落ち着きなさいリツカ」
「そーなんだけどさー」
ママに言われるけど楽しみなものは楽しみなんだから仕方ない。
するとインターフォンの音が鳴ったから、ガバッと身を起こして設置されたモニタの画面を見る。
カメラに映っているのは赤いリムの眼鏡をかけたボブカットの女の子、見間違うはずもなくコヨちゃんだった。
それを見たアタシはすぐさま玄関へと駆け出してそのまま外へと飛び出した。
「コヨちゃーん!来てくれてありがとー!」
鞄を持ったコヨちゃんの空いてる方の手を取ってブンブン振り回す。
「うん、リツカちゃんのお家に来るのも久しぶりだから、私もすごく楽しみだったよ。でも今日は珍しいね、コーヒーを淹れてほしいなんてお願いされるとは思いもしなかったよ?リツカちゃんのお母さんも紅茶派だよね?」
コヨちゃんがアタシに手を振り回されていることも気にせずに聞いてくる。
うーん、コヨちゃんはやっぱりアタシのことに慣れてるなー。
「うん、もうバリバリの紅茶派だよー。ただ、アタシがちょっと「コヨちゃんコーヒー」の凄さを言ったら興味が湧いちゃったみたい」
ホントは興味が湧いたというより「試したくなった」っていう気がするけど気にしない。
「そんなことより早くお家に入ろっ!」
コヨちゃんの手を引っ張って玄関の扉を抜けるとママも玄関ホールまで出迎えに来てくれてた。
「お邪魔します」
「いらっしゃい暦ちゃん、久しぶりね」
「ご無沙汰しています、今日はリツカちゃんのお誘いでお邪魔させていただきます」
丁寧にお辞儀するコヨちゃんにママは笑顔で返す。
「ふふっ、暦ちゃんは本当に礼儀正しいわね、リツカにも見習わせたいくらい」
うっ、そう言われるとアタシがいかにも礼儀知らずみたいでちょっと傷つくなぁ。
「いえ、そんなことは……リツカちゃんもキチンとしてると私は思います」
そんなアタシをコヨちゃんがフォローしてくれる。
「あら暦ちゃんのお墨付きなら大丈夫かしら?う~ん、私もコヨちゃんって呼ぼうかしら」
!いま聞き捨てならないことをママが言った!!
「ダメーッ!コヨちゃんのことをコヨちゃんって呼ぶのはアタシだけなのーっ!」
完全にアタシのワガママだけどコヨちゃんを「コヨちゃん」って呼ぶのはアタシだけで十分だ。……まあコヨちゃんが学校で何て呼ばれてるのかはアタシには知りようもないけど。
「本当にリツカは暦ちゃんのことが好きなのね。……あら、ごめんなさい玄関で立ち話なんて。どうぞ上がってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
ママがコヨちゃんを案内するからアタシもそれについていくと、そのままキッチンへと向かって行った。
ああ、早速「コヨちゃんコーヒー」を淹れてもらうんだって思って振り返ると、コヨちゃんはリビングの入り口で食器棚を見つめていた。
「コヨちゃんこっちこっちー」
止まっちゃってたコヨちゃんを手招きして呼び寄せる。
アタシに呼ばれてキッチンに入ったコヨちゃんは状況が読めたのか、ちょっと緊張した顔になっちゃった。
「暦ちゃん、早速で申し訳ないんだけど、コーヒーを淹れてくれないかしら?」
ママがコヨちゃんに早速お願いしてる。まあアタシも「コヨちゃんコーヒー」は飲みたいし止める気はないんだけどね。
「キッチンの道具は自由に使ってくれてかまわないし、必要な物があればリツカに言ってくれればかまわないから、私は見学にまわらせてね」
そう言ってママはキッチンの入り口付近からアタシたちを見学する構えだ。
ママの言葉から今日のアタシはコヨちゃんのアシスタントってことだよね。でもコヨちゃんがコーヒー淹れてるトコ見るのって初めてかも。いつも淹れて持って来てくれるもんね。
「じゃあコヨちゃん先生、今日はよろしくお願いしまーす!」
せっかくの機会だしアタシもコヨちゃんの間近で見物させてもらおうと思って頭を下げる。
