初回と言う事もあり、説明的な描写が多々ございますがご容赦ねがいます。
「やっほー、コヨちゃん!」
元気な声と共に、上品な制服をまとった長身の少女がポニーテールを揺らしながら部屋に入ってくる。
私の部屋は、私自身の希望もあって屋根裏部屋を使っている。
なので家の中を行き来する階段だけじゃなくて、外から屋外の階段を使って直接部屋に入ることができる扉も設置されている。
だから私の部屋は基本的には土足着用だ。もちろん家の中に入るときはスリッパに履き替えるし、靴の汚れは落としてから部屋に入っている。
「リツカちゃん早いね、チャット来てから15分も経ってないよ?」
その外からの扉をノックもせずに、いつもの調子でやってきたのが佐伯リツカちゃん。
通っている学校は違うけど、同い年の友人だ。
「そーだね、実は近くのコーヒーショップに居たからね」
私が勧める椅子に座りながらリツカちゃんが笑顔で答える。
「それで、今日はどうしたの?貸してほしい本があるって言ってたけど?」
「そーそー、確かコヨちゃん「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」の原語版持ってたよね?アレ、ちょっと貸してほしいなーって」
リツカちゃんの申し出に少し驚く。普段だと詩集や和訳されてない小説か、レポートのために専門書とかなのに、童話とはちょっと意外だった。
「あ~……あはは、来月パーティーに出ることになっちゃったんだけどさ、向こうの人とのパーティーってユーモアがないとシンドイからそのお勉強。アリスは和訳だと意味が通らない所が多いから、原語版で読んでおかないと話のタネにもならないからさぁ」
無意識に私の表情が変わっていたみたいで、理由をリツカちゃんが説明してくれる。
でもパーティーかぁ、リツカちゃんのお父さんが商社で働いているって聞いたからその関係だろうけど、外国の人とのパーティーってどんな感じなんだろう?
私にはぜんぜん想像はできないけど、リツカちゃんならうまく立ち回るだろうなとは容易に想像できた。
「あ!あとねコヨちゃんのコーヒー飲みに来たんだー」
「え?リツカちゃんさっきまでコーヒーショップに居たんじゃないの?」
「うん、新作のキャラメリアマキラテ飲んできたよ」
私はコーヒー派だ、コーヒーの苦味と香りが頭をスッキリさせてくれて本を読むのに集中できる。
それに天体観測へ行ったときには眠気覚ましにもなるし、何よりもあの暖かさが好きだから。
両親はあまり味にこだわりがないから、普段家に置いているインスタントコーヒーも、ワガママを言って私の好きな物を買ってもらっている。
でも、やっぱり一番好きなのはこういった休日に好みの豆を挽いて、キチンと淹れたコーヒーだ。
対してリツカちゃんは紅茶派。
私は紅茶があまり好きじゃなかったけど、リツカちゃんの家に遊びに行ったとき淹れてくれた紅茶を飲んだら苦手意識はなくなった。
如何に自分がちゃんとした紅茶を飲んでいなかったのかと少し反省したくらいだ。
そんな私達だけど、ひとつ一致している意見が「冬のココアは最高、それもバンホーデンの物」ということ。
私は普通にお店で買うけれど、リツカちゃんはお父さんの仕事の片手間に本場オランダで売られている物を個人輸入した物を飲んでいる。「向こうだとファン・ハウテンって言うよ」とも教えてくれた。
たまにお裾分けにくれるんだけど、現地の物は成分が違うのか鮮度が違うのかわからないけど、日本のお店で買う物よりも香りが華やかでちょっと羨ましかったりする。
「アレはアレで美味しかったけどさー、コーヒーじゃないとアタシは思うね。それに今日は休日だし、コヨちゃんがいつもみたいに美味しいコーヒー淹れてると思ってるんだよねー?」
どうやら私の行動はリツカちゃんにはお見通しのようだ。
だけどリツカちゃんに「美味しいコーヒー」って言って貰えると嬉しくなる。
「うん、いいよ。ちょうど私もおかわりを淹れようと思ってたから、ちょっと待っててね」
そう言って机の上に残っていた空のマグカップを手に椅子から立ち上がる。
「いやー、アタシって基本紅茶派だからさ?前まではコーヒーって苦いだけだと思ってて、キャラメルシロップとか入った甘いのしか飲まなかったけど、コヨちゃんが淹れてくれたコーヒー飲んだら「アタシってちゃんとしたコーヒー飲んだことなかったんだ」って気付かされちゃってさー。だからコヨちゃんの淹れてくれるコーヒーは大好き!」
「ふふ、じゃあ張り切って淹れて来なくちゃね」
そう言ってキッチンへ向かう私の足取りは、リツカちゃんと私が同じように考えていてくれたことがつい嬉しくて、いつもより軽く感じた。
そういえば、本文中では言及していませんが6月中旬の土曜日です。