暦とリツカの日常風景   作:黒衣旅人

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第3話~お星様がくれたお友達(前編):リツカside~

「でさー、アタシでもコレはやばいって思って止めたんだけど、3人は聞かずに行っちゃうから、アタシはそこで離れたんだけどね」

「それは……うん、リツカちゃんが正解だと思うよ」

「そーそー、その後3人ともセンセーに見つかってお説教食らってたもん」

「あはは、そんなコトしちゃったら、相当怒られちゃうだろうね」

「いやー、ホントあのセンセーの怒りっぷりからしたら、どれくらい怒られてたんだろ?アタシはちょっと様子見たら帰っちゃったからさー」

コヨちゃんにアタシの近況を伝える。

それだけなのにコヨちゃんは笑ってくれて、それがとっても嬉しい。

そんな他愛もないおしゃべりをしてるだけでも楽しいけど、アタシはあることを思い出した。

「あ!そう言えばさ、来月末から夏休みだよね!また今年もコヨちゃんたち来てくれるよね!?」

そう、夏休み!学生にとって最大のイベントって言えるんじゃないかな。

その中でもアタシ的にはもっと大きなイベントが去年からスタートした「お泊り会」だ。

それまでは単に夏の避暑として、パパの別荘に一家で行くだけだったけど、去年からコヨちゃん一家も一緒に行くことになった。

だから去年からアタシは、それが楽しみで楽しみでたまらないイベントへとグレードアップした。

「多分お父さんたちも反対はしないと思うし、大丈夫だと思うよ」

「今年はパパのスケジュールの都合で、アタシの誕生日をあっちで過ごす予定なんだー」

半分は本当で半分はウソ、パパのスケジュールから候補日がいくつか挙がったときにアタシがその日取りがイイってパパを押し切ったんだ。

……その日程の近くに登校日があるせいで、アタシの学校でALTをやってるママは少し苦い顔してたけど。

「だ・か・ら、コヨちゃんからの愛のこもったプレゼント期待しちゃうよー?」

ふざけて言うけど、これはウソ。

アタシにとって、誕生日にコヨちゃんと騒げるだけで十分なプレゼントだ。

「……でもさー、考えたらアタシとコヨちゃんがこうして遊ぶようになって、まだ2年しか経ってないんだねー。それとももうすぐ2年も経つって言うのかな」

「そっか、もう2年前になるんだね」

アタシの言葉にコヨちゃんが懐かしむように微笑んで答えてくれた。

 

 

 

中等部2年生だった頃の夏、その年は別荘に工事が入っていて、別荘とは違った方面にある山のキャンプ場でキャンプをすることになった。

アタシはあんまりキャンプに興味はなくて「あんまり日焼けしたくないな」って考えながら、パパの運転する車の後部座席から流れる景色を眺めていた。

キャンプ場に着いたら管理棟へ行って、パパが予約してたロッジのキーを受け取り挨拶をして車へ戻った。

来る途中で「荷物少ないな」って思ってたけど、キャンプ場だけどロッジを借りて泊まるだけで、テントを張ったり面倒なことはしなくてよくてちょっと安心しちゃった。

車からパパとママと一緒にアタシの旅行鞄を持ってロッジへ向かう。

パパがカギを開けてくれたロッジに真っ先に足を踏み入れると、新しく建てられたものなのかまだ傷みもほとんど見当たらなかった。

パパとママも続いて入ってきて、3人の荷物を入ってすぐのリビングへと置いた。

パパとママは荷物を開けたりしてたけど、アタシはまずロッジの中を探検することにして、2階へと続く階段を駆け上がった。

2階には部屋が2つあって、片方の小さい部屋は何もなくガランとしていたけど、もう1つの部屋は大きなベッドが置いてあって、何より両開きの大きな窓が目に入った。

アタシは窓に近づくと留め具を外し、両方の窓をいっぱいに開いて、身を乗り出すように外を見つめた。

少し離れたまばらに木が植わっているところに並ぶカラフルなテントの周りには焚火をしたりバーベキューをしている人達が見えた。

目の前に広がる少し高台になっている芝生の揃えられた広場では犬と駆け回っている人や、大きな望遠鏡を立てて何かしてる人、レジャーマットを敷いてお昼寝してる人、水鉄砲を撃ち合ってるアタシよりも小さな子供たちが見えた。