コヨちゃんが手提げ鞄の中からなんだか円筒状の道具2つと真空パックに入ったコーヒー豆を取り出してキッチンに並べる。
「あ、コーヒーの粉とかガラでシンクを汚しちゃいますけど大丈夫でしょうか……?」
「ええ、かまわないわ。こっちからお願いしてるんですもの、自分の家で淹れるように気にしないで使ってちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
ママに確認したコヨちゃんは頭を下げて並べてた道具を点検しだした。
銀色のアルミ……じゃなさそうだけど金属できた道具を分解するのを見て、構造がティープレスと同じだったからコレが前に言ってたフレンチプレスかって納得する。
次に木製の容器の上に金属が乗っかってる物を組み立てて、取っ手が付いたところでコーヒーミルだってわかったけど、アタシの知ってる形と全然違う。
アタシが知ってるのは横に円形のハンドルが付いてて引き出しから豆が出てくるやつだ。
コヨちゃんは真空パックからコーヒー豆を取り出してガリガリしたら下の木の部分を外して砕かれたコーヒー豆を見てからそれを捨てて、また取っ手を外して小さな金属の歯車みたいなのをクルクルと調整して、次の豆でガリガリしてまた中身を確認したらやっぱりそれを捨てて、同じように歯車みたいなのを今度はほんのちょっと回してまたガリガリして中身を見て頷いてた。
ちらっとしか見えなかったけど、最初と今のだと砕かれた豆の大きさが違うように見えたから細かさを調整してたのかな?
次はコンロのヤカンに水を張ってお湯を沸かしだしたら急にコヨちゃんが振り返った。
「リツカちゃん、ちょっと目の細かいザルか篩ってあるかな?」
「え?あー、うん。ちょっと待ってね」
ザルとか篩って確か戸棚のこのあたりにあったような……あったあった。
目の粗さが異なる物をいくつか出してコヨちゃんに見せる。
「ありがとうリツカちゃん、コレ借りるね?」
「はーい」
コヨちゃんがザルの1つを手に取ったから残りは元の場所にしまう。
そうしてまたコヨちゃんの後ろに戻るとコーヒーミルでコーヒー豆をガリガリしてた。
もうこの時点で喫茶店の中より芳醇な香りが漂ってることにちょっと驚いちゃった。
お湯が湧いたらコンロの電源を落として、さっきガリガリしてたコーヒー豆をザルに移してトントンしたら結構な量のコーヒーの粉がシンクに落ちてまた驚いちゃった。
ザルからフレンチプレスに豆を移したらヤカンからお湯を一気に入れて、中身を確認したコヨちゃんがヘッド部分を取り付ける。
「う~ん、こうやってコヨちゃんが「コヨちゃんコーヒー」を淹れるのって初めて見るけどすごく慣れてるねー」
ホントにすごいと思う。だってここまでの作業を全部流れるように順序立ててやってるんだもん。
「慣れてるのかなぁ?確かに自分で淹れることは多いけど……」
コヨちゃんがちょっと考え込む。
アタシが休日にお邪魔するときは大抵「コヨちゃんコーヒー」を飲んでるから毎週淹れてるんじゃないかな?
そうしたら年間で100回くらい?いつ頃から自分で淹れてるのかはわからないけど結構な回数は淹れてると思うな―。
ちょっと首をかしげてコヨちゃんも考えてる。
でも腕時計を見てハッとしたようにアタシに向き直る。
「あ、リツカちゃん。コーヒーはどのカップに入れたらいいの?」
あ、確かに準備するの忘れてた。
「あ、ゴメン。今カップ出してくるね」
えーっと、いつものアタシたちのマグカップはないけどマグカップだったら問題ないよね。
お盆を持って戸棚の中からマグカップを3つ乗せてコヨちゃんの元へ戻ってお盆を置くと、コヨちゃんがカップに均等になる感じでコーヒーを注いでくれた。
うん!この香りはやっぱり「コヨちゃんコーヒー」だ、これならママも納得してくれるはず!
