暦とリツカの日常風景   作:黒衣旅人

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第3話~お星様がくれたお友達(前編):暦side~

「でさー、アタシでもコレはやばいって思って止めたんだけど、3人は聞かずに行っちゃうから、アタシはそこで離れたんだけどね」

「それは……うん、リツカちゃんが正解だと思うよ」

「そーそー、その後3人ともセンセーに見つかってお説教されてたてたもん」

「あはは、そんなコトしちゃったら、相当怒られちゃうだろうね」

「いやー、ホントあのセンセーの怒りっぷりからしたら、どれくらい怒られてたんだろ?アタシはちょっと様子見たら帰っちゃったからさー」

リツカちゃんが最近学校で起きた事を話てくれる。

こうしてリツカちゃんとおしゃべりしていると本当に楽しい。

「あ!そう言えばさ、来月末から夏休みだよね!また今年もコヨちゃんたち来てくれるよね!?」

「多分お父さんたちも反対はしないと思うし、大丈夫だと思うよ」

リツカちゃんが言うのは去年お呼ばれした、リツカちゃんのお家の別荘でやるお泊り会のことだ。

去年はリツカちゃんのお父さんが私のお父さんを誘ってくれて一家でお邪魔させてもらった。

「今年はパパのスケジュールの都合で、アタシの誕生日をあっちで過ごす予定なんだー」

そうすると夏休みの半ばだ、リツカちゃんの誕生日だし何かプレゼント用意したいな……。

「だ・か・ら、コヨちゃんからの愛のこもったプレゼント期待しちゃうよー?」

リツカちゃんにそう言われちゃったからには、私もやる気を出さなくっちゃ。

「……でもさー、考えたらアタシとコヨちゃんがこうして遊ぶようになって、まだ2年しか経ってないんだねー。それとももうすぐ2年も経つって言うのかな」

「そっか、もう2年前になるんだね」

そうして「あの時」のことを思い出す。

 

 

中学2年生の夏休み、両親とキャンプに出かけた。

夏休みに旅行に出かけるのはよくあったけれど、この時は私が天体観測をしたいって言って、お父さんがそれならお爺ちゃんが気に入っていた場所にしようって言ってくれて、お爺ちゃんが生きていた頃によく行っていたキャンプ場に行く事になった。

……私が天体観測を好きになったのが、お爺ちゃんにそこで星を見せてもらったのがきっかけだってわかってくれていたみたい。

そんな予定が決まって、自分のキャンプ道具のお手入れと準備をしていたとき、お父さんが不意にプレゼントをくれた。

夕食の後、お父さんから「詳しい人に聞いたから大丈夫だと思うが、これから暦はこれを使いなさい」って突然リビングに置いてあった大きな段ボールを指差されれて、開けてみると新品の天体望遠鏡一式が入っていた事を今でも覚えている。

口径100mm、焦点距離が650mmだからF値が6.5の屈折式天体望遠鏡に赤道儀式の架台と三脚、初心者向けのセットに見えても赤道儀を組み合わせていることから、初心者には扱いづらいであろう不思議な組み合わせ。

「暦は親父の天体望遠鏡をこれまで使っていたが、折角なら自分の物を持っても良いと思ってな。そんな事を話したら相談相手から親父の天体望遠鏡がどんなものだったか聞かれてな」

お父さんがなんだかちょっと疲れた顔をしながら話を続ける。

「そうしたら根掘り葉掘り聞かれて、私は詳しくないから説明も苦労したよ。そうして話しているうちにどうやら暦はその「赤道儀」とか言うものに慣れているようだという事と、親父の物は「反射式」とかいう望遠鏡らしいことまでは伝わってな。いつも暦が調整に手間取っているという話をしたら「屈折式」ならメンテナンスも楽だと言うので、その人に一式を選んで貰った。だから決して悪い物ではないと思う」