そして何よりも、青々とした山々や雲ひとつなく広がる青空がアタシの目に飛び込んできた。

「リツカ、そんなに乗り出すと危ないよ」

いつの間に上がってきたのかパパがアタシの両脇に手を入れて窓から少し離す。

景色に夢中になって気付かなかったけど、アタシは窓枠に乗りかかって足が浮いていたみたい。

「ほら、リツカも自分の荷物を整理しなさい。寝るのはこの部屋だから鞄も持って来ていいから」

パパに言われて「はーい」って返事をして階段を下りる。

でもアタシの探検はまだ終わってない。

リビングを通り過ぎて反対側へと小走りに向かうとそっちにはおトイレとお風呂、そしてダイニングキッチンがあった。

キッチンではママがアタシに背を向ける形でコンロに向かって、お昼ご飯を作っていた。

ひと通りの探検を終えたアタシはパパに言われたように、リビングに放置していた鞄を持って2階に上がり、ベッドのあった部屋へ入る。

「ねぇパパ、今日はこのあとどうするの?」

私と入れ替わるように窓から外を眺めていたパパに声をかける。

「お昼を食べたら近くの渓流沿いのハイキングコースに行こうと思ってるよ」

「ふ~ん。じゃあスカートは着替えたほうがいいかな?」

「そうだね、あと靴もスニーカーをだしておきなさい」

「うん、わかった」

そう言ってアタシは自分の鞄を開けてデニムのパンツに着替えて、靴もスニーカーを取り出した。

そして窓から見える青空を確認して、日焼け止めのクリームもしっかりと塗ることにした。

お昼ご飯はママが作ってくれた厚いベーコンのBLTサンドとシーザーサラダ、そしてママの淹れてくれた紅茶だった。

……ママの鞄だけ2つあると思ってたら、1つは紅茶の道具を持って来てたみたい。だって今使ってるティーセット、いつも家の棚に置いてる予備のセットだもん。

そうして、お昼ご飯の後に紅茶のおかわりをして一息ついたら、パパがアタシとママに声をかけてハイキングへと向かった。

ハイキングコースはパパの言ってたみたいに近くの渓流沿いににあって、ウッドデッキや整えられた小石で整備された歩きやすい道だった。

そんなに大きくはない川だけど、岩肌や顔を出した石で流れが複雑で心地の良い音を奏でていた。

それに、コース自体も道のあるこちら側は木の枝が広がっていて、川の流れと木漏れ日でとっても涼しくて気持ちが良かった。

「初めて来たけど、なんだかスイスあたりをミニチュアにしたみたいな場所ね」

「うん、この辺りは日本アルプスって呼ばれるくらいだからね」

ママのコメントにパパが答える。

日本アルプスって確か長野県のあたりだっけ?じゃあここは長野県なのかな?

そんなとりとめのないことを考えながらウッドデッキの板を3枚飛ばしにジャンプして進む。

……あ、4枚飛ばしちゃっから失敗だ。

「おーい。リツカ、先に行きすぎないようにね」

パパの声に振り向くと、ピョンピョン跳ねることに夢中になってたのか、それなりの距離になっちゃってたからUターンしてまた3枚ジャンプで戻っていく。

……よし、今度はうまくいった。

「ママはスイスに行ったことあるの?」

ママと手をつなぎながら聞いてみる。

「ええ、向こうに住んでた頃は何度か行ったわよ。他にも北欧も好きだったわ」

「ふ~ん、ママって結構旅行してたんだね」

元英国人のママからすれば普通のことなのかもしれないけど、日本人のアタシにはそれがどんな規模の旅行なのかピンとこなかった。

そうしてハイキングコースの終わりまで行くと、ちょうどキャンプ場までのシャトルバスが迎えに来てくれたタイミングだった。

シャトルバスに乗ってキャンプ場に着くころには夕日があたりを赤く染めはじめる時間だったから、晩ご飯の買い出しにそのまま向かうことになった。

ママが作ってくれた晩ご飯を食べ終えると、やっぱりティータイムとなった。

晩ご飯の後だからこれはナイトティーになるのかな?