「お待たせしました。コーヒーを淹れましたけど、どうしたらいいですか?」
コヨちゃんがキッチンの入口で見てたママに声をかける。
「ありがとう暦ちゃん。じゃあリツカが太鼓判を押してるコーヒーをいただきましょう。あ、何かオススメのお菓子とかあるかしら?」
「えっと……ミルクチョコレートかビスケットがあれば合うと思います」
「わかったわ、それじゃお菓子を出すからテーブルで待っててもらえるかしら」
「はい、わかりました」
コヨちゃんがマグカップの乗ったお盆を持ったからリビングのテーブルへ案内する。
「えへへ~、なんかアタシの家で「コヨちゃんコーヒー」を飲むってすっごく新鮮!」
初めて飲んだキャンプ場以外だと、コヨちゃんの部屋でしか飲んだことがなかったと思うと余計に楽しみになって笑顔になっちゃう。
ママがお菓子の入ったバスケットを持って来て席に着いたから我慢できなくて真っ先にカップを口にしちゃった。
「じゃあいただきまーす!……うん!これこれ!やっぱ「コヨちゃんコーヒー」は最高だって思うな」
やっぱり変わらないアタシの大好きな味に笑顔をコヨちゃんに向けるけど、コヨちゃんはやっぱりママが気になるのか自分のコーヒーに口をつけつつ目はママの方を向いてる。
「あの……お口に合えば良いのですが……」
カップを持ったままコヨちゃんが不安そうに言うけど、ママはまだ何も言わない。
でもいつもより入念に香りを確かめてからコーヒーを口にして、いったんカップを置いたらビスケットを開けて半分ほどかじってまたコーヒーに口をつけて、残りのビスケットも食べたら目を瞑っちゃった。
……まさかコヨちゃんコーヒーですらママはダメだって言うつもりかな?だとしたらそれは阻止しなきゃ!
そう思った時にママがコヨちゃんにまっすぐ向き直った。
「暦ちゃん、貴女凄いわね。正直、リツカの贔屓目だと思っていたんだけど、飲んでみてリツカの言葉が正しいと思ったわ」
言ってコヨちゃんに笑顔を向けるママ。
良かった!「コヨちゃんコーヒー」はママの合格ラインを超えたんだ!
「ね?ママもわかったでしょ?いかに「コヨちゃんコーヒー」が美味しいか」
たまらず自分の事みたいにママに自慢しちゃう。
「ええ、このコーヒーは本当に美味しいと思うわ。……暦ちゃん、貴女ならバリスタを目指せるんじゃないかしら?」
……やっぱりアタシってママの子なんだね、考えること一緒だった。
ほら、コヨちゃんがカップ落としそうになっちゃってる。
「ママー、それ先月アタシがコヨちゃんに言ったコトと一緒だよ」
でもママがそこまで褒めるのはちょっと予想外かな。
「あら、そうなの?でも本当に今の歳でこれだけのコーヒーを淹れられるなら十分に素質はあると私も思うわ」
そんなママの言葉に目の前でコヨちゃんがすごい慌ててる。
「も~、コヨちゃん慌てすぎー。アタシのコーヒー嫌いを直してくれたんだから「コヨちゃんコーヒー」にはそれだけのパワーがやっぱりあるんだって!」
「そうね。このコーヒーを飲んだらリツカがコーヒー嫌いを克服できたのも頷けるわ」
「そーだよ。あのキャンプで初めて飲んだときは同じコーヒーだって思えなかったもん」
「そうでしょうね、私もこのコーヒーなら6ユーロでも飲むんじゃないかしら」
えっと1ユーロっていくらくらいだっけ?150円だとしたら900円になっちゃうけど……?
「あ、あの流石に6ユーロなんて価値はないと思うんですけど……」
あ、やっぱそれくらいなのかな、コヨちゃんも慌ててるし。
「いいえ、暦ちゃん。英国のカフェでコーヒーを飲むとだいたい2ユーロくらいだけど、貴女のコーヒーは5ユーロを超えるプレミアムコーヒーに引けを取らない美味しさよ?暦ちゃんはキチンとした豆を使っているでしょうから、実際プレミアムコーヒーを今いただいたようなものですもの。……まぁ私にはコーヒーの銘柄まではわからないけれど」
「で、でも私なんて自分の趣味で淹れてるだけですから、そんなプロの人が入れるようなコーヒーと比較するのはちょっと……」
あれ?なんかやり取りを聞いてるともっと高い感じ?でもママがコーヒー飲むとしたらそれくらいの物しか飲まないかも……。
「趣味だから尚更かもしれないわね。あれだけ丁寧にプレスコーヒーを淹れるお店なんてまずないもの。お店だと一定の品質が求められるから、どうしてもプレスは避けてサイフォンかネルドリップでしょうからね。とにかく私は暦ちゃんのコーヒーにはそれだけの価値があるって思ったのよ」
うわ!?ママがお店で飲むより美味しいってのと同じようなこと言ってる!?
