「ん~……マズくはなかったんだけどなー」
住宅街の道を歩きながら腕を組んで考える。
そう、さっきあたしが飲んだショップ新作のキャラメリアマキラテは、決してマズくはなかった。
でもアタシには違和感がまとわりついてる。
コーヒーのアレンジ飲料のハズなのに「コーヒー」とは思えなかった。
確かにコーヒーの味はしたけど、アタシ自身が「あれはコーヒーじゃない」って考えちゃって止まらない。
まぁアタシ自身、コーヒーがそんなに好きじゃないからよくわからないんだと思う。
ただ、アタシが唯一の大好きなコーヒーを知ってしまってから、今までは「こんなモノだ」と思っていたコーヒーを飲む度に疑問が湧くようになっちゃった。
でもまぁ、それでもその「大好きなコーヒー」以外はやっぱり苦手で、砂糖やミルクがないと飲めないけど。
そんなことを考えているうちに、住宅街の一角にある少しレトロな洋風のお家にたどり着いた。
ここはアタシの友達「コヨちゃん」こと、小鳥遊暦ちゃんのお家だ。
もう何度も遊びに来ていて、コヨちゃんのご両親からも直接コヨちゃんの部屋につながる裏手の階段を使って良いと言ってもらってる。
メッセで来ることは伝えてるから大丈夫って考えて、気にせずコヨちゃんの部屋を目指して階段を上っていく。
ブラシマットで靴の汚れを落としたら、そのままコヨちゃんの部屋に突入する。
「やっほー、コヨちゃん!」
ブンブンと手を振りながら笑顔で挨拶する。
「リツカちゃん早いね、チャット来てから15分も経ってないよ?」
「そーだね、実は近くのコーヒーショップに居たからね」
コヨちゃんが勧めてくれる椅子に腰を降ろしつつそう答えると、さっきまでの違和感がまた、まとわりついてくるような感じがした。
「それで、今日はどうしたの?貸してほしい本があるって言ってたけど?」
椅子ごとこっちに向き直ったコヨちゃんが聞いてくる。
答えるのは簡単だけど、アタシのキャラじゃなくてちょっと恥ずかしい。
でも答えないと話が進まないし、照れ隠しに変わらず明るく答える。
「そーそー、確かコヨちゃん「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」の原語版持ってたよね?アレ、ちょっと貸してほしいなーって」
アタシの言葉を聞いたコヨちゃんの目がほんのちょっぴり大きくなった。
「あ~……あはは、来月パーティーに出ることになっちゃったんだけどさ、向こうの人とのパーティーってユーモアがないとシンドイからそのお勉強。アリスは和訳だと意味が通らない所が多いから、原語版で読んでおかないと話のタネにもならないからさぁ」
やっぱりちょっと恥ずかしくて、少しだけ目を逸らして言い訳じみた理由を口にする。
「あ!あとねコヨちゃんのコーヒー飲みに来たんだー」
そして、その恥ずかしさを誤魔化すように、もうひとつの目的を続けて口にする。
「え?リツカちゃんさっきまでコーヒーショップに居たんじゃないの?」
「うん、新作のキャラメリアマキラテ飲んできたよ」
確かにコヨちゃんの言う通り、コーヒーショップで新作のドリンクを飲んできた。
だけど、それがずっと違和感としてアタシに残ってる。
ここへ来るまでずっと心の中のアタシが「あれは本当にコーヒーなんだろうか?いや、あれはコーヒーじゃない」って首をかしげてる。
だからアタシの「大好きなコーヒー」を飲んで答え合せがしたい。
紅茶派で、コーヒーなんて苦いだけの飲み物だと思っていたアタシの間違いを教えてくれたコヨちゃんの淹れてくれる「大好きなコーヒー」……違うかな?アタシは「コヨちゃんコーヒー」が大好きなんだ。
休日に遊びに来ると、コーヒー好きなコヨちゃんは大抵「コヨちゃんコーヒー」を淹れて飲んでる。
だから今日もきっと淹れていて、アタシが頼めばコヨちゃんは「コヨちゃんコーヒー」を飲ませてくれる。
「アレはアレで美味しかったけどさー、コーヒーじゃないとアタシは思うね。それに今日は休日だし、コヨちゃんがいつもみたいに美味しいコーヒー淹れてると思ってるんだよねー?」
そんなアタシの打算が、自分でもちょっと嫌になる。
「うん、いいよ。ちょうど私もおかわりを淹れようと思ってたから、ちょっと待っててね」
コヨちゃんのマグカップはまだ乾いていなかったから、本当ならおかわりを淹れるのはもう少し先だったはずなのに、コヨちゃんは嫌な顔もせずにアタシのコーヒーを淹れてくれるのがつい嬉しくなっちゃう。
「いやー、アタシって基本紅茶派だからさ?前まではコーヒーって苦いだけだと思ってて、キャラメルシロップとか入った甘いのしか飲まなかったけど、コヨちゃんが淹れてくれたコーヒー飲んだら「アタシってちゃんとしたコーヒー飲んだことなかったんだ」って気付かされちゃってさー。だからコヨちゃんの淹れてくれるコーヒーは大好き!」
だからせめてものお礼って訳じゃないけど、アタシがどれだけ「コヨちゃんコーヒー」が好きなのか少しだけ口にする。
「ふふ、じゃあ張り切って淹れて来なくちゃね」
笑顔で部屋から出て行くコヨちゃんを見送って、階段を下りて行く足音を聞きながら、座っていた椅子をコヨちゃんと向かい合う位置へ移動させて、改めて腰を落ち着ける。
この椅子も元々はこの部屋に無くて、アタシが来るとコヨちゃんはベッドに座って、アタシが椅子を借りていた。
そうしたらいつの間にかコヨちゃんが「リツカちゃんとゆっくりおしゃべりしたいから」ってこの椅子を用意してくれた。
「アタシって友達に恵まれてるよねぇ……」
お気楽に「今」を楽しんでいただけだったはずなのに、「ずっと」アタシに付きあってくれるコヨちゃんのことを考えると、無意識にそんな呟きがこぼれちゃっていた。
暦sideでも追記しましたが、本文中では言及していませんが6月中旬の土曜日です。