ママにティータイムの種類を教えてもらったけど、アタシはまだ覚えきれてない。

というよりもティータイムの種類、多すぎるって思うな―。

紅茶を片手にくつろいでいると夜の11時前になっていた。

ハイキングで疲れていたのか少し眠たくなったアタシは、パパとママに言って先に2階へと上がった。

広い窓からは三日月がうっすらと輝く薄暗い空に満点の星空が広がっていた。

その光景に吸い寄せられるように窓に近づいたアタシは、少しの間呆然と空を見上げていた。

そうしていたアタシは、ふと地面に赤い光が動いていることに気が付いた。

なんだろうって思っていると、どうも懐中電灯?を持った人達だった。

なんだか不思議だなーって見てると、その中の2人の人影のうち1人が女の子だって気付いた。

女の子は赤く光っている懐中電灯を照らしながら他の人と少し離れた場所、このロッジに少し近づいた場所で横にいる大人の人、あの子のパパかな?に何かを伝えているようだった。

そうしたら男の人が持っていた大きなバッグを地面に置いて、女の子から懐中電灯を受け取って、女の子がバッグの中から何か細長い物を取り出していた。

なにをしてるのかなーって見てたら、女の子がテキパキとその棒を伸ばして広げたからそれが三脚だってことはわかった。

そのまま見てると今度はなんだかよくわからない道具、カメラかな?を三脚の上に取り付けて、またバッグの前にしゃがんだと思ったらパパと思われる男の人と一緒になんだかおっきな筒を取り出した。

そのおっきな筒を2人掛かりでさっきのカメラみたいな物の上に乗せたら、また女の子がテキパキと何かを触って、おっきな筒の向きがゆっくりと変わって空を向いたことでそれが望遠鏡だとやっとわかった。

暗くて他の人達はよく見えてなかったけど、みんな望遠鏡を見てたのかな?

そうしてるうちに女の子が望遠鏡を覗きながら何かを触っては覗いてを繰り返して、パパと思われる男の人に場所を譲った。

少しのあいだ男の人が望遠鏡を覗いた後、女の子と向き合って何かを話してるようだった。

そうしたら男の人が女の子の頭に手をポンと置いて、テントが並んでる方へ戻っていった。

そのまま見てると女の子は望遠鏡を覗いては、なんだか手馴れたように向きを変えてまた望遠鏡を覗きこんでいた。

「リツカ、まだ寝てなかったのかい?」

「うん。なんだか望遠鏡を見てる女の子がいるから見てたの」

後からパパの声がしたから窓の外を指差して答える。

「ああ、そう言えばこのキャンプ場は天体観測が好きな人達に有名だったかな」

アタシの横に並んで外を見ながらパパが答える。

「なんでみんな赤いライトなの?」

「う~ん……確か暗がりに慣れた目には、赤いライトでないと駄目とかそんな理由だったかな?」

アタシは「ふ~ん」って返事を返しながらもずっと女の子を見ていた。

「リツカも天体観測でもしたくなったかい?」

「ううん、別にアタシは写真でいいかなー?だってあんなにおっきな道具を使うのメンドくさそうだし」

うん。あの女の子には悪いけど、アタシには別に興味をひかれるものじゃない。

「なるほどね。……でもリツカが言った女の子が使ってるのは結構良い望遠鏡みたいだね」

でも、なんだかあの女の子のことは気になって、アタシの目はずっと女の子を見ていた。

「パパはそんなことわかるの?」

「詳しくはないけど、筒が太いほど高性能な物だったハズだからね」

なるほど。確かに女の子が使ってる望遠鏡は、使ってる女の子の頭と同じくらいの太さがある。

遠くてあんまり見えない他の人が使ってる望遠鏡の倍くらいはありそうだ。……でももっと太い望遠鏡の人も少しいるみたいだけど。

「あら?アナタ達、揃って外を見てどうしたの?」

今度はママの声がした。

「うん?リツカが天体観測をしている女の子を見てるのを一緒に見てたんだ」

「天体観測、ね。確かにキレイな星空ね」

アタシを挟むようにママが並ぶ。

でもアタシはやっぱりあの女の子から目が離せないでいた。

こうやってアタシ達が話してる間、ずっと望遠鏡を覗きこんでるけど何が楽しいのかな?