「うわ~……コーヒーは普段飲まないし、飲んでも辛口採点しかしないママがベタ褒めしてる……」
これはやっぱりバリスタコヨちゃんが誕生する日も近いのでは!?
「あの……リツカちゃん?だからって、またバリスタ云々はやめてね?」
コヨちゃんに釘を刺されちゃってちょっと拗ねて頬を膨らませるけど「コヨちゃんコーヒー」を独占できるって考えると、やっぱり良いかって思って結局笑顔に戻っちゃう。
コヨちゃんも安心したのかちょっとほっとしてるけど、照れてることもわかる微妙な表情をしてる。
そんな3人でおしゃべりしてると1杯のコヨちゃんコーヒーだけで結構時間が経っちゃった。
「あら?もうこんな時間なのね。じゃあお返しにとっておきのアフタヌーン・ティーを暦ちゃんに楽しんでもらおうかしら」
ママが時計を見て立ち上がった。
あ、あの目は本気になっちゃってる感じだ。さっきの「コヨちゃんコーヒー」に刺激を受けたせいかな?
コレはアタシの出番はないっていうか邪魔しないようにしないといけない感じだなー。
おっと、コヨちゃんがお手伝いしようとしてくれてるけど、たぶんアタシたちはいない方がいいだろうな。
「コヨちゃん、ここからは完全にママに任せた方がいいからアタシ達はちょっと離れよ?」
そう言って不思議そうな顔をするコヨちゃんをアタシの部屋へ連れて行く。
「んー!なんだかコヨちゃんが部屋に来てくれるのも久しぶりだねー!……って、そりゃあいっつもアタシがコヨちゃんの部屋にお邪魔しちゃってるせいか」
そんなことを口にしながらお気に入りのビーズクッションに座るとローテーブルの対面にコヨちゃんも座ってくれた。
ホントに久しぶりにコヨちゃんが部屋に来てくれたことが嬉しくって、ついつい笑顔がこぼれちゃう。
「やっぱりいつ来てもリツカちゃんのお部屋ってオシャレだよね」
部屋をちょっと見まわしたコヨちゃんがそんなことを言ってくれる。
うわー……褒めてもらえると嬉しいんだけど、昨日までの状態を見たらコヨちゃんどんな反応してたんだろうなぁ……。
「そーかなー?でもコヨちゃんにそう言ってもらえると片づけをがんばった甲斐があったかなー」
意識しないようにしたつもりだけど、視線はいま中がすごいコトになってるクローゼットの方へ向いちゃった。
だめだだめだ、ちょっと仕切り直そう!