「で、でもコレって高かったんじゃ……」

恐るおそる聞く私に、お父さんはお母さんと目を合わせてから再び口を開いた。

「まぁ気にするな、暦は普段ワガママも言わないし、母さんにもちゃんと相談したからな」

「ええ、相談された時はちょっと驚いたけれど、暦が天体観測をよくしてるのは知ってるし、ちゃんと手入れもしてることも知ってるわ。だから大切にしてくれると思ったから私も賛成したのよ、それにこう言ったらなんだけど、今は天体望遠鏡も随分安くなっているのね」

そう言って優しく見つめてくれる2人の視線が私には凄く嬉しかった。

「お父さん、お母さん……本当にありがとう!」

私は我慢できなくなって、ソファに並んで座っていた両親に飛びついていた。

そんな私の頭をお父さんもお母さんも優しく撫でてくれた。

でも流石に大きくて重かったから、翌日の夜にお父さんに手伝って貰って、私の部屋にその天体望遠鏡を設置した。

それまで使っていたお爺ちゃんの天体望遠鏡は、私がもっとちゃんと調製出来るようになったらまた使えるようにって、お父さんの部屋の片隅に大切に保管されている。

そうして、そこからの数日は学校から帰ったら、新しくなった「私の」天体望遠鏡の説明書を読みながら、いろいろとチェックするのが日課になった。

なんとかキャンプまでには使いこなせるようになって、無事に持っていける事になった。

……でもキャリーケースがなくて、お父さんに相談したら、お父さんも持ち出すことを考えて無かったみたいで慌てて誰か、たぶん天体望遠鏡のことを相談した人に電話して、インターネットですぐに注文してくれた。

 

 

そうしてキャンプ当日、お父さんの運転する車の後部座席でうたた寝していた私は、お母さんにキャンプ場に着いたと起こされて、両親と一緒に荷物をキャンプ場に運び込んだり、近くで先にテントを張っていた人達に挨拶をしてから自分達のテントを組み立てた。

準備が出来たらちょうどいい時間で、両親とバーベキューを楽しんで、お父さんとお母さんが「たまにはキャンプも楽しいものだ」って言ってるのを聞いてホッとしたところに、更に「暦がワガママを言うのも久しぶりに聞けて嬉しかった」って聞いちゃって凄く恥ずかしくなっちゃった。

そして私としては待ちに待った夜!

テントから少し離れた広場に向かって蚊取り線香を持って、赤いフィルターを貼った懐中電灯で足元を照らしながらお父さんと一緒に歩く。

お父さんは天体望遠鏡の入ったケースを持って付いて来てくれる。

そして周りの人からちょっと離れた場所で、お父さんに手伝ってもらいながら天体望遠鏡をセットする。

周りにも何人か天体望遠鏡を覗いてる人達がいたから迷惑にならないように気を付けながら各部をチェックする。

今回はちょっと欲張って焦点距離3.5mm、つまり約180倍のアイピースを取り付けてきたから、いつも部屋で見ているより大きく星を観察できるはずだ。

点検が終わったら早速とばかりに、まずは北極星を見つけたらファインダーであたりをつけて、赤道儀を調節して、レンズの中央に見えるようにしてから観察を開始する。

「お父さん!ほら北極星がキレイに見えるよ!」

「お、流石に暦は慣れてるな。どれどれ……」

見つけた北極星に焦点を合わせた私はお父さんと交代する。

「ほぉ、親父に言われて昔見た事があったが、やっぱり望遠鏡でみると違うものだな。……随分と久しぶりに見るな」

そう言ってレンズから目を離して私の方を向いたお父さんは過去を懐かしんでいるように見えた。

お爺ちゃんが生きていた頃は、お父さんは仕事が忙しくって、一緒に天体望遠鏡を見るようなことはなかった。

だからきっと、お父さんがまだ学生だった頃とかに、お爺ちゃんと一緒に天体望遠鏡を見た事を懐かしんでいるんだと思う。

「ありがとう暦。大丈夫だとは思うが気をつけてな。何かあったらこの安全ブザーのピンをすぐ抜くんだぞ?」

そう言ってお父さんはピンにストラップの付いたブザーを私に手渡してきた。

「ピンが抜けると大きな音が鳴ると同時に、私と母さんのスマートフォンにも通知が来るからな。……もう少し一緒にいてやりたいが、ちょっと疲れが出てきてしまっ、ふぁぁ……。んん、疲れが出てきてしまってな」