「まあ、明日は朝早いからもう寝ようか」

そうパパが言ったから、女の子のことは気になるけどベッドに入ることにした。

 

 

翌朝は予想よりも早くパパに起こされた。

ママはもう起きているみたいでベッドにはアタシしか残っていなかった。

「ふぁ~……。パパ早いよー、今日は何するの?」

まだ眠い眼をこすりながらアタシを起こしたパパに訪ねる。

「今日はちょっと離れたところまでハイキングに行くよ」

またハイキングか、メンドくさいなーなんて思いながら身支度をしてリビングへ降りる。

軽めの朝ご飯を食べたらパパの運転する車でさらに山の方へと走っていった。

結構な距離を走ったと思ったら駐車場に車を停めてバスに乗り換える。

自家用車だと行けない所らしくって、それなりに朝早く出発したはずなのにバスは結構混んでてちょっとゲンナリしちゃった。

バスの窓から原生林って言うんだっけ、なんだか深い森を見ながら膝に乗せたリュックを意味もなく撫でる。

バスから降りたらホントに「山の中!」って感じでちょっとびっくりした。

ハイキングコースに沿って歩くと自然がとってもキレイで、空気もとっても美味しく感じられた。

ちょっと肌寒いかなって思ったけど歩いてるうちに気にならなくなった。

「へぇ、なんだか今度はフィンランドみたいな場所ね」

「あはは、確かにアイラからしたらそう見えるかもしれないね」

「日本はこういった自然が多いのはいいわね」

「僕はロンドンの町並みも好きだけどね」

パパとママがそんな話をしてるのを小耳にしつつ、ただの景色なのにスマホでパシャパシャ写真を撮っちゃった。

小さな湖みたいなところに休憩所があって、そこでママが持って来てくれたお昼ご飯を食べた。

「ここにはゴミ箱がないから、ゴミはこの袋にまとめて持って帰るからね」

そう言ってパパはリュックから取り出したビニール袋に、お昼ご飯のゴミをまとめてからリュックに仕舞った。

そして、その湖をバックにアタシの持ってた自撮り棒を使ってみんなの写真をスマホで撮ったらハイキングが再開された。

……ホントはもうちょっと休憩したかったけど。

ハイキングコースを歩いた先にまたバス停があって、パパが「今日はここまで」って言うからバスが来るのを待つことになった。

バスを待ってる間、歩き疲れてたのかアタシはママにもたれてウトウトしちゃってた。

バスで山を降りて、パパの運転する車でキャンプ場へ帰るときには車の中でグッスリ寝ちゃった。

それで元気になったアタシはロッジに戻って晩ご飯までの間、スマホで撮った写真を整理したり、友人にメッセでその写真を送って自慢したりしてた。

パパとママもちょっと疲れたのか、晩ご飯は帰りに寄ったらしいパン屋さんのパンだったけど、有名なお店みたいでどのパンも美味しかった。

……ママが「外観もステキなお店だった」って言ってたけどアタシは完全に眠っちゃってて、パン屋さんに寄ったことも知らなかったけど。

食後にはやっぱりママが紅茶を入れてくれて、クッキーなんかをちょっとつまみながらティータイムを満喫した。

ママが「やっぱり食後にティータイムをしないと1日が終わった気がしない」って言ってた。

……考えてみたら、確かにお家でもママは絶対食後に紅茶を飲んでる。アタシやパパがいなくてもきっとティータイムをしてるんだろう。

 

 