「いやー。でも今日はゴメンねー。ホントは普通にお茶に誘おうと思ってたんだけど、ちょっとした手違いと言うかなんと言うかでおっきな2つのイベントになっちゃった」
改めてコヨちゃんに頭を下げる。
ホント元を辿れば今日は普通にお茶会に誘ったつもりだったのに、こんなことになったのは完全にアタシのせいだからね……。
「どういうこと?」
コヨちゃんが首をかしげて聞いてくる。
これはアタシがコヨちゃんを巻き込んじゃったんだからちゃんと説明しておかないとアンフェアだよね。
「1つはアタシがまたコヨちゃんに勉強教わったのがバレちゃってねー……」
「え?この前のお勉強会は秘密だったの?」
「うん。だけどコヨちゃんに教わった科目だけ点数が結構良かったせいで、ママにすぐ見抜かれちゃって「暦ちゃんにちゃんとお礼をしないといけないからアフタヌーン・ティーに招待しましょう」ってママが本気出しちゃってさ、だからコヨちゃんが来てくれないとアタシがピンチになるトコだったから」
テスト結果をパパとママに見せた時にママにすぐにため息をつかれて、なんだろって思ったら即座にまたコヨちゃんに助けてもらっていたことを見抜かれた。
「2つ目はテスト明けにパパとママと喫茶店に行くことがあってさ、そこでアタシが「コヨちゃんの淹れてくれるコーヒーはこんなもんじゃないし、飲めば絶対アタシの言ってることがわかる」なんて言っちゃったもんだからママが「じゃあ家に招待するときに淹れてもらえないか」って言い出しちゃってさ……」
だっていくらパパとの待ち合わせのために仕方なく入った喫茶店って言ってもママが「やっぱりコーヒーなんてこんなものよね」なんて言うから悪いんだもん。
「それでただのお茶会の予定が「コヨちゃんコーヒー」のお披露目会とママの本気のアフタヌーン・ティーになっちゃったの、ごめんねコヨちゃん」
「ううん、ちょっとビックリしちゃったけど、リツカちゃんのお母さんにも満足してもらえたみたいだし私は気にしてないよ?」
ああ、コヨちゃんのこの優しさに癒される!ホントにコヨちゃんって優しいよね。
「あーん、ありがとーコヨちゃーん!」
アタシはちょっと我慢できなくなってローテーブルごしにコヨちゃんの両手をつかむ。
「でもリツカちゃんが予定してたとおり、この後はお茶会だよね?」
コヨちゃんが純粋に聞いてくるけど、多分というかほぼ絶対勘違いしちゃってるから状況をちゃんと伝えておいておかないと。このままだとたぶんコヨちゃんがパニックになっちゃうしそれはやっぱり申し訳ない。
その説明をすべく体を起こして首を横に振った。
うん、アレはアタシたちの「お茶会」じゃすまない。
「ママがわざわざ「アフタヌーン・ティー」って言って人を招待するときは結構本気でさ、英国の伝統的な作法にかなり近いの。気になってネットで同じようなメニュー調べたら1人5千円くらいする感じ」
というかママがさっき本気の目をしてたから「とっておき」を出してくるだろうし、そうすると諭吉さんのお世話になるレベルなのがホントのトコだけど……。
「ええっ!?そんなのなんだか悪いよ!」
コヨちゃんは慌てたように声を出すけど残念ながらアタシにはママを止める方法は思いつかない。
「コヨちゃん、ああなったママを止めるのはアタシには無理だから諦めて?」
だからアタシは曖昧な笑顔でそう言った。
「でもコヨちゃんにはいっつもアタシがお世話になってるから、何もしなくてもそのうちママはコヨちゃんを招待したと思うよ?」
うん。たぶんママにしてみれば呼ぶのにちょうど良い理由ができたってくらいだと思うな。
「そんな、私こそいつもリツカちゃんのお世話になってるのに……」
「そんなことないよー。基本的にアタシのワガママにコヨちゃんを付き合わせるか、この間のテスト前みたいにコヨちゃんのお世話になってるかのどっちかだと思うよ?」
「でも私はリツカちゃんがお友達でいてくれるだけで十分すぎるんだけど……」
「えー?アタシなんか迷惑かけてばっかりだと思うけどなぁ」
「そんなことないよ?私なんかのお友達でいてくれるってだけでホントに嬉しいから……」
お友達になってから、もう何回も聞いた言葉だけど、ダメだやっぱり気になる。
いや、違うかな。気になるというより間違いを正したいのかな?