あくびをかみ殺すお父さん。

そうだよね。ここまでずっと自動車の運転してくれたり、テント作りとかいっぱいお父さんには負担がかかっちゃってたよね。

なのに私の天体望遠鏡の設置まで手伝ってくれたんだ。

「うん、わかった。ありがとうお父さん」

「暦もあまり遅くならないようにな、望遠鏡は連泊する人間はカバーをかけて置いておいたりすんだろう?だから今日片付ける必要はないからな」

「うん、あんまり遅くならないように気を付けるね」

そう答えるとお父さんは私の頭にポンと手を置いてテントの方へ戻って行った。

私はその後、ベガやアルタイル、デネブといった見つけやすいものをじっくりと観察して……気が付いたら予想以上に遅くなっていた。

慌てて天体望遠鏡の鏡筒を垂直になるまで仰角を取って、カバーをかけて縛り紐でくくったら名札をつけてテントへ戻ったけど、テントに入るのにお母さんに気付かれちゃって、ちょっとだけ怒られちゃった。

翌日は朝起きたらお母さんの作ってくれたホットサンドを食べて、家族みんなで近くのハイキングコースを散策したり、近くの川で釣竿をレンタルして釣りをして、釣ったお魚でお昼ごはんを作ったりして自然を満喫しちゃった。

 

 