ティータイムも落ち着いたときに、アタシは昨日の女の子が気になって2階へ行って窓の外を見てみた。

するとやっぱりあの女の子はいた。

今日は昨日と反対の方向に望遠鏡を向けて、やっぱりじっと望遠鏡を覗きこんでいた。

それを見たアタシはリビングへ駆け出していた。

「パパ!ちょっと外に行ってくる!」

「こんな時間に急にどうしたんだいリツカ?」

パパがちょっと驚いた顔で聞いてくる。

まぁそうだよね、アタシみたいな子供が夜に急に外に出るなんて言ってるんだから。

「昨日のあの女の子がまたいたから、あの子の所に行きたいの!」

アタシは身を乗り出す勢いでそう言った。

「あの女の子のことがそんなに気になるのかい?」

「うんっ!」

自分でもなんでかわからないけど何故かすごく気になってる。

「うーん……。僕も一緒に行ったほうがいいかな」

「リツカ1人でいいんじゃない?昨日の女の子も1人だったし、アナタが行くと逆に怖がらせちゃうんじゃないかしら?」

「確かにそうかもしれないね……。リツカ、スマホは持ってるね?何かあったらすぐメッセか電話をするんだよ?あと、くれぐれもその子の迷惑にならないようにね?」

「うん、わかった!」

そう返事をするとすぐにパンプスを履いて外に飛び出した。

……なんだろう、何かはわからないけどアタシすごくワクワクしてる。

暗くて足元が見えにくいから走れないのがもどかしいけど、あの女の子の元へと足を進めていく。

2分か3分くらいしか歩いてないはずなのにもっと歩いたような気がした時に、あの女の子が望遠鏡を覗きこんでる姿が横から見えた。

得体の知れないワクワク感に背中を押されて近づいて行き、ちょっとだけ離れて立ち止まると蚊取り線香の独特な匂いが漂っていた。

女の子はアタシに気付いた様子もなく、まだ望遠鏡を覗きこんでいた。

深呼吸をしてちょっと自分を落ち着けてから声をかける。

「ねえっ!アナタもお星様を見てるの?」

アタシの声でその女の子はちょっとビクッてしてから、片手をワンピースのポケットに入れてこっちへ向き直った。

……きっとアタシがパパに言われたみたいにスマホを出そうとしたのかな。

「う、うん……そうです、天体観測を、しています」

メガネをかけた女の子がアタシに答えてくれる。

でもなんだかすごく硬い。

見た目もすごく真面目そうな子だけど、コレはアタシが警戒されちゃってるせいかな?

「アハハッ、そんなに硬くならないでならないでほしーなー。アタシは佐伯リツカ、中学2年生!」

中等部なんて言うとややっこしいから中学2年生って言って、たぶん警戒されてるからなるべく自然な笑顔で自己紹介をする。

「あ、あの、私は小鳥遊暦って言います。私も中学2年生です」

ちょっとビックリ、同い年くらいだろーなって思ってたけどホントに同い年だ!

「わー同い年かー!昨日の夜にも見かけてさ、気になって声かけちゃった!」

ホントは「見かけて」どころか見つめてたけど。

「あ、あの、佐伯さん。もう夜だし、周りの人にも迷惑になるから、あんまり大きな声は……」

「あ、そっか、ごめんね。それでコヨちゃんは何を見てたの?」

注意されてちょっと反省、確かにもう周りも静かな時間だもんね。

暦ちゃんのことはアタシの中で「コヨちゃん」って呼ぶことに決定した。だってそのほうが呼びやすいし。

「コ、コヨちゃん!?えっと、佐伯さん、それ私のこと……だよね?」

コヨちゃんが目をパチクリしながら聞いてくる。

「うん、だってコヨミちゃんってなんとなく呼びにくいし。あ、もしかしてイヤだった?」

……もしイヤだって言われたらどうしよう、暦ちゃんって呼ぶのは。なんか違う気がする。

「そんなことは、ない、です。だけど、びっくりして……」

イヤって言われなくてホッとした。

……アレ?アタシなんでこんなこと思ってるんだろ?

