雨上がりに   作:山背としや

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雨上がりに

※BL作品閲覧注意

 

※性描写あり閲覧注意


 

 

おまえが怒るのも当たり前だよな。

 

でも、「しょうがねぇな」ってそう言うんだろうと、おまえに甘えていた。

 

 

 

「じゃあ、また連絡するから。」

 

 

そう言って、扉の外に姿を消す彼女に手を上げて別れた。

 

時間は午後十時を回って、外はすっかり暗かった。

 

 

『今日は遅くなるかもしれねぇ。』

 

 

朝にここを出た岳が靴紐を直しながら呟いていた言葉を思い出す。

 

遅くなると言っていたが、遅くなりすぎかな?と小首をかしげる。

 

 

遅くなると言って仕事に出ても、十時を回ることは今まで無かった。

 

本当に忙しいのか、それとも飲んで来ているのか、何れにせよ、何かしら連絡を入れる奴だから、気になった。

 

 

居間に戻って固定電話に目を向ける。棚の上に見覚えの無い紙袋が乗っていた。さっきまでこんなもの無かったはず。彼女だって、こんな荷物持っていなかった。

 

 

そこで、嫌な予感はしてた。

 

遅くなんてなってなかったんじゃないか?

 

連絡が無いんじゃなくて、連絡を入れたくないんじゃないか?

 

 

紙袋の中を覗く。

 

二種類のコーヒー豆が一袋づつと、紅茶が一袋入っている。

 

紅茶は俺の好きな茶葉。

 

コーヒーはあいつが好んで飲むキリッとコクが深いやつと、俺用にミルクと合うやつ。

 

 

帰ってたんだ。さっきまで居たんだ。

 

 

これまでも、女の子と付き合う事はあった。あいつだって、そんな事解ってるって顔で片眉上げて『最低な奴だよな』ってぼやかれた。

 

 

でも今度のは、しまったって思った。あいつが許してた一線を越えてしまったから。

 

 

すかさず、固定電話の受話器を取った。ボタンをプッシュしていく。

 

コールが部屋にこだましているように感じるくらいに、空気は凍りついていた。

 

何度かコールが鳴った後に、ようやく相手がコールに応えて電話に出た。

 

 

「あ、あの…。岳……?」

 

「俺以外に誰が出るんだよ。」

 

「あの…、さ……。」

 

「謝ったって、許さねぇよ。」

 

 

会話がそこで途切れた。

 

と、言うか。その先の言葉を拒まれているように感じた。

 

だけれど、でも。続けるしかなかった。

 

 

「ごめん。」

 

「だから。過ぎた事を謝んなよ。」

 

「もう、しない。だから…。」

 

「しないって言葉もだからって言葉も聞きたくねぇよ。」

 

「じゃあ……。」

 

 

どうすればいい?という言葉を繋げようと思ったのに、続かない。

 

 

「じゃあな。」

 

 

相手が切ろうとする。

 

 

「ちょっと待って!…ねぇ!」

 

「俺はさぁ!許したくねぇの。今までもさ。だけどよ、特殊だったわけだし、色々と考えてたんだよ。俺だって。

元々、お前はモテてんだし、男の俺はさぁ、邪魔じゃんよ?だから、もうさ。いっその事、一回終わってみたら良いんじゃないかって思うわけだよ。」

 

 

一息に言い切る。岳の提案。と、言うか。もうあいつの中では固まった、決断の様にも聞こえる。俺は勿論納得はいかない。だけど。

 

 

「……そっか。」

 

 

どんなに異議を唱えても、こうと決めたら岳はどんな事でも、意思を貫く奴だ。解ってる。

 

あいつが、考えて、考えて、考えて。

 

そして出した答えなんだって。

 

 

それに、俺は何も言えないし、何も出来ない。俺はそれだけの事をした。

 

 

「もしさ。お前にも俺にも、その後、また今みたいな生活が良いなんて思えたらさ。そん時は。また。」

 

 

悪足掻きだって分かってこんなことを言ってしまう俺も相当に往生際の悪い奴だな。と、自分で思ってしまう。

 

 

「そんなん、ねぇよ。」

 

 

じゃあな。と岳は電話を切った。

 

 

沈黙と共に入ってきた空気は冷たい冬の風だった。

 

 

 

あれから時間は過ぎ去り、普通に恋をし、普通に結婚し、普通に歳を取った。それなりに幸せに暮らしてると思う。やんちゃ盛りの息子を連れて、近くの公園へ向かった。

 

 

空に一筋飛行機雲が線を描き、春の陽気が心地良い。

 

公園の滑り台に向かってバッと繋いでいた手を振り払って駆け出した息子に、転ぶなと声をかけて、自分は木陰のベンチに向かった。

 

 

持ってきていた本の中の文字に視線を落として、読み始めようとした時だ。バシャッと砂が飛び散る音と、ドサッと何かが落ちる音。ふと顔を上げると、息子が滑り台の降り口に突っ立ち、併設されている砂場のある一点を凝視している。

 

よく見ると、息子のすぐ近くで、横たわる子供の影が見えた。見てから、直ぐに事態が読み込めた。直ぐ様息子の元に向かおうと腰を上げると、物凄い勢いで男性が息子と転んでいる子供の元に駆け寄った。

 

 

その人物は、息子に目を止めること無く、転んでいた方の子供を抱き起こすと、子供の身体をぐるっと観察しているように見えた。

 

直ぐに俺も息子の元に駆け寄り、何があったか尋ねた。

 

 

「どうしたんだ?一体?」

 

「……。」

 

 

うつむいて、目を合わせようとしない。

 

 

くるっと男性が此方を振り向き、息子の肩を抱き

 

 

「僕は怪我してないか?」と、男が声をかける。俺はすかさず、男に声をかけた。

 

 

「すいません!御宅のお子さんは大丈夫でしたか?」

 

「うちの子は大丈夫です。………あれ?」

 

 

最後に意味がわからない疑問系を寄せられた。男の顔をよく観察する。何となく懐かしい声色に、フワッとした黒毛の短髪。目尻に笑い皺。だが、確かに変わっていない切れ長の目。もしかして……。

 

 

「お前……、岳か……?」

 

「やっぱり、走か!」

 

 

 

お互いに、近況報告ではないけれど、別れた後の事を話した。俺は桜井医院から独立し、個人で医院を開いていること。結婚して、子供が男1人女が2人出来たこと。今も医院は続けていること。

 

 

岳も色々話してくれた。今は若い奴の教育係で殆ど事務仕事なこと。別れてから直ぐに良い相手に巡りあったこと。子供は今第二子が奥さんのお腹の中だとか、医師の見方だとまた娘らしいこととか、女の子は可愛いと子供の話に移ってからは、ずっと言っていた。目に入れても痛くなさそうだってことは、見てとれた。

 

 

お互い、幸せなんだね。とポツリと呟く。横で顔を覗いた気配がしたが、あえて見なかった。岳は視線を直ぐに空に向けると、「うん。」と呟く。

 

 

息子との帰り道。空は薄暗くなってきてるのに、俺の気持ちは晴れ晴れしていた。自分の選択も、相手の決断も間違っていなかった。お互いが、今幸せでいる。それだけで充分だった。

 

 

[完]

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