そしてやっぱり夜になると今日はお気に入りのコーヒーを淹れて、そのコーヒーを入れたボトルと蚊取り線香を手に、お父さんに言ってから天体望遠鏡のところへ駆け出した。

ちゃんとお父さんから渡されたブザーがポケットに入っている事を確認して、だけど。

昨日と同じように北極星で一度調整をして、今度は南へと向きを変えてアンタレスや土星を観察していた。

「ねえっ!アナタもお星様を見てるの?」

そんなときに急に声をかけられて、思わずブザーのストラップを引っ張りそうになった。

でも声をかけられた方へ向き直ると、そこには同い年くらいの女の子が立っていたから、ひとまずブザーのストラップは持ったままで答えることにした。

「う、うん……そうです、天体観測を、しています」

緊張もあってなんだか不思議な言葉遣いになっちゃった。

「アハハッ、そんなに硬くならないでならないでほしーなー。アタシは佐伯リツカ、中学2年生!」

そう言って笑顔を向けてくれる女の子に少し緊張が解ける。

「あ、あの、私は小鳥遊暦って言います。私も中学2年生です」

「わー同い年かー!昨日の夜にも見かけてさ、気になって声かけちゃった!」

「あ、あの、佐伯さん。もう夜だし、周りの人にも迷惑になるから、あんまり大きな声は……」

元気な事はいいんだけど、ちょっと声が大きくて他の人も少しこっちを見ちゃってる。

「あ、そっか、ごめんね。それでコヨちゃんは何を見てたの?」

「コ、コヨちゃん!?えっと、佐伯さん、それ私のこと……だよね?」

学校でもそんな呼ばれ方したことがなくて聞き返しちゃった。

「うん、だってコヨミちゃんってなんとなく呼びにくいし。あ、もしかしてイヤだった?」

「そんなことは、ない、です。だけど、びっくりして……」

佐伯さんってなんだかフレンドリーな人なのかな?あんまり私の周りにはいないタイプの人だ。

「良かったー、じゃあコヨちゃんって呼ぶね?あと、アタシのこともリツカでいいよ」

「わ、わかったよ。……リツカ、ちゃん?」

そう呼ぶとリツカちゃんはちょっと満足気な顔をした。

「そうそう、あとはもっとくだけて話してほしーな」

「それは……う、うん。がんばる、ね?」

くだけた話し方なんてあんまりピンと来ない私には、疑問符をつけて返す他なかった。

「それで、コヨちゃんは何見てたの?」

「えっと、今は土星を見てたの。リツカちゃんも見てみる?」

少し横にどいて、接眼レンズを指差す。

「いいの?ありがとー!」

ちょっとボリュームは下がったけど、やっぱりリツカちゃんの声は大きいような気がする……。

「あの、リツカちゃん、声がまだちょっと大きいかな……」

「あっ、ゴメン。……わーホントに教科書の写真と一緒だー」

リツカちゃんが感心したような声を上げる。

ちょうどわかりやすい土星を見ていたときで良かったかも。

「へー。こうやって見ると、教科書よりキレイに見える気がするねー」

リツカちゃんが顔を上げてこっちを見てくる。

うん、私もそう思う。写真はとってもキレイに写されたものが本やインターネットで見れるんだけど、こうして実際に見ると、また違ったキレイさがあると思う。

「そんな風に思ってくれると、嬉しいかな」

「うん、写真でいくらでも見れるのに、なんでわざわざ見てるんだろうって思ってたけど、アタシにもちょっと理由がわかった気がする」

なんだろう、リツカちゃんは私が欲しい言葉を言ってくれる気がする。

私の周りにはいないタイプで、第一印象はちょっと苦手かもって思っちゃったけど、本当はいい人なのかな。

「他にもキレイなお星様見れるの?」

リツカちゃんのリクエストに答えるべく天体望遠鏡の角度を変え、仰角をかなり大きく取る。

「これでこと座にある、M57っていう環状星雲が見えるよ」

そう言って、またリツカちゃんに天体望遠鏡を譲る。

「へー、なんだかカラフルなタマゴみたーい!」

リツカちゃんを横目に持ってきていたボトルからコーヒーを2杯注ぐ。

カップは1つしか持ってきていなかったから私はボトルの蓋を使ってだけど。

「うん、見てて面白いよね。リツカちゃん、コーヒーだけど、飲む?」

私の声にリツカちゃんが望遠鏡から離れてこっちを向く。

「……うん、ありがとー」

ちょっと間があった、もしかしてリツカちゃんはコーヒーがあんまり好きじゃないんだろうか?

だとしたら砂糖やミルクも持ってきていればよかった。

「リツカちゃん、もしかしてコーヒー苦手だった?」

もうカップを渡しちゃったから遅いけれど、一応聞いてみる。

「あはは……苦手って程じゃないけどね」

そういってカップに口を付けるリツカちゃん。

ちょっと躊躇いがあったから、本当は苦手なんだろうな。

「あれ?コレ、コーヒーだよね?」

コーヒーを一口すすったリツカちゃんが、不思議そうな顔で聞いてきた。

「うん、私が淹れたコーヒーだよ?」

意図が掴めず事実を口にする。

「コーヒーってホントはこんなに美味しいんだ……アタシこのコーヒーなら大好きかな」

そう言って笑ってくれたリツカちゃんの言葉に嘘はない……と思う。

「それなら良かったけど、無理はしないでね?苦手だったら残してくれていいから」

そう言ったけど、どうも杞憂だったみたいで、リツカちゃんはそのままコクコクとカップのコーヒーを飲んでいった。

「アタシにも不思議だけど、コヨちゃんのくれたこのコーヒーは、初めて「美味しい」って思えたよ」

そう言って、リツカちゃんは笑ってくれた。

そのときポケットの中のスマートフォンが震えだした。

取り出して見てみると時刻は23時30分、アラームをセットしていた時間だ。

「ゴメン、リツカちゃん。もうそろそろ、テントに戻らないと……」

ちなみに昨夜テントに戻ったのは、午前2時前だった。

……だから怒られちゃったんだけど。

私の言葉にリツカちゃんもスマートフォンを取り出して時間を見る。

「あ~、もうこんな時間かー。アタシも戻らないと怒られそうかな」

「じゃあ私は片付けて戻るね。ゴメンね、リツカちゃん」

天体望遠鏡のカバーを広げつつ、リツカちゃんに謝る。

「ううん、気にしないで!明日もまた一緒に見に来ていい?」

本当にフレンドリーな人みたいだ。

私は何も問題ないことを伝えてリツカちゃんと別れ、鏡筒を真上に向けた天体望遠鏡にカバーをかけ、自分のテントへと戻った。

今夜は怒られることもなく、そのままお父さんとお母さんの間のシュラフに入って眠りについた。

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