いつもだったら別に気にしないで他の呼び方考えるだけなのに……?

「良かったー、じゃあコヨちゃんって呼ぶね?あと、アタシのこともリツカでいいよ」

「わ、わかったよ。……リツカ、ちゃん?」

コヨちゃんがためらいがちにアタシの名前を呼んでくれた。

なんだかそれだけで、もうお友達になれた気がして嬉しくなる。

「そうそう、あとはもっとくだけて話してほしーな」

「それは……う、うん。がんばる、ね?」

うん、アタシ的にもがんばってほしーな!

「それで、コヨちゃんは何見てたの?」

コヨちゃんがあれだけ集中してたのが何なのか気になって聞いてみた。

「えっと、今は土星を見てたの。リツカちゃんも見てみる?」

「いいの?ありがとー!」

コヨちゃんがちょっと横にずれて、望遠鏡の覗き穴を指差してくれたから早速覗こうと近づく。

へー、普通の望遠鏡と違って上から覗くようになってるんだ。

「あの、リツカちゃん、声がまだちょっと大きいかな……」

またコヨちゃんに注意されちゃった。反省反省。

「あっ、ゴメン。……わーホントに教科書の写真と一緒だー」

謝りながら望遠鏡を覗くと理科の教科書でみたことのある輪っかのついた星がしっかりと見えた。

……アレ?教科書の写真ってもっと茶色かったような気がするけど、見えてるのはもっと淡い色合いだ。アタシとしてはこっちの方が好みかもしれない。

「へー。こうやって見ると、教科書よりキレイに見える気がするねー」

正直な感想を口にしながらコヨちゃんの方へ向き直る。

「そんな風に思ってくれると、嬉しいかな」

そう言ったコヨちゃんはちょっと笑顔になっていた。

「うん、写真でいくらでも見れるのに、なんでわざわざ見てるんだろうって思ってたけど、アタシにもちょっと理由がわかった気がする」

興味がなかったはずの天体観測だけど、自分で見てみたら予想とは違ってた。

だって初めて見たアタシでも違いがわかるくらいだし、望遠鏡で見たあとだと写真がなんだか「作り物」って感じに思えちゃう。

「他にもキレイな星見れるの?」

興味のままにコヨちゃんに聞いてみる。

するとコヨちゃんが三脚と望遠鏡の間、アタシがカメラか何かだと思ってた部分をクルクルと操作して望遠鏡をすごく上に向ける。

そして横にあるちっちゃな望遠鏡を見てまたクルクル。それを2回ほど繰り返してから望遠鏡を覗きこんでまたちょっとクルクル。

……アタシ結構手間がかかること言っちゃったのかな?

「これでこと座にある、M57っていう環状星雲が見えるよ」

そんな操作を気にもしてないように笑顔で言ってくれるコヨちゃん。

……うん、やっぱり天体観測ってアタシにはハードルが高いと思う。

だってあんなコトしてたら、アタシだったらメンドくさく思っちゃいそうだもん。

で、コヨちゃんが準備してくれたカンジョーセーウン?とか言うのを見るために、また望遠鏡を覗き込む。

目に映ったのは楕円系をしたカラフルなお星様だった。

「へー、なんだかカラフルなタマゴみたーい!」

「うん、見てて面白いよね。リツカちゃん、コーヒーだけど、飲む?」

コヨちゃんの「コーヒー」って単語にちょっとだけギクリとした。

コーヒーは正直苦手だ。

ブラックじゃなれば一応大丈夫、だけどブラックだと顔に出ちゃうかもしれない。

砂糖やミルクが入ってればいいなと思いながら、少し覚悟を決めてコヨちゃんへ振り返る。

「……うん、ありがとー」

コヨちゃんから金属製のマグカップを受け取るけど失敗した。素直に返事できなかった……。

「リツカちゃん、もしかしてコーヒー苦手だった?」

「あはは……苦手って程じゃないけどね」

コヨちゃんが不安げに聞いてくるのに答えたけど……ゴメン、コヨちゃん。

渡されたマグカップを見るとやっぱりブラックだった。

ホントは苦手だって言って、返すことも出来るはずだけど……と言うか、普段のアタシだったら受け取りもしなかっただろうけど、コヨちゃんを悲しませちゃいそうで受け取っちゃった。

……うん、きっと今のアタシなら我慢できる!