「ん~……前からずっと思ってたんだけどさー。コヨちゃん自己評価低すぎるよ?」
だからコヨちゃんに対して2年間思い続けてきたことをぶつけてみた。
「ふぇっ!?」
目の前のコヨちゃんが一気にうろたえたけど気にしない。だって事実だもん。
「だってコヨちゃん凄く優しいし。今でもテスト前とかクラスメイトにノート貸してあげたりしてるでしょ?落書きされたり破られたりしたことあったのに」
「う、うん……。でも、それは私が断れないだけだから……」
「アタシだったら、そんなことがあったら絶対もうその子たちと付き合わないよ?」
というか付き合わないどころか見たくもないし、下手したら普通に喧嘩しちゃうだろうな。
「で、でも一緒のクラスの子だし……」
「そういうトコがコヨちゃんの優しさだと思うなー。面倒見がいいってのもあるよね、アタシのテスト勉強にも付き合ってくれるし。それにコヨちゃん凄くかわいいし」
「そんなことないよ、リツカちゃんの方がすごくかわいいよ?」
「ん~……アタシとは違って「清楚」って感じですごくかわいいよ?たぶんコヨちゃん狙ってる男子絶対いると思うもん」
「男の子はちょっと苦手だから、それは私には全然わからないけど……」
「普段お昼とかコヨちゃんどうしてるの?」
「えっと、だいたい1人で図書準備室に逃げ込んじゃってるかな……」
中学生の時に同じことしてるのは聞いてたけど、なまじ悪くない方法だから高校生になっても同じ手口を使ってたか……。
「あ~……高校になってもそっかー。でもアタシと出かけたときとかコヨちゃん見てる男子、結構いるんだよ?」
「それはリツカちゃんを見てるんじゃないかなぁ……」
「ううん、違うって断言できるね。アタシは自分が見られてるかどうか気にしてるから、アタシじゃなくてコヨちゃんを見てるってのもわかるもん」
確かにアタシに向いてる視線のほうが多いのは事実だけどコヨちゃんに向いてる視線もあることは知ってるし、そういう連中とは距離を取るようにしてる。
「そ、そうなの?」
「そーです!だからコヨちゃんはかわいいの。それに頭もいいしさー」
「それは人と話すのが苦手だから本をたくさん読んだりしてるせいで……」
「でもそれをちゃんと覚えてるし、テストの時はキチンと要点を抑えてて学年上位にいつもいるでしょ?」
「それはそうだけど……」
「それに学校の違うアタシに勉強教えて得点アップさせてるんだよ?言っちゃアレだけどアタシはコヨちゃんって家庭教師がいないとホント平均点くらいしか取れないんだから。……だから今回のテストでコヨちゃんに勉強教わったのがママにすぐバレちゃった訳だし」
「アレはリツカちゃんのノートから、先生の重視してる所を教科書とすり合わせて確認してるだけだから……」
「そーいうことができるってのが頭がいいってことだと思うなー。アタシはできないもんね」
「……リツカちゃん、ソレは自慢するところじゃないよ?」
「いーんです!コヨちゃんの頭がいいことの証拠だから!たぶんだけどアタシはコヨちゃんがどれだけネガティブなこと言っても反論する自信あるよ?」
ホントコヨちゃんって他人のことはよく見てて良い所をサラリと言えるのに、不思議なくらい自分に対する客観性がないっていうか、自分の悪い所探しするのが上手いっていうのか……。
でもその分アタシはコヨちゃんの良い所いっぱい知ってるし、逆にこの自己評価の低さ以外は悪い所なんてないと思ってるんだけどなー。
「……私、すごく運動音痴だよ?」
コヨちゃんがちょっと間を置いていった言葉にアタシは固まっちゃった。
うん、知ってる。
だってコヨちゃん気が抜けちゃってるときとか何もないところで躓いたり、ひどいとそのままこけちゃって顔を地面に打っちゃうことあるし。
確か今の眼鏡にしたのもレンズが合わなくなったとかじゃなくて、こけて飛んでいった眼鏡を取ろうとして自分で踏みつぶしちゃったからだったし。
だから確かに知ってるよ?だけどね、その事実を知ってるから余計に何とも言えなくなることもあるんだよ?
「えーと……あ~……ん~…………それは、ほら「個性」の一部だし?」
うん!そうだ「個性」!アタシが思いついた唯一の言い逃れだけど。
そしたらコヨちゃんがうつむいてちょっと噴き出してた。
「あっ!?コヨちゃんわざと言ったなー!?」
珍しくコヨちゃんが冗談を言ってくれるのはいいんだけど、その冗談でかなりヒヤヒヤさせられたアタシは腰に手を当ててコヨちゃんを睨む。
コヨちゃんがクスクス笑いながら謝ってくるから、なんだかいつもの空気に戻っちゃってその後は他愛もないおしゃべりを続けた。
……でもコヨちゃんってなんであんなに自己評価低いのかな?あんなこと言ってたけどホントは全部間違ってると思うんだけどなー。