「あれ?コレ、コーヒーだよね?」

覚悟を決めてコーヒーを口にしたけど、あたしの頭にハテナマークが浮かんだ。

いや、確かにコーヒーなんだろうけど、アタシの知ってるコーヒーじゃない。

イガイガした苦味も変な酸っぱさもない。それに砂糖とは違うほのかな甘みがある。

「うん、私が淹れたコーヒーだよ?」

「コーヒーってホントはこんなに美味しいんだ……アタシこのコーヒーなら大好きかな」

アタシ自身ビックリしてる。ホントにこのコーヒーだと、好きだって言えちゃうくらい美味しいと思う。

だからなのか自然にアタシは笑顔になっていた。

「それなら良かったけど、無理はしないでね?苦手だったら残してくれていいから」

コヨちゃんが心配そうにしてくれるけど、そんな心配はぜんぜんいらない。

「アタシにも不思議だけど、コヨちゃんのくれたこのコーヒーは、初めて「美味しい」って思えたよ」

だってホントに美味しいんだもん。

味を確かめるようにコクコクとカップのコーヒーを飲み干すけど、最後まで美味しかった。

美味しい物を口にしたらやっぱり笑顔になっちゃうよね。

そんなことを考えてたらコヨちゃんのポケットからバイブの音が聞こえてきた。

「ゴメン、リツカちゃん。もうそろそろ、テントに戻らないと……」

コヨちゃんがスマホを取り出して画面を見てるのを見て、アタシも自分のスマホを取り出して見てみた。

画面の隅に表示されてる時間は11時30分、たしかロッジを出る時に見えた時計は10時くらいだったと思うから1時間以上もコヨちゃんと居たことになる。

すごく楽しくてそんなに時間が経ってるなんて思えなかった。

「あ~、もうこんな時間かー。アタシも戻らないと怒られそうかな」

「じゃあ私は片付けて戻るね。ゴメンね、リツカちゃん」

アタシに謝りながら大きなシートを広げるコヨちゃん。

「ううん、気にしないで!明日もまた一緒に見に来ていい?」

コヨちゃんとの時間はホントに楽しくて、明日もコヨちゃんに会いたくて聞いてみたら、コヨちゃんは問題ないって言ってくれた。

その言葉だけでもアタシは嬉しくなっちゃった。

コヨちゃんと別れたアタシはもう明日の夜が待ち遠しくてワクワクしながらロッジへ戻った。

「おかえり、リツカ。……その様子だとあの子とは仲良く出来たみたいだね」

ロッジのリビングにはまだパパとママが居た。

きっとあたしの帰りを待っていてくれたんだろう。

「うん!コヨちゃんはすごくいい子だったよ!明日の夜も会いに行くって約束もしちゃった!」

そう答えたアタシはたぶんとびきりの笑顔だったと思う。

「コヨちゃん、か。リツカがいきなりそこまで仲良くなるのも珍しいね」

パパに言われてちょっと考える。

たしかに普段のアタシならもうちょっと相手を見てから付き合い方を考えてたかもしれない。

でもコヨちゃんが相手だと、逆にアタシからどんどん近付いて行っちゃった気がする。

……コヨちゃんに嫌われてないといいけど。

「大丈夫よリツカ、もしアナタのことを嫌がっていたら明日の約束なんてしないでしょうから」

ママがそう言ってくれる。

……アタシそんなに表情に出ちゃってたのかな。

「僕もそう思うよ。だからリツカは安心してそのコヨちゃんと仲良くなればいいさ。それよりも、もうそろそろ寝ようか」

そうパパに促されてパパとママと一緒に2階へ上がり、ベッドに並んで入ったアタシはさっきまでのことを思い出しながら、心地よい眠気に包まれて眠りについた。

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